第三話
あの少女と出会ってから、早いもので1ヶ月(体感)も経つ。
あの日から早く人間になりたくて、俺はひたすらに自分の強化をしてきた。
ウルフの素体を100体取り込んだ時に素体が進化して、ブラッドウルフからダークウルフへ。
新しいスキルは【ダークファング】【恐怖の波動】【シャドウダイブ】を獲得。
【ダークファング】は半径10m以内に存在する任意の影から牙が飛び出し相手を噛みちぎる強力なスキル。正直狩りはこれだけで終わる。
【恐怖の波動】は半径20mの円状に広がる闇のエネルギーで、これに触れると恐怖で体が硬直するらしい。
【シャドウダイブ】は名前通り影に潜って姿を隠すスキルで、これと【潜伏】を合わせると敵にほぼ見つからずに待ち伏せ出来る。
次に鼬系の進化、嵐貂から風神貂へ。
【鑑定中級】に進化した鑑定によると、【風刃】【雷刃】の使用した頻度によって風神貂か雷神貂に進化するようだ。
俺は攻撃速度重視で【風刃】ばかり使ってたから風神貂だったんだな。
風神貂のスキルとしては、【嵐纏】【気流操作】【エアクラッシュ】の三つ。
【嵐纏】は暴風を身に纏い、遠距離攻撃や敵の接近を逸らす防御系スキル。
【気流操作】は自身の周囲の空気を操り、慣れれば少しの間浮くことも可能。
【エアクラッシュ】は今までの風刃が剣とするなら、ハンマーのような攻撃。空気の塊を指定した位置に落として押し潰す。
スライムはあまり出会わないからまだ進化出来て無いが、モグラのモールがもうすぐ60体目の捕食で進化予定だ。
着実に強くなってるしスキルも充実してきた。
モールが進化したら一度森の反対側を目指してみようか。
そろそろ人間の強さも知っておかないと、目標の修正も必要かもしれないし。
っと、モール60体目捕食完了だな。
〈クロウモールを一定数捕食したことによりグラウンドモールからアースモールへの変化が可能です〉
勿論変化しますよ。
〈アースモールに変化したことによりスキル【アースクエイク】【振動感知】【地面操作】を獲得しました〉
どれどれ、鑑定っと。
【アースクエイク】は半径30m範囲に地震を起こし、地盤によっては地割れを誘発する。
【振動感知】は地面の振動、壁の振動などを感知し、敵の接近や罠の感知も出来る。
【地面操作】は自分が触れている地面を操作する事で、坂や壁など自由な形に形成出来る、と。
どの三次進化も、攻撃スキルと補助スキルがバランスよく得られて助かるな。
少しスキルの扱いに慣れたらいよいよ森を横断しますか!
何体かのウルフ相手にモールのスキルを試して慣れていく。
ただ、ダークウルフになった事でフォレストウルフは本能的に逃げるから【シャドウダイブ】と【潜伏】が必須だと実感した。
逆に言えば、堂々と歩いて森を進むだけで勝手に逃げるから移動は楽だな。
そんなわけで簡単に森を抜けられた。
俺が入った崖側と違い、反対側は草原が広がりその奥には山と洞窟、トンネルのような通り道が。
こっちは随分自然豊かなんだな。
さて、誰でも良いわけじゃないから、何処かに悪い人間はいないかなぁ。
お?トンネルから一頭立て二輪馬車が…。
んーでもなぁ、馬車を使うってことは盗賊とかじゃないし、あまり悪人のイメージが無い。
ここは【シャドウダイブ】と【潜伏】で様子見かな。
俺の目の前で止まった馬車から、男三人、女二人の五人が降りてくる。
男二人はしっかりとした鎧と剣、斧を装備。
女二人も一人は白いローブに杖、もう一人は軽装備に短剣と身軽な感じ。
そして問題は最後の男。
明らかに装備としては心許ない革の防具と安そうなボロボロの剣。
なんだこいつ、一人だけまともな装備させてもらえてない。
「おら、さっさと前歩け」
「あんたが盾になってる間に私達が倒してあげるから」
「怪我をしても死ななければ何度でも治してあげますから、安心して囮になって下さいね」
「早く行けオラ!」
あぁ、なるほどな。
コイツらはこの男を囮にして狩りをして稼いできたってことか。
不思議な事に、俺の【気配察知】ではこのボロボロ男が一番反応してるんだが…
囮になり過ぎて生命力とか体力とかが高いとか?
