26話
久米原兄弟結婚しませんか?江藤久美子は確かにそう言った。
この時決して結婚相手が江藤由美子と考えなかった私は自分を褒めてやりたいと思った。
電話の向こうの江藤久美子はあっと言ってこう言った。
「あっ!その兄弟が結婚しないかな?と思ったのは私では無く山瀬姉妹です」と言った。
山瀬姉妹…山瀬 和代姉妹はずっと年下で高校生の頃から千船個集に居る姉妹で家族は皆未信者で一人だけで集会に来ている姉妹だった。特に親しく話した事も無く接点が見つからなかった。
それでも江藤久美子は山瀬姉妹の事をあれこれ褒め上げて結婚を勧めていたのだ。そう江藤久美子は良くいる誰かと誰かを引っ付けたがるお節介婆さんみたいな事をしていたのだ。
「それじゃ良い返事待ってますよ」
そう言ってお節介婆さんは電話を切った。
受話器を持ちながらプープーと鳴るのも気に留めずに立ち尽くしていた。やや暫くして受話器を戻してからもずっと考え続けていた。
この俺が結婚?仕事の給料も少なく負債があるこの俺が結婚?それしか考えられなかった。
その夜は一睡も出来ずに早朝の仕事に出かけたが仕事中もずっと昨夜の電話を思い出していた。
そして週末の午後の証明活動に山瀬和代が来ていて一緒に活動する事にした。
ぎこちなく会話をしていたが、あるアパートの陰に来た時に木曜日の夜の江藤久美子の電話の話をすると山瀬は早口でこう言った。
「本当です!私ずっと前から兄弟と人生を共にしたいと思ってました。でもダメで良いんです仕方ありませんから、それに私この個集去って遠い個集に行く予定ですから」
最後の遠い個集に行く予定が気になり詳しく聞いてみた。
彼女…山瀬和代は元々体が丈夫な方では無いのに加えてこちらの気候が合わず冬の寒い日は、ほとんど動け無い為にもっと温暖で冬が厳しくない地域に移動したいと思っていたそうで別の近集区に移った近集監督と連絡を取りある地域を勧められたというのだ。
遥か遠くの地域での活動…ふと中川時代の辛さを経験していた時に何処か遠くの地域に移動してそちらで証明活動を続けたいと思っていた自分の思いとが交差した。
それで山瀬和代に対してこう言った。
「姉妹、新しく移る場所に私が一緒に行っても良いですか?」
山瀬和代は「ハイ!」と答えた。
それから全てが変わるのだ我々の婚約と結婚は限られた時間の中で行われるのだ。当たり前の事だが全て初めての出来事の為に色々あったが何とか進んで行った。
私には親が居ないので残った兄弟には報告だけにしておいて結婚式には姉と幼い子供だけを呼ぶ事にした。祐一は修学旅行の為に参加出来なかった。
ある集会で志織と鉢合わせしたので言った。
「又いなくなるけどゴメンね」
今度の志織はニコニコ顔で言った。
「姉妹大事にしてあげてね」
そうして全てが足早の婚約結婚を終えて新たな地に向かった。空港にはたくさんの人が見送りに来てくれていた。
実は飛行機に乗るのは、これが初めての出来事でありワクワク感が止まらなかった。やがて離陸し産まれてからずっと過ごしていた北の地に別れを告げた。
機内で今迄の事を思い出していた。新しく就いた仕事とアパート。そのアパートで夜な夜な起きる怪奇現象から助かりたく様々な物にすがり結局、姉と同じエルヒムの証明会に関わった事。
探求司会者の春川や後の宗田から受けた理不尽さ。それに愛想を尽かしての旅行で綺麗な姉妹達から受けた親切。
それに勘違いをし田舎での活動を開始して受けた心の傷の数々。そんな中、慰めてくれた大自然と子供達。
その時の開拓証明学校で受けた親切に何処かに必ずまともな人が居るはずと思い何処か遠くの地域に移りたく考えた事が叶った事。
そんな事を考えながらぼんやり機外の風景、真っ青な空に映える真っ白な雲が様々な姿に変わる。ビルになったり街並みになったりとの風景を見ながら祈った。
エルヒム神、次の個集にはまともな人間が居ますようにそして負債を早く返済出来ますように。
そうやって全く見ず知らずの土地に足を踏み入れた。
続く。




