アリスの気持ち
アリスが本部を出発したのは翌日のコト。
すぐに部隊に振り分けられ、部隊から移動する小集団に分けられるのかと思いきや、移動は各ギルドの支部単位で行われるコトになった。
もちろん【ゲート】を守備する防衛軍の者は、進路が違うタメ、まとまっての移動となる。
アリスはアックス、リン、ガッシュ、レミネス、リベルテ、アローの7人でアレキルへ移動することになった。ルートはロキ王国南方の【ゲート】からロキ王都フライヴェを経由。飛行馬車などを使っての移動なので3日程度の道程となる。
まずはミッドバレーから飛行馬車でロキ王国南方にある【ゲート】へ移動。さすがに1台の飛行馬車には乗り切れないので、2台に別れた。
アリスはリンとリベルテ、レミネスと一緒の馬車。
女4人で楽しく過ごした。
話題は主に互いの男性遍歴。
「6人か。年の割には多いじゃないか」
リベルテが感心したようにアリスに言った。
「まー、私がアリスの年には3桁はイってたけどな」
「ソレ、多すぎですよ」
レミネスがアキレ顔で言う。
「リベルテ姉さん本当に節操がないですよね」
「そんなコトはない。私はすごく面食いだからな。レミネスのように男にいろんなものを求めやしない。私が求めるのは顏と体だけだ」
うわっ、とレミネスが嫌そうな顔をする。
「レミネスさん、男のタイプにうるさいの?」
アリスは言った。
「そ、そんなコトはありませんよ。私が男性に求めるのは、まず私に釣り合う容姿。それに私に釣り合う収入。それからもちろん、包容力と優しさ。ああ、私よりも強いのは当然ですよ。アト、コレも当然ですがウワキをしないコトです。ウワキをする男など、ヒビが入ったグラスのようなものです。なんの価値もありませんからね」
「ああ、そこだけは同感。ほかの条件が全部サイコーでも、ウワキをする時点でナシだね。ウワキなどというと軽く聞こえるが、つまるところ裏切りだからね」
リンがウンウンとうなずく。
そういうリンは今までたった1人の男性としか交際経験がない。幼なじみで、いつか一緒に料理屋をやろうと約束した男。
「10年間ツキアった挙句、アッサリ、別の女に乗り換えられたけどね。アハハハ」
瞳に闇を漂わせての乾いた笑い。
ソレ、キツイ、とクズ男をツカマされてばかりだったアリスですら思った。
アリスもグーパンで殴られたのはカナリのトラウマだが、リンのソレも別ベクトルにトラウマだろう。
「頭にキタから別れるとき、半殺しにしてやった」
いかにもリンらしかった。
そんなこんなで盛り上がっていたら【ゲート】に到着。やはり神殿のようなモノが建っており、その奥にある扉をクグると、別の神殿へ。外へ出ると風景が一変していた。
「ここがロキ王国? ナンカ普通じゃね?」
アリスは周囲を見回して言った。
小高い丘の上のようだ。見渡す限り冬枯れした平原が広がっている。
「ここでギルドが手配した飛行馬車が迎えに来るはずですが」
レミネスが言った。
4人で昼食をトっていると神殿から、ジル、アックス、アロー、ガッシュの4人が出てきた。
「お迎えはまだ来てないのか?」
ジルが空を見上げて言う。
「ノウシア王国のルイリー支部が私たちより先にこの【ゲート】を使ったハズですから。そちらを送っていったところかもしれませんね」
本部に聞いてみますね、とレミネスがシュマホーを取り出したところで、空に赤い点のようなモノが2つ見えた。
「ああ、来たみたいだぜ」
アックスが目をスガめて、空を見上げ、言った。
赤い点はドンドンと大きくなった。
ドラゴンだ。真っ赤なドラゴンが2体、コチラへ向かってくる。
「やっぱドラゴン、多いんだね」
アリスは言った。
飛行馬車は圧倒的にドラゴンが多いようだ。特に赤色が多い気がする。
「レッドドラゴンはカッコイイからなー。色は自分で変えられるんだぜ」
アローが言う。彼自身はレッサードラゴンに変身できるらしい。
「俺も、ドラゴンならなりたかったなあ」
アックスがタメ息をつく。
魔物因子を調べてもらったら、ワームと大グモだったのだ。
「男ってドラゴン好きですよね」
レミネスが言う。
「それで、合コンとかで、変身人間ドラゴンってアピールしてくるんですよ。別に、ソコどうでもイイですから」
実体験である。
やがて2体のドラゴンが着地。
やはり、女性組と男性組に別れる。
「なー、今度は、違う組分けにしようぜ。男クサくてたまんねえ」とアローが文句を言ったが、誰も聞かなかった。
そのまま空の旅を4時間ほど。日が暮れてきたところで、ロキ南方の大都市シルヴィオに到着。
そこで1泊することになった。
冒険者ギルドの潤沢な資金のおかげか、宿はソコソコ上級な宿。
部屋はもちろん個室。リベルテとレミネスは連れ立ってサカリ場に遊びに行ってしまった。
アリスも誘われたが今回は断った。
