ボートをこぐ
月:Ashenveil
二日目:Blazeday
アイアンが、まるで大地そのものが襲いかかってきたかのように迫ってきた。
その剣が、一度の巨大な弧を描いて振り下ろされる。エレオが立っていた地面が割れ、衝撃波が周囲十メートルの草を薙ぎ倒していく。
エレオはすでに宙にいた。ぎこちなく身をひねって直撃を避ける。だが、その一撃を受けた地面は半瞬遅れて業火に呑まれ、落下していく彼めがけて炎が這い上がってくる。
彼は地面に転がり込み、変な体勢のまま起き上がろうとして――結局、無様に仰向けに倒れた。
アイアンは、まるでそこに炎などないかのように、その真っ只中に立っていた。深紅の目が、彼を追う。
「見事だ」その言葉は、平坦に、ほとんど退屈そうに落ちた。「我が地獄火を避けたか」
エレオは体を起こし、腕にできたかすかな火傷を撫でた。
「うん」彼は言った。「でも、ほとんど当たりかけてたよ」
「エレオ、お願い!」
木々の際から、リリスの声が裂けるように響いた。ただの恐怖ではない――これがまずいことになった時、自分がどんな代償を払うことになるかという恐怖も、そこには混じっていた。
「アイアン、やめて――この子は私を誘拐なんてしてない、誓うから――」
アイアンは彼女を見なかった。剣は、まだエレオに向けられたままだった。
「彼のために嘘をつく必要はありません、姫様。この若造は、自らの死を選んだのです」
エレオは立ち上がり、土を払った。今にも焼き尽くされかけたばかりの人間とは思えない、急ぐ様子のない落ち着きで――しかも心底、その一部始終を楽しんでいるような様子で。
「やっと」彼は笑って言った。「本物が来た」
リリスは、彼を見つめた。
――何言ってるの、この子。無理よ、アイアンは強すぎる。まだ本気にすらなってないのに――
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エレオが、目を閉じた。
息を吸う。
「インク・バラージ!」
拳が、ぶれた。目で追うことを拒むほどの速さで空を切り裂く、黒い連打の嵐。瞬き二回分の間に、何十発もの拳が放たれる。
アイアンの刃が上がり、金属音の嵐の中でほとんどを弾き返す――だが、すべてではなかった。三発。四発。数発がガードをすり抜け、鎧に命中する。ドラゴンの頭骨の兜に、黒い染みが残った。
エレオは両手を下ろし、息を切らしながらも、それでも笑っていた。
「どう? 悪くないでしょ?」
「エ、エレオ――」リリスの声が、細くなっていた。「今の、何……?」
彼は肩越しに、彼女ににっと笑いかけた。
「僕の特技! インクだよ!」
アイアンが、ほんのわずかに首を傾げた。その佇まいに、何かが変わっていた――遅くなったわけでも、危険度が下がったわけでもない。だが、もっと「興味を持った」ものになっていた。実際にひびを入れることに成功した何かに対して、壁の方が興味を持ち始めるような具合に。
「命中させたか」彼は言った。「認めよう。予想以上だ」
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そして――消えた。
速い、というのとは違う。「消えた」のだ。瞬きの間に光が消えるように。エレオがその不在を処理する暇もなく、アイアンのブーツがみぞおちに叩き込まれ、彼は空中で後方へ回転しながら吹き飛んだ。
地面に叩きつけられ、二度弾んで、仰向けのまま滑って止まる。息が、完全に詰まっていた。
「うわあ」彼は、ほとんど笑いに変わった喘ぎ声で言った。「強っ」
それ以上言い切る前に、アイアンが背後に再び現れる――もう一発の蹴りが、彼を真上へ打ち上げた。
「大人しく倒れていろ、害虫が」
アイアンは再び瞬間移動し、今度は上空――そこで、真下へ叩き込む蹴りでエレオを迎え撃った。落下する星のように、エレオは地面へと打ち込まれる。衝撃で地面がクレーター状に陥没し、砂埃が輪を描いて広がった。一瞬、何も動かなかった。
やがて、そのクレーターの中から、小さな咳が聞こえた。
「いやあ」エレオが、片肘をついて体を起こしながら言った。声はかすれていたが、まだ笑っていた。「冗談抜きで、こいつ強すぎ」
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彼は、立ち上がろうとした。
ほとんど成功しかけた――片足を体の下に入れ、起き上がりかけた、その時。
