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スーパーノヴァ、そして……

 討伐軍総括長リディッシュ・ツヅキは【簡易迷宮】のアジトではなく、廃村内に本部を移動していた。

 長机や椅子が置かれ、リディッシュの部下たちが次々と情報をシラせてくる。


 総攻撃部隊の者たちは廃村の周辺に魔装を纏(まと)った状態で陣取って待機している。


 予定通り陽動部隊がデビアンを攻撃。デビアンはうまく誘われて城から出た。ここまでは良かった。

 だが、デビアンが女たちを取り込んで巨大化したのは完全に予想外。あんな能力があるなど想定外だった。

 

 しかも、デビアンは無数の眷属(けんぞく)を生み出して次々と陽動部隊員や支援部隊員を殲滅(せんめつ)していく。


 このタイミングでリディッシュは決断した。大規模範囲攻撃魔法の発動をである。

 大規模範囲攻撃魔法【スーパーノヴァ】。

 その威力は凄まじく、範囲内の全てのものを光の粒子に変えてしまう。


 リディッシュはさすが冒険者ギルド幹部だけあり、ソウルパワーについてクワしかった。大賢者チアキ・ホンダの残した資料によれば、純粋なソウルに干渉できるのは、100万以上のステータスが必要だという。 

 要するに100万以上の【攻撃力】ならばデビアンの魔装にも攻撃が通るのだ。

 

 そして100人分のステータスカードを使い、そのソウルパワーを集めた【スーパーノヴァ】の威力を試算したところ、100万を上回る。というよりも、そのタメに切り札として【スーパーノヴァ】を用意したのだ。


 もちろん、このまま発動すれば街の人間たちも全員巻き込む。潜入した同胞たちもだ。それでもリディッシュはその決断をした。

 デビアンを倒すのは、これが最後の機会なのだ。今、アレキルに集結している者たちが最強の冒険者たち。【ゲート】の守りに置いた防衛軍は数でも質でも遥かに劣る。


 ここで、この場で倒すしかないのです。


 部下たちが担当の諜報部隊員たちにシュマホーで脱出を呼びかける。


 すまみません。

 リディッシュはアレキルの方角に頭を下げた。デビアンとともに多くの命を消し去るコトになる。


 リディッシュの決断で諜報部隊員たちが脱出にカカる。おかげで、その後の戦況が作戦本部には伝わってこなかった。

 だから、リディッシュは知らなかったのだ。

 アリスがデビアンを追い詰めていたコトを。


【スーパーノヴァ】発動まで1分を切った時、突如、諜報部隊長のシロー・ブックスから直接言葉が届いた。彼のユニークスキル【念話】だ。シローは4つものユニークスキルを持っている。その1つ。


 シローは陽動支援部隊のアリス・スズキがデビアンに反撃し、追い詰めていると早口で説明。【スーパーノヴァ】の発動を止めるコトを求めてきた。


 リディッシュは数秒間、思考した。

 発動を止めるコトは可能だ。ただ、【ギルドカード】から吸いだしたソウルパワーを戻すコトはできない。【ギルドカード】の持ち主たちは、もう全員亡くなっているコトだろう。

