#39 アップルサイダーは、やっぱり違った
(2026/02/21)
ようやく出発の時が来た。
道中の水分補給にと、今日はなぜかりんごジュースが飲みたい気分だった。
自販機の前には人が並んでいて、ゆっくり選ぶ余裕はない。
「アップル」と見えたボタンを押した。
それがまずかった。
アップルはアップルでも、アップルサイダーだった。
炭酸は嫌いではない。
けれど、バスに揺られながら飲みたいものではない。
渋々ふたを開けて一口。
……うん。やっぱり違う。
Qooが恋しい。
ただの、りんごジュースが恋しい。
そんな微妙な違和感を抱えたまま、バスは走り出す。
帰省予定だった妹の姿はない。
高速バスにも、新幹線にも、どこにも。
直前になって胃炎になったと、帰省を取りやめたのだ。
母と祖母の「しゃーないよね」という言葉が、どこか痛々しかった。
毎度期待させて、そして落とす。
その姿勢はどうにかした方がいいと思う。
けれど他人が何を言っても、直るものではないのだろう。
それが彼女の資質であり、体質なのだから。
妹が来られないと決まってから、祖母のラブコールは私に集中した。
このまま愛媛に帰ってこい。
大阪はダメだ。
言われるたびに、胸の奥がざらつく。
帰りたいのは山々だ。
だが、帰れない事情がある。
それを理解できないのが、うちの祖母だ。
責めきれないからこそ、良心が痛む。
バスは進む。
私のアップルサイダーを、カタカタと鳴らしながら。