鎖が彼を捕らえた。炎をまとった黒い鎖が、ひび割れた地面から一気に噴き出し、手首と足首に巻きつき、彼が身じろぎする間もなく引き締まる。
それでも彼は、鎖に逆らって力を込めた。引っ張る。鎖は持ちこたえた。肌の中のインクが押し返す場所で、鎖はより明るく光った――まるで炎とインクが、この腕の支配権を巡って言い争っているかのように。
彼は自由になれなかった。
だが、一瞬だけ――たった一瞬だけ――右手首の鎖に、ひびが入った。ほんの髪一筋ほどのひび。だがそれは確かに、アイアンの視線をそちらへ向けさせるほどのものだった。すぐに新たな炎の下で塞がってしまったが。
アイアンは、それについて何も言わなかった。
だが、気づいていた。
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彼は、剣を掲げた。
刃は光を歪に受け止め、反射する代わりに吸い込んでいく。その輝きは、武器というより傷に近い深さへと沈んでいった。
「これで終わりだ」アイアンが言う。「お前は、我が刃に散る」
リリスは、動くと決めたわけではなかった。ただ体が、勝手にそうしただけだった。頭が追いつくより先に足が距離を詰め、両腕を大きく広げ、振り下ろされる刃の真下に自ら身を置く。
「やめてっ!」
刃が、彼女の顔の手前、拳一つ分の距離で止まった。
アイアンの深紅の目が、揺らいだ――ポータルが開いてから初めて見せる、本物の困惑のひびだった。
「姫様。何を――」
彼女は、すぐには言葉で答えなかった。ただ振り返り、少しだけ首を動かして、エレオを見た。鎖に繋がれ、あちこち痣だらけで、まるでこの状況のどこにも、意味のある痛みなど何もなかったかのように、地面から彼女ににっと笑いかけている彼を。
胸の奥で、何かが、口が答えるより先にその問いに答えていた。
「この子は、あなたが思ってるような人じゃないの」彼女は言った。今は静かに。怒りは消え、その下にもっと確かな何かがあった。「私に一度も嘘をついたことない。それが楽な時でさえ」
アイアンの視線が、彼女を通り越してエレオに向く。そこで止まる。
「剣を下ろして」彼女は言った。「お願い」
長い間、聞こえるのは、ひび割れた地面で冷めていく地獄火の、消えかけの音だけだった。
やがて、アイアンの目の光が、暗くなった――完全にではないが、十分に。そして剣が下ろされた。
「……仰せのままに、姫様」
彼は納得したようには見えなかった。むしろ、さっきまで確信していたはずの数字を、もう一度計算し直している男のように見えた。
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リリスはすぐにエレオの隣に膝をつき、自身の暗黒のエネルギーを小さく、鋭く放って鎖を弾き飛ばした。
「馬鹿ね」彼女は呟き、彼を起き上がらせる手伝いをしながら言った。「なんで正直に本当のこと言わなかったのよ」
エレオは後頭部を掻きながら、笑みの下でわずかに顔をしかめた。
「だって、それだと戦えなかったから」彼は、それが当然のことのように言った。「いやあ――あの人、マジで強かった」
彼女はそれをじっと見つめた。
「あなた、信じられない」
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彼は立ち上がり、体の埃を払うと、手をすでに差し出しながらまっすぐアイアンのもとへ向かった。
「戦ってくれてありがとう、アイアンさん! マジで強かったよ」
アイアンは、差し出された手を見下ろした。それから、エレオの顔を見る。開けっぴろげで、警戒心もなく、殺されかけたばかりの人間が持つはずの恨みの気配など、欠片もなかった。
「我が手を握りたいと言うのか」アイアンがゆっくりと言った。「お前の命を絶とうとした、この私と」
「うん! フェアに戦ってくれたし。恨みっこなしだよ」
一拍。リリスが、思わず息を止めるほど長い間だった。
そして、アイアンの籠手が、エレオの手を握った。
「お前は、奇妙な生き物だな、うさぎよ」彼は片膝をつき、頭を垂れた。「お許しを。姫を連れ去ったものと思い込み、性急に動きました」
エレオは笑い、手を振ってそれを流した。「気にしないで! 正直、強い人と戦いたかっただけだから。マジで最高だった」
リリスは腕を組んで目を回した――が、口の端はすっかり彼女を裏切っていた。
