街へ
月:Ashenveil
三日目:Crimsday
エレオは長い橋を歩きながら、まるっきり音程の外れた鼻歌を吹いていた。時々足を止めては、欄干から下を覗き込む。
水面はガラスのように澄んでいて、空をそのまま映し返していた。まるで「鏡」という仕事を、真剣に引き受けているみたいに。
「うわあ、この水めちゃくちゃ綺麗! 飲めそう!」
さらに身を乗り出す。
「……ってか、これ飲もうとしたら溺れるのかな?」
その重大な科学的疑問に、真剣に頭を悩ませていたその時――目の前で、橋は石と鉄に姿を変え、彼が人生で初めて見る「本物の壁」が立ちはだかった。高さ十二メートル、古びて灰色で、彼がどう思おうと一切気にしない様子で、そこにそびえていた。
「止まれ!」
二人の衛兵が、進路を塞ぐように立ちはだかった。濃紺の上着には、翼を大きく広げて飛ぶ鷲の刺繍。その頭上には二つの見張り塔がそびえ、どこかから見られている――そんな気配を、否応なく漂わせていた。
「塔は眠らない」とはよく言われる話だが、それを見上げたエレオは、理由も分からないまま、それを信じてしまった。
「よう! ローラ島に入りたいんだけど!」
エレオが手を振りながら言う。
一人目の衛兵が眉をひそめた。「この街の名前はウマピンだ。ローラ島というのは島の名前だぞ」
「おおお」エレオが、賢そうに頷く。「でも地図には『ローラ島』って書いて――」
「ああ、知ってる」二人目の衛兵がため息をつく。「観光客はみんな勘違いするんだ。直そうとしても、誰も聞きやしない」
「それ、間抜けだね」エレオが言う。
「だろ!? 俺もずっとそう言って――」
二人目が言い終える前に、一人目に肘で小突かれた。
「――こほん。用件は」
エレオはにっと笑った。「飯食って、人を殴って、最強になりに来た!」
「……つまり、混乱を招きに来た、と?」
「混乱だけじゃないよ」エレオが訂正する。「飯もあるからね」
一人目の衛兵は、始まったばかりの会話ですでに疲れ果てたようにため息をついた。「パスポートは?」
「……何それ」
衛兵二人が、彼を見つめた。
「パスポート、持ってないのか?」
「そもそも何なのか知らない」エレオが頭を掻く。「果物?」
一人目の衛兵が、額を手で押さえた。「違う。それは――はぁ。いいか。厳重警備の街には、勝手に歩いて入れない。許可された人間だけが入れるんだ」
「でも、僕、ここまでずっと歩いてきたんだよ!」
エレオが、大袈裟に橋の上に崩れ落ちる。
「引き返せって言うの? もう脚がパンパンなのに!」
「さっきスキップしてただろ」
「見てたの!?」
「目の前に立ってるからな……」
「哀れな旅人を監視するとは」エレオが、存在しない涙を拭う真似をする。「情けない。法の腐敗、極まれり」
一人目の衛兵の目が、ぴくりと動いた。「もういい。お前は入れない」
「戦って突破したら?」
「即逮捕だ」
「……こっそり忍び込んだら?」
「今、それを俺たちの前で口に出して言ったな。衛兵の前で」
「あ、確かに」
二人目の衛兵が、こめかみを揉んだ。
「どうしても入りたいなら、ウマピン大使館に行け」
「おお、なるほど! どこにあるの?」
「島の反対側だ」
エレオの顎が落ちた。「マジかよ。それ、引き返すより遠いじゃん!」
「知ったこっちゃない」
彼は唸り、また橋の上に崩れ落ちた。「たかが飯のために、こんな苦労するなんて」
二人目の衛兵が、長く、ゆっくりと息を吐いた。まるで、自分の中の何かが今まさに、その場で諦めていくような――「曖昧さを避けること」を仕事にしている人間が、今週で一番曖昧な代物を前にした、あの特有の疲労だった。
「もう……行っていい。今日はお前の相手、これ以上できない」
「え、マジで!?」エレオが即座に元気を取り戻す。
「行けって言ってんだよ! 気が変わる前にな!」
「よっしゃ!」
