デビアン討伐軍アジト
一行がアレキル郊外の廃村に到着したのは出発から3日後のコトである。さすがに直接飛行馬車で乗り入れたりはせず、アレキルから南へ100キロほどにある都市ベリアータからは地上を移動。駅馬車やバス馬車を使った。
おかげで余計な時間がかかった。
廃村は討伐軍の集合場所のヒトツ。
だが、どこにも人影はなく、ただただ崩れかけた家屋がポツンポツンとあるくらいだった。
「一番奥の赤い屋根の家」
レミネスが確認するようにツブヤく。
「元村長宅」
アリスは、こんなところに人が集まって大丈夫なのか? と不思議に思った。目立って、デビアンの注意を引かないか?
なにしろ、ベリアータからここまで来るのに旅人への偽装やら変装やらしてきたのだ。
やがて村の一番奥にヒトキワ大きな廃屋があった。赤い屋根。ほかの家々に比べると少しはマシなように見える。
「アレですね」
レミネスがうなずく。
レミネスが中に入り、その後に、アックス、アローと続いていく。
ホコリっぽそう、と思いながらもアリスも続いた。
実際、屋内はカビ臭く、ホコリっぽかった。クモの巣がいたるところに張っている。
厨房らしき部屋へと入る。
油ぎった床に1ヵ所だけオカシなところがあった。正方形の金属板のようなモノで魔法陣が刻まれている。
レミネスが魔法陣に【ギルドカード】をカザす。
すると金属板が持ち上がった。その下から降りる階段が現れる。
「おおっ、これはもしや【簡易迷宮】ではありませんか? 実用化はまだまだ先だと聞いていたのですが」
ガッシュが珍しくハイテンションになった。いつもは物静かで落ち着いている雰囲気なのに、それが急に子供の用にハシャイでいる。
「ハイ。魔法道具職人ギルドからの借り物らしいですよ」
レミネスが言った。
「さすがに本物の【迷宮】に比べればアレですけど。ソコソコの広さがあるそうです」
「素晴らしい。入っても構いませんか?」
「ハイ、むしろ、入ってくれなくては困ります。当面ここが討伐軍のアジトになるんですから」
ガッシュが先頭を切って降りていく。ほかの者も彼を追って降りていく。
「ガッシュは相変わらず魔法道具マニアだね」
リンが言った。
「ああ、そんでか」
アリスは得心した。
「冒険者で金を貯めて魔法道具屋を開きたいんだって」
「へえー」
リンは料理屋を開きたいと言っていた。アリスもマサヒコと一緒にナニカ商売を始めようと思っている。
すべてはデビアンを倒してから。
いろんなコトの決着がついてからだ。
階段を降りると小さな部屋があり、ソコに赤い扉があった。【迷宮】でよく見た扉だ。あそこをクグるとフロアのどこかの赤い扉にワープさせられる。
「赤い扉は1枚だけですから、【迷宮】のように別々の場所から現れるというコトはないそうです」
「本物の【迷宮】みたいですね。素晴らしい。素晴らしい」
ガッシュは先ほどから素晴らしいばかり言っている。
赤い扉を開くと通路が伸びていた。石造りの通路で、ベルドーン迷宮の地下5階フロアまでと同じような雰囲気だ。
両側に金属製の黒いドアが並んでいる。通路には人も歩いており、アリスたちを見て軽く会釈をする。
「まずは討伐軍のトップに挨拶ですね。しかし、どの部屋がなんなのか、サッパリわかりませんね」
レミネスが首をカシげる。
「【迷宮】内は一定時間以上物を置くと排除されるシステムがありますからね」
ガッシュがウンウンとうなずく。
「それをいかにして無効化するか。それが今後の課題かもしれませんね」
一向は出会った人に道を聞きながらも、奥へ奥へと向かった。簡易とはいえさすが【迷宮】。通路は一本道などではなく、複雑に入り組んで迷路になっていた。
「魔物は出現しないのかい?」
リベルテが不思議そうに言う。
「その問題をクリアするのが極めて困難だったと『月間魔法道具』にノっていましたよ」
ガッシュが嬉々として記事の詳細を説明。だがリベルテはあまり興味がなさそうで、聞き流していた。
それらしき部屋が見えた。ギルド職員の青い制服を着た青年が立っている。
「ベルドーン支部のレミネスです。リディッシュ総括長は中でしょうか」
「はい。ただいま、中で執務中です」
言って、青年が中へと入った。
すぐに出てきて一行を部屋の中へと入れる。
部屋には折り畳みの長机と椅子がコの字型に並べてあり、全員がパソコンのような魔法道具と向き合ってカタカタと作業をしていた。全員ギルド職員の青い制服姿だ。
一番奥にいる60後半のメガネをかけた白髪の男性が立ち上がった。
「遠路、お疲れさまでした。討伐軍総括長を任されましたリディッシュ・ツヅキです」
笑顔でやってきて全員と握手していく。
「ツヅキって、ヒョットして」
アリスはリディッシュの手を握りながら言った。
「ハイ。息子が今回の作戦参謀長の大任をを任されております」
「えーと、違くて。『双極の大魔導』の……」
『双極の大魔導』が一翼、『戦闘魔法師』の異名を持つガイ・ツヅキ。アリスのクラスメートの都築凱の血筋の者かもしれない。