アックスやリン、ガッシュとともに夕食をトり、ゆったりと過ごした。
夜。
アリスは夢を見た。
アレキルが大規模範囲魔法【スーパーノヴァ】で消滅する夢だ。
巨大なクレーターの中を歩きながら、アリスはマリアの名前を呼んで歩く。
生きているワケがないのに。
まるでアリバイ作りのように。
しょうがないよね。ウチにはどうしようもなかったんだし。
そんな言いワケを頭の中でする。
「本当に?」
マサヒコの声。
振り返るとマサヒコが立っていた。ボロボロの黒甲冑で。兜だけは外している。
「本当にどうしようもなかったの?」
その眼差しはヒドく冷たかった。
そこでアリスは目を覚ました。
照明はつけたままだ。
夢の余韻で胸が苦しかった。痛かった。
自身の体を抱きしめる。
しばらくそうしていた。夢が強烈だったせいか、どうも再び眠りにつけそうになかった。
シュマホーで時間を見ると朝4時。眠るのはアキラめた。
シャワーを浴びてメイクをする。そんなコトをしていたら日も上り始めた。
ヒドく感傷的な気分だったので屋上で朝焼けでも見ようかとオモイタツ。
部屋を出たところで肩を組んで歩くレミネスとリベルテに出くわした。
「おっ、アリス、早いな」
リベルテが言った。ものスゴく酒クサイ。
「てか、ソッチが遅いし。飲みすぎじゃん」
「私は帰ろうって行ったんですよぉ。でもリベルテ姉さんがネバってネバって」
レミネスの方はロレツが怪しい。ツブれる寸前といったところだ。
「馬車ん中、酒クサイとか、カンベンなんだけど」
「んっ、お前、ナンカ機嫌悪いな? 嫌なコトでもあったか?」
「別に。ちょっとヤな夢見ただけだし」
するとリベルテが近付いてきた。酒気が押し寄せてきてアリスは思わず顔を背ける。
「ナンカ悩みでもあるのか? どうせ、あと3時間もすれば出発だ。話聞いてヤルから部屋に入れろよ」
アリスは突っぱねようと思ったが声が出なかった。デビアン討伐作戦を聞いたときから胸に滞っていたモヤモヤ。夢のせいで、それをハッキリ自覚し、どうにかしたくて仕方がなかった。
すでに意識が朦朧として目も閉じているレミネスを、リベルテがヒョイっとお姫様抱っこ。そのままアリスの部屋へときた。
リベルテはレミネスをベッドに転がすと窓際のテーブルについた。アリスに対面に座るようウナがす。
「で、悩みはなんだい。若者よ」
「そんな大したことじゃないから」
アリスはそう強がったものの、リベルテが穏やかな笑みをタタえ(酒クサイが)待ち続けているので、トツトツと話した。
マサヒコがマリアに惹かれているコト。
マリアを救出したら、マサヒコに自分か彼女か選ばせようと思っていたコト。
それでも、デビアン討伐作戦の切り札。大規模範囲魔法の話を聞いて、心の中でソレを歓迎している自分がいるコト。その夢を見て気分が沈んでいるコト。
「カワイイね、アリスは」
リベルテが言ってアリスの頬に手をヤった。からかう調子ではなく、その声は本当に優しかった。
「ウチ、ホントに、マリアを助けたい。そう思ってるハズなのに」
「ウン。それは本当だろうね。でも、マリアを邪魔だと思っているのも本当だよ。私は思うんだけどね。心ってのは、スライムみたいにグニャグニャしててさ。なかなかキチっとした形なんてトラないモンじゃないかな。私だってさ。デビアンのクズ野郎をブチ殺したい気持ちもあるけど。逃げ出したい気持ちもある。ヤッパリ怖いからね」
「リベルテ姉さんが?」
アリスには驚きだ。自信タップリで迷いヒトツなさそうなリベルテからそんな言葉を聞くとは思わなかった。
「そりゃーそーだよ。みんなソコソコに卑怯者で臆病者だ。そーいうモンだよ。だけど、そーいう自分に流されないように。卑怯者であり続けないように努力している。臆病者だと思われないように勇気を出している」
「卑怯で臆病……」
なぜだか元彼のウッチーやカズの顔が思い浮かんだ。
ああ、そうか、と心の中でナニカがストンと落ち着いた。
「でも、卑怯で臆病なヤツは軽蔑されるからね。だから、みんな頑張ってんじゃないか? 誰かに愛されたいなら、大切に思ってもらいたいなら、軽蔑されてちゃあダメなんだって。子供の頃に気づくんだよ、きっと」
「そっか」
「卑怯な自分も許してやんなよ。臆病な自分も受け入れてやれよ。その上で、マシな自分であろうとモガこうぜ」
言ったアトに、リベルテが、ハア、とヒトキワ酒クサイ息を吐いた。
「私、イイこと言ったなー。もうサイコーじゃないか? サイコーにイイ女じゃないか?」
「マジ、そーっスね」
「ああ、ナンカ話してたら、無性に男が欲しくなった。ねえ、今から、男買いにいかない?」
「いかないってば」
「イケメンが、私の下で、アエぐのを見たいんだよぉ」
せっかくイイコトを言っていたのに、全部台無しにするリベルテであった。
それでもアリスの心はズイブンと軽くなった。




