従業員見習い
今回は前回に比べると若干長めです
あれから更に五日経って、街の人達の間では「古糸(街の人たちは略称を使っているらしい)が例の少女を雇ったらしい」とたちまち話題となった。
――私の住んでた所より大きい街なのに、こんなに情報伝達が早いのかぁ……
さすがの住民達も物珍しさに集まってくるようで、再会した診療所のおじいさんも
「君が倒れていた直後は皆自制心が利いてたみたいで野次馬になんか来なかったが、こんな事になってちゃ流石に好奇心が勝ったのかもなぁ」
と相変わらず元気そうに笑っていた。
店はというと、取り敢えず私は従業員見習いとして店主を説得して無事にここで働かせてもらっている。
意外だったのはこの事について林檎が積極的に推してくれたことだ。
父親でもある店主もかなり驚いたようで、圧されるままにそのままの勢いで承諾してしまったらしい。
少し苦笑気味の店主からその事を聞きながら、空き部屋もあるし泊まっていかないか?と言われるにあたって流石にそこだけは辞退した。
実は裏手の山に良い寝床代わりを見つけたんだ。木の上だけど、冒険者たるもの高いところでも活動できないとね。
……今は従業員見習いだったか。
彼女は仕事以外でもよく休憩場所まで来ては色んな事を話してくれたので、短い時間ですぐに仲良くなれた。
その話は追々するとして、古糸には噂のお陰か、いろんなお客が来てくれた。
噂が立って早いうちに来てくれたのは、スヴェイア・センディールと言う名の中年男性だ。
「こんにちは! 一度挨拶に行かなければと思っていたのですが、なかなか時間がとれずじまいだったので遅れてしまいました。申し訳ない」
なかなかに柔らかい物腰で接してくれていたが、この街の代表者だと言われて驚くと同時に納得する。そういえばここはセンディールという名前の街だった。きっと街ができた当初からの統率者の家系なのだろう……
「風の便りで冒険者さんと聞いたので、この街にしばらく居るのでしたら是非とも頼みたいことがありましてこうしてやってきた次第です」
なんと、代表自らの依頼だった。これには周りにいたお客さんや店主達からも「おお……」と声が上がる。
話してくれた依頼内容を簡潔に纏めるとこうだ。
・街から出てすぐの山中に出現する動物系の魔族の討伐及び素材の回収
・素材等の戦利品は商会が買い取ってくれる
・初回の最低限の装備は負担する
・古き糸の巣の従業員の仕事が継続できる範囲で構わない
今の所滞在扱いである私に頼むには珍しい内容だが、その代わりと言ってはなんだが随分と良条件だ。
「でもスヴェイアさん、冒険者とは言え何故私なんですか? この街にも自警団はいるんでしょう?」
自警団とは、万が一街になにかあったとき、想定される事柄としては主に魔物による襲撃や、滅多にないことだが他の場所にすむ人間、所謂人族同士の争いから一般市民を守り闘う集団の事だ。これが大規模になると、魔法言語にあたるギルド扱いになる。
ちなみに解説しておくと、魔法言語はその名の通り魔法関連の為の表記体系であり、魔法を発動させるためだったり種族の名称――例えば私達は人族に分類される――を表したりする時に使用される。今の所私と林檎を除く名前の読み書きも魔法言語の一部らしい。
「それはそうなんだけどね、現在はここから馬車を走らせても丸四日はかかるネクスと言う小規模な町が魔物の襲撃を受けていてね……センディール近くの町も増援を送っているんだよ」
つまり防衛が手薄な状態で今度はこちらが狙われかけているって訳だね。
魔物はここ半年の間に急激に目撃されているって聞いたから、助けて貰った恩を返すためにも、せめて魔物の出自位は調べ上げてみようかな!
――すると、今まで黙って話を聴いていた一人の男が口を開いた。
「代表サマも目無しだなァ、そんなどこからきたのかもわからないチビに重大な任務を任すなんて」
開口一番の罵声にイラっとしてその男の方を向いたが、そいつは睨む私を意に介せず言葉を続ける。
「冒険者とはいえ、こんな年端も行かない女に行かせても良いのか? 俺だったら魔物の元凶もささっととっちめてきてやるよ」
それ馬鹿にしてるの? 心配してくれてるの? 私一応十五になるんだからね!
という心の叫びは届くはずもなく、「俺に仕事をくれ」と今にも手柄を立てさせてくれと言わんばかりに自分を主張してくる男に、こちらも今まで黙って事の成り行きを見守っていた人物が声を掛けた。
「サーカズムさん、今はスヴェイルさんの話の途中なんだから、遮ってはいけないでしょう? それに彼女はあなたと違ってお金をつくる必要があるじゃない」
林檎が割って入ってくれたお陰で邪険になりつつあった店内の雰囲気が幾分か和らいだ感じがした。さすがはこの店の看板娘、人気者だね。
「しょうがない、君に免じて今回は引き下がるとするよ。ところで縁談の話は決心がついたかい?」
「そんなつもりは雀の涙ほどもありませんので、スヴェイルさんどうぞ話を続けられて下さい」
サーカズムとかいう名前の男は林檎にぞっこんのようだが、当の本人はその気はさらさらないらしくさらっと受け流して話を戻していた。
「花梨さん、依頼については如何でしょう?」
丁寧な名前の呼ばれ方をされるとなんか変な感じになるよね。語彙力無いけど。
「ありがとうございます! 受けさせていただきます!」
そんなわけで、この街に来てから一週間。やっと"稼げる"仕事にありつけたので、早速短剣と収納袋を頼んで、明日から仕事を始めることにした。
――古き糸の巣での仕事は好きでやりたかったんだから不満なんて一切無いし、むしろ感謝しかないからね?
お読みいただきありがとうございます
誤字脱字間違った表現等は随時修正していこうと思います|ω・)ノ
【加筆修正】
30,10/18 誤字修正
30,11/8 統一のため名称変更(ヒューマン族→人族)
31,2/8 文章の改行間隔を修正