「ああ、同じツヅキ性ですからね。確かに、『戦闘魔法師』が我が祖先ということなのでしょうが。なにしろ500年も前の話ですからね。ただ、我が家系の者は不思議とステータスの上昇が普通よりも大きいようです」
アリスはリディッシュの顔をまじまじと見た。だが、なにしろ都築凱とほとんどカラんだコトがない。顔もウロ覚えである。面影があるかどうかなど、分からなかった。
全員と握手したあと、リディッシュは今後の予定を告げた。
討伐部隊の全員が集結するまで自由にしていてよいコト。全員集まり次第、各部隊に別れて、ミッション遂行のタメのプレゼンテーションや訓練を行う。
その後、作戦開始。
「予定では5日後に作戦開始となっています」
その後、リディッシュはアジトで暮らす上での注意事項を説明。
【迷宮】と同じく一定時間、同位置にある物は吸収されてしまうコト。ただし、魔法道具は影響下にないタメ、魔法道具の上に物を置いておくと良いコト。
現在、職員がアジト内を改善している最中なので、もし良かったらソチラの手伝いをして欲しいこと。
アリスたちは言われた通り、アジト内の整備を手伝った。
魔法道具の【簡易トイレ】を設置したり、各部屋にやはり魔法道具のベッド(3段ベッド二つ)を設置したり。ほかにもテーブルセット、チェスト、など、いちおう、居住できる空間を作っていく。
各部屋の黒い金属扉には【魔法掲示板】(文字などが光る。電光掲示板のようなモノ)をペタペタと張っていった。
冒険者たちは続々と到着した。アジトの整備を手伝う者も増え、翌日には、アリスたちがアジトに来た時とは、すっかりサマ変わりしていた。
だが、人が増えるとトラブルも増える。
アジト内ではちょくちょくケンカ騒ぎが起こった。通路で怒鳴り合い。食堂で殴り合い。魔装顕現で斬り合う者たちまで出るシマツ。
「なにしろ、冒険者には血の気の多いヤツがたくさんいるからね。こんなところに閉じコモったら、そりゃー、ケンカもしたくなる」
などと他人事のように言うリベルテだったが、アリスが知るだけでも3回はケンカ騒ぎを起こしている。
「まあ、明日には全員がそろう予定だし。そうなったらケンカどころじゃなくなるよ」
リンが言った。
翌日夕方。
ついに討伐隊全員がそろった。
総勢500人。『簡易迷宮』はカナリの広さがあり部屋数も多いが、5、6人が相部屋となった(3段ベッド)。それでも部屋数は足りず、【フロアボスの間】のような大ホールでテント住まいとなる者も多かった。
一堂は大ホールへ集められ、ソコで討伐軍総括長リディッシュが挨拶。さらには、今後のスケジュールを説明。
その後、各部隊に別れた。以後、その部隊の隊長の指示に従うコトとなる。
アリスが着任した陽動支援部隊は50人前後。遠距離攻撃を得意とする者が集まった。
隊長はフレイア・フェアリーという30前後の銀髪の女性だった。
「みんな、分かっていると思うが、私たちの役割はカナリ危険度が高い。なにしろ、魔装を纏ったデビアンには攻撃が一切効かないんだから。私たちの役目は、陽動部隊を逃がしつつ、デビアンを街の外へおびき出すコト。諜報部隊および、解放部隊は攻撃には一切加わらない。間違っても、彼らの足を引っ張らないようにして欲しい」
諜報部隊は作戦決行と同時に街に潜入し、情報を集める役目。彼らからもたらされる情報を元に、陽動部隊がデビアンの居城アレキル城へ攻撃をシカケる。
解放部隊の役目は隷属化にある女性たちを殺すコト。その役割上、諜報部隊と同じく、最後の最後まで街に残るコトになる。
それから各自の役割が細かく決められていった。ステータスを元に事前にギルド本部がネったモノだ。
アリスの役目は高所に陣取り、デビアンを見張り、狙撃するコト。
「君のスキルはかなりスゴいらしいな。障害物を貫通し、10キロ離れた位置から届く矢を放てるそうだが」
フレイアが言った。メガネをかけた硬質の美人である。
「狙撃って。陽動部隊が攻撃したアトじゃん。それじゃあ、攻撃効かないんじゃない?」
デビアンが魔装顕現したアトでは、アリスの攻撃も無効化される可能性が高いのだ。
「ソコは作戦本部も良く考えている。攻撃の最初の一撃は君が行ってもらうコトになっている」
「ウチが?」
「それだけ、本部も君に期待しているんだろう。魔装を纏う前にデビアンを倒せるなら、それが一番だからな」
「君の一矢を合図に、陽動部隊が攻撃をシカケる。君は狙撃を続けてほしい。超遠距離からの攻撃だ。デビアンも放ってはおけないだろう。ヤツが君の元へ向かうようなら、君は即座に撤退してくれ」
「それじゃあ、彼女の役割は陽動支援ではなく、陽動そのものですね」
陽動支援部隊の他の者が言った。
「それはそうだ。だが、超遠距離型射手という彼女のスタイルを考えれば、接近攻撃をしかける陽動部隊に入れるのも考えものだからな」
アリスとしては、その役割は願ったり叶ったりだった。実は、せっかくの必勝戦法を使えなくなるのではないか? と心配していたのだ。
倒すなら、不意打ち一択だ。