「あんな目に遭わされて『最高』って言えるの、あんたくらいよ」
彼女はアイアンに向き直った。「この子に船、作ってあげられる?」
アイアンが立ち上がり、その本来の高さまで戻る。
「彼と共に旅をなさるおつもりですか」
「ち、違うわよ!」否定の声が、速すぎるほど速く出た。彼女は、抑える間もなく顔が熱くなっていくのを感じた。「当然でしょ。私には責任があるの。両親が絶対に許さないわ」
エレオが、彼女の肩を軽く叩いた。何の気負いもなく。
「いいよ、リリス。分かってる。でも、いろいろ手伝ってくれてありがとね」
彼女はちらりと彼を見た――何かが表情をよぎり、彼がそれを「それ」だと気づく前に、彼女はすぐにそれをしまい込んだ。
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三人は浜辺まで歩いた。淡い金色の砂が足元で音を立て、その先には海が、平らに、きらめきながら広がっていた。
アイアンは波打ち際で足を止め、片手を掲げた。暗黒のエネルギーが腕に絡みつき、水がうねり――一艘の頑丈な木製の船が、まるでずっとそこで待っていたかのように、水を滴らせながら海面から浮かび上がった。
エレオの顔が、ぱっと輝いた。
「うわあ! 見てよ、これ!」
彼は駆け寄り、船体に両手を当て、新しい芸を覚えた忠犬でも撫でるように叩いた。
「僕、船持ってる。ありがとう、アイアンさん!」
アイアンが頭を下げる。「うさぎ殿、感謝には及びません」彼はリリスに向き直った。「姫様。父君がお言葉をお持ちです」
彼女はため息をつき、肩を落とした。「そうでしょうね」
アイアンは再び手を掲げ、傍らに渦巻く暗い門を切り裂いた。それからエレオに向き直り、きびきびとした、正式な敬礼をした。
「さらば、うさぎ殿。あなたの道が、強き道であらんことを」
「バイバイ、アイアンさん! 本当にいろいろありがとう!」
アイアンが門をくぐる。門は、何かが完全に閉じる時特有の、柔らかい音とともに彼の背後で閉じた。
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リリスは、しばらくその場に立ち、それがあった場所を見つめていた。
それから、エレオに向き直った。
「自分で言うのも信じられないけど」彼女は言った。「あなたがいなくなるの、寂しくなりそう」
「そう?」
彼女は笑った。短く、自分でも少し驚いたような笑いだった。「調子に乗らないでよね」
彼女は、もう存在しない門の方へ――家へ、あるいは「ただ立ち去る」というこの場面のもう一つのバージョンへ向かって歩き出し――途中で、動きを止めた。
「もう、知らないわよ」彼女は呟いた。
彼女は素早く彼のもとに戻り、考え直す間も与えず、彼の頬に素早くキスをした。
そして、すでに走り出していた。もう、いなくなっていた。声だけが、肩越しに流れてくる。
「さよなら、エレオ!」
彼は、瞬きしながらそこに立ち尽くした。
ゆっくりと、途方もなく大きな、まったく品のない笑みが、顔いっぱいに広がっていく。
頬に触れる。
「……うわ」
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彼は船に乗り込み、両手にオールを握り、金色に果てしなく広がる水平線を見つめた。
「よし」彼は言った。「冒険のはじまりだ!」
彼は漕ぎ始めた。そして――開けた海の上での静けさが、自分の考えをうるさく感じさせるので――歌い始めた。完全に自作の、まったく恥じることのないメロディーで。
♪漕げ漕げ、僕の船を
次の大戦に向かって――
騎士をぶん殴って、悪者蹴っ飛ばして
最高に楽しいはずだ!♪
太陽が高く昇り、水面が砕けたガラスのように光を跳ね返す。彼は漕ぎ続け、歌い続けた。腕は二番の途中あたりから焼けるように痛み始めていたが、彼の情熱はそれに気づく気配もなかった。
♪僕はうさぎ、使命を帯びた
海で一番強いうさぎ――
僕に手を出そうもんなら
インク・エクストリームの拳を見せてやる!♪
空が金色からピンクへ、そして深く落ち着いた青へと移り変わっていく。何時間も経つうちに声は少しずつかすれていったが、オールのリズムが、ほとんど自動的に歌を続けさせていた。
♪漕げ漕げ、僕の船を
太陽が沈んでいく――
どこかに宿があるといいな
倒れちゃう前にね♪