まぁそれは今はいいか。
俺にとって嬉しいことはただ一つ。
こんなにも早く捕食対象が四人も揃った事だ。
さて、ただ捕食するなら今すぐ影操作で捕まえて終わりなんだが、もう一つ人間の強さを確かめる目的もあるし、ここは正々堂々姿を現すか。
「なっ⁉︎こいつどっから現れた!」
「待って!この毛色、まさかダークウルフ⁉︎なんで危険度Aランク上位の魔物がこんな所にいるのよ⁉︎」
「不味いですね…私達は四人ともBランク。四人合わせて精々Aランク下位の相場ですよ」
「ここはコイツを囮に逃げるのが無難だな…」
おっと、そうはいかねぇ。
【地面操作】で俺達を囲むように壁を作る。
飛べるなら飛べるで【エアクラッシュ】を上からお見舞いしてやるさ。
「ば、馬鹿な!何故ダークウルフが土系統スキルを⁉︎」
「コイツヤバいよ!絶対普通のダークウルフじゃない!」
「貴方、早くダークウルフに突撃して時間稼ぎして下さい!」
「隙ができれば攻撃して壁が壊れるかもしれないし、早くしなさいよ!」
どいつもこいつも言いたい放題だなぁ。
で、逆らえないボロボロ男は剣に手をかけ…
ッ!?こ、こいつ…剣を握った瞬間威圧が増した?
どうやら色々と理由がありそうだが、俺が相手したいのはお前じゃないから、一旦離脱してもらうぞ。
【気流操作】でボロボロ男を浮かせて壁の外へ放り投げる。落ちる直前に空気のクッションも作ったし、怪我はしてないはずだ。
まだ俺には回復スキルは無いからな、なるべく捕食対象以外に害は加えない。
「ま、待てよおい…今の【気流操作】は風神貂のスキルだぞ?コイツ本当になんなんだよ⁉︎」
「クソ!もうどうにでもなれ!」
「馬鹿!待ちなさい!」
最初の捕食対象いらっしゃいませー。
突進しながら斧を振り下ろしてきた捕食対象1には初回特典としてフルコースを堪能させてあげよう。
・まず【地面操作】で足を絡めて固定。
・前のめりに倒れそうになるのを【気流操作】で無理やり留める。
・【影操作】で影を全身に巻き付かせて身動き出来なくして。
・【ダークファング】で足を噛みちぎる。
・「ギャァァァ」とかうるさく泣き喚くから【風刃】で喉を切り裂いて声帯を潰す。
・ゆっくり近付いてる間に地面に転がす。
・喉を踏み付けて初めて使う【血流操作】。
・全身の血を逆流させたり止めたりして死にかけまで持っていく。
・最後は【エアクラッシュ】でペチャンコに。
スキルは折角だからゆっくり確認したいから、捕食は全員同時にしよう。それまでそこで転がっててくれ。
「こんな化け物に勝てるわけねぇだろ!」
「待って…お願い待って!死にたくない!外にいるアイツなら好きにして良いから!」
「どうか慈悲を!」
違うんだよなぁ。
外にいるボロボロ男を差し出してる事が余計に捕食対象決定なんだよ。
てか、【気配察知】で外にボロボロ男がまだいることが分かるんだが?
さっさと逃げれば良いのに何してるんだアイツ。
まあ良いか。
一人目はスキルを奮発したし、後の三人は手短で。
【恐怖の波動】をこの壁の中だけに広げて発動。
三人がガタガタしながら身動き取れなく…いや最初から恐怖で動いてなかったわ。
【エアクラッシュ】で三人まとめてグチャっとやって終了。
コイツらが弱いのか、俺が強くなれたのか判断出来ない戦いだったな。
いよいよ待ちに待った捕食だ。
四人を同時に【影操作】でまとめてから【捕食】と。
〈生身の人体を捕食をしたことによりスキル【人化】を獲得しました〉
……よ、よっしゃぁぁ!!
遂に!念願の人間だぁぁ!
そうか素体が足りなかったのか!
今までのはただ人骨化した骨に肉をくっつけてただけってことみたいだな。
さ、早速【人化】を…!
〈スキル【人化】使用を確認〉
〈人体素体を選別中〉
〈人化素体を確認したため形成に移ります〉
〈形成及び取り込んだ衣服の再現完了〉
〈スキル【衣類修復】により元の状態へ復元されます〉
あ、頭に髪の毛がある!金髪で長いであろう髪を後ろでハーフアップにしてるのか!
てことはやっぱり素体は女性なのか。
おお、やっぱり高そうな服!
ロング丈の軍服風ワンピースを全体的に紺色に配色、縁を金の刺繍で飾った、気品と力強さのあるかなり上等な素材だと着心地でわかった。
でも、女性にしてはちょっと戦闘向けじゃないか?
