第十話
「いやぁ助かった。あの二人ずっと変な雰囲気だったから、無事に辿り着けるか不安だったんだ」
「素行調査の結果と今回の件で、ギルドから厳罰に処されると思います。テテム村までは俺とローズが引き続き護衛します」
「それは心強い」
私が起きた時には既にオズク達はいなくて、何故かヴァイトがいたんだが…
何かあったのだろうか。
それと今気付いたのだが、私は昨晩ちゃんと服を着て寝られたようだ。
これは一つ成長したかもしれんな。
馬車の荷台に戻ってきたヴァイトが、不思議そうな視線を送る私を見て溜め息を吐いた。
「ローズ、素直な事は良いことだが、もう少し人に対する警戒心を持つべきだ」
「ふむ、ヴァイト程【気配察知】に反応する人間はいなくてな。それならばどうとでもなると思ってしまうのだ。あの二人は悪い人間だったのか?」
「ローズに睡眠薬を飲ませて、寝ている間に襲うつもりだったらしい」
「そうか、確かにいつも熟睡してしまう私には効果的だな。襲われる前にヴァイトが助けてくれたというわけか、ありがとう」
「(一人は自分で寝ながら倒してたけどな…)今後もこういった事が無いとも限らない。何か対策を立てるべきだ」
なんだ、結局私の成長ではなく薬の効果か。
いやしかしスキルで無効化してそうなのだが、薬と状態異常は違うのか?
それに対策と言われてもな…基本【気配察知】で危険だと判断したら私でも目が覚めると思うのだが。
問題は危険と判断出来ない弱さの存在が、攻撃では無い行為をしてきた場合か…。
シャドウと連携すれば対策が出来るかもしれん。
『シャドウ、昨日のことなんだが』
『ああ、悪い俺も寝ちまって気付かなかった』
『どうすれば良いと思う』
『それなら、ローズはいつも通りの睡眠時間にして、俺は正直魔物なんだからいつ寝ても良い。だから夜中に起きて気配に注意しておく』
『ではそれでいこう』
「何とかなりそうだ」
「早いな。何か使えそうなスキルでもあったか?」
「見せたほうが早いからやってみる」
シャドウと私は同じ生き物だ。
元は一つの存在ならば、これも可能のはず。
『シャドウ、【シャドウダイブ】で私の影から出てきてくれ』
『了解。戻れなくなると困るから更に分裂してっと…【シャドウダイブ】』
「うお⁉︎そ、それって確かローズのもう一つの姿だよな?何で一緒に存在してるんだ?」
「スライムの【分裂】で分かれてから変化したのだ」
「…あぁ、そういや前のブレードディアでやってたな。それで、そのダークウルフは自由に動かせるのか?」
シャドウが私の姿になり私の人格模倣をしたようだ。
「私の中もローズだ。ウルフの時は『シャドウ』と呼ぶがな。ダークウルフの姿でも話せないだけで思考は出来る。自分が二人いて違う姿なだけだ」
「そういうわけで、今後外で寝る時はシャドウ…ダークウルフに寝ずの番を頼むつもりだ」
「お、おう。ローズが二人いて色々混乱しそうだが、今後問題ないなら良かった」
「「すまない、迷惑をかけたな」」
「いや大丈夫。大丈夫だからシャドウだった方は戻ってくれ」
「ではシャドウ、野営の時はまた連絡する」
『はいよ。俺は昼夜逆転生活に慣れておく為に今から寝る』
「おーい!村に着いたよ!」
お、対策を練っている間に到着したようだ。
あのフォレストウルフ以外襲撃も無く穏やかな旅になってしまったな。
これで報酬まで貰えるのは、少し罪悪感があるくらいだ。
「いやぁいつもならもっと小型の魔物とかに襲われるけど、こんな平和に着いたのは初めてだよ!」
「はは、ローズの強さに小型は本能的に逃げたんだろ」
「魔の森でないフォレストウルフでは効き目は無かったようだがな」
積荷も完璧な状態だということで、報酬が上乗せされ銀貨2枚となった。
ただ馬車に2日…いや正確には昼過ぎに着いているから2日目の昼まで、ただ馬車に揺られているだけで銀貨2枚か。
