第八話
「どうせ黒鋼の取り寄せには何日か掛かるし、すぐに持って行ったら怪しまれるから明日渡しに行こう」
「そうか、ではそうしよう」
「で、次はどうする?」
「そうだな…ふと思ったのだが、私はあの街のどこで暮らせば良いのだ?」
「あ、そうか。まだ宿取ってなかったな。家を持ってない冒険者は基本、宿を借りて生活してる。一泊銅貨1・2枚で泊まれるが、何にしても依頼を受けて金を稼がないとな」
そうか、人間というのは暮らすにも金がいるのだな。
このまま森でウルフになって寝てしまえば金など要らぬのだが…
折角登録までしたのだ。少し人間の生活に慣れてみよう。
「分かった。しかしヴァイトよ、今更だが私に付きっきりで大丈夫なのか?色々教えてもらえるのは助かるが、私はヴァイトの重荷にはなりたくないのだが」
「…んー、俺は別に平気なんだがな。でもまぁ俺がずっと一緒じゃ、ローズの勉強にならないか。宿の場所とか街の案内だけして、あとは頑張ってみるか?」
「うむ、頑張ってみよう。どうしても助けがいる場合、どうすればヴァイトに会えるのだ?」
「俺は基本『調査官』だからな。調査仕事が無い場合はギルドの二階で書類仕事をしてるか、気晴らしに近くで狩りでもしてる。だからギルドマスターに聞いてくれれば居場所は分かるはずだ」
「そうか。では助けがいる場合は甘えさせてもらおう。色々と世話になった」
「俺もローズと過ごせて楽しかったよ。今度予定が合えば一緒に依頼でも受けよう」
「その時は是非」
それからヴァイトと街に戻り、武器屋の隣にあった防具屋、更にその隣の宿屋など、街の主要施設を教えてもらった。
私はまず金を稼ぐ必要があるので、やはり依頼を受けに行こう。
「あ、ローズさん。依頼の受注ですか?」
「うむ、宿に泊まれるだけの金を稼がなくてはいけないのだが、橋の先の森で出来る依頼はあるだろうか」
「魔の森ですか。それでしたらこちらの三つは如何でしょうか」
あれは魔の森という名前だったのか。
依頼内容は討伐と採取。
『依頼内容:フォレストウルフ10体の討伐
依頼場所:魔の森
受注条件:ランクB以上
依頼報酬:銀貨1枚』
『依頼内容:マナキノコ20個の採取
依頼場所:魔の森
受注条件:ランクC以上
依頼報酬:銅貨8枚』
『依頼内容:鎌鼬15体の討伐
依頼場所:魔の森
受注条件:ランクC以上
依頼報酬:銀貨1枚銅貨5枚』
マナキノコ…資料によるとリリが集めていたものとは違うキノコだな。だが資料を見る限り、生えている場所は知っていたし、問題無さそうだ。
「では全部頼む」
「は、はい。いきなり全部だなんて、流石初日でBランクになられただけありますね」
「そうなのか?これくらい問題無いが」
「ランクC以上とありますが、一度に囲まれれば非常に危険ですから。ローズさんもお気をつけて」
「うむ、では行ってくる」
今日は森と街の往復ばかりだな。
さて、先程得たスキルの実験でもしてみよう。
私のまま【分裂】し、片方をダークウルフに変化。
そして【同時並列思考】を発動する。
「ウルフの私よ聞こえるか」
お、バッチリ聞こえるしウルフの体も問題無いぜ俺。
「やはりこのスキル、思った通り便利だな」
まったくだ。今まで空気だった俺も、ウルフとして行動出来るし楽しいぞ。
〈条件を達成したことによりスキル【念話】を獲得しました〉
「お?」
お?
「もう一度聞こう、私よ聞こえるか」
『もう一度言おう、バッチリ聞こえるぞ俺』
「おお!」
『おお!』
これは、なんと便利なスキルだ!
私としても俺としても思考し、且つ別行動が取れ意思疎通も可能とは!
