第二十四話
資料館などに行ってからまた数日が経過した。
毎日洞窟に潜っている甲斐もあり蝙蝠と蜘蛛が三次進化へと到達出来ている。
増えたスキルはレッサースパイダーからポイズンスパイダーになった時に【解毒】【麻痺毒生成】の二つ。
キラーバットの方はカースバットへ変化して、スキルは【呪い付与】【呪い耐性】を獲得。
『『状態異常【呪い】』:全ステータス10%低下。呪いを掛けられる度に10%低下し、最大30%低下する』
呪いをかける必要は無いだろうが、耐性が得られた事はこの先で必ず役に立つ時がくる。
やはり状態異常系の魔物は進化させると便利なスキルが多いな。
【解毒】スキルも手に入れたし、二人が問題無ければ毒沼の依頼も受けてみても良いかもしれん。
「お前達、所持金はいくらだ?」
「はい…銀貨8枚と銅貨3枚です」
「ふむ。それではあまり好きに使えんな。旅の支度も考えるともう少し稼いでおくべきか」
「え?はい…」
「私の所持金は…金貨9枚銀貨5枚銅貨4枚か。私は暫く大丈夫だから、Bランク依頼の毒沼関連を受けてみるか?」
「あ、あの、私が同行してもよろしいのでしょうか?」
「Bランクが一人でもいれば良い依頼があったからな、私とネルがいれば問題無かろう」
「ご主人様に頼りすぎないよう尽力致します」
「近接では毒になりやすい。なった場合はすぐに言うのだぞ」
「はい、ありがとうございます」
三人で毒沼の依頼を二つ受け毒沼へ向かう。
王都にいるのがあとどれくらいか分からんが、少しでも蓄えがあった方が安心だろう。
『ネル、ご主人様はもしかして金銭感覚がズレてしまわれているのでしょうか』
『日用品を殆ど買われませんからね。恐らく装備などの高価なものしか買われないのが原因かと』
『私の前のお小遣いは月に銀貨3枚ですよ?3倍近くあるのに好きに使えないだなんて…』
『ご主人様は何を基準に計算されているのでしょうか』
毒沼に近付き現れ始めた毒霧を【強風】で吹き飛ばしながら進む。
私は視界が悪いのが嫌なだけだが、二人には厄介な霧だろうからな。
毒沼のすぐ傍まできたら例の小瓶を5つ取り出して毒沼を採取する。
この沼の毒は解毒ポーションと矢などに塗り込む毒に使われるようで、依頼が常にあるのが利点だ。
今回はこの毒沼採取とポイズンセンチピードの依頼を受けたので、更に沼の奥へと進む。
途中で遭遇したポイズンスラッグ5体はネル達が対応する前に【エアクラッシュ】で瞬殺しておいた。
【溶解液】なんてものが二人に飛ばされたら危険だからな。
前回が11体だから、まだまだ進化には足りんか。
以前大毒百足2体が現れた地点まで来ると、今度はしっかりと目当ての毒百足がいた。
「ネル、【キリングバイト】に気をつけながら攻めるようにな」
「はい!【風刃】!」
「【スピードアップ】!【パワーアップ】!」
ほう、そのステータスアップのスキルは使用したスキルのスピードも上がるのか。
私の時も今後はやってもらうとしよう。
しかし【暴風刃】を避けるような毒百足だ、やはり少しスピードが上がっただけでは当たらない。
私が何もしていないので毒百足の標的はネルに。
牙で挟み込まれる寸前、ネルはその場で跳躍し毒百足の頭の上に着地した。
「【風刃乱舞】!」
おお?これは初めて見るスキルだ。
ネルの持つ短剣が風を纏い、その短剣で毒百足の頭を高速で切り刻む。
強く、それでいて速いスキルだ。
ソフィアのサポートあってのものと考えても素晴らしい。
毒百足は頭の上で暴れているネルを振り落とし、面倒くさい相手と思ったのか、何もしていない私へと標的を切り替えた。
ネルのスキルを見て面白いことを思いついたぞ。
黒薔薇を取り出し布を解く。
10本の鏢全てに両手の指先から出した【粘着糸】を貼り付ける。
