アリス対デビアン
陽動部隊3人のほかにも天使たちは街中に散って美女を拉致していく。諜報部隊のレミネス。支援部隊のフレイア隊長。
もちろん、デビアン天使を撃退、あるいは離脱しようとするが、次々と捕獲されていく。
即座に【緊急脱出装置】を【ギルドカード】から取り出して使用する者もいたが、緊急脱出口に飛び込む前に捕獲されてしまう。
デビアン天使はその気になれば凄まじい速度で動くコトができるのだ。
アリスの元にもデビアン天使がきた。
「跳ぶぞ」
ガルが叫ぶ。
次の瞬間、アリスたち4人は時計台から100メートル離れた屋根の上に移動していた。
「ここまでです。【緊急脱出装置】を使いましょう」
エルダが言って【ギルドカード】からフラフープのような輪を取り出した。
アリス、ガル、ロインも続く。
そこへ別のデビアン天使が降りてくる。
「跳ぶ」
ガルが叫び、次のワープ地点へと4人は移動。
今度は地上だ。
全員手にしていた【緊急脱出装置】を地面に設置。
飛び込もうとしたまさにその時。
空から降ってきた光線がガルを貫いた。
さらに、爆発が起きる。
すぐに爆煙は風に散って晴れた。大地をエグりとったクレーター。その場に立っていたのは1人のバニーガールだけだ。
ロインはフキ飛ばされ、ボロ雑巾のように倒れている。
ガルの死体は粉々に砕けた。
そしてエルダは……彼女の体は無くなり、半分に欠けた頭だけが転がっていた。
【緊急脱出装置】は破壊された。
ソコへ空からデビアン天使たちが降りてくる。
「見つけたぞぉ。お前だろ。最初に矢を射ってきたのはよう」
「壁を突き抜けたよなあ。イイ、スキルじゃねえか。見た目もイイ。お前、俺の親衛隊に加えてやる。良かったなあ」
「タップリ調教してやるからなあ」
「ザケンな。ウチの体は彼氏のモンだし。アンタなんかに指一本触らせるもんか」
言ってアリスは跳んだ。
レベルアップを繰り返し、凄まじい量の【ステータスポイント】を振り分けたアリスである。
その【敏捷性】は『ブレイブ』最速の男、『静寂の嵐』ジンすら、遥かに上回る。
屋根へと上り、ソコからさらに跳ぶ。
跳びながら弓に5本の矢をツガえ、放つ。その矢は虹色の軌跡を描いて、彼女に迫っていた5体のデビアン天使に突き刺さった。
デビアン天使が光の粒子に変わり、消滅する。
【透過】も【必中】も使っていない。代わりに使ったスキルはただ1つ。【神撃】。タメ攻撃の【力矢】が進化したスキルだ。特性上、ほかのスキルとの併用は不可能。
だが、その特性が凄まじい。
自身のステータス全てが【攻撃力】に加算されるというものだ。
異世界人のアリスのステータス上昇は大
きく、なおかつ、彼女は【レベル】80オーバー。
この世界において【攻撃力】が100万を越えると、それはあらゆる属性から解き放たれた純粋な力に変わる。その名も【ソウルアタック】。
それは【ソウルメイル】を纏うデビアン、そしてデビアン天使を倒しうるただヒトツの攻撃方法だった。
もちろんアリスがそんなコトを知るはずはなかった。そもそも彼女は自分と人のステータスを比べたことがない。ジルに報告したのはスキルだけだったのだ。
だから、あっさりとデビアン天使が倒せたことに驚いた。
イケんじゃん。ウチの攻撃、効くじゃんか。
アリスは次々と矢を放つ。
なにしろ圧倒的な【敏捷性】。
屋根から屋根へと高速で飛び移りながら、絶え間なく虹色の尾を引く矢を放ち続ける。
光に吸い寄せられる羽虫のごとくデビアン天使がアリスの元へと寄ってくる。
だが、アリスの矢はソレを駆逐していく。
そんなアリスに驚愕したのはデビアンだ。魔装合体により光の巨人となったデビアン。デビアン天使とは意識はツナがっていない。あくまでもデビアン天使はデビアンの使い魔のような存在だ。
デビアンは遥か高みから、屋根から屋根へと飛び移りながらも虹色の矢を放ち、自身の眷属を消滅させる少女を、恐怖の眼差しで見つめる。
アイツはヤベエ。ナンデ虫どもを殺せんだ?
虫とはデビアン天使のコト。デビアンは知っている。デビアン天使は魔装状態のデビアンと同等の能力がある。つまり『ブレイブ』程度なら、虫1体で潰滅させられるのだ。
にも関わらず、あの少女はなんなく虫を蹴散らしている。あの虹色の矢。アレは自分の【ソウルメイル】に匹敵する。
ギルドの新兵器か?