「私よ、狩りと依頼は基本このスタイルで行くとしよう」
『異議無し』
「ただ私とか俺とか、自分を呼び合うのは紛らわしいな」
『だな。じゃあそっちの俺は名前あるからローズで。こっちの俺は…元々影だしシャドウで良いか』
「心得た。ではシャドウ、鎌鼬の方は任せて良いか?」
『あいつら目立つローズにはすぐ逃げるからな、任せろ』
その間に私はフォレストウルフを探しながらマナキノコを採取していくとしよう。
む、入れ物が無いな。
影に取り込ませてから取り出しは…キノコでも可能か。ではこれでいこう。
見つけたフォレストウルフはすぐ逃げようとする為、【恐怖の波動】で硬直させてから影操作で胴体を串刺しに、討伐証明に一部を剥ぎ取る必要があるらしいから、剣で耳、いや尻尾でも切り落としておくか。後は捕食だな。
『シャドウ、こちらは片付いたぞ』
『こっちも完了だ。森の入り口で会おう』
ふふ、やはり便利だな。
それに今まで過ごした愛着のあるウルフの身体が、また活躍出来る事も喜ばしい。
森の入り口でシャドウと合流し、シャドウから鎌鼬の尻尾15本を受け取った。尻尾を切り落とすとは、考えることはやはり私だな。
「…シャドウ、考えている事は私なのだから分かるぞ」
『だよな。折角こんな便利なスキルあるんだし、暫くこのままで』
「下手に人間に出会って問題にならないようにしなくては」
『そこは任せとけ。【気配察知】も【潜伏】も【シャドウダイブ】もあるから早々見つかる事は無い』
「そうだな、ではまたここで。依頼の時は頼むぞ」
『了解だ。そっちも情報収集頼んだぞ』
ローズであり人間として生活しながら情報を集める私と、ウルフとして森で生活し捕食の進化による強化をするシャドウ。
今後の生活を考えると非常に便利なこの状況を使わない手は無い。
離れていても意思疎通が出来る【念話】も手に入ったし、これからが楽しみだな。
私は街に戻り依頼達成の報告をするか。
「あら?ローズさんおかえりなさい。何か分からない事でもありましたか?」
「いや、依頼が終わったので確認してほしい」
周りから死角になる位置で尻尾とキノコを取り出し受付のテーブルに置く。
「え?もう終わったんですか⁉︎まだ30分しか経ってませんよ⁉︎」
「だから言ったでは無いか、問題無いと」
「も、問題無いというレベルでは無いような…早すぎます。ローズさんの実力は想像以上に高いようですね」
「そう言ってもらえるのは嬉しいがな」
報酬に銀貨3枚と銅貨3枚を受け取った。
なるほど、銅貨10枚で銀貨1枚になるのか。
しかし価値が分からんな。銀貨1枚とはどの程度の物が買えるのだろう。
ギルドを出てリリの雑貨屋に向かう。
「あ、ローズさん!ギルド登録はどうだった⁉︎」
「問題無かったぞ。Bランク冒険者になれた」
「え⁉︎ローズさんいきなりBランクなの⁉︎強いとは思ってたけど、本当に凄いね」
「ふふ、リリに褒められると嬉しいな」
「(あぁもうローズさんの笑顔見られる方が何倍も嬉しいよ!)それで、今日はどうしたの?」
「うむ、依頼で沢山討伐部位を運ぶ必要があるのだが、影から出し入れすると怪しまれるのでな。何か良いものは無いか聞きに来たのだ」
「それならこの指輪がオススメだよ!【収納】のスキルがかけられてるから、自分が持ち運べる重さのものなら何でも入るの!」
「おお、それはなんと便利な」
「ただ、ちょっと高くて。金貨1枚もするんだよね」
「それはどのくらいなんだ?」
「銀貨10枚分で、私達家族が1ヶ月暮らせるくらいって言えば分かりやすいかな?」
なんと、金貨とはそれほど価値があるのか!
