↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほし☆どき! ~東経135度の星時研究部~  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/24

最終話 星時研究部の次の観測

 発表会の翌日。終業式とホームルームを終えた四人が部室に集まると、秋月先生から正式な知らせがあった。

「星時研究部、正式に、二学期以降も存続することが決まりました」

 四人に向かって、秋月先生はいつになく晴れやかな表情で告げた。

「本当ですか!」

 あかりが、真っ先に声を上げる。

「ええ。今回の発表、学校側からも、とても高く評価されたわ。天文、地学、地歴、それに喫茶店の話まで、幅広いテーマを、『時間』というひとつの軸でまとめ上げたこと。それが審査の先生方にも、しっかり伝わったみたい」

「よかった……」

 こよみが胸に手を当てて、ほっと一息ついた。

「みんなのおかげよ」

 秋月先生が、四人の顔を順番に見渡しながら言った。

「特に、大久保さんが最後にまとめた言葉。あれは、原稿にはなかったけれど、この部活の一学期の頑張りを、全部背負った言葉だったと思う」

「ありがとうございます……」

 つむぎは、少し照れくさそうに、けれど確かな喜びを感じながら頭を下げた。

「ちなみに」

 秋月先生が、少し悪戯っぽく続けた。

「審査の先生の一人が、『あの、時計が止まる演出、どうやったの? 演劇部にでも頼んだの?』って、真顔で聞いてきたわ」

「え、あれ、演出やと思われてたんですか?」

 あかりが目を丸くする。

「そうみたい。あまりにも自然な間だったから、てっきり狙ってやったのかと」

「先生、なんて答えたんですか?」

 つむぎが尋ねる。

「『さあ、生徒たちの企画力ですね』って、曖昧に濁しておいたわ」

「それ、嘘ではないですけど、答えになってないですよね」

 こよみが苦笑する。

「詳しい説明のしようがないんだもの。仕方ないでしょう」

 秋月先生の、意外と器用な誤魔化し方に四人は思わず笑ってしまった。


 その日の放課後、四人はいつものように、カフェ・メリディアンに集まった。

「お疲れさま、みんな」

 灯子さんが、いつもより少し豪華な、特別メニューを用意してくれていた。標準時プリンに加えて、十二種類の色とりどりのフルーツを時計の文字盤のように飾ったパフェが、テーブルに並ぶ。

「これ、お祝いね。その名も、『十二の刻のフルーツパフェ』」

「わあ、めっちゃ豪華!」

 あかりが、目を輝かせる。

 店の一角には、発表会で使った資料やパネルをもとにした、小さな展示コーナーが作られていた。星の写真、古地図のコピー、影の観測グラフ、そして床の真鍮のラインの説明パネル。