【スーパーノヴァ】を再度使うことはできないのだ。

 それならば万全を期してここで発動させておくべきだ。


 リディッシュはシローに答えた。

「もはや、【スーパーノヴァ】を止めるコトはできません。シロー君、すぐソコから退避を。もうまもなく、魔法が発動しますよ」


◇


 ふいに、アリスは腕をツカまれ、グイっと強い力で引っ張られた。

 見ると、いつの間にか隣に男が立っていた。中肉中背の黒衣の男。エイジア系。特にアリスと同郷の雰囲気。いや、アリスは彼に見覚えがあった。


「アンタ、シンヤ?」

 クラスメートの斎藤真也。彼にソックリだ。


「誰だ、そりゃあ。俺はシロー・ブックスだ。それより、ここから脱出するぞ。もうすぐスーパーノヴァが発動する。街ごとフキ飛ぶぞ」


「ナンデ? ウチ勝てるんだけど」


「もう発動を止められねえんだとよ。逃げるなら今だろ」


 デビアンはすでに身動きもできずビクビクと震えている。その体はもはや5メートルほどにまで縮んでいた。

 その周囲には恍惚(こうこつ)とした表情の裸体の女たち。


「でも、あの人たちはどうすんの?」


「見捨てるしかねえ。もう時間がねえんだ、行くぞ」


 シローが言って、ヒトっ跳びで街の外へと飛びだした。

 アリスは最後にデビアンを一瞥(いちべつ)すると、彼に続いて大きく跳んだ。城壁を飛び越えて、そのまま着地。

 その直後だった。


 街全体が白く輝いた。

 間一髪。あと1秒遅れていたら巻き込まれたコトだろう。


「これでデビアンも死んだだろう」

 シローが言った。その顔に微笑が浮かぶ。

 だが、すぐに顔が強張った。

「嘘だろ……」


 アリスも声が出なかった。

 デビアンが。光の巨人が立っていた。最初よりも遥かに大きい。全長100メートル以上はあるだろう。


「イイのをアリガトウよう。おかげで元気が出たぜぇ」

 デビアンの声はあまりにも大きく、アリスには聞き取れなかった。


【スーパーノヴァ】は確かに発動した。

 だが、予定と違い、街ごとデビアンを消し去りはしなかった。街もデビアンも無事なままだ。


「ナニをしたか知らねえが、感謝するぜ。タップリお礼をしないとなあ」


 デビアンがアリスに向かって手を伸ばす。


 アリスは自分に向かって伸びる巨大な手の平に向かって矢を放った。


「おうおう、チクチク痛カユいなあ」


 効かないとみるやアリスは逃げる。

 すでにシローは【緊急脱出装置】で離脱ずみだ。


 寸前で空から降ってきた巨大手の平から逃れる。大地が大きく揺れて、その振動で、アリスは数メートルは浮かび上がった。


 なんとか逃げようと走る。走る。

 だが、破格の【敏捷性】を持つアリスをしてもデビアンからは逃れられなかった。もうヒトツの手が勢いよく降ってきて、アリスはソレにツブされた。


 巨大な手の平はすぐにどく。

 その下からアリスが現れた。さすがに魔装のバニースーツがボロボロになっている。


「良かったぜえ。殺しちまったらツマらねえもんなあ」

 デビアンの人差し指がツン、とアリスを突く。人差し指といえど巨大。

 その圧力にアリスの魔装が解除される。

 同時にアリスの意識も飛んだ。


「さて、この娘にはしっかり情報を吐いてもらわねえとなあ」

 言って、デビアンはアリスの倒れる周辺の大地ごと手の平でスクいとった。ソレを口に入れ、飲み込む。

「コレでよしっ、と。だが、その前に……」


 デビアンは冒険者ギルドの者たちが集う廃村を見下ろした。100メートルを越す巨人となったデビアンには、目と鼻の先である。

 デビアンの体から無数のデビアン天使が生まれる。


「さっきの続きと行こうか」


 デビアン天使が一斉に廃村へと飛んでいった。


◇


【スーパーノヴァ】発動直後。

 リディッシュは沈痛な面持ちでうつむいていた。自身の決断には一点の後悔もない。だが、それでも多くの者を巻き込んだコトには変わりなく。その命の重みは彼を一気に老けさせた。


「そ、総括長。アレを……」

 部下の声。震え、カスレた声。

 ナニか不吉さが漂う声色。


 リディッシュは顔を上げた。アレキルの方向。ソコに光の柱が立っていた。いや、光の巨人だ。


「……デビアンか? なぜ」

 それ以上言葉が出ない。


 リディッシュは知らなかった。

 アリスに追い詰められたデビアンが、最後のあがきを見せたコトを。隷属化した女たちを再び取り込もうと、二度目の魔装合体をしたコトを。

 それはまさに【スーパーノヴァ】が発動する瞬間だった。

 デビアンは女たちを取り込み、同時に【スーパーノヴァ】のエネルギーも取り込んだのだ。


 それは本当に偶然。デビアンにしてみれば奇跡のような幸運。魔装合体のタイミングが早くても遅くても、彼は光の粒子となって消滅していたコトだろう。


 デビアンの幸運はすなわち、彼にアダなす討伐隊の不運。

 リディッシュが自失から覚める前に肥満の光の天使。デビアン天使が廃村に殺到した。


 部下たちが悲鳴をアゲる。

 女は連れ去られ、男は殺される。


 リディッシュはすぐに魔装顕現(マソーケンゲン)し、戦おうとした。だが、彼の渾身の一撃はあえなくハジかれ、反撃を受ける。

 リディッシュ・ツヅキはデビアン天使に首をネジ切られて死んだ。


◇


 廃村周囲に待機していた総攻撃部隊(陽動後、総攻撃をカケる部隊)にもデビアン天使が殺到した。


「クソっ、なんだよ、このデビアンの群れは」

 アローが毒づきながら、二丁拳銃で向かってくる肥満天使を撃ちまくる。


 だが効かない。デビアン天使は意にも介さず接近すると、手刀でアローを唐竹割にした。

 アローの纏(まと)っていた黒い甲冑などまるで紙のようであった。


◇


 アックスはガッシュとともに即座に逃げを打った。空を埋め尽くす光の天使を見た瞬間、コレは勝てないと理解した。十中八九死ぬ。

 だからこそ、ワズカな望みをカケて逃げた。

 冒険者としてやってきたなかで逃げたコトは何度もあった。駆け出しの頃など、逃げのアックスなどと揶揄(やゆ)されたコトもある。


 だが直感を信じて即座に逃げるコトができたからこそ、42になるこの歳まで冒険者であり続けられたのだ。


 後ろでガッシュの悲鳴が聞こえた。

 アックスは振り返らなかった。見捨てるどうのという段階ではない。生き延びられれば、奇跡、というような死地。

 数秒後には自分が死んでいる可能性が高いのだ。


 ふいに木の根にツマづいた。

 転びはしないが態勢が崩れる。


 その瞬間、アックスが一瞬前まで走っていた場所を光線が通りすぎていった。直後に起こる大爆発。

 アックスの意識はソコで途切れた。


 ハっ、として再び覚醒したとき、彼はすべてが終わったアトだと知る。


 総攻撃部隊が身を隠していた森は焦土と化し。そこらかしこにクレーターが空いていた。

 死体がゴロゴロと転がっていた。死体とすら言えぬ、肉片が無数に転がっていた。


 探したがガッシュの死体は見つからなかった。

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