〈素体元のスキルを確認します〉
素体元のスキル?この女性が生前使っていたスキルってことか。
〈確認完了〉
〈生前スキル【戦神の加護】【武勇】【勇猛果敢】を獲得しました〉
〈生前の称号『傾国傾城』を獲得しました〉
…ん?この素体って女性だよな?
なんか、めちゃくちゃ勇ましいスキルばっかりなんだが。
最後の傾国傾城は確か『君主が国や城を疎かにし滅びてしまうくらい美しい女性』って意味だったはず。
そこぐらいしか女性らしさが無いんだが…
スキルは追々調べてみるか。
〈生前の人格形成を完了しました〉
〈生前の人格を再現させますか?現在の人格は失われず共存されますが任意で完全統合も可能です〉
生前の人格までもってこれるのか!
でも確かに称号にまでなってるくらい美人ーーであろう。俺はまだ自分の姿を見ていないーーなら、男の俺のまま喋ったら違和感しかないか。
今すぐ俺が消えるわけじゃないなら怖くないし、再現で!
〈人格の再現を開始〉
〈人格の再現が完了しました〉
これは…とても懐かしい感覚。
死んだはずの自分が蘇った喜び。
そうか、私は生き返ったのか。
…うん、ちゃんと男の俺としても思考できてるな。
凄い不思議な感覚だ。
俺として過ごしてきたのに、生き返った喜びを感じるのはどうなんだ?
残念ながら私の生前の記憶は全く無いけれど、それは仕方がないことだ。
死んだ時に脳の大部分が死んでしまったのだから。
だからこれからは私の生きていた時の情報を集めながら、俺の影になる前の記憶を探して行こう。
人になれたし、生前のスキルも戻ってきた。
最初の目標は完璧に達成出来たと言っていい。
情報はすぐには集まらないだろうし、気長にこの世界を生きながら前進していくとしよう
まずは放置してしまっていたあのボロボロ男と話してみよう。
壁を地面に戻していくと、やはりまだいたボロボロ男が何か言いながら歩いてくる。
先程までのボロボロな装備ではなく、上下黒服に黒い金属製の軽鎧という装備。
俯いて前に流れていた髪も上げ、茶髪のウルフカットになっていた。
ボロボロ姿の時は判断出来なかったが、およそ年齢は20前後だろうか。
猫背だった格好からしっかり立った事で、私を少し越すくらいの位置に目線が上がっている。
「おいおい、アイツらは俺が正体明かして始末してやろうと思ってた…の…に?」
あ、そういやさっきまでダークウルフだったな。
それがいきなり軍服ワンピースの美人であろう女性になってたら戸惑うか。
俺が私の事を美人って…少し恥ずかしい人みたいだけど、二人の人格なんだから仕方ないな。
というより、私の口調が女性らしくない教官口調な事もあって思考に違和感がないとは、何とも言いがたい感覚だ。
徐々にこの思考での話し方も統一されてくるだろう。
取り敢えず対外人格は私で統一すれば姿からも違和感が無いだろうな。
「先程は飛ばしてしまい申し訳ない。怪我は無いだろうか」
「え?あ、あぁ。というか、どうなってるんだ?さっきまでここに居たのはダークウルフで…」
「ふむ。どう答えたものか…取り敢えず少し座って話でもしよう」
【地面操作】で二人分の椅子を作りそこに腰掛ける。
ちゃんと疲れないように背もたれと肘置き付きで。
「あ、これはどうも。じゃあまずは自己紹介といこうか。俺の名前はヴァイト、Aランク冒険者だ。さっきの奴らは冒険者ギルドの問題児的な奴等で、俺はそういう奴等の下っ端役をする事で本性を調査。程々に痛い目にあわせて更生すれば良し、しなければ始末っていう役割の調査官をしている」
「なるほど、それは邪魔をしてすまなかった。私の事なのだが…すまない、名前も何もかも思い出せないのだ。気付いたらこの森の先の谷底で目が覚めてな」
「た、谷底って…あの下からよく生きて出てこられたな。それで、さっきのダークウルフはどこに?」
「…その前に失礼だが。ヴァイトは私が危険な存在に見えるだろうか」
「いや?それは無いな。俺のスキルに【敵性看破】ってのがあるんだが、これはどんな存在であれソイツが善か悪か見極められる。魔物だろうが人間だろうが、悪じゃ無いなら戦わないのが俺の主義だ。さっき剣を取ったのは『いよいよコイツら始末するか』って思ったからだしな。アンタからは俺に対して全く敵意を感じなかったし、そこは信用してる」
この男、俺と全く同じ思想で…。
何だろうな、初めて会ったはずなのに不思議とコイツの事を俺も信じられる気がするのは。
ヴァイトになら、俺の正体見せても良いか。
俺はもう一度ダークウルフになるべく変化した。