ではこの銀貨も、それなりに価値のあるものだったのだな。
「となるとまだ買えんな。もう少しで金が貯まるだろうから、その時買いに来るとしよう」
「じゃあお店に出さないで取っておくね!」
「それはありがたい。すまんなリリ」
「ローズさんは大事な友達だもん、当然だよ」
ふふ、本当にリリには元気を貰えるな。
これでまた目標も出来たし、冒険者として頑張っていけそうだ。
「ではまた来る」
「うん、いつでも来てね!」
リリの店を出てヴァイトに教えてもらった宿へと向かう。
木造でやや古いが、しっかりした造りの宿だ。
「いらっしゃい。一泊2食付きで銅貨1枚、食事無しなら2泊で銅貨1枚だ」
リリの母親より少し若いくらいの女性が受付に立っていた。
無愛想というわけではなく、口調の割に面倒見の良さそうな雰囲気の女性だ。
「では取り敢えず6泊で」
手元にある銅貨3枚全てを渡して鍵をもらった。
「食事無しで泊まっても、飯はここにくれば別料金で食べられるよ。風呂は部屋毎にあるから好きに使いな」
「うむ、世話になる」
部屋の場所を教えてもらい鍵を開けて入る。
簡素な部屋で、ベッドとテーブル、椅子が1つずつのみだ。
隣の部屋は風呂のようだな。
早速入るか。
「たしか、この金具を回して…」
おぉ、お湯が出たぞ。
リリの家と基本は同じなのだな。
しかし、湯船とやらになにもない。
この栓のようなものを穴に入れるのか?
丁寧に使い方が書いてあるな、これは助かる。
先に湯船にお湯を溜め、頭にお湯を掛けていく。
『頭』と書かれた入れ物を取り中の液体を少し出す。
やはりこのモコモコが気になるな。
綺麗に洗い流し今度は『体』と書かれた方の液体で身体を擦っていく。
むう、自分でやるより、リリにされた時の方が心地良い。
こればかりは仕方がないか。
ヌルヌルが落ちたことを確認して湯船に入る。
この包まれる感覚が癖になるな。
終わった後は栓を抜き、お湯が勝手に流れていく仕組みらしい。
人間とは便利なものばかり生み出す。
部屋に用意されていた布で全身を拭いた後、何も着る物が無い事に気付いた。
まぁ私はどうせ脱いでしまうので無くて良いだろう。
裸のままベッドへと入り、すぐに意識が落ちていった。
・・・
コンコンコン
「おーい、いつまで寝てんだい?洗い物あんなら出しな」
んん、誰…?
「寝てんのかい?ちょっと入らせてもらうよ…本当にまだ寝てたのかい。他の客は全員とっくに飯食って出てったってのに。早くタオルとシーツ洗わないと今夜までに乾かないじゃないか!」
「んぅ…朝から叫ばないでって言ったのに」
「もうとっくに朝は過ぎてんだよ!ほら起きた!ってアンタ!なんで裸なのさ⁉︎」
「まだ…眠い」
「そんなことより服を着な!アタシが男じゃなくて良かったよまったく!」
「リリ…一緒に寝よ」
「アタシはイザベラだ!ちょ、なんて力してんだアンタ!こら!離せ!」
「もう朝か…ん?」
「やっと起きたかい寝坊助」
「…確か受付の」
「イザベラだ。ベティで良い」
「そうか。ではベティ、私のベッドで何故一緒に寝ている」
「……はぁ…何も覚えてないのかい」
「む?すまないが記憶にない」
「良いよ別に、悪い気はしなかったしね。ほら、服着てさっさとシーツ寄越しな」
「うむ、よろしく頼む」
不思議な人間だ。私の【気配察知】に反応も無くベッドに潜り込むとは。
危険は無さそうだが、実力は相当高いと見える。
「そういやアンタ、名前は?」
「ローズだ」
「じゃあローズ、アンタ何も着ないで寝るのかい?」
「うむ、何か着ていると寝付けなくてな」
「なら仕方ないけど、くれぐれも男が入りそうな場所で寝るんじゃないよ」
「ん?よく分からんが忠告感謝する。気をつけよう」
「…アンタ、結構素直なんだね」
ベティにベッドの布と風呂の布を回収してもらい、私も一緒に受付まで行く。
「じゃあ戻ってくるまで鍵は預かるよ。飯は?」
「食事は不要だ。行ってくる」
「あいよ、行ってらっしゃい」
さて、リリの店で指輪を買う為と、私の武器を作る金を稼がなくてはな。
まずは武器屋に寄りつつ、今日もシャドウと狩りをするとしよう。




