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星使い ティンクル・ライツ ~願いは流星とともに~  作者: 想兼 ヒロ
願いは流星とともに

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第35話 星に託された願い

「ねぇ、ライツ。少しだけ、時間あるかな?」

 洋介の問に、じっと見つめたままライツは頷く。

 ライツがカーラに放った光は彼女への嫌がらせレベルでしかないが、その効果は絶大だ。とっさにとった行動ではあるが、おそらく結界を破ることすら可能なほどに時間を稼ぐことができるだろう。


 ライツは洋介が望むのなら、この場から彼を連れて脱出するつもりだった。しかし、洋介自身はその気が無いようで単純に時間を確認したかっただけらしい。

「そっか、じゃあ、ちょっと話聞いてくれない?」

 洋介は仰向けに向き直って座った。


 洋介の心臓はまだドキドキと早鐘を打っている。無理に立とうとすれば再発するかもしれない、そんな思いを持ったまま、それでもライツに洋介は笑顔を向けた。


「うん、どしたの?」

 ライツの返事に、洋介はふふっと声を漏らした。洋介の名前を呼ぶときとか、ずいぶんはっきりと発音するようになったのに、こうして時々舌足らずに戻っているのが愛らしかった。


「あいつのことなんだけど。ちょっと、タイミングが悪かっただけだと僕は思うんだ」

 うんうんと、ライツは頷きながら聞く姿勢をとってくれている。あいつ、とはカーラのことであり二人の共通認識である。

「ライツだって、こっちに来たときに僕に会えたけど。そのまま誰にも気づいてもらえなかった可能性もあるよね」

 それは恐ろしい、とライツは思う。

 少し前に、母や洋介に守ってもらっていたことを実感したばかりだ。そして、その守りが無くなったときの心細さも経験した。

 あれが、この数日続いていたとしたら自分はどうなっていただろう。そう考えれば、想像なのに震えが止まらなくなってくる。


 表情の曇ったライツに洋介は彼女の肩を叩いてなぐさめる。

「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけどさ。う~ん、何が言いたかったかって言うと、あいつはさ、ずっとそんな感じで一人なんだ。いや、もっと酷いかもしれない」

 カーラの時間はずっと、「あの夜」で止まっている。信頼していた人物に裏切られ、無数の悪意に打ちのめされ、唯一つすがっていた希望も打ち砕かれた。


 今もなお、暗闇の中を突き進み続けている。そんなカーラであるが、洋介に対して動揺した姿が助けを求めているかのように見えてしまったのだ。だから、洋介は何とか彼女を助けたいと思った。

 しかし、カーラと洋介の間には崩すことのできない壁がある。

「僕じゃ、ダメなんだ」

 人間という存在を嫌悪しているカーラにとって、洋介は憎むべき対象の一人でしかないのだ。そんな者が何をしたって、何を言ったって彼女の心には響かない。むしろ、術の通じない面倒な相手として認識されただろう。


 でも、ライツなら、彼女を何とかできるかもしれないと洋介は希望を持っていた。


「前に星座のこと、話したろ」

「……サソリとか」

「ははは、よっぽど嫌だったんだな。そんなにすぐに出てくるなんて」


 眉根を寄せるライツに洋介は声を出して笑った。楽しい気分になったのは久々な気がする。星のことを教えてあげた夜も、最近のことだというのに懐かしささえ感じてしまった。

「でもさ、そのサソリも暴れまわる相手を止めた英雄なんだぞ。まぁ、殺しちゃうのはやり過ぎだけど」

 それも昔と今の価値観の違いなのだろう、と洋介は解釈している。

「そんな感じでさ、星座は人が夜空に描いた夢なんだ。こういう神様がいてくれたらいいなとか、こんなお話は面白いなとか」


 強く頷くライツ。彼女はある夜の光景を思い出していた。

 普段、ライツに対して保護者のような振る舞いの目立つ洋介が、とても明るい表情で話してくれた星座の由来。本当に好きなのだろう、無邪気に笑う彼を見ていると自分まで嬉しくなった。

 お話よりも、そんな洋介の表情が興味深かった。そんな彼と過ごす時間が大好きだった。


 だから、今でも一言一句忘れずに覚えている。


「覚えとくと良いよ。その夢は、きっと、おまえが困ったときに助けてくれるから。おまえが自分を星妖精って言うのならさ、人間が星に託した願いも無関係じゃないんだよ。たぶんだけど」

 昔、桔梗が洋介に教えてくれた。人間は妖精族の言葉を、勝手に自分達の理解の範疇はんちゅう内で解釈して受け取っていると。

 桔梗が言うには仮に彼女のことが見えたとしても、全く話が通じない相手がいたらしい。それは人間側の知識が足りないことが原因だった。

 自動翻訳のようなものだ。実際に、洋介も桔梗が何を話しているのか全く聞き取れないことがあった。あれは、耳よりも頭の問題だったのだろう。


 それが本当であれば、ライツが自分達のことを『星妖精』と呼ぶのであれば、洋介の考える星のイメージと彼女は重なっているはずだ。

「おまえなら、あいつを止められる」

 だからだろうか、洋介も彼女に願いを託したいと思っている。


「どうやって?」

 小首を傾げるライツ。ここで、なぜ自分がと言い出さないのが彼女らしいと洋介は思う。そんな彼女の信頼を利用しているようで、洋介は少し心苦しかった。


 破滅へと進んでいくカーラを、まずは止めなければいけない。立ち止まってくれなければ、話も聞いてもらえない。

 その方法を、ライツに一番響く言葉で伝えるのならば。


「お前のすべてで、あいつをぶっ飛ばしてこいっ!」


 すっ、とライツの瞳に光が灯った。単純ではあるが芯まで届く力強い言葉に、ライツのこれまで集めてきたものが一本につながった感覚を覚える。

 カーラに対して何とかしたいと思う洋介の切ない願い。それを、自分が何とかしてあげたいという強い想い。そして、それを成すべき方法は……星座の神々が助けてくれるし、自分は全力でぶっ飛ばすだけ。


 これなら、何とか洋介の願いを叶えてあげられそうだ。胸の内から熱いものが全身を包み、ライツの羽根まで届いて、その輝きを増していた。

「わかった。やってみる」

 力強く頷くと同時に、ライツは立ち上がる。暗く澱んだ空を見つめ、ライツは地面を蹴った。虹の軌跡を残して、瞬く間に飛び去っていく。


 一人残された洋介は、しばらくライツが消えた虚空を見つめていた。

「頼んだよ、ライツ」

 洋介は、ふーっと大きく息を吐いて立ち上がる。多少ふらつきを覚えるも、何とか背筋を伸ばした。


 ライツならできる、と確信を持って送り出したが彼女に任せきりにするのは自分が許せない。

「友達は、助け合いだから」

 なにか、自分にもできることはないか。洋介は過去の記憶を頼りに、自分が本当に無力なのか模索もさくを始めるのであった。

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