第318話 部屋では静かに遊びましょう
北瀬家は、いつもバタバタとあわただしい。
遠くから眺めているぶんには楽しいけれど、今日は特に騒がしかった。
「はやくはやく、はやく一廣さん!」
そう言い、青年の腕を引っ張っているのはまだ若いエルフ族だ。
一説によるとエルフ族には「老いる」という概念が乏しいらしい。人には決して分からない力の源があり、その生命の本流とも言えるものに半分ほど身をゆだねている種族なのだとか。
もう少しだけ詳しく言うと、そこは「大精霊界」と呼ばれており、また魔の時代、夜の時代を知っているような古い者は「原初の光景」と呼ぶ。ただ、世界が形作られる前のことを知っているような者は魔導竜などに限られておりごくごく稀だろう。
やはりエルフ族というものは人間にとって理解しづらい。
しかし人間族というものも侮れない。はるか古代において、英知を極めた賢人たちは大精霊界が尚も実在することを突き止めた。彼らの理解できないものを理解しようとする執念はすさまじい。
その痕跡はマリアーベルの住んでいた里にひっそりと遺跡として残されているのだが、だれもそのことを知らないまま悠久の時のなかで静かに崩壊をし続けている。
いや、ぱたぱたとその場で足踏みしている少女、そして靴紐を急いで結んでいる青年はまだ覚えているかもしれない。こう見えて彼女たちはとても目ざとい。特に面白そうなことに関しては。
「急ぎましょう! ミュイちゃんが怯えているかもしれないわ!」
マリアーベルの過ごした百年もの月日は決して短いものではないが、あどけなさが大いに残るその顔だちからは、苦難の少ない日々を過ごしていたと分かる。
人間は肉体の成長によって精神的に成長するが、エルフ族の場合、精神によって肉体の形が変わるという説もある。
あやふやな妖精と似通っているので、本当かどうかは定かでない。見た目というのは本質の一部に過ぎないのだ。
「うん、下に薫子さんたちがいてくれて本当に良かった。でもまた逃げ出したら大変だ」
いつものんびりとした口調の彼も、今日ばかりはそうもいかないらしい。エルフ族から追い立てられるように慌てて靴紐を結んだ。
そうそう、困ったことに幻想世界の住人はとても目立つ。
まったく異なる世界に住んでおり、文化も教養も生きかたも、さらには生態系さえがらりと異なる。エルフ族のマリアーベルがこの世界の者にとって輝いて見えるのは、未知への憧れに似たものがあるのだろう。
猫族のミュイは黙っていれば猫と似ているのだが、すっくと立つし、獣人語か共通語であれば会話もできる。
愛らしさという点では猫と大いに共通しているものの、もしも目にしたら多くの者が驚くだろう。そして大騒動になりかねない。
だから二人はものすごく急いでおり、ぎゅっと靴ひもを結び終えると転げるようにマンションの一室から飛び出た。
「どうしようどうしよう、あんなに高いところから飛び降りたのよ。もしもケガをしていたらどうしよう」
「うーん、それは大丈夫じゃないかな。もともと猫族は逃げ足が速くて、高いところに上るのも降りるのも得意な種族なんだし」
「どうかしら。向こうの世界から来たばかりのときは事情がぜんぜん異なるわ。私だって精霊術をまともに扱えなくなったのよ」
確かに彼女が初めて日本に訪れたときは、精霊を見ることしかできなかった。しかし、春、夏、秋、という3つの季節を通り過ぎたいま、少なくとも暖房に困らないくらい火とかげを使役できるようになったのも事実だろう。家計の足しにしかならないが。
さてさて、冬の冷気に包まれても彼らの足は鈍らない。
はやくはやくとまたエルフ族にせかされて廊下を駆けていたときに、ぽーんと向こうで電子音が鳴る。
どうやら階下からエレベータの辿り着いた音らしく、姿を見せたのは徹、そしてミュイをかかえる薫子だった。夫の大きな身体で獣人の子を隠して、どうにかここまで来たのだろう。難儀なことだ。
「あ、マリーちゃ……」
いつものように笑顔で挨拶をしかけた徹の後ろで、なぜか薫子はぎょっとする。みるみるうちにものすごく焦った表情に変わり、夫を押しのけてツカツカツカと歩み寄ってくるのはなぜなのか。
