第五話
私の発言が原因で、何故か二人の前に座らされる。
二人はどうしたものかといった雰囲気で言葉に詰まっているようだ。
「ローズにどうすれば恥ずかしいって理解してもらえるか」
「実際にヴァイトさんに見られる…というのは多分効きませんね」
「脱ごうとしたくらいだ。平気な顔で裸を見せてくるだろう」
「ここはもう、『そういうものだ』と言葉通り理解してもらうしか無いのでは?」
「…試してみるか」
何やら方針が決まったようだ。
二人が私の方を見つめてくる。
「ローズさん、貴女は女性です。女性は男性に裸とか、体そのものを見られるのを恥ずかしいと感じます」
「私は別に」
「良いから、そう感じると理解しろ。で、例えば俺がローズの裸を見たとする。俺は慌てはするがローズには何もしない」
「うむ。ヴァイトならば私に危害を加えたりしないと信用している」
「ありがとう。でもだ…これがさっきの四人組みたいな、悪い人間だった場合そうはならない」
「良いですかローズさん。男性とは一部を除いて皆狼です。目の前に裸の女性、それもローズさんのようにとても綺麗な女性がいたら、絶対に手を出してきます」
「む?ならば倒して捕食すればいいのか?」
「いや、ローズなら出来るだろうが違う。そうじゃない」
「そもそも、男性に裸を見せないで下さい」
「私より弱ければ問題なかろう?」
「「俺がローズの裸を他の男に見られたくないから駄目!」」
「おお、そういうことか!二人の為ならば他の男に裸を見せないと約束しよう」
「「…最初からこう言えば良かった」」
そうかそうか。二人は私が他の男に裸を見せるのが嫌なのか。
最初からそう言ってくれれば良かったものを。
しかしそうと分かれば話は単純だ。
「やはりヴァイトも一緒に風呂に入ろう」
「「なんで⁉︎」」
む?違ったか?他の男に見られたく無いのなら、やはりヴァイトが一緒に入っても問題無いのでは?
「振り出しに戻った」
「途中までは良かったのに」
「…あ」
「何か良い案が?」
「うん。ローズ、俺が一緒に入ってもローズは恥ずかしく無い。でもリリちゃんは違うだろ?それは分かるか?」
「ふむ。リリが恥ずかしいのか。確かに『女性は男性に裸とか、体そのものを見られるのを恥ずかしいと感じる』と言っていたな」
「そうです!私が恥ずかしいから駄目です!」
「そうかそうか。リリが駄目と言うのなら仕方ない。すまないなヴァイト、仲間外れにしてしまうようで」
「いや、全然問題無い。むしろ理解してくれてありがとう!」
ふふ、ヴァイトもリリも面白いな。
風呂ひとつでこんなにも必死になって。
俺だって別にリリちゃんの裸見ても何とも思わない気がするんだが、その場合女性同士でも他の女に裸を見せるのは駄目なのだろうか?
人間になれたは良いが、勉強する事は多いな。
「色々あったけど、まずは夕食ですね!ヴァイトさんも良かったら御一緒にどうぞ」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
「ローズさん、もし食欲が無かったら無理に食べなくて大丈夫ですからね。ただ私の両親に恩人を紹介したいので」
「問題無い。是非同席させてほしい」
リリが店を閉めるのを手伝い、店の扉の先にある階段を上がる。
下が店、上が家となっているようだ。
リリの母親と思われる女性が料理をしていて、父親だろう男性がテーブルに食器を並べていた。
「お父さんお母さん!急で悪いんだけど、二人お客さんを招いても良い?」
「あら、どなたかしら?」
「お母さんの薬の材料のキノコ採りに行った時、助けてくれたウルフさん!」
「何だって⁉︎それは勿論良いとも、あの時のお礼も言いたいしな!」
「…ただちょっと複雑なんだけど、そのウルフさん、人間になったみたいで」
私の紹介をしてくれているのか?
