↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/108

そして作戦開始

 作戦開始。

 とはいえ、まずは諜報部隊が街に潜入するところから。ほかの部隊の者は待機である。

 さすがに作戦が始まった緊張感からか、ケンカ騒ぎはピタリとオサまった。


 諜報部隊はスカウト特化のスキルの持ち主たちで編成されている。彼らはひたすら潜(ひそ)み、情報を探る役割。攻撃には最後まで参加しない。

 だが危険度は高い。アレキルの街にデビアンが、どの程度の網を張り巡らせているかわからないのだ。


 それでも街である以上、当然、インフラは必要であり、都市の人々の生活を維持するタメに物資の搬入搬出は必要である。

 潜入するスキマはいくらでもあるのだ。

 最初はSランクの凄腕スカウトが単身で潜入。その後、1人、2人と潜入する者を増やしていった。


 討伐軍のアジトでは作戦開始から朝、昼、晩と各部隊長が集まって作戦会議を開いた。

 潜入した諜報部隊員から次々と情報がくる。それを精査し、作戦の修正を適時(てきじ)していかなくてはならない。


「どうやら、デビアンは予想以上の脳無しのようですわね」

 鮮やかな黄金の縦ロール。まだ10代とオボしき若い女性である。だが彼女、ローズマリー・トーダは陽動部隊の隊長である。

 さらに『トーダ商会』現会長の娘にして、『金色(こんじき)のバラ姫(ばらひめ)』の2つ名を持つSランク冒険者でもある。


「ローズマリーさん、油断はいけませんよ」

 討伐軍総括長リディッシュがタシナメる。孫娘といえるような年齢差だ。


「ですが、こうもヤスヤスと情報が得られてはね。ワタクシたちはもう、デビアンの朝食の内容から、マクラの硬さまでわかってしまっておりますのよ。案外、たやすく暗殺できるのではないかしら」


 Sランク冒険者にして大陸で1、2を争うスカウト。シロー・ブックスは、すでにアレキル城に潜入を果たしている。

 彼からモタらされるアレキル城の様子は陰惨そのもの。壁や床は体液や血で汚れ、常時、女たちの悲鳴と嬌声(きょうせい)が響き渡っているとのコト。


 だが、守りはガラガラ。警備の兵士などもおらず、ほとんどの者は恍惚(こうこつ)とした顔でうずくまったり、立ち尽くしていたり。

 命令のない限り、彼女たちはナニもしないという。

 また作業をする者も自分の仕事が終われば、アトはただ固まっているだけ。


 唯一警戒すべきは、デビアンの命令がなくても自立的に活動を続けるリーリアほか数名の女たち。映像でデビアンのソバで微動だにせず立っていた魔装の女たちだ。


「だが、連中にしても自分の意志があるワケじゃないようだ。あくまでもデビアンの指示を遂行しているにすぎない。例え、俺が目の前に現れても、無視するかもな」

 とシローは報告している。


 要するにアレキル城は警備がスカスカ。

 誰でも入れる。


「シロー殿からはデビアン暗殺が打診されてきていますよ」

 青い制服姿の中年女性。討伐軍情報部の長だ。


「いっそ、シロー殿に任せてみたらどうだ?」

 これはジルである。第3総攻撃部隊長に任命されている。

「『ブレイブ』の連中みたいに真正面からやりあわなければ、案外、軽く倒せるかもしれんぜ」


 しかし、リディッシュは首を横に振った。

「ヤメておきましょう。私が見るに、デビアンという男の本質は臆病です。非常に鈍くはありますが。彼が潜入者に対して無警戒であるのは守りに絶対の自信があるからでしょう」


「ただ鈍いだけかもしれませんわよ」

 ローズマリーが言った。


「かもしれません。だが、試してみるにはリスクが高い。いたずらに彼を警戒させ、イレギュラーな事態を起こしたくはないのです」


「私も同感だね。ああいうヤツはいよいよとなったらナリフリ構わなくなるからね」

 コチラは高齢の老婆だ。真っ黒いフード付きのマントを羽織っている。解放部隊長のルビス・シャルア。Sランク冒険者で『殺戮女王(さつりくじょうおう)』の別名を持っている。


