第七話
受付の案内に従いギルドの二階、その真ん中にある部屋へと入る。
「初めまして、僕はここのギルドマスター、カインだ。わざわざ来てもらって悪いね。ヴァイト君直々の推薦なんて初めてだから気になってしまって」
部屋の奥で書類仕事をしていたこの男がギルドマスターか。
灰色の髪に柔らかい雰囲気の顔立ち、体は細めで戦闘職というより事務職。まさに今の仕事に合っている風貌だ。
「貴女が、ヴァイト君の推薦を受けた登録希望者だね?」
「ローズだ。宜しく頼む」
「こちらこそよろしく。早速だけど、専門職を教えてくれるかな?」
「…なんだそれは?」
「ローズ、ここでいう専門職は、『主にどのスタイルで戦うか』という意味だ。剣などの武器を使う近接。遠距離スキルなどを使う後衛。補助スキルなどを使う支援とかに分けられる」
「そういうことか。私はどれでも良いぞ?」
「えっと、どれでも良いとは?」
「いや、すまない。やはり支援は無理そうだ。私は回復や他者にかけるスキルを持っていなかった」
「…ヴァイト君、説明してくれるかい?」
「(理解出来なくて俺に振りやがった)彼女は複数の遠距離スキルを持っていて、体術にも長けていると認識してます」
ヴァイトにスキルの詳細を教えただろうか?
いや、あの四人と戦っている時に彼奴らが色々と叫んでいたな。
ヴァイトの説明を受け何やら悩んでいるギルドマスター。
何故このような振り分けをする必要があるのだ?
武器も攻撃スキルも使えば良いではないか。
「これはまた、随分有能な人を連れてきてくれたねぇ。ただ言葉だけだとどうにも判断出来ないな。少し訓練所で試してみよう」
お?移動するのか。
一階まで戻ったと思ったら更に下に続く階段があり、下りると広い地下室になっていた。
なるほど、ここで鍛錬やスキルの試し撃ちが出来るのだな。
「それじゃあ実際にいくつかスキルと、武器戦闘を見せてもらっても良いかい?」
スキルか、結局どれを見せて良いのか分からんな…
ヴァイト、ヴァイト!
「(なんかローズがちょいちょいって手招きしてる…可愛いな)どうした?」
「私が使っても怪しまれないスキルが分からなくてな」
「あぁ、なるほど。今使えるスキル教えてくれ」
影の時に得た最初のものから昨日得た新しいもの、攻撃型から常時発動型、更には【平行移動】といった身体系のものまで、40以上に及ぶスキルを全てヴァイトに教えていった。
「…機転を利かせて俺だけに言ってくれて良かった。確実に怪しまれてたな。基本スキルってのは一人につき多くても20個とかなんだよ。それだけの数あると、いくら生活系とか基本系のスキルでも怪しい。ここはパッシブ系と攻撃系からよく使うものだけ選別した方が良い。あと【影操作】と【捕食】は隠していた方が無難だ。こんなスキル滅多に見ないから確実に目立つ」
「おぉ、やはりヴァイトに相談して正解だった。私だけではどうなっていたことか」
「その為に俺がいるんだ。分からない事はなんでも頼ってくれ」
「うむ、そうさせてもらおう」
ではウルフの時によく使っていたスキルと、人になって新たに取得した三つでいくとしよう。
「すまない、待たせたな」
「いやいや、構わないよ。ヴァイト君にスキルの相談でもしていたのかな?」
「あぁ。私は感覚的にスキルを使っていたからな。実際に冒険者ギルドでは、どれが遠距離系かなどの規定を確認していたのだ」
「それは良い心掛けだね」
「(ローズもサラッと嘘を言えたりするんだな)」
「ではまず遠距離攻撃から見せてくれるかい?」
「分かった。【暴風刃】【ダークファング】【エアクラッシュ】」
「え?」
「あ…」
「ん?」
ギルドマスターが驚きヴァイトが「しまった」という表情をしている。
スキルだってヴァイトにしっかり確認してもらったものだというのに、何かおかしな事でもあっただろうか?