彼はガッツポーズをして、二人の脇をすり抜けて走り去った。
一人目の衛兵が、二人目に振り向いて眉をひそめる。「俺たち、それでクビになるかな」
二人目の衛兵は、前を見つめたまま動かなかった。「今さら? もうどうでもいいわ」
---
エレオはにやにやしながら街の中に駆け込んだ。「よし! 飯を探すぞ!」
彼はすぐに果物の屋台に突っ込み、まるごと横倒しにしてしまった。
「わしのキャベツがーーー!」
店主が悲鳴を上げ、転がるキャベツに飛びついていく。
エレオは体の埃を払った。「あ――ごめん、おじさん! 屋台、見えてなかった!」
「あんな大きな荷車、なんで見えないんだ!?」
「食べ物のこと考えてワクワクしてたから?」
店主はため息をつき、傷んだキャベツを、まるで負傷した親戚みたいに大事に抱えた。「もう何も壊さんうちに、行け」
エレオは彼に親指を立てて見せ、そのまま先へ進んだ。
街が、彼の周りに一気に開けていった。村のように少しずつではなく、波が押し寄せるように、一瞬で。彼は、いつ通ったのかも気づかないうちに第一の城壁を越え、検問所のひとつを人混みに紛れて通り抜け、今や本物の第一区画に立っていた。古びた、丁寧な彫刻を施した白い高層建築が並び、バルコニーからは鷲の旗が揺れ、通りには形を持った騒がしさが満ちていた――速く、切り詰められた、まるで挨拶ひとつすら交渉の途中みたいな喋り方。
「クレート四つ、港側、夕方の潮まで――いや、火曜は駄目だ――」
「壁は持ちこたえる。いつだって持ちこたえる。ここに署名を」
「金が必要な時に銅を数えてやがる、あいつは――」
商人たちが、半分の文で値段を叫び合う。鍛冶屋が、燃えるような金属をハンマーで打っている。記録係が、金貨よりも価値のある何かを抱えるように、台帳を胸に抱いて通り過ぎていく――ここでは、実際にそうなのだ。楽師たちが、たぶん彼からはもらえないであろう小銭のために、街角で演奏している。空気には、焼いた肉と焼きたてのパンと、シナモンらしき何かの匂いがして、その下には、港から漂ってくる潮の匂いとタールの匂いが混じっていた。腹が、即座に意見を表明した。
「おおお」彼は、ゆっくりと一回転しながら、それをすべて目に焼き付けた。「この街、めちゃくちゃ豪華じゃん!」
金箔の馬車が通り過ぎていく――第一区画の古い金、磨き上げられた濃い木材と真鍮の金具。中の貴婦人が、扇の陰からちらりと彼を見て、それから、靴の裏に何かがくっついているのを見るような、あの特有の嫌悪感とともに、視線を逸らした。
エレオは瞬きした。「……今の、目で『貧乏人』って言われた気がする」
彼の勘は、正しかった。ただ、その侮辱がどんな言葉で表現されたものか、彼には分からなかっただけだ。
広場の噴水がきらめき、百の願いが投げ込まれたコインが水底で光っていた。ここでは、願い事すら取引の形をしている――希望のためにコインを払う、それも他のものと同じ流儀で。子供たちが屋台の間を縫うように走り回り、苛立った商人たちを、まるで文字を覚える前にこの街のリズムを覚えたかのような身のこなしで、器用にかわしていく。
「よし!」エレオが両手を擦り合わせる。「飯だ!」
肉汁が滴る串焼き。クリームが溢れる金色の焼き菓子。彼の頭ほどもある器の麺料理の屋台。彼は本当に、恥ずかしげもなく涎を垂らした。
「全部欲しい」
そこで、動きが止まった。
ポケットが、やけに軽い。
彼は自分の体をぱたぱたと叩き始めた。パニックがじわじわと広がっていく。
「うそだろ。うそだろ。僕、一文無し!?」
長い沈黙。
そして彼は、石畳の上に崩れ落ちた。「これ、人生で最悪の日だ」
一人の母親が、静かに我が子をエレオから遠ざけた。水たまりを避ける時と――あるいは、借金持ちを避ける時と、同じ動きで。
彼は体を起こし、真剣に考え込んだ。「よし。金がない、つまり飯がない。飯がない、つまり力がつかない。力がない、つまり最強になれない」
