第二章 超一流俳優犬と私 PART1
「本日ご登場頂きますゲストは、
映画やドラマ、そしてCMでも大活躍中のポン太君です!」
アナウンサーにそう紹介されて出てきたのは、白い大きな犬だった。
その犬は黒子の格好をしたスタッフに連れられて
舞台の真ん中まで歩いていった後、
次の指示の待つかの様にじっと前を見つめながら座った。
これが噂の……。
仕事を終えて帰宅したさくらは、
シャワーで濡れた髪をドライヤーで乾かしながら、
比呂木に渡されたDVDを見ていた。
さくらは実家で犬を飼っているくらいの犬好きであったが、
それだけの理由でこのDVDを見ているわけではない。
それは今回の企画対象が、
まさに今テレビに映っているこの犬だったからである。
彼の名前はポン太と言い、その犬種はシェパードである。
シェパードと言えば、主に警察犬として活躍していることで有名だったが、
賢いその性質から最近だと一般家庭でも番犬用に飼われていることも多い。
さくらはこの話を聞いた時、
企画二回目にしてもう日本人のネタは尽きたのかと心配になったので、
大丈夫かと比呂木に聞いてみたところ、
「企画ってのは、いい意味で人の期待を裏切ってなんぼだろ?」
というすごく曖昧な答えしか返ってこなかった。
そのうち、
人間よりも賢い人型ロボットとかにインタビューする時が来そうですらある。
しかし、お金を稼いでいるという意味では存外この企画の的を射ているらしい。
ポン太君は
(流石に犬に対して「さん」付けで呼ぶのに抵抗を感じる人は多いので、
ここは君付けに留めておく)、
警察犬が犯罪者を暴き出すというストーリーのドラマの主演として
抜擢された際に人気を博したことをきっかけに、
今ではドラマに加えて年間十数本のCMやバラエティ番組に出演している。
また、その人気はメディア関連に留まらず、
彼の色んな格好を写した写真で彩られたカレンダーが出ていることからも、
その商品価値の高さを疑う余地は無かった。
そして、さくらが今見ているDVDも彼が出演している映像の一つであった。
もちろん、飛躍のきっかけとなったドラマは既に全話視聴済みである。
そのドラマは演技に関しては素人であるさくらの目から見ても、
彼の凄みを感じずにはいられない内容だった。
話の中で描かれている日常の風景、
犯人を追い詰める際の鬼気迫る表情、
彼が演じる警察犬が犯人に射殺されて息を引き取る感動のラストシーン、
どれをとっても一級品の演技と言わざるを得ないもので、
一緒に出演している有名俳優人ですら霞んで見えるほどだったのだ。
さくらはポン太君の演技を見た際、
そのあまりの凄さに思わず自分の愛犬と比べたのだが、
こちらが何を言っても尻尾を忙しく振りながらバフバフと
荒い鼻息を洩らすだけの柴犬と比べるだけで、
ポン太君には失礼な話なのかもしれない。
感動系のストーリーを見てもほとんど何も感じないさくらでさえ、
ここまで心を動かされたのである。
ここまで世間から人気を博しているのも頷ける話であった。
実は、今回の取材に対してさくらはあまり気負いを感じなくて済んでいた。
おそらくそれは、相手が人間ではなく動物だからなのだろう。
まぁ、実際は話を伺うのは飼い主となるのだろうから、
著名人だからといって本人から横柄な態度を取られる心配が無いだけで、
ありがたい話だと考えることが出来ていたのだ。
今回の取材期間も、前回同様の一週間である。
初日となる明日は、
まずCM撮影後のポン太君の元にさくらが出向き、
記事で使用する写真の撮影と簡単なインタビューを行う手筈となっていた。
さきほどは動物相手で安心していたさくらではあったが、
それでも相手に失礼がないように準備するのは当然である。
TVの向こうで熱心にVTRを見ているポン太君の姿を横目に、
さくらは重い腰を上げてカメラのバッテリーを確認し始めた。