3本に【呪い付与】、別の3本に【毒付与】、最後の4本に【麻痺毒付与】を掛けて、指と手を高速に動かす事で擬似【風刃乱舞】を生み出した。
「ふむ、『鏢風乱舞』とでも名付けようか」
「ご主人様、お見事です!」
三つの状態異常を受け苦しそうに痙攣している毒百足の頭を、ネルが【風刃】を何発か当てて切断した。
「やったなネル」
「はい!ご主人様とソフィア様のサポートのおかげです!」
「どちらかというと、ご主人様の状態異常の嵐が主な功績かと」
「いや、あれでは決定打にはならん。今回は二人の成果だ」
毒百足の牙を剥ぎ取り本体は捕食。
戦っている間にまた集まり出した霧を再び吹き飛ばしながら帰路へつく。
今回は途中で手を出したが、ソフィアのスキルがあればネル一人でも毒百足は討伐可能だな。
王都に到着したらギルドで報告。
報酬の銀貨4枚と、今回も牙の買取価格の銀貨1枚をソフィアへと渡した。
これで一応は金貨1枚分を超えたか。
やはり金貨相当の金を持っていなければ、いざという時に何も買えなさそうだからな。
これくらいあれば王都を旅立つ時にも困らないだろう。
今日はすぐに宿には戻らず、いつもの違う道で帰る。
普段であれば屋台で食事を購入して宿なのだが、二人の為に食材が売っている通りを見てみるつもりだ。
緑や赤など色鮮やかな野菜が売られている店、薄い20cm程度から塊の肉が売っている店など、その種類はかなりのものであった。
以前私が作った『こっぺぱん』挟みとは比較にならないほどの料理を売っている店もある。
少し通りが違うだけでこうも変わるのだな。
ネルは今日買うつもりは無いのか、売られているものを物色するだけで通り過ぎていく。
結局いつもの屋台通りで食事を購入し宿へと戻った。
「ご主人様、王都を出たら何処へ向かう予定なのですか?」
「ふむ、そうだな…」
二人の同行が決定してから、王都周辺の危険地帯探索は諦めた。
私一人で行くのも良いが、それはまたの機会でも良いだろう。
「行ったことがなく、面白そうな所が望ましい」
「そうなりますと…遺跡や迷宮がある街は如何でしょうか」
「遺跡に迷宮?それはどういったものだ?」
「遺跡は古い時代から存在している建造物で、過去に作られた武器や遺産が存在したりと、冒険者にとって宝探しのような場所です。一方迷宮とは突如現れる、何階層もある迷路のようなものです。こちらは人の手が入っておらず、何があるのか、どんな魔物が出るのかは迷宮によって全く異なります」
「ほう、それは面白そうだ。運が良ければ私の情報も手に入るかもしれん。一番近いのは何処だ」
「ここから最も近いのは、北へ進んだ先のセッカという街の付近にある遺跡です」
「ではそこを次の目的地としよう」
「「はい!」」
目的地が決まればあとは出立の日と備えだ。
「そのセッカという街はどんな所だ?」
「王都より北なので気温が低く作物が育ちにくい代わりに、鉱山があり鍛治が盛んだとか」
「鍛治か。武器の調達には困らなそうだな」
そういえば王都の鍛治職人を紹介されていたな。
旅立つ前にでも行ってみるとしよう。
「もう暫く王都に滞在しセッカの街を目指す。お前達はその間に買うべきものを買っておくといい」
「はい。では夜営時に使える調理器具や食材、それと防寒具の類を買っておこうと思います」
「ふむ、それは私が金を出すべきだな。これで足りるか分からんが足りなかったらまた言ってくれ」
ソフィアに金貨2枚を渡す。
「あ、あの…これでは多すぎますご主人様」
「そうなのか?あって困るものでは無いだろうし、余ったら好きに使え」
「は、はい。ありがとうございます」
『やはりご主人様は金銭感覚がズレ過ぎてます!』
『こんな簡単に金貨を渡されると、逆に使うのを躊躇ってしまいますね』
二人が必需品を買っている間に鍛治職人に行くとして、数日は別行動の方が良さそうだな。