「これ、お母さんが作ってくれたん?」

「観光協会の方からも、面白いって言ってもらえたのよ。うちの店も、これから、もう少し、『時間について考える喫茶店』として、盛り上げていけたらいいなって思って」

 あかりは、その展示コーナーをじっと見つめた。

「うち、この店のこと、これまで以上に、好きになった気がする」

「それなら、嬉しいわ」

 灯子さんは、優しく微笑んだ。

 パフェを食べながら、かなめは少し改まった様子でスマートフォンを取り出した。

「姉さんに、報告しようと思って」

 メッセージを打ち込みながら、かなめは、ぽつりと呟いた。

「今日まで、ずっと、姉さんみたいに上手に説明できないことが、コンプレックスだった。でも、発表会で、自分の言葉で話せたって思えた」

「かなめさん、本当に、発表のとき、すごくわかりやすかったです」

 こよみが頷きながら言った。

「うん」

 かなめは、少し照れくさそうに笑った。

「これからは、姉さんの真似じゃなくて、自分なりの星の見方を、ちゃんと見つけていきたい」

 メッセージを送ると、すぐに返信が来たようで、かなめの表情がふっと緩んだ。

「なんて書いてあったん?」

 あかりが、興味津々に尋ねる。

「……『よく頑張ったね』って」

 かなめはその短い言葉を大事そうに、もう一度読み返していた。

「それだけ?」

 あかりが、拍子抜けしたように言う。

「それだけで、じゅうぶん」

「かなめ、姉さんのメッセージやと、途端に語彙が減るな」

「うるさい」

 照れ隠しに顔を背けたかなめを見て、こよみが小さく笑った。

 こよみは、その隣で古い活動ノート――柏木先輩たちが残した、あのノートを丁寧に手に取っていた。

「これ、部室の棚に、ちゃんと戻そうと思います」

「うん。でも、いつでも読み返せるように、大事な場所に置いておきたいですね」

 つむぎが頷くと、こよみは小さなカードを取り出した。

「それから、これを挟んでおこうと思います」

 カードには、こよみの丁寧な字で、こう書かれていた。


 この記録の続きは、星時研究部・新観測ノートへ。


「今までの私なら、古いノートには何も加えず、そのまま戻すことだけを考えていたと思います」

 こよみは、最後の白紙のページにカードをそっと挟んだ。

「でも、このノートは、終わった記録じゃありません。私たちの記録へ続いているんです」

「柏木先輩たちの続き、ですね」

「はい。答えを代わりに決めるのではなく、私たちが見つけたものを、その先に残していきます。柏木先輩、遠藤先輩、高瀬先輩……」

 こよみはノートの表紙をそっと撫でた。

「あなたたちの続き、私たちなりに、完成させられたと思います」

 こよみの言葉には、確かな誇りが感じられた。

 つむぎは新しいノートを鞄から取り出した。真新しい、まだ何も書かれていないページ。

「これ、今日から、新しい観測ノートにしようと思います」

「新しいノート?」

 あかりが尋ねる。

「はい。これまでのノートは、この一学期の記録として、大事に取っておきます。でも、これからも、新しい発見があると思うので」

 つむぎは、そのノートの最初のページに、丁寧に日付を書き込んだ。そして、少し考えてから、こう書き添えた。

「星時研究部、二学期に向けて」

「二学期も、いろいろ、調べたいことが増えそうやな」

 あかりが、パフェのフルーツを頬張りながら言った。

「夏休みには、流星群の観測とか、海辺の夜間観測とか、やってみたいです」

 こよみが、目を輝かせながら言う。

「夏の星座の話も、詳しく調べたい。あと、恒星時の話も、もっと深く掘り下げてみたい」

 かなめがそう言った後、あかりが少し考えてから言った。

「うちは……夏限定の新メニュー、考えたいな。逃げ水ゼリーとか、入道雲わたがしとか」

「それ、いいですね」 

 こよみが微笑む。

 窓際の日だまりで、いつの間にか眠っていたチックが、そのとき、ゆっくりと目を覚ました。

「チック、起きた?」

 あかりが声をかけると、チックは、大きなあくびをしながら、体を伸ばした。

「よく寝た……夏、近い」

「うん、明日から夏休みやで」

 チックは、少し満足げに耳をぴこぴこと動かした。

「発表、終わった……大きいの、消えた。今は、静か」

「これから、しばらくは、平和ってことかな」

 かなめが尋ねる。

「たぶん……でも、また、生まれるかもしれない。時のほつれ」

「そのときは、また、みんなで対応しような」

 あかりがそう言って、チックの頭を優しく撫でた。チックは気持ちよさそうに目を細めた。

「みんな、ありがとう」

 その一言に、四人はそれぞれ、温かい気持ちで顔を見合わせた。

「あ、そうや」

 あかりが何かを思い出したように、チックに顔を近づけた。

「なあ、発表のとき、体、光らせたやつ、あれ、種明かし、そろそろしてくれてもええんちゃう?」

「企業秘密」

「まだ、それ言うんかい!」

「一度、決めた設定……曲げない」

「頑固やなあ、こんなときだけ」

 あかりが呆れたように肩をすくめると、こよみとかなめも揃って笑ってしまった。

            ☆

 パフェを食べ終えた後、四人は店の外に出て、夕暮れの空を見上げた。まだ明るさを残す空に、一番星が静かに輝いている。

「いよいよ夏休みですね」

 こよみが、空を見上げながら言った。

「今度は、ちゃんと晴れた夜に、星、見たいな」

 あかりが呟く。

「星は逃げないよ、って、すばるさんが言ってましたね」

 つむぎが、微笑みながら言った。

「うん、今度こそ、ちゃんとした写真、撮りたい」

 かなめが頷く。

 四人はしばらく、夕暮れの空を眺めていた。星の光が、少しずつ強くなっていく。

「なあ」

 あかりがふと、明るい声で言った。

「じゃあ次は、星が降る夜を観測しよう」

 その言葉に、みんなが自然と笑顔になった。

「流星群、ですね」

 こよみが頷く。

「楽しみにしてる」

 かなめが穏やかな声で言った。

「わたしも」

 つむぎが、新しいノートを大事そうに抱えながら答えた。

 東経百三十五度の線が通るこの町で、廃部寸前だった星時研究部は、正式に存続を認められた。

 カフェ・メリディアンの床の真鍮のラインが、夕暮れの光を受けて輝いている。

 明日からは夏休み。星時研究部の時間は、これからもゆるやかに続いていく。

(おしまい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。