「ローズさん、今、疲労や倦怠感などはあるかい?」
「いや、全くないが」
「…そうか。ヴァイト君、なんて人を連れてきてくれたんだ君は…」
な、なんだ…私は何をしてしまったんだ?
どこもおかしい点など無かったはずだが。
「何がおかしいか分からないって顔だね…普通はあれほどのスキル、しかも上位魔物が使用するような高難度のスキルを連発なんて、体が持たないはずなんだ」
「そうなのか?あのスキルばかり使ってきたからな。体が慣れてしまったのかもしれん」
「その可能性も無くは無いけど、やっぱり低いかな。余程ローズさんの体力が多いのか、疲労を感じにくいんだろうね」
スキルというのは体力を消耗するか、疲労を感じながら使用するものだったのか。
ただ使おうと思うだけでいくらでも使えていたから、そういうものだとばかり。
「これは是非とも後衛にいてほしい存在だね。近接も期待出来そうだ」
「武器は私ので良いのか?」
「訓練用のものがあるから、その中から選んで」
部屋の隅に大量に置かれた武器。
私が持っているものから見たことないものまで、かなり種類があるんだな。
正直何が使いやすいとか分からないんだが。
ん?なにか惹かれるものが…
板?を何枚も組み合わせたような見た目だが、なんだこれは。
触れてみると、【戦神の加護】のおかげか使い方が分かるように…
これは『鉄扇』というのか。
私の腰まである巨大な鉄の扇子。
これは訓練用なのでこのままだが、上質な素材で作られた鉄扇を【鉄扇】系スキルを持った者が持つと、任意で小さく持ち運び易い大きさに出来るようだ。
広げてみると外円の直径は160cm程、私とほぼ同じ長さか。
重量は思ったより感じないな、この武器の特徴かスキルの恩恵かまだ判断出来んな。
「おやおや、これはまた面白い武器を選んだね」
「これは『鉄扇』で合っているか?」
「そうだね。風系統スキルと相性が良く、畳んだ状態の親骨で打撃、素材によっては広げた山・谷の部分で剣のように斬りつけも可能だよ」
「どちらも私と相性が良さそうだな」
「初めて使うみたいだけど、大丈夫かい?」
「問題無い。大体の武器は扱える」
「それは素晴らしい。どちらも出来ると言うだけのことはある」
試しに閉じた状態で振り回したり、腕や体を支点に回転させたり持ち替えたりと動いてみる。
うむ、かなり扱い易いな。
そうだ、これと【気流操作】を組み合わせて。
「こ、これは何とも…」
「ローズがまさかここまで鉄扇を使い熟すとは」
広げた鉄扇を要を支点にくるくると回したり、投げた鉄扇を【気流操作】で操ったり、広げた鉄扇の上に乗り【気流操作】で飛んでみたりしているが、なかなかに楽しいな。
「ローズさんは文句無しに合格だね。ヴァイト君の推薦と、初登録ということを鑑みて、Bランクから始めようか」
「承知した」
無事登録完了だな。
一階に戻り登録完了の手続きとギルドカードなるものの発行を待つ。
どうやら自分がギルド員であることの証明と、身分証明の役割をもつカードらしい。大事にせねば。
「ローズ、この後どうする?早速依頼受けるか?」
「ふむ。先程の鉄扇が気に入ったので、自分用が欲しいのだが」
「そういやそうだな。武器によって必要な素材は変わるし、先に武器屋に行くか」
「そうしてもらえると助かる」
数分後、無事に手続きを終え私のギルドカードが手渡された。
「こちらはBランクのギルドカードです。今は銅色をしていますが、Aランクになりますと銀、Sランクになりますと金色に変わりますので、頑張って下さいね」
「感謝する」
ギルドを出て再びヴァイトの案内で武器屋を目指す。
が、二軒しか離れていなかったのですぐに到着した。
「よう、おっちゃん!」
「なんだヴァイトか、今日は何の用だ」
「この人の武器を作って欲しいんだが」
「…んん⁉︎な、なんだこのえらい美人な嬢ちゃんは。こんな子が武器なんて扱うのか?」
「今日登録したばかりでBランク、分かるか?」
「お、おう。なるほどな。見掛けで判断すると痛い目に合うってわけか。で、嬢ちゃん。どんな武器が欲しいんだ?」
「うむ、鉄扇を作ってもらいたい。なるべく重いものが好ましい」
「鉄扇って、こりゃまた特殊な武器を。しかも重い方が良いだなんて変わってんなぁ」
あの訓練用鉄扇の感覚から比較して、この店に並んでいる武器で分かりやすい重さは…これか?