「では、予定道理、明日、陽動部隊には潜入をお願いします」

 リディッシュがローズマリーに言った。


「承(うけたまわ)りましたわ」

 ローズマリーが言った。

「ようやく、あのゲス野郎を剣のサビにできるのかと思うと、心がオドりますわね」


◇


 アリスは闇の中、ギュっと両手を握っていた。

 このアジトに来てからずっと相部屋である。就寝の際は常夜灯をつけることなく、完全に照明を落とすので、真っ暗闇となる。

 おかげで、毎晩、眠るのが怖かった。

 だが、今は、闇への恐怖ではなく、明日への緊張に震えていた。


 部隊長のフレイア(メガネをかけたクール系美女)から、明日、いよいよアレキルへ潜入することが言い渡されたのだ。陽動部隊はすでに全員が街へ侵入を果たしている。

 陽動支援部隊、さらに解放部隊が街に入ったところで、陽動部隊がアレキル城へ攻撃をシカケる。


 陽動支援部隊もいくつかのチームに別れており、アリスもチームを1つ預かっているリーダーだ。

 アリスのチームは街の南側にある大時計台に陣取る手ハズになっている。

 アレキル城までの距離は約3キロ。十分、アリスの射程内。

 アリスはそこからデビアンを【気配探査】で確認。狙撃する。


 だが、狙撃のタイミングについては、変更があった。すでにアレキル城に潜入している諜報部隊長シローが毒を盛るというので、ソレに合わせての狙撃となった。


 毒で死ぬならばよし。死なずにアクションを起こしたならば、その瞬間に狙撃する。

 そこから戦いの火ブタは切って落とされるのだ。


 アリスのチームのほかのメンバーは彼女の護衛である。万一アリスが攻撃を受けた際、彼女を守る役割を負っている。


 明日の夜に全部終わるんだ……。


 予定ではシローは夕食に毒を盛るコトになっている。


 ウチがデビアンを倒して。マリアを助ける。ウチ、ガンバるよ、マサヒコ。


 アリスは毛布をカブると、シュマホーでマサヒコとのツーショット写真を表示した。

 双京極堂の展望台で取った写真。隣り合って立ち、互いの左手の人差し指を合わている。フタリの間に大きなピンク色のハートが浮かんでいる。

 照れくさそうなマサヒコの顏。


「絶対、終わらせて、迎えに行くから。待っててよ、ちゃんと」


◇


 アレキルの街へは同じチームの3人と一緒に入った。

 ガル、エルダ、ロインの3人。

 ガルは痩せた長身の30男。エルダは初老の女性。ロインも初老の男性。エルダとロインが夫婦で、ガルはロインの年の離れた弟。アリスは娘ということになっている。ロインとガルはエイジア系の容姿なので、問題はないだろう。


 隣町から引っ越す前提で下見に来たという設定。アリスは事前に細かい詳細を聞かされ、ソレを覚えなくてはならなかった。


「まあ、私がウマくやりますよ。大丈夫」

 エルダがそう請け負ってくれた。


 だが、それほど設定をつめておいたが、門番に見トガメられることはなかった。

 門番2人は緊張感もなく雑談していた。どうも、デビアンが廃棄した女を拾ってきては遊んでいるらしく、その話ばかりしている。


 ザケンな、死ね。

 アリスは怒りを押し殺し、不安そうな演技をしつつも、3人の後について門をクグった。


 アリスたちのように正面から入っていく者ばかりではない。ある者は壁の下に開けた穴から入り。ある者は壁を越えて侵入。そのあたりは諜報部隊からもたらされた情報がモノをいった。


 アレキルの街は、一見、平穏に見えた。

 通りを歩く人々はごく普通だし。馬車も行きかっている。

 強いて言うなら若い女性の姿がない。見かけるのは男性か、年のイった女性、あるいは年端のいかぬ幼女。

 だが、不自然すぎるというほどではなかった。


 みんな、デビアンをどう思ってるんだろう?