拳を握る。
「仕事が必要だ」
近くの屋台にいた男が、それを聞きつけて、にやりと笑った。「よう坊主。仕事、欲しいか?」
エレオの顔が輝いた。「タダで飯食える!?」
「食事は出る。仕事の後にな」
「決まり! 仕事って何?」
男がエレオの肩を叩いた。「おめでとう。お前は今から《ゴールデン・スプーン》のウェイターだ」
エレオが瞬きする。「え、待って。人に給仕するの?」
「そうだ。エプロンはそこにある。二筋先、港見晴らし通りの方だ――でかい金の看板があるから、すぐ分かる」
「よし、わかった!」
彼はエプロンを結び、何に同意したのかもよく分からないまま、水辺に向かって走っていった。
男は、彼が去っていくのを見送りながら、すでに半分笑いを堪えていた。誰も、冗談で野良を《ゴールデン・スプーン》に送り込んだりはしない――JJの厨房は港から二区画のところにあり、腕の良い食事をしていると見られたい商船船長たちが誰もかれもくぐる扉を持ちながら、職人区画の煙とすすには決して汚されない場所にある。パスポートも持たず、金一枚も持たず、フォークの使い方すら分からない子供が、立ち入る資格などない場所だった。
それが、この冗談の、ほぼすべてだった。
---
《ゴールデン・スプーン》は、店に入った瞬間、フライパンが飛んできたかのような衝撃で彼を迎えた。店内は満員だった。上等なコートを着た商人たち、非番で騒々しいアセンダントの将校たちのテーブル、混沌の中で皿を回している男、最後の一切れのパンを巡って起きている二組の口論――それでも全体としては、エレオが今まで食事をしたどの場所より、ずっと秩序立って見えた。
一人のウェイターが、彼の裸足と耳と、それ以外のすべてを一目見て、意見を隠す気もなく言った。「迷子か、ドブネズミ」
「ちがう! もう働いてるよ、ここで!」エレオがにっこりする。
ウェイターの顔が、複雑な動きをした。「……いつからだ」
「二分前にエプロン渡されてから!」
「まあ、そうだろうな」ウェイターが呟き、これから起こるであろう何かから距離を置こうとするように、すでに歩き去っていた。
「すみません――失礼――うわ、いいフリップ――あ、飲み物すみません――今の、ナイフでした?」
彼は厨房へと押し入った。そこは、それ自体がひとつの戦場だった。鍋が鳴り、炎が轟音を立て、禿げ頭で口ひげの太い男が、物理的にありえないような音量で指示を怒鳴っていた。
「スープはどこだ!? 肉は!? どこにあるんだ――」
エレオは聞いていなかった。隅に、鮮やかなオレンジ色の人参の山を見つけていたのだ。腹が、脳より先に決断を下した。
一本食べた。もう一本。誰かが気づいた頃には、彼はその山のほとんどを、そこに厨房があることすら本気で忘れているような、一点集中の集中力で片付けていた。
「シチュー用の人参が要るんだけど!」
ウェイターが飛び込んでくる。
料理人たちが山に駆け寄り、そこで固まった。人参の半分がなくなっていた。残りは、噛みかけ、食いかけ、犯行現場の証拠のように途中で放り出されていた。
彼らは、ゆっくりと、まだ咀嚼中のうさぎに振り返った。
「どうも」エレオが言う。
厨房が、爆発した。
「この馬鹿野郎!」
「なんで材料食べるんだよ!?」
「吐き出せ――」
「もう戻したくないと思うけど」エレオが、口いっぱいのまま言った。
---
禿げた男――エレオはまだ知らなかったし、知ったところで気にもしなかっただろうが、それがJJだった――が、血管をどうにかしながら突進してきて、エプロンを掴んでエレオを地面から吊り上げた。
「一体、何をやってるんだ!?」
「お腹空いてたんだ」エレオが、宙ぶらりんのまま言う。
「それがどうした!?」
「うん」彼の顔が輝く。「あ――僕に何か作ってくれるの?」
厨房が、完全に静まり返った。どこかで、スプーンが回るのを止めた。
