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第223話 第三階層主との戦い②

 

 普段より軽い装備を選んだイブは、機敏な動きで腕を伸ばした。すると不思議なことに、指先から肩まで陽炎じみたものがまとわりついた。


 なんだろう、これは。

 見つめていると、少しだけ姿が鮮明になった。


 ぱちぱちと豆粒みたいな瞳を瞬かせ、牙のない口を開かせる。これは火とかげ(サラマンダー)と言って、マリーも好んで使う精霊だ。

 それがずらりと腕に並び、命令を待つようにダークエルフを見つめる。電線に止まるスズメのようで、ちょっとだけ僕も羨ましい。


「あたしに宿れ、火とかげ」


 そしてエルフ語で精霊へ呼びかけた。

 健康的に焼けた肌へと精霊たちは身を沈め、ズズと肌の輪郭は炎色となる。くるりと振り返る彼女は、瞳までも色を変えていた。


「これがあたしの得意なやつね。身体に精霊を入れて、いつもより強化される感じ」

「おー、凄い凄い。イブは才能があるなぁ」


 パチパチ拍手をすると、彼女は「でしょう!」と笑みを浮かべた。とはいえ舌の上でも炎が踊っているので、ちょっとした迫力があるけれど。


 そっち、と僕が指さした瞬間、キュッ!と駒のようにイブは回る。身の丈3メートル。振り上げられたサーベルはさらにその上にあった。

 普通であれば恐怖により躊躇するだろうに、イブは迷わずかいくぐり、振り下ろされた魔物の手をカウンターぎみに短刀で狙う。


 ガキキ、と連撃の音を残して骨片は舞い、炎属性により燃え上がる。ついでのように僕の剣はイブの脇の下を抜けてゆき、魔物の手を完全に破壊した。


「どんどん行って平気?」

「お好きなだけどうぞ、イブお嬢様」

「あははっ! じゃあ好きなだけ行っちゃおうかなー!」


 ん、宣言どおり回転数が上がって来たぞ。

 装備の新調もあり、軽やかにイブは脚を持ち上げる。思いつきで動いている割に軸はしっかりとしており、体重と火炎の乗った蹴りが右大腿骨にめり込んだ。


 うん、以前より速くなったなあ。

 短剣で切りつけた後には身体を捻って蹴りを飛ばすので、パパパという音に変わりつつある。となると僕としては敵の呼吸を乱し、かつイブの背を押す役目をしたい所だ。


 細かい攻撃の合間、呼吸を整えている時には重い一撃を与えて敵を遠ざける。イブが攻撃に専念できるよう、かわせない攻撃は剣を使って受け流す。

 イブのリズムを尊重するために、魔物にはご遠慮いただくという方針だ。


 ついでに僕は彼女の背に隠れているので、相手にとっては全て死角から飛んでくると感じているだろうね。

 すると魔物でもストレスが溜まるのか、怒りを吐き出すように雑な攻撃が増えてきた。

 そして、さらにイブは調子に乗る。


「やっばい! あたしの攻撃が全部、会心の一撃(クリティカルヒット)になってる!」


 喜色を浮かべたまま、イブの連続ヒットが決まる。

 笑いながら破壊されて行くのは、他の魔物たちからどう見えるのかな。援軍にやって来た二体目は、たどり着いてすぐ仲間が崩れ去った様子に「次は俺の番か」とでも思ったかな。