ならば私自ら出て自己紹介せねば。
「初めまして。リリの紹介にあった元ウルフのローズだ」
「え?こ、この綺麗な女性がその時のウルフなのかい?」
「そうみたい」
「少々特殊なスキルを持っていてな。理解してくれると助かる」
「それは勿論、リリの恩人ですから」
「あらあら。こんな美人さんと一緒にご飯が食べられるなんて、夢みたいね」
リリの両親だけあって、心が広い。
それからヴァイトの紹介も終え、量を増やす為に母親は再び料理に戻る。
30分後にはテーブルの上に、ホカホカと湯気の上がる料理が並んでいた。
これが人の食事か。私は食事をした事が無いから分からないが、食事というのはただ食べるだけでは駄目なのだな。
手を加えなければ食べる事が出来ないとは、不便な。
「「「「いただきます」」」」
「む?『いただきます』とはなんだ」
「これは食材やそれを作ってくれた人に感謝を込める言葉だよ」
「そうか、それは良い心掛けだ。私も今後は見習っていこう」
「(…まさか、捕食の度にいただきますって言うつもりじゃないよな?)」
「さぁローズさん、遠慮しないで食べて!娘の恩人さんに簡単なものしか出せなくて申し訳ないのだけど」
「…あ、お母さん。その、ローズさんは食事は…」
「いや、リリ。折角私にと作ってくれたものだ。食べねば失礼であろう」
ヴァイト達が持っている、この三叉の小槍で料理を刺せば良いのだな。
目の前にある肉を一切れ刺し、口の中へと運ぶ。
噛み砕こうと口を閉じた瞬間、私の口内から肉が消え、替わりにいつも捕食で取り込む時の感覚がした。
「……?」
「(ローズさんがコテンって首を傾げてる!可愛い!)ローズさんどうしたんですか?」
「口に入れたはずの肉が消えてしまったのだ」
「溶けちゃう程美味しいお肉って意味じゃないですよね?」
「いや、言葉通り消えてしまった。一度も噛まずに消えたのだ。ただ捕食した時と同じ感覚がしたのも気になる」
「あー…もしかしてだが、口の中、所謂体内に入ったものは捕食対象なのかもな」
「…ふむ、それは一理ある。故に私は影の捕食で通常の食事がいらなかったのか」
「ローズさん、食べた事で何か変化は?」
「特には…少し疲労が回復したくらいか?」
その疲労すらいつも微々たるものだからな。
食事の真似事くらいは出来ると考えれば良いか。
「ローズさんは特殊な体質なのねぇ」
「娘の恩人です。少し人と違うくらい何とも思いませんから大丈夫ですよ」
「お気遣い感謝する。折角の料理の味を感じられないのは残念だが、最後まで頂くとしよう」
グニ…パクッ
グニ…パクッ
グニ…パクッ
「(ひたすらフォークでお肉を刺しては口に運ぶローズさんが可愛すぎる)」
「(凛々しい感じの美人なのに、食事風景だけは小動物だ)」
普段私が捕食しているのは魔物一体丸ごとだが、この小槍で刺せて口に入る大きさにしなければ人は食事が出来ない。
故に料理という工程を経るのか。
人間とは工夫と努力に溢れているのだな。
「「「「ご馳走様でした」」」」
「…ご馳走様でした」
食前だけでなく食後も感謝の言葉を言うのか。
これで食事の作法は完璧だな。
味は分からないが、食事そのものは皆と共にする事が出来ると分かったし、これは嬉しいな。
食後に少しリリの両親を交えて雑談をし、外が完全に暗くなった。
「ローズさん、そろそろお風呂入りませんか?」
「む、遂に風呂とやらか。ヴァイト、私は風呂へ入ってくる」
「はいよ、ゆっくり温まってきな」
「ヴァイトさん、今日は遅いですし客間もありますので、良かったらローズさんと泊まっていってください」
「これはまた、何から何までお世話になってしまって」
「いえいえ、聞けば娘の恩人をここまで連れて来て下さったそうですし、このくらいは」
客間へと案内されていくヴァイトとは反対側、二階の端にある扉が風呂場のようだ。
中は木の棚があり、リリは脱いだ服をそこへと置いていく。
私の服の脱ぎ方は、先程の雑談中にリリとリリの母親から説明を受けた。
だが、背中のファスナーとやらに手が届かん。影操作で掴んで下させる。
中の下着は何とか自分の手で外す事が出来た。
たゆんっ
下着を外すと胸が自由になるのだな。
リリのと比べると大きくて邪魔なのだが、これは変えられないのでどうしようもない。
「ローズさん、やっぱり大きいですね」
「私のは大きい方なのか?」
「お母さんより大きいです。私よりちょっと年上くらいの見た目なのに羨ましい。それに肌も髪も全部綺麗だし、良いなぁ」
「私はリリの背丈や体付きが可憐で良いと思うのだが」
「こんな武器持ってる人に言われても、素直に喜べないです」
リリが私の胸に手を伸ばしフニフニと触ってくる。
女というのはこういう事を互いにするものなのか?