ピッと指先をエルフ族に向けて、大声でわめいていそうな形相でありながら、ヒソヒソヒソと小声で薫子は言う。
「み、耳っ! マリーちゃん、耳、耳、耳っ!」
「へ? あっ、きゃあっ!」
つんっと指で突かれて、ようやくマリアーベルは己の失態に気づいた。
尖った長耳は、エルフ族の持つ特徴だ。遠くの音を聞き分けて、人には決して聞こえない声を聞き、そして精霊と密接にかかわり合える。
だけど今日に限っては慌てるあまり隠すのを忘れていたらしく、また北瀬も気づけなかった。とがった耳を両手で覆い、可愛らしい悲鳴を少女は上げた。
ただ、彼女の場合はさほど怯える必要はない。
エルフ族は、ひとたび目にすれば夢に現れるほど美しいという逸話があるほどだ。仮にもし姿を見られたとしても、相手は呆然とするあまり、長耳のことなどまったく気にならないだろう。
ミュイと同じくらい……いや、それ以上に目立つことをすっかり失念していた少女は、すぐさま身をひるがえして北瀬の背中に隠れる。
少女にとって外敵から身を隠すのにぴったりな場所なのか、ごく自然と身体を重ねてくる様子に今度は北瀬が慌てた。もしかしたら女性的な感触を味わったのかもしれない。
「と、とりあえず僕らの部屋に!」
「ですね、急ぎましょう!」
北瀬と薫子は、きっと焦っていたのだろう。人の目を引きかねない大きな声でそう言い合い、むすっとした顔の猫族を受け取るや、北瀬たちは早足で廊下を進む。
途中でマンションの住人とすれ違ったときは、見ていて可哀そうに思うほど身体を小さくさせていた。
ドタバタと騒がしい北瀬家ではあるのだが、やはり今日はいつもよりずっと騒がしい。普段は読書をして過ごすことが多いというのに。
誰にも聞こえないくらい、それこそリスのささやき声よりもずっと小さなため息を私は吐いた。
開け放たれたドアの向こうには、冬と思えない快適な室温が待っている。そして、でんと薪ストーブに寝そべる火とかげは、その小さな手を来訪者に振って見せた。
かつてアレクセイ地方で「火の厄災」を招いたという危険な精霊にしては、ややユーモアな仕草だなと私は思う。
しかし観察はここまでだ。目ざとい黒猫が黄金色の瞳をきらりと輝かせたのだから。
チチと鳴き、私は空に羽ばたいた。
§
「氷の迷宮、ですか?」
やや厚めの眼鏡をかけた薫子さんが、マグカップを片手にそう口にする。隣に座る徹さんにも同じものを用意してある。
たぶん二人は出かける間際だったのだろう。コートなどの防寒具をハンガーにかけて、温かいココアを口に含む。
この部屋もやや広めとはいえワンルームなので、4人がテーブルに腰掛けるとやや手狭だ。とはいえマリーの趣味で小さな植物など置かれているのだし、こじゃれた喫茶店という感じに見えなくもない。
「そうなんです。いまは危険な場所にいるので、お二人を連れていくことはできなくて……」
ややしどろもどろな口調で僕はそう言う。
というのも正直なところ僻地の旅、そして初めて見る迷宮というものを実のところ楽しんでいた。
だから申し訳ない気持ちになるけれど、危険であるという点に間違いはない。これにはマリーも同感のようだった。
「そうよ。とても危険だし、恐ろしいことに凍てつくような寒さがずっと私たちを襲うの。指先がかじかんでしまうと思うほどよ」
己の肩を抱き、ぶるりと震えてからマリーは「おお、恐ろしい」と再び漏らす。しかし彼女が言うと「あまり寒くないのでは?」と思ってしまうのはなぜなのか。
自然のなかで生きるエルフ族にしては珍しく、寒がりで暑がりだからだろうか。マリーが平気なら私も平気、と考えてしまうのかもしれない。
彼女は警告としてそう口にした。しかし、この場にいる夫妻には真逆の効果があった。
「いいなぁ……」
「楽しそうでなによりじゃないか」
ぐうっ、と薫子さんは唸り、また徹さんは心の底から羨ましそうに言う。あまり予想していなかった二人の反応に、マリーの形の良い眉がわずかにゆがんだ。
「え? とても寒いのよ? 人間族は寒さを嫌がるものでしょう?」
