突撃
同時刻。
城周辺にヒソんでいた陽動部隊が動いた。跳ね橋に集合し、魔装顕現する。
金髪縦ロールのローズマリーは真っ赤なドレスアーマーにレイピア。
同隊のリベルテは黄金のビキニアーマーに大剣。
リンはチャイナドレスの上にプロテクターをつけている。手にはヌンチャク。
「さあ。デビアンの豚をブチ殺しに行きますわよ」
ローズマリーが言って疾風のように走る。瞬く間に前庭を通りすぎ、大扉の前に。
だが、行く手をサエぎる大扉は一瞬で細切れになった。
そのままローズマリーは城内へ飛び込んだ。もちろん部隊の陽動部隊のほかの隊員たちもアトに続く。
近距離戦闘に特化した者たちが選ばれただけあり、その移動速度は速い。
エントランスホールを抜け、階段を上り、回廊を駆け、デビアンの寝室へ向かう。
デビアンはほぼ一日中、寝室にいる。
トイレは女たちに始末させるし、風呂は入らず女たちが体をフいたり洗ったりする。
ただただ怠惰。
陽動部隊に選ばれた面々は、城内のそこらかしこにいる隷属化した女たちを見ても眉ヒトツ動かさない。そういう者たちが選抜されたのだ。
やがて陽動部隊はデビアンの寝室に飛び込んだ。アリスが第一矢を放ってから5分後のコトである。
その間、アリスはデビアンに向かって矢を放ち続けている。
壁をスリ抜け、デビアンを追尾する必殺の矢。
だが、それがデビアンに届くことはなかった。魔装の女の1人が、その矢を彼の代わりに受けているのだ。
女の魔装はボロボロになっていた。エルダと同様【守護】のスキルである。
デビアンは毒殺の脅威、そして遠距離から狙撃されているにも関わらず、未だベッドにダラしなく座ったまま。
クッチャクッチャ、と口の中に入れた料理を咀嚼している。
そこへローズマリーほか、陽動部隊がドアを細切れにして飛び込んできた。
「覚悟なさい。デビアン・ドーベル」
ローズマリーの体が怒鳴り声と同時に消える。
一瞬後、彼女はベッドの前で、ハシにヒカえていた魔装の女と斬り合っていた。
オレンジ色の癖一つない長い髪。
魔装は乳房を露出したコルセットのような鎧。それにロングスカート。手にしているのはカタナ。
「リーリア・オヤマ。アナタとこのようなところで戦うことになると思いませんでしたわ」
ローズマリーの高速突き。何百という突きが同時にリーリアの体に向かう。
リーリアはソレをすべてハジく。
本来、レイピアは刺突用の武器だがローズマリーは斬撃にも用いる。レイピアが赤い光に包まれ炎を纏う。×印を描くような斬撃。
宙に炎の軌跡が残る。
リーリアはそれをカタナで受けたが、炎が彼女の体を燃やす。
そこへ、ローズマリーの必殺の突きが伸びる。
リーリアは寸前でソレをカワした。彼女の白い頬がザックリと割れて血が飛び散る。
ローズマリーとリーリア以外にも戦闘が起こっていた。
魔装の女たちは誰もが腕利き。Aランク以上のモノばかりだ。
数も多い。数では陽動部隊の方が多いが、技量ではデビアンの魔装の女たちの方が上回る。
「リーリア・オヤマ。申しわけありませんが、ワタクシが足止めを食っているワケにはまいりませんの」
ローズマリーは言った。
レイピアでリーリアのカタナを受けてのツバぜり合いの最中だ。
次の瞬間、ローズマリーの背中からもうヒトリのローズマリーが現れた。
ユニークスキル【分身】。
もうヒトリのローズマリーがベッドに飛び乗り、デビアンに迫る。
「死になさい。ゲス野郎」
だがローズマリーの突きは途中で止まった。裸の女たちが盾となりデビアンを守ったのだ。ローズマリーのレイピアを身に受け、2人が串刺しになった。
だがローズマリーは怯まない。
即座にレイピアを手放し、槍を顕現する。
その槍でデビアンを突く。女たちが折り重なってデビアンを守る。
それでは足りませんわね。