ならば私もリリを触るとしよう。
「ひゃっ!?ロ、ローズさんも、触りたかったんですか?」
「風呂で女同士はこうするのではないのか?」
「わ、私はただ羨ましくて触っちゃっただけなので、ローズさんはやらなくて良いんです!」
「そうだったか。ならリリが満足するまで触ると良い」
手を下ろしてリリに身を任せる。
最初は戸惑っていたリリだったが、またゆっくり手を伸ばしてきた。
「やっぱり柔らかい。手に吸いつくような張りとすべすべな肌。わ、私女なのに…ローズさんの体に触ってドキドキしちゃってる」
それはいけない事なのだろうか?
リリが問題無いのなら、私は構わないが。
「あの、抱き締めても良いですか?」
「私はリリに何をされても構わない。リリの好きにしてくれ」
「はぅ⁉︎ローズさん、それ絶対他の人に言っちゃダメですからね⁉︎」
「分かっている。他の男は駄目なのだろう?」
「分かってくれてるなら良いんです。それじゃあ失礼しますね」
服を着ていた時はそこまで沈まなかったが、裸では完全にリリの顔が胸に埋もれてしまっているな。
暫くして満足したのか、リリが幸せそうな顔で私から離れた。
「ありがとうございました。ちょっと予定外の事しちゃいましたけど、まず体から洗いましょうか」
いよいよ風呂か。
服を脱いだ部屋の奥の扉を開けると、大きな器と細長い管が一本。
やはり見ただけでは全く分からないな。
「じゃあローズさん、ここに座って下さい」
リリが差し出してくれた小さい椅子に座る。
何やら丸い金具を回転させると、リリの持っている管の先から水が出てきた。
「おお。これは凄いな!」
「便利ですよねこれ。頭にお湯かけますね」
頭から温かい水が流れてくる。
髪が水を吸って重くなり、体にピッタリと張り付いた。
リリが透明な液体を手に垂らし、そのまま私の髪をワシャワシャと擦っていく。
「な、なんだこの白い物は!リリ、これは危険は無いのか⁉︎」
「大丈夫ですよ。これは髪の毛の汚れを落としてくれる泡ですから(慌ててるローズさんも可愛い)」
リリが大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。しかしあの透明な液体がこんな大量の泡になるとは、もしやこれもスキルの一種なのだろうか。
また温かい水を頭にかけられ、白いモコモコが流れ落ちていった。
「ローズさん、次は体を洗うので立って下さい」
む、またあの透明な液体。
今度は私の体がモコモコにされてしまうのか。
「髪と違って、体はヌルヌルしてちょっと気持ち悪いですかね?」
「あまりモコモコしないのが不思議だが、気持ち悪いという程ではないな」
何故髪と体でモコモコ具合が違うのだろう。
透明なだけで少し違う液体だったのか?
「はい、全身洗い終わりましたよ。じゃあ先に湯船に入っていて下さい」
「いや、覚える為と洗ってくれた礼として、私がリリを洗おう」
「え、良いんですか⁉︎」
「もちろんだ。今日は世話になってばかりだからな」
嬉々として椅子に座ったリリに、先程までのリリを思い出しながら再現していく。
まずはこの金具を回して温かい水を出す。
それをリリの頭にかけていき、髪を全体的に濡らす。
髪の時はこっちの透明な液体を取っていたな。
リリの髪に指を絡ませてワシャワシャと動かしていく。
「(あぁ、ローズさんの細くて綺麗な指が私の頭に…幸せ)」
モコモコを完全に洗い流して次はこっちの液体だな。
リリの体を撫でるように洗う。
「ローズさん、とても優しくて上手で…すぅ⁉︎ろ、ローズさんそこは、ちく…ひゃ⁉︎そんなに胸を擦らないで…はぅぅ⁉︎下もダメぇぇ!」
り、リリが発狂してしまった!
何故だ。私はやってもらったように全身余す所なく洗い尽くしただけなのに。




