第二十五話
武器の依頼をして数日。
依頼後に毒沼に行った時、運良く大毒百足を見つけたのでそちらの牙を渡したら、ガルツは暫く唖然としてしまった。
まぁ結果的により強い武器になるという事だったので良しとしよう。
ネル達の準備も順調で、あとは出発直前に食材を買い溜めすれば良い段階まできている。
そして今日、ガルツから武器を受け取ればいよいよ王都を発つつもりだ。
「お前達、支度は出来たか?」
「はい、ご主人様。いつでも出られます」
「道具等も全て収納済みです」
「よし、では行くとしよう」
世話になった宿の主人に礼と別れを告げ、宿を出る。
ガルツの店に行くと既に私の新武器であろうものを持って待っていた。
「来たか嬢ちゃん」
「あぁ。そちらも出来ているようだな」
「おうよ。弟に負けねぇくらい華やかにしてあるぜ」
ガルツから渡されたのは赤い金属光沢のある、美しい12本の鏢の束だった。
滑らかな刃の黒薔薇と違い、この武器は片刃だけギザギザな形になっていて、やや分厚い。
要の近くは本来の中骨のような薄い板状の部分に布を巻いてある。
丁寧に布すら赤で統一されている為、遠目では分からんだろう。
最早、中骨や鏢と言われるより、薄い板状の短剣とでも言われた方が納得出来そうだ。
剣身の長さも黒薔薇より短く、40cm程度。
そして剣身の半分、ギザギザになっていない方に何やら模様のような彫刻が掘られていた。
「これは…何という武器だ?」
私は鉄扇を頼んだと思うのだが…
「そう言うだろうと思ったぜ。この鉄扇は二段階に広がる。まずは今まで通り扇の形に広げてみな」
言われた通りに広げると、丁度ギザギザした部分が隠れるように鏢が重なり合うように止まり、そしてなにより…
「模様が、繋がって薔薇になった…」
「どうだ?なかなか凝ってるだろ?そこから更に広げると」
「おぉ!こ、これは!」
鏢が一周回り円形に!
しかも、模様が赤く光って何とも美しい。
だがこの形状では鉄扇としての使い方は難しいな。
「それが第二段階。鉄扇じゃなくてチャクラムっつう武器だ。中心を持って斬り付けたり、そのまま投げる事だって出来る。投げた後は【回帰】スキルで手元に戻ってくるぜ」
「想像以上に凄い鍛治職人だったのだな。これは素晴らしい」
「まだまだ弟には負けてられねぇからな」
「因みに、このギザギザは何なのだ?」
「こいつはソードブレイカーって言って…実際見せた方が早いな。要の布を解いて一本持ってみろ」
ガルツが店の裏からやや錆びた剣を持ってくる。
そして私の持つ鏢のギザギザに剣を添わせた。
「このまま剣を捻ってみろ」
言われた通り手首を回して剣を捻ると、錆びた剣がバキンと音を立てて折れてしまった。
「これがソードブレイカーだ。手に持って戦うもよし、鉄扇として使ってよし、チャクラムにして投げてよしの三拍子だ」
「本当に素晴らしいな。この感謝の気持ちは言葉では表しきれぬ」
「良いってことよ。ただ、きっちり代金は払ってもらうぜ。金貨3枚だ」
「これ程の武器に美しい彫刻までしてもらってそれでは申し訳ないぞ。金貨4枚受け取ってくれ」
「おいおい、随分太っ腹だな。ありがたくもらうけどよ。毎度あり!」
ふふ、また私の新しい武器が出来た。
早く実戦で試したいものだな。
店を出るとそれまで静かに見ていたソフィア達が祝ってくれた。
「おめでとうございますご主人様!」
「ご主人様に相応しい美しい武器です!」
「ありがとう。では早速だが黒薔薇と同じくこの武器の名前を決めようと思うが、何か良い案は有るか?」
「赤く美しい武器ですから、『炎姫』は如何ですか?」
「うむ、確か素材にも同じ名前の炎輝石が使われていたな。だが良い名前だ。ネルはどう思う?」
「はい、姫という部分がご主人様らしく、良い名前かと思います!」
「ではこの武器は『炎姫』で決まりだ」
〈条件を達成したことによりシリーズスキル【チャクラム】が開放されました〉
〈シリーズスキル【チャクラム】を開放したことにより初期スキル【回転】を獲得しました〉
ほう、どうやら新たな形状の武器を手に入れたからまた開放されたようだな。
そして開放条件は黒薔薇と同じく、武器に名前を付けたことによって私の武器だと認識されたことか。
