プロローグ 五人の巫女と六人目の鍵
その世界には、古くから語り継がれている伝説があった。
今から千年ほど前、世界は滅びかけていた。
空は黒い雲に覆われ、大地には巨大な亀裂が走り、魔物たちが町や村を襲っていた。人々は逃げることも戦うこともできず、ただ終わりの時を待っていた。
そんな絶望の中に、五人の少女が現れた。
炎を操る少女。
水と癒やしの力を持つ少女。
風をまとい、誰よりも速く走る少女。
大地を動かし、仲間を守る少女。
そして、光の力を宿した少女。
五人は互いに手を取り合い、魔物の王と呼ばれた存在に立ち向かった。
戦いは七日七晩続いた。
五人の少女は傷つき、何度も倒れ、それでも立ち上がった。
最後の夜。
大地の果てにそびえ立つ黒い城で、五人は魔物の王と対峙していた。
城の最上階では、赤黒い炎が渦を巻いている。
その中心に立つ男は、人の姿をしていた。
だが、その背中には巨大な黒い翼が生え、瞳の奥には底知れない闇が宿っていた。
「なぜ抗う。人間は弱い。いずれ憎しみ合い、争い、滅びる。ならば、この俺がすべてを終わらせてやる」
魔物の王が手を掲げる。
無数の黒い刃が、五人の少女へ向かって放たれた。
光の少女が前へ出る。
まばゆい光の壁が展開され、黒い刃を受け止めた。
しかし、すべてを防ぐことはできなかった。
少女の肩から赤い血が流れ落ちる。
「私たちは、あなたの言うようにはならない」
光の少女が剣を握りしめた。
「私たちは弱い。だからこそ、誰かと支え合えるのよ」
五人の少女が、それぞれの力を解き放つ。
炎が黒い城を焼き、水が大地を満たし、風が闇を切り裂き、大地が崩れ落ち、光がすべてを包み込んだ。
五つの力が一つになった瞬間、世界を覆っていた黒い雲が消えていく。
魔物の王は、膝をついた。
「なぜだ……。なぜ、貴様らは絶望しない……」
五人の少女は答えなかった。
ただ互いの手をつなぎ、最後の力を振り絞った。
黒い城が崩れ落ちる。
魔物の王の姿が、光の中へと消えていく。
こうして世界は救われた。
人々は五人の少女を英雄と呼び、彼女たちを「五人の巫女」として称えた。
しかし、戦いが終わったあと、五人の巫女は姿を消した。
どこへ行ったのか。
生きているのか。
死んでしまったのか。
誰も知らない。
ただ、古代の神殿に一つの予言だけが残された。
> 五つの星が再び目覚めるとき、
> 異なる世界より五人の器が訪れる。
> その力は世界を救うことも、滅ぼすこともある。
> そして五つの力を導くため、
> 六人目の鍵が現れる。
それから、長い年月が流れた。
誰もがその予言を忘れた頃。
異世界の果てにある、崩れかけた神殿の奥で、一人の男が目を覚ました。
男の前には、古びた水晶が浮かんでいる。
水晶の中には、見知らぬ世界の景色が映っていた。
高い建物。
道を走る鉄の箱。
空を飛ぶ機械。
そして、一つの学校。
校舎の中には、五人の少女がいた。
顔立ちはよく似ている。
だが、その表情も、立ち振る舞いも、五人ともまったく違っていた。
水晶の光が強くなる。
五つの星が、ゆっくりと輝き始めた。
「ついに見つけたぞ」
男は、長い年月を待ち続けた者のように、低い声で笑った。
「五人の巫女。そして、六人目の鍵」
水晶の中で、一人の少年が少女たちの近くを通り過ぎる。
少年は誰にも気づかれていない。
少しうつむき、周囲を気にしながら歩いている。
その姿は、どこにでもいる普通の高校生にしか見えなかった。
だが、少年の足元にだけ、誰にも見えない小さな光が灯っている。
「白石悠真……」
男が少年の名を口にした。
「お前が、五つの可能性を導く者か」
その瞬間、異世界の空に巨大な亀裂が走った。
遠く離れた学校では、まだ誰もその異変に気づいていない。
朱莉も、紅葉も、美桜も、静香も、明日香も。
そして悠真も。
この日が、彼らの平穏な日常の最後になることを知らなかった。
やがて六人は、光に包まれる。
見知らぬ世界へ落ち、魔物と戦い、王国の陰謀に巻き込まれ、世界の命運を背負うことになる。
仲間として出会い、互いを支え合い、やがて恋に落ちていく。
これは、現世で落ちこぼれだった少年と、五つ子姉妹の物語。
世界を救う五つの力と、その可能性を導く六人目の鍵。
長い異世界生活の幕が、今、開こうとしていた。