う、ん、たぶん人間族よりマリーのほうが寒がりだと思うけど。などとこの場にいる全員が思っても決して口にはしない。どちらかというと思いやりに溢れた人たちなので、マリーが決して傷つかないように突っ込まない。
ともあれ寒さを羨ましがる理由はとても簡単だ。
夫妻の出身地が北海道、そして僕も幼少のころは青森で過ごしたので、言わずもがな寒さにめっぽう強い。でないと生きていけない厳しさなんだ。
しかしそんな環境で生きてきたからこそ抱える苦悩というのもある。
「今年もほとんど雪が降らないし、冬になった気がぜんぜんしません」
「やっぱり無理してでも雪国旅行を考えておくべきだったか」
薫子さんはテーブルにつっぷし、また徹さんは腕組みをして唸った。
ちなみにミュイはというと、向こうのベッドの下に隠れている。よほどお風呂が嫌だったのか、ときおり己の毛をスンスンと嗅いでいた。
「最近は暖房もしっかりしている家が多いけど、外に出たら極寒だからさ」
「部屋に飲み残しのコップがあると普通に凍りますしね」
そんな夫妻の会話に、ぞおっとマリーの表情が青ざめる。寒い寒いと文句を言っていたけれど、まさかそれ以上の寒い土地があるとは、という表情だけど……言うまでもなく氷の迷宮のほうがずっと寒いからね。上等な毛皮に助けられたというだけで。
「寒いといえばアレだな。そういう場所で鍋とか温かいものを食べると本当に美味い。もうもうと湯気が浮かぶなかですするラーメンとかもたまらないよなぁ」
きらんと黒猫の瞳が輝く。じゅるりと垂れた涎もそうだが、与えてはいけない知識を与えた気がしてならない。
そしてエルフさんも食欲には弱い。寒いのが好きなんて信じられないわと言いかけた言葉を引っ込めて、ごくんと喉を鳴らしていた。
「私たち、もうすぐ青森のおじいさまの家まで旅行に行くの。そのときに食べておいたほうがいいものってあるかしら」
「うわ、いいね! 羨ましい! 雪を眺めながら摂る食事……うーん、たまんないね。旅行先を教えてくれたらおすすめの店を紹介するよ」
きらんきらんと黒猫の瞳が輝く。そういえば前の青森旅行では、あんこう鍋をおなかがはち切れんばかりに食べてご満悦だったっけ。
だめだよ、徹さん。マリーも喜んでいるし、和気あいあいと盛り上がっているけれど、いまは火にガソリンをガンガン投入している最中なんだと気づいて欲しいな。
「それじゃあ北瀬君は、おじいさんに結婚のご報告に行くのかな」
「あ、ええ、その通りです。夫婦になるために考えなければいけないことはたくさんありますが、順にひとつずつこなしていこうと思います」
うん、と徹さんは目を細めてうなずいてくれた。
マリーの戸籍に関することなど、これから彼に相談したいと考えている。彼の「問題ないよ」という言葉で気が楽になったというか、籍を入れることに決めたのはその言葉のおかげでもある。
「そ、そうね、大事なことだわ」
何度か小さくうなずいたあと、なぜか頬を赤らめたマリーがそう言う。手を握り、口元にあてるのは彼女の癖で、こういうときは僕の予想だにしないことを考えていたりする。さて、どんな「夫婦になるためのこと」を考えたのだろうか。
「それが終わったら次はエルフの里に行こうと思いまして」
何気なくそう言ったのもたぶん失敗だ。薫子さんは悲しそうな顔を両手で覆い、敬語も忘れて「いいなぁぁぁ」と呻く。
うーん、分かる。気持ちはものすごく分かる。
エルフの里が実在しており、その空間を歩けるのだと分かったら、僕でも心の底から羨ましがる。小さなころに訪れたきりだけど、いまだに忘れられないくらい素敵なところだったしね。
決して自慢をしたかったわけじゃない。なので僕は二人に笑いかけた。
「そちらは安全ですし、良ければご一緒します?」
「行きます行きます! ぜったいぜったい、ぜったいに行きますー!」
泣き出しそうな表情で、僕の腕にしがみつきながらそう言われた。この機会を逃してなるものかという勢いであり、また執念も感じられる。これにはマリーと徹さんも「おっと」と呻き、また引きぎみな表情だった。