「お前達が調達をしている間に私は鍛治職人に会いに行く。明日と明後日は別行動としよう」
「「畏まりましたご主人様」」
その後、今日はネルの担当である風呂へ共に入り髪も丁寧に拭いてもらう。
二人は見慣れているし、どうせ脱いでしまうのだからと裸のまま部屋へ戻りベッドに潜る。
ソフィアが風呂から出た後、二人に挨拶をして眠りについた。
翌朝、順番でソフィアが潜り込んでいたので優しく髪を撫でてやり起きる。
今日は鍛治職人に会いに行く日だ。
有名らしいからどんな人物なのか今から楽しみだな。
宿を出てソフィア達と別れ、ふと気付いた。
私はその鍛治職人の居場所を知らん。
むう、あの時装備屋の女性に聞いておくべきだった。
だが有名ならば聞けば分かるだろう。
一度宿へと戻り主人に声を掛ける。
「すまない、ガルツという鍛治職人の店は何処だろうか」
「ガルツさんの店なら宿を出て右に行けば見えてくるよ、黒い屋根に茶色の壁の店だから、すぐ分かるさ」
「ありがとう、では行ってくる」
案内に従い歩いていると、説明にあった黒と茶の店が見えてきた。
ふむ、この店の形、どこかで見たような…
とにかく入ってみよう。
「すまない、店主はいるだろうか」
店には誰もいなかった為、奥に向かって声を掛ける。
すると、手に鎚を持った男性が奥から出てきた。
「なんだ、ここは嬢ちゃんみてぇな子が来るとこじゃねぇぞ」
この喋り方、髭を生やした眼光の鋭い顔、トルム街の鍛治職人とそっくりだ。
「私はローズという者だ。ガルツという鍛治職人で間違い無いか」
「俺がガルツだが、何の用だ?」
「以前街の者に紹介されてな。まずはこれを見て欲しい」
黒薔薇を取り出しテーブルの上に置く。
「こりゃまた珍しい武器を。お前さん冒険者だったのか」
「うむ、それと同じ武器を作る事は可能だろうか」
「ふん、俺に作れねぇ武器は無い。だがこの武器の彫刻…お前さんこれを何処で?」
「トルムという街にいる鍛治職人に作ってもらった」
「やっぱりガルドか!この繊細な彫刻技術を持った鍛治職人なんざ俺以外にはガルドしかいねぇからな!」
「ほう、知り合いなのか?」
「ガルドは俺の弟だ」
「なんと!そうであったか!」
似ているわけだ。まさか身内であったとは。
それとすまんガルド、世話になっておきながら今初めて名前を知ったぞ。
「しかし無骨な武器だな。嬢ちゃんならもっと華やかな武器にしそうなものを」
「生憎実用性を重視したのでな。だがこうして美しい彫刻を施してくれたから気に入っているのだ」
「嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか!俺とガルドぐらいしか武器に彫刻なんてしねぇからな!」
「うむ、武器を作ってもらえるならそちらも期待している」
「素直だな嬢ちゃん。んで、また鉄扇作んのか?」
「あぁ。形状もこれと同じで鏢を束ねたもので頼む」
「任せとけ。素材とデザインはどうする」
「この王都周辺で獲れるおすすめの素材はあるか?」
「それなら間違いなくポイズンセンチピードの牙だな。華やかさが欲しいなら鉱石もいくつか欲しい所だが、それは取り寄せにするか?」
「うむ。次は赤か白の鉄扇が欲しいのだが」
「なら赤だと『炎輝石』、白だと『聖霊石』が良いだろう。予算は?」
「金貨5枚までなら」
「じゃあどっちも大丈夫だ。炎輝石が火、聖霊石だと浄化の付与が着く」
「では炎輝石で頼む」
「あいよ、細かい形はこっちで決めて良いか?」
「勿論だ。では今日中にポイズンセンチピードの牙を獲ってくる」
「嬢ちゃん、そんな見た目で意外と強かったんだな。じゃあ頼んだ」
一度装備屋などが立ち並ぶ通りへと向かい、ソフィア達を見つけてから事情を話し、私は一人でまた毒沼へと歩き出した。