ローズマリーは自身の一撃が女たちを貫き、デビアンに届くことを確信した。
「魔装顕現」
デビアンが光り輝く。同時に周囲の女たちから、イヤ城中から虹色の光が伸びて、デビアンにツナがった。
青い光のシルエットから虹色のシルエットへ。【ソウルメイル】を纏ったデビアンが顕現する。
虹色の光の法衣。東部も頭巾で覆われ、目元だけ黒い一文字。
「ローズマリーだったか? 『トーダ商会』の会長の孫だよなあ。イイなー。調教しがいがありそうじゃねえか」
ローズマリーは迷わなかった。
ベッドを蹴ると大きく後ろに飛ぶ。そのまま疾風のように駆け、窓を細切れにして飛びだす。
ほかの陽動部隊の者たちも間髪入れずに撤退に移る。
だがデビアンは元より、彼の隷属化にある魔装の女たちも動かない。彼女たちはデビアンに危機が迫れば命令を受けずとも守りに入る。
だが、敵を追跡することはしない。デビアンから指示を受けない限りは。
「なんだなんだ。さっさと逃げやがった。まあイイや。退屈しのぎに鬼ゴッコでもするか」
言うとデビアンは襲撃者を追って、外へと飛びだした。
「何匹か良さそうなのがいたなあ」
ヒトっ飛びで城の城壁の上に着地し、もうヒトっ飛びで城下の家屋の屋根に着地する。
ソコへどこからともなく矢が飛んできた。
ハートの矢。アリスだ。
矢はデビアンの顔に当たるが軽くハジかれる。
「なーんか、さっきから鬱陶しいヤツがいるなー」
ゆっくりと矢が飛んできた方向を振り返る。
ソコに天から雷が降ってきた。
陽動支援部隊の1人が使った魔法だ。
デビアンは雷を身に受けるも、痛みヒトツ感じない。
「チクチクやられんのは、鬱陶しいな。アレやるか」
ヒトリつぶやくと、デビアンは、あっ、あっ、あっ、と発声練習のように声を出す。そして両手を天に突き上げた。
「魔装合体」
デビアンが虹色のシルエットと化す。
そこに城の方から魔装の女たちが飛んできた。頭から強い力で引っ張られるように不自然な飛行。
魔装の女たちが次々とデビアンの虹色のシルエットの中に飛び込んでいく。
デビアンのシルエットが大きく膨れアガがっていく。
魔装女たちの次は隷属化したほかの女たちの番だ。次々と城から飛んできて、デビアンに吸収されていく。
ソレは瞬く間に10メートルを越え、ついには全長50メートルにも達した。
虹色の巨大なシルエット。やがてデビアンが顕現する。それはまさに光の巨人だった。
デビアンが右手を伸ばす。
その指先から無数の光線が伸びる。それらは、屋根から屋根へと渡りながら逃げている陽動部隊の者たちの元へと落ちる。
街のそこらかしこで爆発が起こった。
デビアンの指先から伸びた光線が爆発を起こしたのだ。陽動部隊の者はもちろん、周囲10メートルほどの範囲が粉ミジンにフキ飛ぶ。
このデビアンの光線で陽動部隊の過半数が死んだ。生き残ったのは3人。
デビアンが生け捕りにしようと思った美女たちである。
ローズマリー。リン。リベルテ。
リンは屋根の上から街にソソり立つ光の巨人を見上げていた。夜空を背景に立つソレは、あまりにも巨大。
巨大なだけではない。
先ほど無数に放たれた光線。途中でいくつも折れ曲がり、高速で得物をトラえた。あんなモノをカワせるわけがない。
逃げなくては。
絶望しそうになる心を鼓舞し、リンは踵を返した。デビアンは女好き。自分に向かって光線が飛んでこなかったというコトは、そういうコトなのだろう。
再び、屋根から屋根へと跳んで逃げる。
フっ、とその前に光の人型が現れる。
背に翼を生やした光の人間。まるで神の使徒、天使のようだ。だがヒドく太っている。肥満の天使。
「見つけたぞ」
天使がデビアンの声で言った。
リンは気合の声ともにヌンチャクで天使を殴る。
ヌンチャクは天使に当たる前に光の粒子となって消えた。それどころかリンの魔装までも解除されてしまう。