JJの口ひげが震えた。手も震えていた――わずかに、気づく程度に――いくつかの暴力の種類の中から、どれを選ぶか決めかねて、結局どれも選ばなかった男の緊張とともに。
彼は代わりに、エレオを厨房の扉から放り投げた。
エレオはトレイを運んでいたウェイターに突っ込み、スープとステーキと丸焼きの鶏が宙に弧を描いて舞い上がる。彼は純粋な動物的本能で、その鶏を口で受け止めた。
レストラン中が息を呑んだ。
彼は口いっぱいの鶏肉のまま、親指を立てた。「うまい。いい飯だ」
前の方にいた誰か――宝石をつけた、感心なさそうな商人の妻――が、連れの方に身を寄せて、聞こえるくらいの声で言った。「あれ、一体誰の荷物のつもりかしら」
エレオには、その質問の意味は分からなかった。だが、その口調の意味は分かった。さっきの貴婦人の扇と同じ――誰かが声に出して「お前には大した価値がない」と決めつける時の、あの特有の冷たさだった。
「この馬鹿を厨房から出せ!」
---
エレオが慌てて起き上がる。「待って、待って、待って! もう一回チャンスを! 料理できるって、本当に――僕、ココ島で一番の料理人だったんだ!」
――ははは。嘘だけど。彼は内心思った。
JJは、彼を長い間見つめた。
その目の奥を、怒りではない何かがよぎった――もっと、「自分の判断に反してでも、この嘘の図々しさに敬意を払いたくなっている男」に近い何か。正確で慎重な真実――商人の真実、技術的には嘘ではないが誤解を招く真実――で組み立てられたこの街では、信じてもらおうという努力すらしない嘘には、どこか清々しいものがあった。
「……わかった」太い指が、エレオの鼻先を突く。「もう一度失敗したら、この俺様が直々に港に放り込んでやる」
エレオの顔が、ぱっと輝いた。「おお、ずっと港に投げ込まれてみたかったんだ――」
「黙って厨房に戻れ」
彼は喜び、厨房へ駆け戻った。
JJは息を吐き、こめかみを揉んだ。そして、普段よりも三十デシベルは低い声で言った。
「よく聞け。お前は、シンプルなシチューを一つ作る。それだけだ。他は何もするな」
エレオが敬礼する。「了解、シェフさん!」
厨房が、彼の周りで再び活気を取り戻した。エレオは巨大な煮立った鍋の前に陣取り、まるで重大な問題を解決しようとしている男のように顎をさすった。
「うーん。何が要るかな……」
「塩」彼は宣言し、樽の半分をぶちまけた。
「酢」瓶を丸ごと、キャップごと。
彼は水差しに手を伸ばし、匂いを嗅ぎ、肩をすくめ、それを注ぎ入れた――皿洗いの水だったが、彼はそれを知らなかったし、知ったところで気にもしなかっただろう。
そこで、彼の目が、鍋の足元の床に落ちている何かを捉えた。
死んだネズミ。
彼の顔が、宝物を見つけたかのように輝いた。
「完璧」
彼はそれを拾い上げ、まるで最後の、不可欠な材料を加える男の落ち着いた自信とともに、鍋に放り込んだ。
彼は鍋を最後にもう一度見つめ、一度頷き、「完成」と宣言した。
「よし! 出来た!」
一人の料理人が通りかかり、鍋の中を覗き込み――その場で気絶した。
JJが振り返り、様子を確認しようとして、凍りついた。顔から血の気が引いていく。
「……神聖なフライ返しに誓って、これは一体なんだ」
「シチュー!」エレオが、すでにスプーンを構えながら得意げに言う。「食べてみて!」
JJが反論する前に、それは彼の口の中に押し込まれた。
JJは咀嚼した。
咀嚼を止めた。
全身が震えた。口ひげの端が、火に近づけすぎた紙のように丸まっていく。彼の目の奥から、魂かもしれない何かが、静かに部屋を退室し、苦情を提出し、建物ごと出て行った。
そして――彼は爆発した。
「これは食べ物じゃない。毒だ」
「僕、独創的なシェフなんだ」エレオが誇らしげに言う。
「ネズミ入れただろ!」
「うん! 風味づけに!」