おもむろに、がばりと薫子さんは身を起こす。
「分かりませんか、このすごさが! エルフ族が暮らしている土地へ、信じられないことに私たちが実際に行けるんですよ! 焼かれていないエルフの里が!」
「焼かれ……? そ、そうだな、言われてみると確かに」
完全に腰が引けており、いかにも「話に合わせました」という態度は、逆に薫子さんの癇に障る。キッと睨みつける様子は、いつも丁寧で大人しい彼女らしくない。不穏な空気を嗅ぎ取って、思わず僕はマリーと見つめ合う。
「ま、まあまあ、まだ先のことですし」
「そうよ。それにまだ里に入っていいという許可はもらっていないわ。お父様ならたぶん平気でしょうけど」
僕らに気遣われたことを悟ったらしく、薫子さんは思わずハッとする。そして今度は顔を真っ赤にさせて、思い切り頭を下げてきた。
「ごめんなさい、私ったらつい! でも美人で可愛いらしいエルフ族がたくさんいるかと思うと、その……興奮しすぎました。反省しています。ごめんなさい」
ぺこぺこと頭を下げられた。一瞬だけ、とてもだらしのない表情をしたことは、僕の胸にしまっておこう。
言っておくけど、エルフの里ってかなり牧歌的というか素朴な場所だからね。どんな景色を想像しているかは分からないけど。
こほんと咳払いをしてから僕は口を開く。
「そういうわけで、せっかくのお休みですけどお二人を向こうへ案内することができないんです」
「そうよ。寒さは置いておくとして、恐ろしい魔物がうじゃうじゃいるし、どこか得体の知れない魔女だっているの」
うーん、優しそうな人だったと思うけどな。
ちなみに魔物を倒すと強化素材が手に入り、アイテム合成の役に立つような迷宮ということは伏せておく。でないとまた「いいなぁぁ」と言われかねない。
そんな息の合った僕らの説得によって、薫子さんはしょんぼりと肩を落とす。しかし先ほどより悲しくはなさそうだ。
「せっかくエルフの里にご案内していただけるんですから、もちろん我慢します」
「お出かけをするところで邪魔してしまい、こちらこそすみません。それで、どこへ行く予定だったんです?」
そう尋ねると、なぜか徹さんはバツの悪そうな顔を返す。
「いや、まあ、大した予定はなかったけど、休日に出かけておかないともったいないかなと思って」
「そうでしたか。なら良かったのですかね。まあ、今日ばかりは僕らは出かけることもできませんが」
困ったようにそう言い、ベッドの下に目を向ける。
薄暗いそこには猫のような生き物がおり、ピンと三角形の耳を立てている。先ほどより落ち着いているものの、日本語などもちろんわからないので様子をうかがっているのだろう。
この世界のことを右も左も分からないミュイを、このまま置いていくわけにはいかない。おいでおいでと彼に手招きをした。
「ミュイ、良かったらご挨拶をしない? 二人は第三階層をつくるとき、とても力になってくれた人たちなんだ」
「第三階層の? はイ、ボクもこのあいだ初めてたどり着きマシタ」
つい先ほどは耳を不機嫌そうな形にしていたけれど、おずおず出てくる様子はいつもの彼だ。すっくと小さな身体で立ち上がり、毛についていた埃を払うと大きな瞳を向けてきた。
「彼はミュイ。小さいけれど才能が溢れていて、魔石の錬成を生業としている。僕の剣を鍛えてもらったこともあるんですよ」
「まあ、すごいですね。私は薫子。あ、アー、カオルコ、デス。言葉ハ伝わりマスカ?」
ぴょくんとミュイの尻尾が揺れる。
彼が驚いたのは話せる者の少ない獣人語を耳にしたからだろう。もちろん僕も話せるけれど、習うことも生かせることも少ないので、かなりの少数派に当たる。
きっと彼はこれからさらに驚く。
第三階層では様々な語学や技術を教えており、リザードマンたちと畑の管理をし始めている。移住してきたばかりのアリライ国の者たちも、獣人や魔族への畏れというものが、日を追うごとに薄れている最中だ。
「前に言ったと思うけど、名もなき国は獣人や魔族がたくさんいる。ミュイの言葉で話せる相手は、これからもっと増えるはずだよ」