すっかり暗くなる頃には、息が白く見えるほど冷え込み、波間で毛皮が完全に乾く暇もなかった。
♪ちょっと外は寒いけど
僕は一番タフなうさぎ
毛皮じゃ霜は防げないけど
少なくとも面白いままだ♪
そして、雨が降ってきた。最初は霧雨、船に柔らかく当たる程度――だが数分のうちに、激しい、叩きつけるような土砂降りに変わり、海は「意見を持つ何か」になった。稲妻が空を白く切り裂き、続く雷鳴が船体を直接揺らした。
♪漕げ漕げ、僕の船を
この嵐、ちょっと怖いけど――
海の化け物が顔を出したら
その視界、ぼやかしてやるからな!♪
その頃には、彼の声はさっきより小さくなっていた。強がりも薄くなり、その下に――ほんの少しだけ――聞いている誰か以上に、自分自身に向けて言っているような響きが混じっていた。
波が小さな船を激しく揺さぶり、彼は姿勢を保つために両手でオールを握りしめなければならなかった。指の関節は白くなり、顔を伝う水は、もう雨だけではなかった。
♪僕は伝説のうさぎキッド――
この嵐だって僕を止められない――
たとえ船から放り出されても
泳ぎ切って、最後にお辞儀してみせる♪
彼は本気でそう思っていた。何もないこの場所のど真ん中で、ずぶ濡れで凍えながら、なぜそれが自分にとって大事なのか、その時ははっきり分からなかった。それでも、大事だった。
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嵐は、夜明け前のどこかで晴れた。前夜の激しさが嘘のような、静かで霧がかった凪へと変わっていく。エレオの毛皮は濡れて重たく垂れ下がり、耳は頭にぺったりと伏せられ、腕は数日は覚えていそうな痛みを訴えていた。
それでも、彼はまだ座ったまま。まだ、漕いでいた。
♪長くてひどい夜だったけど
生き延びて抜け出した――
海が最悪をぶつけてきても
僕はそれでも、生きて、生きて、生き抜くんだ♪
そして――水平線に、影が見えた。陸だ。
彼の目が大きく見開かれ、体中の痛みが、すべて栄光とともに無視された。
♪漕げ漕げ、僕の船を
冒険はすぐそこだ――
着いたら何か食べ物があるといいな
じゃないと僕、倒れちゃうかも!♪
---
何時間か後、船がようやく固い地面に擦れて止まった。エレオはオールに突っ伏して半分眠りかけていたところから目を覚まし、体を起こして目をこすった。
「よし! 陸だ! ローラ島がどんな――」
彼は言葉を止めた。
「――ええっ!?」
町はなかった。港もなかった。ただの森――密集し、そびえ立ち、樹冠はほとんどの日光を地面に届かせないほど厚かった。木々の奥深くで、何かが低く奇妙な声で鳴き、それに別の何かが応えた。
「うわあ、まじかよお」エレオが唸りながら船から降りる。「街がよかったのに! 食べ物がある街が!」
腹が、即座に、熱烈な同意とともに鳴った。
「また歩くしかないか」
木々の中を数分進んだところで、下草の間を切り裂く土の道に、彼の耳がぴんと反応した。
「道だ! 道があるってことは人がいる! 人がいれば食べ物もある!」一拍。「まあ、トラブルもあるだろうけど。でも、だいたい食べ物だよね」
彼はそれを辿った。鼻歌を歌いながら――やがて木々が薄くなり、目の前に、予想もしていなかった光景が広がった。
彼の顎が、落ちた。
「うわあああ」
遠くに、街がそびえていた――広大で、円形で、朝の光を叩いた黄金のように受け止める水に囲まれている。長い橋が波を越えてその街へと弧を描き、周囲には高い城壁が立ち上がっていた。装飾というより、「挑んでみろ」と言わんばかりの城壁だった。内側では、建物が積み重なるように連なり、その中心には一つの白い城が空を貫いていて、尖塔がまるでこの瞬間のためだけに建てられたかのように太陽を捉えていた。
その後ろには緑の丘がなだらかに広がり、遠くの山々に縁取られている。全体の光景は、場所というより、誰かが昔語ってくれて半信半疑だった物語の一場面のようだった。
エレオは、口を開けたまま見つめていた。
「うわあ」彼はゆっくりと言った。「なんかすごい場所っぽい。すごい場所には、すごい人がいるはず。すごい人がいれば――」
腹が、また鳴った。さっきより大きく。まるで、待つのにもう耐えられないとでも言うようなタイミングで、彼の言葉を遮った。
彼は、少し照れたように笑った。
「……よし。まずは飯。すごい人は、その後」
彼は歩き出した。すでに登場の仕方を考えながら。