このスキルでチャクラム状の炎姫を回転させ投げれば攻撃力も増しそうだ。
改めてガルツに感謝しよう。
武器の受け取りが終われば次は食材の売っている通りだ。
ネルが率先して食材の目利きをし、次々と購入してはソフィアのリュックに入れていく。
見た目に寄らず結構大容量なのだな。
既に30を超える食材が収納されたぞ。
「ご主人様、食材はこれで十分です。セッカの街までは持つでしょう」
「うむ、では最後にギルドに寄って出発するぞ」
ギルドにて依頼の確認をする。もしかしたらセッカの街へと向かいながら達成できる依頼もあるかもしれんからな。
武器でまた金を使ったし、稼げる内に稼いでおかねば。
「セッカの街に行きながら出来る依頼はありそうか?」
「でしたら、こちらのトレントの討伐が良いかと。セッカへと向かう途中の岩地に自生する木の魔物です」
「木が魔物なのか、変わった魔物だな。ランクも丁度良さそうだし受けていこう」
『依頼内容:トレント20体の討伐
依頼場所:セッカ南部岩石地帯
受注条件:Bランク二人以上
依頼報酬:銀貨3枚』
依頼を三人で受注し今度こそ王都を出る。
北門から出ると、南とは違い剥き出しの地面が続いていた。
やはり王都のすぐ近くは視界を遮るものが少ないな。
魔物などの接近にすぐ気付けるようにする為だろう。
間に休憩と、昼食は簡単な軽食で済ませて更に進む。
王都を出て6時間程真っ直ぐ北上してきたところで、依頼場所であろう岩石地帯が見えてきた。
「本当に岩肌に木が生えているのだな」
「お気をつけて下さい。トレントは地面の振動から敵の接近を察知し、枝を使って攻撃してきます」
「枝か、あの葉が生い茂った枝を振り回されたら視界が悪そうだな。遠くから倒してしまおう」
「早速炎姫を使われるのですね!」
「木であれば火が付与された炎姫と相性も良いだろうからな」
炎姫を取り出しチャクラムの形へと変形。
近くのトレントへ向かって投げた炎姫に【回転】を掛け高速回転を加える。
そして投げている途中で炎姫が火を纏い、トレントの幹を焼き焦がしながら切断した。
「思った以上に切れ味が良いな。精々斬り付ける程度で終わると思ったが、まさか切断してしまうとは」
「高速で回転していたことと、ご主人様の攻撃力あっての結果かと」
「遠距離物理攻撃として今後も活躍出来そうだな。トレントは何処を討伐証明にすればいい」
「太い枝の一部が有れば判断出来ます。他にも幹や枝は木材として売れますが、捕食するかはご主人様にお任せ致します」
「ふむ、どうせ20体では進化出来ん。此奴だけ捕食して残りは売ってしまおう」
倒れたトレントの枝を炎姫を使って切断し、残った本体を捕食した。
〈トレントを捕食したことによりトレントへの変化が可能です〉
「お前達、私は一瞬だけトレントになるから離れていろ」
〈トレントに変化したことによりスキル【擬態】を獲得しました〉
【擬態】か、トレントならば木に擬態という意味で分かるが、私が使ったらどうなるのだろうな。
気になったので早速使用してみる。
「え、ご主人様?あの、そこにいらっしゃいますよね?」
「ご主人様が景色に溶け込むように見えなくなってしまいました。ですが私の【キャッツアイ】で視力を強化すれば輪郭は見えるようです」
「あ、私もご主人様は見えませんが【ステータス看破】で結果は表示されました」
「なるほどな、特殊なスキルを使えば見抜かれるが、肉眼では発見できなくなるのか。隠れるのに使えるな」
「潜入の依頼などでも使えそうですね!」
「そういう使い方もあるか、【気配遮断】と併用すれば効果も高そうだ」
今後そういった依頼がもし有れば試してみよう。
残り19体のトレントは私が炎姫を使って倒したり、ネルとソフィアが協力しながら倒して討伐が完了した。
〈スキル【回転】の熟練度が一定数を超えたことによりスキル【空中操作】を獲得しました〉
これは、投げている間に軌道を変えられるということか。
相手の不意を突く攻撃に使えそうだな。
〈フォレストディアを一定数捕食したことによりブレードディアからシールドディアへの変化が可能です〉
〈シールドディアに変化したことによりスキル【エリアシールド】【鋼鉄化】を獲得しました〉
ん?フォレストディアが進化した?