 アリスは不思議だった。

 女たちを奴隷にして率いているデビアン。それを目撃しないハズはないのに。自分には関係ないと無視しているのか?


 やがて4人は高い時計台のある公園へと到着。さっそく内部のハシゴから上る。魔装を纏(まと)っていなくても、ステータス上昇の影響か、アリスはワリと簡単に上まで上れた。


「じゃあ、ここで夜まで待機ですね」

 エルダが床のホコリを払って座る。


 薄暗い時計台の内部。

 時計を動かすタメの歯車やらワイヤーやらがミシミシと音をタテている。


「ちょっと早く来すぎたんじゃねえか?」

 ガルが言った。

 まだ時間は午後2時。あと4時間以上ある。


「まあまあ。何事も早め早めにおこなった方がイイですよ。ナニがあるか分かりませんからねえ」

 エルダが言った。


「ウチ、魔装顕現(マソーケンゲン)してるから」

 言うとアリスは久しぶりに魔装顕現(マソーケンゲン)した。

 バニー魔装である。


「ずいぶん、挑発的なカッコウだな」

 ガルがナメるような視線でアリスを見る。


「ウチ、彼氏いっから」

 アリスは言うとアレキル城の方角の壁に手をついた。

 目を閉じる。


 弓スキルの上級スキル【遠矢(トーヤ)】。その進化スキル【気配探査】。これは単に敵の気配を探れるというものではない。気配をサーチし、さらには自分の知覚をその場に送ることができる。

 いうなれば、その場に自分がいるかのように五感で感じることができるのだ。


 アリスはアレキル城の気配をサーチ。

 すぐに分かった。なにしろ、1ヵ所に100以上の気配がある。中には魔物ゴブリンやオークの気配まであった。


 さらにソコに知覚を飛ばす。

 頭の中に音と映像が浮かんできた。


 石造りの堅牢そうな城。アリスは堀にカカる跳ね橋の上に立っていた。

 その先の城門は開け放たれており、門番の影すらない。


 スー、とアリスは知覚を移動させる。城門をクグり、荒れ果てた庭へ入る。もとは美しかった庭なのだろうが、今はただただ枯草が地面を覆(おお)っている。

 前庭を横切り、そのまま閉じた大扉をスリ抜けて城内へ入る。


 異臭。なにか酸っぱいようなニオイが漂っている。

 短い廊下を抜けてエントランスホールへ。

 そこは肌色だった。恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべた女たちがそこらかしこにうずくまり、あるいは寝そべっている。


 アリスはナニも考えないように、感じないように、自らに言い聞かせながら、城内を探った。

 どこもかしも裸の女ばかり。全員首輪をして、体のどこかしこにデビアンの名が刻まれている。


 ふと、金属製のビキニのようなものを着た女が歩いているのが目に入った。ほかの女とは違い、しっかりと歩いている。

 アリスはその女についていった。


 地下へと降りる。

 薄暗い廊下。

 ここには座り込んだり、寝そべったりする女はいなかった。扉がいくつもあり、女はそのうちの1つに入った。


 部屋の中には、やはり、といおうか、女たちがいた。彼女たちは床に取り付けられた枷(かせ)に手足を拘束され、大の字に寝ている。

 寝ているのは魔法陣の上だ。なんらかの魔法を受けているのだろう。目は開いているが、その目はなにも見ていないかのように虚(うつ)ろだった。


 アリスは女たちの中に見覚えのある者たちを見つけた。

 映像で見た『ブレイブ』のメンバーだ。


 マリアもこんな風に……。

 考えまいと思っても考えてしまう。


 マリアを探そうか?

 アリスは迷った。時間はまだタップリある。デビアンの元へ行くのはアトでも構わない。

 それよりも、マリアを探して、デビアンを倒したアトにすぐ救出できるようにしておいた方がイイのではないか?

 あるいは彼女だけでも先に救出できれば……。


とにかく、マリアを探そうと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。