19話
仕事を辞め何とか自営の形を確立しようとした矢先にあの湾岸戦争が勃発した。
それはすぐにガソリン代の高騰となり大きな打撃となる。そして笹山は当たり前のような顔で私の車に乗り込む為に週に3回ガソリン補給をしなければならなくなり経済的負担となるのだ。
それでも笹山は悪びれる様子も無く乗り込んで来る。理由がまたしても独身は楽だからだった。
「い〜ね〜久米原兄弟は独身だから」
以前の春川もそうだったが至高書のマタイ19:11の独身の賜物にありとあらゆる要素を付け加えさらにマタイ6:33を飛躍させ生活に必要な物全てエルヒムが備える!と豪語していた。
勿論、それを信じ証明活動を行って来た。笹山を乗せるのさえ自己犠牲と信じて負担を堪えたていた。そう言えば春川が良く使った経験談がある…ある開拓証明者の姉妹が活動中に農家からキャベツ一つ貰ったと。素晴らしいエルヒムからの祝福と…。
だが、ガソリン代高騰の時に一回の補給例えば最低20ℓ入れても広大な区域では1度の証明活動で無くなるのだ。そんな時に1ℓ130円のガソリンに比べ1ヶ200円くらいのキャベツ一つだけでは何の役にも立たない。
組織の教えと現実の狭間で苦しんでいた私がエルヒムからの祝福と感じざるを得ない経験をする。
ある牧場経営の夫を持つ姉妹からデカイ二階建て倉庫の塗装を依頼された。丁度様々な支払いが遅れていた私にとって正に神の祝福だった。
すると、それを聞きつけた笹山が近づいて来た。「いや〜兄弟1人じゃむりだからね〜手伝うよ〜」確かに助けが必要な為に頼んだ。
実は笹山は自分の仕事の健康食品販売は行き詰まっていたのだ。この仕事は笹山にとっても渡りに船だったのだろう。
2人がかりで約4日程で終わらせるとかなりの収入に大満足した。それだけでは無く我々の仕事振りをみていた近所の人からも声が掛かる。
今度こっちの倉庫も頼むと。本当にエルヒムの後ろ盾を感じていた。
溜まっていた支払いも終わらせ次の仕事を待っていた。その近所の人はしばらく出かけるから2週間くらい後に私に連絡すると言ってたが連絡は無かった。
3週間過ぎても連絡は無かった。その頃個集の集会の前後に不思議な会話を聞いていた。
姉妹達の会話だ。
「いや〜姉妹大変ね〜大丈夫?」
「いや〜慣れなくて今だに筋肉痛ですよ」
笹山のかなり太った妻に個集の姉妹達が近寄り会話していた。何の事か分からなかった。
1ヶ月過ぎてから姉妹の夫に会いに行き近所の人の倉庫の塗装を聞いた時の返答に衝撃を受けた。
「あれ?やらなかったの?あの次の日に笹山さん来て今度の仕事の連絡は久米原では無く自分に欲しいと近所の人に言ってたけど2人でしたんじゃないの?」
どうやら私がきっかけで見つけた仕事を横取りしたらしいのだ。
当然抗議するが笹山はニヤニヤしながら言った。「いや〜兄弟は独身だから大丈夫だよ〜私なんて家族いるからね〜」
後に笹山は近所の仕事を夫婦で請負って他の仕事も依頼され果たすようになっていたようだ。
私は収入の道を断たれ途方に暮れてしまった。
同じ頃に2人の転入者がいた。1人は川上兄弟姉妹の息子の明が戻って来たが家族の表情は暗かった。何か事情があっての戻りらしい。
そしてもう1人が池田兄弟経営の自動車修理工場で働く為に沢田 修一が移って来た。実は今迄修理工場には安藤信男が働いていたが何かがあって辞めたらしい。どうも喧嘩別れみたいだった。
急に慌ただしくなった個集だが私は日々の暮らしに困窮していた。何度も祈るも解決は見えなかった。
本当に苦しい日々であった。
そうして更なる転入者が来る事となり見えない所で個集に小さな本当に小さな亀裂が入ったが私以外だれも気づいてはいなかった。
続く。