時間と金額を考えると然程美味しいわけではないが、何もしなくて良い分こちらの方が楽ではあるな。
「お二人ともありがとう!また護衛依頼を出す時があれば、是非お願いしたい!」
「私は構わんぞ。さして難しく無かったからな」
「俺はギルドの仕事次第になるが、タイミングが合えばやらせてもらおう」
ルガンを見送り、徒歩で戻るのかと来た道を歩こうとしたら、ヴァイトに止められた。
「馬車で丸1日掛かる道を歩いて帰ったら最低3日は掛かるぞ。こういう時は街に向かう馬車や護衛依頼を探すんだ」
「おぉ、それは確かに手間が省けるな。流石ヴァイトだ」
「いや、冒険者には常識だからローズも覚えておくようにな」
「心得た」
そして馬車の集まる中に運良く戻る馬車を見つけた。
護衛依頼では無く乗合型のようだ。
「こういう馬車は冒険者用馬車とも言われてる。1人銅貨2枚で乗れるが、魔物の対応は冒険者がする。食事も各自用意など、ただの移動手段だな」
「冒険者は客ということか」
「そういうこと。出発は20分後だし、俺は食事が必要だから軽食買いに行って良いか?」
「勿論だ。すこし村も見てみたいしな」
この村は周りを囲むように小麦畑があり、パンや麺などが有名なのか。
村のあちこちにパン屋と軽食屋があるのも頷ける。
長閑でありながら活気あふれる良い村だな。
「お姉ちゃんキレイー!」
「何処の国のお姫様?」
「髪きれー!」
「む?」
何やら私の足に幼女達がわらわらと集まってきた。
「私は姫では無く冒険者だ」
「えー!キレイなのにもったいない!」
「絶対お姫様だと思ったのに!」
「む、期待を裏切ってすまないが事実なのだ」
「お姉ちゃん喋り方変ー!」
「なんでそんなオジさんみたいな喋り方なのー?」
「な⁉︎お、おじさん…」
わ、私の喋り方は中年男性のような喋り方だったのか?
意図が分かり易い喋り方で私自身は結構気に入っていたのだが…
「女の人みたいな喋り方してー?」
「キレイなお姉ちゃん絶対にあうから!」
女性のような喋り方?普段話す中で女性らしい喋り方といえば…
やはり受付嬢やリリだな。
つまり語尾に「です・ます」を付けたり、リリのように柔らかく活発な喋り方ということか。
少しだけ声も高くした方が良さそうだな。
「ん、んん!初めまして、私はローズです。冒険者をしています」
「お嬢様っぽい!」
「お姉ちゃん似合ってる!」
「ほんと?ありがとう。みんなも凄く可愛いよ」
「今度はお姫様っぽいよ!」
「お姉ちゃん凄い!何でも出来るんだね!」
幼女というものは皆このように気持ちが昂っている存在なのか?
あの街でもたまに見かけるが、もう少し静かだった気がするのだが。
「ローズ、何してるんだ?」
「あ、ヴァイト。今この子達から喋り方がオジさんって言われたからリリの真似してるんだけど、どうかな?」
「お、おう…よく似合ってると思うぞ?」
「そう?なら良かった」
「(お嬢様らしさがより際立ってる所為で、住人達からも注目されてるな。正直俺も凄く良いと思う。笑顔たくさん見られるしな)」
「そろそろ馬車の時間だから行こう」
「うむ、分かった。じゃあね皆、また」
「「「バイバイお姉ちゃん!」」」
「随分切り替えというか、演技が上手いな」
「なに、毎日受付嬢やリリと話していれば自然にな。しかし違和感というか、私じゃない感覚が凄まじいな」
「ローズのその凛々しい口調に慣れちゃうとな」
ほう、ヴァイトはこれを「オジさん」ではなく「凛々しい」と言ってくれるか。
そうだとも、私もこの口調は凛々しさがあって良いと思っているのだ。
流石はヴァイトだな。
先程まで空席だった馬車の荷台には、6人乗り込んでいた。
定員は10名らしいから、遅れていたら少し危なかったかもしれん。
「2人頼む」
「あいよ。1人銅貨2枚だ」
ヴァイトと銅貨を2枚ずつ払って後ろに乗り込む。
予定時刻になり進み始めた馬車に揺られ、私はトルムの街へと戻っていった。