それに似たようなスキルと全く知らないスキルが増えた。
『【エリアシールド】:半径5m以内にいる味方の防御力を大アップ』
『【鋼鉄化】:体の一部を鋼鉄に変え、物理攻撃力・物理防御力を上げる』
『シャドウ、久々に進化したじゃないか』
『この間本当に人間達が調査に来たからヤバいなって思ってさ、基本街の守りに徹して、時々狩りをすることにした』
『そうか。進化は急ぐ必要は無いからな、気長にやってくれ』
『おう。そっちも新しい魔物取り込んでるし順調に旅してるみたいだが、気を付けろよ』
『あぁ、ありがとう。ではまた連絡する』
元々この体を使っていたのはシャドウだ。
それを姿に合わないからと私の人格で動かしているが、シャドウばかり暇をさせて申し訳なくなるな。
いや、どちらもシャドウでどちらも私なのだが、気分的な問題なのだ。
「ご主人様、この岩石地帯の中心に魔物はいないようです。本日はここで夜営を行いたいと思いますがよろしいでしょうか」
「うむ。ではネル達は食事の準備をするといい。その間は私が周りを警戒しておこう」
「ありがとうございます!では作業に取り掛かります」
ネルがソフィアのリュックの中から色々な道具を取り出していく。
近場にあった大きめの石を円状に置いたものを3つ作り、それぞれ円の中に余ったトレントの枝を並べて火を点ける。
なるほど、リリの母親は『きっちん』とやらで調理していたが、外ではこのように調理するのだな。
スープと野菜や肉を焼いたもの、それとパンを軽く焼いたものを作って、完成のようだ。
魔物の気配も全く無い、ここは夜営するには良い場所だな。
食事を済ませた後、ネルが道具を綺麗に拭き片付ける。
外では風呂に入れないのが難点だな。
二人に洗ってもらう気持ち良さを知ってしまうと、入らないのが苦痛になってしまった。
「ご主人様、お身体をお拭き致します」
「ん?お湯を沸かしていたのか。では頼む」
辺りも既に薄暗く、人や魔物の気配も無い。
では大丈夫だろうと上半身の部分だけ服を脱いだ。
「そ、それでは失礼致します(外でご主人様が半裸に…いつも見ているはずなのに、より煽情的でいけないことをしている気分だ)」
「おぉ、温かい布で擦られるだけでも中々気持ち良いものだな」
「明日にはセッカに到着しますので、本日はこれで耐えて頂きたく」
「いや、十分だ。ありがとうネル」
しかし、以前オズク達と夜営した時には服を着たまま寝られたが、やはりあれは少しでも睡眠薬とやらの効果があったのだろうか。
状態異常無効と薬の効果は関係無いのか?
何にせよ、今日はどのように寝れば…
これを機に服を着たまま寝ることに慣れるべきなのだろうか。
そうだ、良いことを思いついたぞ!
「お前達、見張りはまず私がするから先に寝ると良い」
「ですが…あ、いえ、ではお願い致します」
「そ、そうですね。申し訳ありませんがお願い致します」
私が朝に弱く起きるのが遅いと知っているから、素直に受け入れてくれたな。
では私は準備をしよう。
体を変化させてダークウルフになり、ネル達が並べた寝袋の頭の近くで横になる。
「ご、ご主人様…ですか?」
『うむ、外で裸で寝るのはどうなのだろうと悩んでいたが、こうすれば良いと思ってな』
「大きいですね…あ、あの、ご主人様に頭を預けてもよろしいでしょうか」
『ん?あまり毛並みは良くないかもしれんが、それでも良いなら好きにすると良い」
結局二人して私の腹の部分を枕に寝てしまった。
顔に毛が当たって寝にくいのでは無いか?
だが二人の顔はとても幸せそうだから、二人にはこれで良いのだろう。
さて、あと数時間何をしていようか。




