16話
中川個集に来てしばらくしてある交わりに呼ばれた。交わりとはエルヒムの証明会で良く使われる言葉で、まぁお茶会みたいなものだ。
お茶とお菓子で親睦を深める小さな集まりで決して変な行動の事では無い。前の千船個集でも時々「交わり」は行われていた。
さて中川個集での交わりは一風変わったものだった。普通は至高書を学んで良かった話とか大会での経験とかが主で後は四方山話と言った所だった。
だが、ここ中川個集の交わりはこんな形で行われる…最初は普通の会話なのだが誰かがこんな事を言う。
「この前何処そこへ行ってた時に⚪︎⚪︎個集の著名兄弟と会った…」
すると皆ガバッと身を乗り出しで口を開く。
「著名兄弟といえば私も以前に会った事がある…」
「著名兄弟って××兄弟と親しい人かな?」
「著名兄弟と親しいのは△△兄弟でしょう」
「△△兄弟と言えば昨年の広集大会の最初の話を扱った兄弟ですよね?」
「最初の話を扱ったのは△□兄弟ですよ」
と、こうして何時迄も有名な兄弟の名前の連呼となるのだった。この個集は田舎過ぎる為か都市部の有名な兄弟達の話で盛り上がり最後には有名兄弟の名前の連呼となるのだ。
この時に我々みたいな部外者が決してやってはならない事がある。
それはたまたま知った人の名前が出た時にこんな事を言ってはならない。「あっ!あの兄弟元気ですか?」一気にしらける場。
急に皆無口になり誰かが「あっこんな時間だそろそろ行かなきゃ」といきなり交わりが修了するのだ。
そう部外者はただひたすら沈黙をしていれば良いのだ…。
そんな変わった面々だが証明活動は楽しかった。なんといっても広大な大自然が広がる区域で遠くに見える山脈を眺めながらの活動は山育ちの私にとっては懐かしささえ覚えるものだった。
ただ、広大な為にガソリン代がかかるのだが個人に負担が行かないように交代で車を出し合っていたのだ。この時までは。
私も時々池田兄弟の息子の心に乗せてもらい負担が軽減されていた。
そうこうしている内に年も変わってすぐに天皇陛下崩御のニュースが流れ昭和64年は数日で終わり新しく「平成」が始まるのだった。
その頃私久米原隆の仕事はコンビニの夜間のバイトだった、深夜0時から朝8時半までが仕事で休憩場所無かった。家は安藤信男の家に住まわせてもらっていた。
じつは以前の千船個集時代から独身者は2人で暮らさなければならないというルールに縛られていた為にこちらでも誰かと暮らさなければならないと思い込み安藤に声をかけたのだった。
安藤はニコニコしながらどうぞと言ってたのだが突然転がり込んで来ただけで無くすぐに子供達と仲良くなり、しかも誰にも心を開かなかった鈴木姉妹の下の娘奈緒までが私に懐いた事が面白く無かったようであちらこちらの主婦の姉妹達に私の悪口を広めていたのだ。
さらに個集の証明活動でしばしば活動場所が当日に変更される事が何度となく起きるのだった。
これは、安藤が云々では無く主導者の西田が突然朝に発表されていた活動区域の変更をするのだ。これはコンビニの仕事を終えてから区域に向かう私にとって信じられない出来事なのだ。
朝8時半に仕事が終わってから家に戻ると9時になる。9時は集合時間である急いで身支度をして区域に向かうも誰もいない事が何度となく起きるのだった。
1度誰もいない集合場所で途方に暮れていた時に年長のパートナーの水上栄子と金崎恵子が車で通りかかり、こちらを見ていたが無視して何処かへ立ち去ってしまった。
唖然と身送る私。
こんな事が度々起きるのだった。こちらでの活動に不安感が広がるのだった。
それでも川上兄弟姉妹や池田兄弟の家族、鈴木姉妹川村姉妹と娘達、大木姉妹と松尾姉妹の息子裕一は味方だったのが救いだった。
だが不安感を更に煽る2つの出来事が起きるのだ。
主導者の西田の悪い癖に加えてあの男が中川個集に移動して来るのだった。
続く。




