6話
その年の6月半ば過ぎの頃から集会に行くと雰囲気が変だった。
主導者達が固まりヒソヒソ話をしているし、姉妹達も幾人かで同じようにヒソヒソ話をしているのが見られた。
次の探求の時に春川に聞いてみた。
「最近、個集の人達の雰囲気が変ですが何かあったのですか?」
「いいえ〜、何もありませんよ」と答えトボけた顔をする春川。
だが確かに異常な様子に再び聞いてみると明らかに気分を害した感じで答えた。
「何も無いって言ってるでしょう。仮に何かあっても久米原さんには関係無い事です!」
ピシャッと言われ、この日春川はムスッとしたままだった。
だが意外な所から事情を知る事になる。それは姉に電話をかけた時だった。
姉とは不定期に連絡を取り合っていたが今回は私からの連絡を待っていたらしいのだ開口一番こう聞かれた。
「お前の個集は大丈夫なの?なんともない?」
意味が分からないと答えると姉が驚愕する。
「お前知らないの?あの事」
「何の事?」
「北長崎町ってお前の町と近いよね?そこでの話だよ」
「もしかすると最近個集の様子が変だけどそれかな?」
「変にもなるよ!お前本当に知らないの?こっちでは大騒ぎになっているんだよ」
そう言った姉は教えてくれた。近隣の町、北長崎町の個集で大規模な背教事件が起こり成員の半分が背教したと言われている主導者に追て行った事件。
後に、エルヒムの証明会でも大きな影響を残した。「北長崎事件」だった。
私は疑問に思った。私に関係無い事が何故遥か離れた姉の個集で大騒ぎとなっているのか?
次の探求の時に春川に姉から聞いた話をすると春川の表情が一変する。
「何でそんな話を無関係の人間にするんだ!関係無いんだから黙っときゃイイのに余計な事する姉さんだな!」
この男と組織に最初に感じた違和感だった。
それ以後二度とこの件は話せ無くなった。
春川からは、仕事を辞め新聞配達をして昼間伝導出来る体制を作るよう圧力が強まるのもその頃からだ。
独身の賜物を活かさなければならないから……。
そして集会は日曜日だけでは無く火曜日、木曜日の夜にもあるというのだ。
火曜日は、書籍探求、木曜日は神権証明学校と証明会がある。
ほとなくして時間が取れる日は全てに参加をしていた。
既に夜の現象に悩まされる事は無くなるのだが、別の事で悩むようになるのだ。
まず火曜日の書籍探求から参加をした。
司会者は宗田昭広といい痩ていて眼鏡をかけているが眼鏡の奥の目はいつも冷たく光っていた。
その年の終わりまでは全ての集会に出席するようになっていて神権証明学校にも参加をして秋の終わりに初めての割り当ても果たしていた。
今、振り返ると当時の自分はエルヒム云々より1人間でしかない主導者に従っていた事が良く理解出来る。
多分、夜の不可解現象からの救いをエルヒムの助けと言いながら自分達はエルヒムにより任命された主導者という言葉に迷わされていたんだろう。
次に春川はバサーロ(浸礼…つまり洗礼)を目指すよう要求してくる。その為にもまず伝導者にならなければならない。だから早く仕事を辞めるようにと。
そして、その年の終わりに会社に辞める事を伝えた。会社から引き止めが来るが辞め新年を迎えてから新聞配達を開始した。
一つ目の苦難の始まりだった。
続く。