JJは帽子を引きちぎり、床に叩きつけた。「もう料理は禁止だ。もっと簡単なことをやれ」
彼はエレオの手に、メモ帳を押しつけた。
「客の注文を書き取ってこい。それだけだ。書くだけ。それが仕事の全部だ」
エレオは自信満々に頷いた。「わかった!」
彼は、一番近いテーブルに歩み寄った。
「ステーキをミディアムレアで、それに――」客が言い始める。
エレオは、すでに歩き去っていた。
彼は、任務を見事に果たした誇りとともに、そのメモをJJに手渡した。
JJがそれを読む。
そこにはこう書いてあった。『客、飯欲しい』
短い文章を尊び、必要なことだけを言い、それ以上は言わないよう子供に教え込むこの街――ウマピンの基準に照らしても、これは言葉の節約が行き過ぎている、とJJは感じた。
彼の目が、一度、二度、痙攣した。
「それは――」
言い終える前に、彼はエレオの襟を掴み、裏口へと引きずっていった。
「お前は、他のことは全部役に立たないんだから、ゴミを出してこい。それだけは、失敗しようがない」
エレオは腕を組んだ。「ふん。楽勝だ」
彼はゴミ袋を持ち上げた。想像より重かった――固くなった良質のパン、切り落とされて残された肉、誰も食べきらなかった丸焼き鶏の半分。彼は一瞬、それを見つめたまま動きを止めた。胸の奥で、何か、名前のつけようのない締めつけが起きていた。故郷では、人前で食べ物を捨てたりしない。そもそも、できることなら、まったく捨てたりしない。
だが、彼の体は脳よりも先に動いた。彼は代わりに、そのゴミ袋をまるごとレストランの正面の窓に投げ込んだ。
JJが悲鳴を上げた――本物の、深く、疲れ果てたところから出てくる叫び声だった。彼はエレオを、たった今連れてきたばかりの扉から、まっすぐ引きずり出した。
「もういい。お前は終わりだ」
彼はエレオを路地に引っ張り出し、力を振り絞って、渾身の蹴りでゴミの山へと蹴り飛ばした。
厨房のスタッフの何人かが、顔を覗かせてそれを見ていた。
JJは長く息を吸い込み、まるで墓を封じるかのように、路地に向かって咆哮した。
「二度と来るな!!!」
---
エレオは、片耳にバナナの皮を乗せたまま、ゴミの中で起き上がり、唸った。
彼は、建物の間にわずかに見える細い空の帯を、思案深げに見上げた。ここには水平線もない、開けた野原もない。ウマピンは、あらゆる方向から迫るように立ち上がり、壁の向こうに壁、その向こうにまた壁――ポーク・アイランドのような感覚には、二度と戻れそうにない、高くて窮屈な街だった。
「……いやあ」彼は言った。「今までで一番いい仕事だったな」
路地は水辺に向かって緩やかに下っており、その下、光の届かない桟橋の支柱の陰で、誰かがこの一部始終をずっと見ていた。
一人の老婆が、毛布になる前は三つの別のものだった布にくるまって座り、傍らのへこんだ鍋の中で、拾い集めた木切れの小さな火が爆ぜていた。もう一人、もっと若い人影が近くにしゃがみ込み、潮を待つカモメのようにじっと動かずにいた。
「《ゴールデン・スプーン》が、ついに誰かを追い出したわね」若い方が言った。
「誰を?」
「うさぎの子」
老婆が、小さな音を立てた。ほとんど笑い声だった。「面白いこと。あの店が追い出すのは、大抵、払えない客だけなのに」
「今回は違う」
「なぜ?」
若い方は、エレオがゴミの中から起き上がり、肩から人参の皮を払い、まるで何事もなかったかのように、また鼻歌を吹き始めるのを見つめていた。
「あの子、私たちに何も求めなかった」彼女は言った。「私たちがここにいることにさえ、気づいてなかったみたい」
老婆はしばらく黙っていた。この頃、彼女がすべてのことをそうするように――ゆっくりと、そして、この街の誰も物事に払わないほどの丁寧さで、それを頭の中でひっくり返していた。
「見ておきなさい」やがて、彼女は言った。「何も求めない者こそ、見ておく価値がある」