そんな疑問が頭をモタげる。だとすると、危険だ。
鈍感で怠惰で横暴。そんなイメージのあるデビアンだが、その本質は臆病で神経質。
だからこそ、時間をカケて女たちを隷属化し、さらには親衛隊として強い女を手に入れていたのだ。
アイツを生け捕りにしねえと。
あの矢の情報を吐かせるんだ。
デビアンはアリスに向かって巨体を動かした。1歩歩くごとに家屋がツブれ、大地が割れる。
そして、その1歩が大きい。また、巨体のワリには動きも速い。
屋根を飛び移りながら、デビアン天使を射殺しているアリスにみるみる迫る。
アリスはいたずらに動き回っていたワケではない。デビアン天使にトラえられている同胞たちを助けているのだ。
そこに地鳴りとともに、光の巨人が迫る。
アリスは大きく跳びながら光の巨人に向かって矢を放つ。5本のハートの矢が虹色の軌跡を描いて、遥か高所にある巨人の顔に命中。
魔装合体デビアンが大きくノケぞる。
効いてる。イケる。
アリスは地上に降りると全力で走った。走りながら後ろを振り返り、矢を放つ。とにかく今は距離を取るコト。
デビアンのリーチは反則級に長い。そのクセ速い。接近されたらアウトだ。
魔装合体デビアンは痛みにウメきながらも地上を走るアリスを追う。
このクソ虫がぁ。
チョコチョコと飛んでくる矢は彼からしてみれば小さすぎるほど小さい。だが、痛い。痛いのだ。ハチに刺されたかのような痛みだ。
それも次から次へと刺してくる。
デビアンはタマらず、怒りのあまり全身から光線を放った。光の巨人から放たれた光線が街中に突きさり、爆発を起こす。
地上の様子は地獄絵図だ。
おかげで遮蔽物が減った。アリスにしてみれば不利な状況。隠れようがない。とにかくひたすら走るしかない。
予定通り街の外に出て……。
出てイイのか?
当初の予定ではデビアンを街の外へとおびきだすハズだった。そのスキに街に結界をハって、隷属化されている女たちとデビアンを切り離す。エネルギー源を断つ。
だが、デビアンは合体してしまっている。女性たちを取り込んでいるのだ。いってみれば電源コードがバッテリーになったようなモノ。
コレでは作戦そのものが破綻してしまっている。
ウチが倒すしかない。
街を囲う外壁の前でアリスは振り返った。魔装合体デビアンが手を伸ばし迫ってくる。
【敏捷性】ではアリスの方が遥かに速いが、なにしろ相手は大きいのだ。大きすぎるのだ。
アリスは大きく跳ぶと外壁の上に乗った。
満月を背中に背負い、光の巨人と対峙する。
そこから矢の連射だ。
ハートの矢を一度に5本、次々と射る。
もちろん【神撃】のスキルをノせた虹色の矢。
足、腕、胴、顏、雨アラレと、矢を放ち続ける。
「いてえ、いてええ」
デビアンがウメく。大量のハチに刺され続けているような状態だ。さすがに我慢できず、下がる。1歩、2歩、3歩。
アリスは矢を放ち続ける。
足を止めた分は攻撃は間断なく続けられる。スキル【速射】を使わずとも、高い【敏捷性】がある。秒に1射は放つ。つまり5本の矢。
アリスは顔に攻撃を集中した。
デビアンが痛いとウメいた声はちゃんと聞こえていて。アリスは一番痛そうな頭部を狙うことにしたのだ。
ついにデビアンが頭を抱えてうずくまった。
アリスは容赦しない。矢のシャワーを浴びせ続ける。
「いてえ、ヤメてくれ。いてえよぉ」
光の巨人に変化が起こった。
体を覆っている光が、ところどころ消えていくのだ。ぽつ、ぽつ、とその部分だけ黒くなっていく。
ダメージを負って魔装がハゲているのだ。
「頼むぅ、ヤメてくれ。いてえ、死んじまう」
デビアンが情けない声を出す。
もちろんアリスは手を止めない。
砲台と化し、一切容赦なく矢を放ち続ける。
デビアンの【ソウルメイル】がボロボロになり、穴だらけとなる。ソコからノゾくのは、醜い肉の塊。
アリスは今度は【ソウルメイル】の穴を徹底的に狙った。
するとデビアンが転がった。痛みのあまりにノタウチ回る。しかも、その巨体が少し縮んだようだ。
「マリアに謝れ、このクズ」
アリスは叫びながら跳んだ。
空へと大きく跳躍し、空中から矢の雨を降らせる。
デビアンが転がったタメ、カナリ距離が開いてしまった。ソレを埋めるタメだった。
デビアンはさらにゴロゴロと転がり、手足をバタつかせ、暴れる。まるで大泣きする赤子のようだ。
ポロポロとその体からナニカがコボれていく。見るとソレは女だ。裸体の女が、デビアンの体からコボれていく。
助けられるカモ。
アリスは壊れずに残っている家屋の屋根に陣取ると、ソコから矢を射続ける。デビアンの体はだいぶ小さくなった。今や、10メートルそこそこ。
彼の周囲には女たちが転がっている。
誰か助けに来てよ。
アリスは焦れる思いだった。デビアンは自分が引き受けるから女たちを救出に来て欲しい。
だが、デビアン天使に襲われ、さらには街中を破壊した光線のせいで、ほとんどの潜入部隊員は死んでいる。生き残ったのはアリスが助けた者たちだ。
彼女たちは密かに諜報部隊長シローが【緊急脱出装置】で脱出させている。
そのシローだが彼はユニークスキルの【念話】でアジトのリディッシュ総括長に連絡を取っていた。
「だから、状況は変わったんだよ。今すぐ、【スーパーノヴァ】の発動は止めろ。代わりに全員で総攻撃をシカケろ。イヤ、攻撃は、あの嬢ちゃんに任せとけばイイか。女たちの救出だ」
「もはや【スーパーノヴァ】を止めるコトはできません。シロー君、すぐソコから退避を。もうまもなく、魔法が発動しますよ」
シローの頭の中にリディッシュの声が返ってきた。
シローは空を見上げた。
確かに、空に半透明の膜のようなモノがカカっている。一見すると満月がニジんでいるかのようだ。
シローは舌打ちした。