 以前、イブと連携しておいて良かったと思うよ。記憶領域(スロット)にはまだ彼女の動きを入れており、それに合わせた行動パターンも組んである。


 そういうわけで、半ばオートで補助ができ、かつ最適な攻撃パターンを模索するという遊びが出来る。

 もうイブは口に出して指示なんてしない。ひゅっと首を傾けるだけで、僕がサーベルから守ると知っている。


 結果、一方的に切り刻まれ、燃え上がる骨人形が生まれるわけだ。炎ごときで魔物は怯んだりなどしない。しかし確実に着実に継続的なダメージが彼らを襲う。


 そして以前と異なるのは周囲の者たちもレベルアップしていることだろう。ザッザッと盾を構えた者たちは前進し、後方から勇ましいドゥーラの声が響く。


「左手魔物、狙え! 速射二発…………撃(て)ッ!」


 石垣のように組まれた盾は、金属音を残して上下に別れる。その隙間には十字形のクロスボウが並び、ドババと吐き出された。

 横合いから襲いかかろうとしていた魔物は、逆に壁へ縫い付けるよう矢を浴びた。聖なる力を付与されているせいか、骨人形の全身から無数の破片が舞った。


「そら、押し潰せ!」


 号令のもと、ずるりと盾の群れは蠢き、魔物へと迫る。連携を磨いた兵士たちは、鉄鱗をした生物のような一体感を見せ、ドズン!と壁に押し潰す。

 しかし、これでもまだ外装の破壊には至らない。骨人形(ギィーニー)はレベル82と高く、また魔法製の鎧を着ているので物理防御に秀でている。


 が、なぜか魔物は苦悶の動きを見せた。

 ぞろろと離れて行く盾の群れ。そこに残されたのは大男ゼラであり、胸部に剣を突き刺していたのだ。


「おらアッ!! ブッ刺せ、てめえら!」


 一息で十字に切り裂き、間髪入れず今度は傷口を狙って槍が刺さる。はたから見ていると、黒い鱗から大量の触手が伸び、貫通攻撃をしているように感じられた。


 ドスドスと新たな槍が突き刺さり、きっちりHPをゼロにしたところで鉄製の群れたちは離れて行く。後に残るは崩れ落ちる魔物だけだ。

 うーん、強い。状況判断の早いドゥーラとゼラの組み合わせは、知性と野生の勘が同居しているように感じるな。



 この仕掛け回廊は「マクルスの操り人形(ギィーニー)」と呼ばれており、難所だ。

 左右の壁から魔物が次々と生まれ、そして動く床が無理矢理に前進させる。速度が出過ぎないよう皆は後ろへ歩いているが、傷を負って膝をついた者から暗闇へ飲み込まれてしまうだろう。


 しかし足並みを揃えて整列を崩さない兵士たち、前線を切り裂くダークエルフと僕により徐々に攻略されつつあった。


 いや、もうひとつあったか。

 たまに寝そべった格好の火とかげがベルトコンベアに乗り、通り過ぎて行くのだ。じーっと僕の目を見ながら交差するのはシュールに感じるからやめて欲しい。


 そして、暗闇に消えてから彼は爆発した。それは魔物の潜む壁を破壊するのが目的だったらしく、回転する仕掛けを動かなくするという……マリーさん、それは効率が良すぎでは?


「勝手に火とかげを運んでくれるから楽ちんね。監視塔のおかげで居場所は丸見えだし。えい、爆破」


 また一体、罪の無い魔物が通せんぼされてしまった。何百年も出番を待ち続けていただろうに。

 まさかねぇ、魔石ルンに座ったまま、ポイポイと火とかげを放るエルフさんが一番活躍をするとは誰も思わないよね。

 あーあ、眠そうに欠伸までしちゃって。


 …………。

 ん? あれ? ひょっとして最初から火とかげを放っているだけでクリア出来たんじゃ……?

 気のせいだ、気のせい。たまたまベルトコンベア式の仕掛けが、僕らにとって有利になっただけだ。でないと彼らが可哀想すぎる。


 ともあれ、ほぼ無傷で難所を超えたのは喜ばしい。

 二百メートルもの回廊は破壊され、瓦礫の山と化している。

 適度なスリルと運動を満喫したせいか、イブは両手をあげて喜んだ。


「気持ちいいーー! こんなに活躍できたこと無いって、ほんとに。もう、さいっこう!」


 そのままガッツポーズをすると、腕を伝って汗が落ちてゆく。

 うん、だいぶ楽しめてもらえたかな。ぼちぼち「迷宮へ遊びに行く?」と尋ねても「行くーー!」と返事をしてくれそうな気がするな。


「見て見て、レベルアップしちゃった! 62だって!」

「え、もうそんなに上がったの? 冗談でしょ?」


 ぎょっと目を剥いてしまったよ。少し前は50代半ばと思っていたのに。そういえば今の戦いはイブが独占していただろうし、これまでも同じような補助をしていたか。

 ふむふむと僕は頷いた。


「おめでとう、イブ。今日のMVPは間違いなく君だね」

「いぇいっ!」


 ぱんと両手でタッチをし「ありがと!」と、また笑う。水も滴る何とやらと言うけれど、汗の滴る姿も輝かしいと僕なんかは思うのだけれどね。

 まあ薄着のせいで多少は悩ましい格好だけど、彼女が気にしていないから良しとしよう。


 少し進むと広間があったので、ドゥーラからの号令のもと小休止が与えられた。

 では、楽しみにしていたお食事の時間だ。

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