「これくらいが良いのだが」
「おいおい…それはウチの中で最重量の大剣だぞ?軽く30kgはあるはずなんだが、それを片手って…この嬢ちゃんどうなってやがる」
「まぁまぁ、ローズはかなり強いんだよ色々と。それで、出来そうか?」
「出来なくは無いが、素材がなぁ。この重量となると、骨組みに『ブレードディアの角』が10本、扇面に『ミスリル』とまではいかないが、せめて『黒鋼』が20kgくらいは欲しい」
「ブレードディアと黒鋼か…どっちもこの辺りじゃ見ないな」
「最悪、黒鋼は取り寄せりゃある。だがブレードディアの角は流石に多く出回ってねぇからな」
素材の問題があるのか、それは仕方ないな。
ディア…鹿か。あの森の鹿はなんて名だったか。
「ヴァイト、あの森にいる鹿はなんだ?」
「あぁ、あれはフォレストディアだ。一応魔物なんだが大人しくてほぼ動物だな。ソイツが進化したのがブレードディア、角が鋭い鋼鉄で出来てるんだ」
「なるほど進化か…ならば何とかなるかもしれん」
「え…まさかローズ」
「うむ、そのまさかだ。今から行ってみよう。ご主人、黒鋼の取り寄せは任せたぞ」
「お、おう?よく分からんが発注って事で良いんだな?なら任せておけ」
武器屋を出て真っ直ぐ森へと向かう。
あの鹿が魔物だった事は驚きだが、それならば話は簡単だ。私が進化してブレードディアになってしまえば良い。
ヴァイトと協力してフォレストディアを30体程狩り、影で捕食する。
〈フォレストディアを一定数捕食したことによりフォレストディアからブレードディアへの変化が可能です〉
「狙い通りだな。ではヴァイト、私に構わず角を取ってくれ」
ブレードディアへと変化し、スライムから得た【分裂】で5体に分裂する。
これで一対の角を取って10本になるな。
〈ブレードディアに変化したことによりスキル【硬質化】を獲得しました〉
〈【分裂】をしたことによりスキル【同時並列思考】を獲得しました〉
そうか、魔物に変化してもスキルが得られることを忘れていたな。
「まさか、魔物になった友人の角を剥ぎ取る日が来るとは」
まぁ私だからこその素材集めのやり方だな。
ヴァイトがナイフを取り出して私(×5体)の角をゴリゴリと削り取っていく。
「えっと、痛くないか?」
心配してくれるヴァイトに大丈夫だと頷く。
案外硬い角だから神経は通っていないのかもしれん。
無事に全ての角を剥ぎ取った所で【分裂】を解除し、人に戻る。
「これが私の角か。中々に硬くしっかりした角だな」
「なんて斬新な素材集めだ。この方法なら無駄に時間も掛からないとはいえ、精神的にくるな」
極端に言えば、私がヴァイトの手足を削ぎ落とすようなものだからな。それは確かに心苦しい。
「すまないな、嫌な役をさせてしまって」
「いや、痛くないなら良いさ。ローズの武器作りに貢献できたなら光栄だ」
「ふふ、ヴァイトは相変わらず優しいな」
む、久々に顔を背けられた。
解せぬ。