「効かないんだよ。なあんにもなー」
デビアン天使が言った。
逃げようと後ろに飛んだリンを空中で捕獲。
「捕まえたあ」
それがリンが最後に聞いた声だ。彼女の意識はブラックアウトした。
◇
ローズマリーの前にもリンと同様、デビアン天使が現れていた。
問答無用で槍で攻撃するローズマリー。
やはり槍が光の粒子なって消える。
だが、さすがに天才と呼ばれ、最年少でSランクへと到達した少女。即座に自身の背中から分身を生み出して離脱する。
ユニークスキル【分身】は、どちらも本体。10分間が経過すると、どちらの自分を残すかを選択する。
「イイなあ。双子みたいで、楽しめるじゃねえか」
デビアン天使が魔装が解除されたローズマリーの腕をツカんだ。バチンと音がして、ローズマリーの体から白煙が立ち昇る。気を失った。
もうヒトリのローズマリー。
地上へと飛び降りて、そのまま走る。
だが、その前にデビアン天使が降り立つ。振り返ると後ろにも。
ローズマリーは目を閉じた。
覚悟を決める。
「もう、降参かい。ローズマリーちゃんよう」
目を開ける。
デビアン天使の数はさらに増えていた。前に3体。後ろに2体。
だが。
ローズマリーの体から分身体が連続で現れる。分身の背中から次の分身が現れ、その分身の背中からさらに次の分身が。
ローズマリーが一度に2体までしか【分身】を作らなかったのは理由がある。
危険なのだ。分身を作れば作るほど、意識が曖昧になる。1体1体の意識が薄くなるのだ。
「オモシレー。オモシレーな。お嬢ちゃん。夢が膨らむぜぇ」
デビアン天使たちが下卑た笑い声をアゲる。
ローズマリーの分身体は同時に動いた。攻撃をカケるものはいない。全員が、その場を離脱しようと、別方向へ飛ぶ。
屋根の上へ降りたローズマリーは息を飲んだ。
空には何百、いや何千という天使が飛んでおり、夜空を明るく照らしていた。
◇
リベルテの前にもデビアン天使は現れた。
だが、様子がオカシイ。
首をカシげている。
「オイ、なんだよ。言いたいコトがあるなら言えよ」
リベルテは大剣を構えながら言った。
なんだか、デビアン天使の目が失礼な気がするのだ。
「ウーン。美人ちゃあ、美人だが。なーんか違うんだよなあ」
「ハア? フザケんな。私は、どっからどう見ても美人だろうが。通りを歩いたらみんな振り返るくらい美人だぞ」
ウーン、と考え込むデビアン天使。
その隣にもう1体、デビアン天使が降りてきた。
「早く捕まえようぜぇ。兄弟よう」
「イヤ、ナンカ違くねえかあ、コイツ」
「そう言われて見れば、ナンカなー」
「なんだよっ。ナンカ、なんだよっ。私はモテモテなんだぞ。スゴいモテるんだぞ。お前たち、私を拉致して、性奴隷にする気なんだろう? もう、降参するから、連れてけよ」
だが2体のデビアン天使が、ウーン、と首をカシげる。
そこに次々とデビアン天使が降りてくる。
「オイ、なにやってんだよ。遊んでないで、どんどん捕まえようぜ」
「奴隷一斉捕獲イベントだぁ」
「イヤ、でもコイツ、ナシじゃねえかあ?」
「いや、アリといえばアリな気もするなあ」
「だが、俺様のハーレムにブスはいらないぞ」
「ブスではないと思うけどなあ」
デビアン天使たちが悩む。リベルテを見て首をカシげ、うなる。
「ナンカ、違うんだよなあ」
「違うよなあ」
「ヤメとくか?」
「犯す価値なし? じゃあ、殺す?」
「でも、美人は美人だしなあ、いちおう」
ウーン、と悩み続けるデビアン天使たち。
「フザケんな。いちおうトカ言うな。垂涎モノの美人だろうが。私がアウトだっていうなら、それはお前らの感性がクソなだけだから。私はもう、絶対的な美女だから。冒険者美人コンテストとかあったら、絶対入賞してるから」
ウーン、と悩み続けるデビアン天使に囲まれ、半泣きでわめき続けるリベルテであった。
どんまい。