ごしりと頭を撫でてやりながらそう言うと、彼の瞳はまた輝く。
獣人を忌み嫌うはずのエルフ族が、なぜか出会うなり抱きついてきて「可愛い!」と言ったように、これからとても楽しいできごとがたくさん起こるんじゃないかな。
「ずるい」
そんな僕らの空気を断ち切って、ずいっとエルフさんが割り込んでくる。据わった瞳で僕をにらんでくるのはなぜなのか。
薄紫色の瞳は見とれるほど美しいけれど、冷ややかであれば話は別だ。たらりと汗を垂らしながら「えーと、なにが?」と僕は尋ねる。
「私も獣人語を覚えたい。私だけのけものにされるだなんてひどいわ」
「う、うん、いつでも教えるよ。なんとなくマリーとミュイは、意思が伝わりあっている気がするけど。それに徹さんだって言葉は……」
「あら、言葉が分かる人だからそんなことを言えるのよ。あなたと薫子さんだって、もし言葉が通じなかったとしたら同じことを思うに違いないわ」
ぷりぷりと怒る顔が間近にあるものの、瞳が大きくて綺麗なものだから「可愛い」と思ってしまうのはたぶん僕が男だからだ。
いくら交際している相手であり結婚間近だとしても、真っ白い髪を横に束ねて、ときおり美しく笑いかけてくる少女がすぐ近くにいるだけで頬が熱くなる。
とはいえ、むんずと小指同士を絡めてこられるとハテナの疑問符が頭に浮かぶ。
「じゃあ約束。これから毎日、私に獣人語を教えること」
どアップになるほど顔を寄せてくる少女に、思わず僕の口元は緩む。ずいぶんと前は「獣人語を学んでいるなんて、あなたはよほどの暇人なのね」と言われたことがあるというのに。
「もちろん、喜んで教えるよ」
「嘘をついたら針を千本……は、さすがにやりすぎね。3本くらい飲ませます。2本と半分でもいいわ」
う、ん、3本になってリアリティーが増したぶん逆にちょっと怖いかな。
ぐんぐんと上下に手を振り合い、必ず守るという約束を僕はした。
ではどうやって教えようかと思ったときに、ふと隣にいるミュイと目が合う。
「そうだ。せっかく話せる人がいるんだし、今日はミュイと一緒に遊びながら獣人語を学ぼうか」
「私も私も! 私もぜひ覚えたいです!」
はいはーいと手を挙げられて、2名の生徒が席についたことになる。もう一名はというと「んー」と唸りながら天井に目を向け、そしてこう口にした。
「私たちもちょうど退屈していたところだし、もし良かったら今日は北瀬君の家で遊ばせてもらおうか。薫子、いい時間だし出前をとっていいかな?」
「あら、いいですね! マリーちゃん、徹さんがなんでもご馳走してくれるそうですよ」
そう言われて口のなかでもごもごと「デマエ?」とつぶやくマリーだったけど、目の前に「じゃんっ」とスマホで見せられた出前メニューに薄紫色の瞳を輝かせる。
寿司、どんぶり、ピザなどなど、これまでマリーの食した「好きな食べ物ランキング」を席巻している食事ばかりだ。
また日本の食堂で巧みだと思うのは、このチラシだと僕は思う。食欲をそそる照りといい、店ごとのオリジナリティーあるデザインといい、ごくんと喉を鳴らす少女を決して責められないし、彼女の背後にしがみついた黒猫が歓喜の表情をしていても気にならない。
「デマエ!」
瞳をきらきらに輝かせてそう言われたら、さすがの僕も「たまにならいいかな」とつぶやくことしかできやしない。
いや、反対はしないんだけど、味付けが濃いからどうしてもね。というよりも、僕、薫子さん、徹さんがそれぞれ顔をほっこりさせている。可愛い子にはどうしても勝てないんだよ、僕たち大人は。
テーブルの上に置かれているのは、つい先ほど購入したばかりの猫グッズ詰め合わせ。そして室内での遊びがとても得意な薫子さんがそこにいる。
だから昼食を早めに頼みつつ、まだ日本に慣れていないミュイとどうやって遊ぼうかという相談を僕らはすることにした。
日本へようこそエルフさん、コミカライズ⑥巻は3/1発売です! わーい!
こういうことを言うと「がめつい」と言われるかもしれませんし気が引けますが・・・3冊買ってくださいね!(冗談ですw)