今回の夜営では服を着たまま寝られそうに無かったから、ヴァイトの影に潜って休ませてもらう。
行きと同じく2日掛けて街へと戻ってきた私は、着いた時には既に日が沈んでいたということもあり宿に戻り寝ることに。
明日は遂に私の武器が完成する日。
楽しみで寝られなくなるという事もなく、私は今日も熟睡だ。
翌朝いつもより早めに起きて、起こしにきて驚いているベティに挨拶をし、私は早速武器屋へと向かう。
既に完成しているのか、店主は奥の作業場ではなく店内のカウンターにいた。
「今日は早かったな嬢ちゃん。武器ならしっかり出来てるぜ」
「流石の私も今日はいつもより早めに起きたぞ。初めての私の武器だからな」
「分かるぜその気持ち。早速持ってくるから待ってな」
一度作業場へと消え、戻ってきた店主の手には長さ1m弱の鏢の束が。
「強度と重量を考えて、中骨にブレードディアの角を使って、周りは黒鋼を研いだ黒剣になっている。要の部分を纏めてるこの赤い布には【形状記憶】のスキルを掛けてあるから、布で縛っている間は広げても160度の開きで止まるぞ」
素材の種類と色からかなり地味というか、無骨なものになるかと思っていたが…
板状まで研がれたブレードディアの銀色の芯に、黒い刃がついていて、ブレードディアの芯には全て、繊細な薔薇の彫刻が施されていた。
「この彫刻…」
「あんた、ローズって名前なんだろ?薔薇って意味の言葉らしいから、調べて掘ってみたんだ」
「…ありがとう。とても素敵な贈り物だ」
「よせよ照れるじゃねぇか。今回は重量重視で作ったからこの素材と色合いになったが、素材次第でもっと軽くて華やかなデザインにも出来るから、違うものが欲しくなったらまた言いな」
「うむ、この武器ならばいくらあっても良さそうだからな。また頼むとしよう」
「それじゃ代金は銀貨8枚な…毎度あり!」
ふふふ、私の武器。
私の武器が完成したんだ。
玩具を貰った子供のような気持ちの昂りだ。
早速スキルとの併用を実践して慣れていかなければ。
〈アシッドスライムを一定数捕食したことによりポイズンスライムからパラライズスライムへの変化が可能です〉
〈パラライズスライムに変化したことによりスキル【麻痺毒付与】【パラライズボール】を獲得しました〉
お?シャドウも狩り制限をしながらも着々と強化しているようだな。
おかげでこの武器に相性の良いスキルが手に入った。
魔の森での依頼はまだ出ていないだろうが、数匹程度ならば魔物もいるだろう。
森へと向かいながら鉄扇を開いて動かしたり感触を確かめる。
ふむ…鉄扇と呼ぶだけでは味気ないな。今後種類が増えることを考えると、固有名を付けておきたいところだ。
『シャドウ、銀と黒の鏢に薔薇の彫刻で何か良い名前はないか』
『クロガネ』
『まんまではないか、他には?』
『黒鏢』
『む、候補に入れよう』
『あとは黒薔薇とか?』
『黒薔薇!私の名前も入っているな、初めての武器には良いかもしれん。採用だ!』
「今日からお前は『黒薔薇』だ」
〈条件を達成したことによりシリーズスキル【鉄扇】が開放されました〉
〈シリーズスキル【鉄扇】を開放したことにより初期スキル【強風】を獲得しました〉
ん?シリーズスキル…専用の武器を持った事で開放されたのだろうか?
スキルを【鑑定中級】で見たところ、本当にただ強風を起こすだけのスキルらしい。要るのか?
【カマイタチ】にすら劣るが、初期ならこんなものなのかもしれん。
シリーズスキルはスキルを使うか武器を使い続ける事で次が開放されるようだから、使っていれば勝手に増えていくだろう。
む、しかし魔物が少ない。
流石にもう少し居るかと思ったんだがな。
仕方ない、【強風】を起こしながら散歩でもしよう。
〈スキル【強風】の熟練度が一定数を超えたことによりスキル【カマイタチ】を獲得しました〉
被った上にまだカマイタチ…先は長そうだ。
気長に上げていくとしよう。




