作戦が発表される
翌朝。
アリスはリンと一緒に食堂で朝食を食べた。リベルテはあのアト、3人を連れ出して店からいなくなってしまった。
そのタイミングでアリスとリンは本部へと戻ったのである。
朝食後、部屋に戻ってノンビリしているとレミネスが呼びにきた。
みんなで連れ立って大会議室へと向かった。
「もう、リベルテ姉さんはナニしてるのよ」
レミネスがシュマホー片手にプリプリしている。どうやら連絡がツカないらしい。
「昨日、ズイブンご機嫌で飲んでたからね」
リンが言った。
「ヒョットしたらヒト晩中、男娼と愛し合ってたかもね」
「コッチは遅くまで仕事してたっていうのに。私だって仕事がなければ楽しんだのに」
「デビアンが片付いたら今度はフタリでタップリ楽しんでくるとイイよ」
リンとレミネスの会話をボンヤリ聞きながらも、アリスの意識はこれからの会議に向いていた。
レミネスの話では、ここでデビアン討伐作戦が発表されるらしい。
さっさとブっ殺してマサヒコを安心させてヤルんだから。
アリスはギュっと手を握りしめた。
広々とした大会議室。会議室というよりホールのようだ。奥に巨大なモニターがあり、その前に演壇がある。
ソコにたくさんの人が集まっていた。70すぎくらいの老人から10代前半の若者まで。服装もバラバラ。
ズラリと並べられたパイプ椅子に座っている。
アリスたちベルドーン支部の者たちも一ヵ所に集まって座った。
やがて会議が始まった。
冒険者ギルド統括本部長エグル・ルイーの演説。
まずは『ブレイブ』の死を悼み。
デビアンは極めて危険な存在。このまま野放しにしておけば冒険者という存在そのものに人々は懐疑的になる。冒険者ギルドの威信にかけて。考えうる全戦力をもって、デビアン・ドーベルを抹殺する。
続いてギルド統括本部参謀長で、デビアン・ドーベル討伐作戦の指揮をとるアッシュ・ツヅキが軽いアイサツのアト、作戦を説明する。
スラリとした美青年。メガネが似合う秀才といった感じだ。
巨大モニターに映し出される映像。それはミッドン王国を中心とした大陸の地図だ。
ロキ王国はミッドン王国の南東。そしてロキ王国の北方の都市に星印がついている。
「デビアン・ドーベルがいるのはここロキ王国がアレキルです」
モニターの地図の星印がピカピカと点滅する。アレキルという文字が現れた。
「厄介なコトにアレキルからほど近い距離に【ゲート】があります。恐らく、そう遠くないうちにデビアンはコレを使い、ミッドン王国へ攻撃をシカケてくるでしょう。また、デビアンもこの【ゲート】を警戒していると考えてイイ。まず、間違いなく罠をハっているコトでしょう」
モニターの星印アレキルのすぐ隣に赤い丸印に【ゲート】の文字。その赤い丸印から矢印が伸びて、ミッドン王国にいくつかある赤い丸印のひとつにツナがった。
「まず【ゲート】の防衛が必須。迎撃部隊をコチラ側の【ゲート】に配置し、デビアンの強襲に備えます」
矢印のツナがったミッドン王国側の【ゲート】に盾のマークと防衛部隊の文字。
「もちろん、守るだけでは勝てません。よってコチラからもアレキルを攻めます。【ゲート】は使用せず、ロキ南方、ミッドン、ミナス、ティータ、四方面からアレキルへ向かいます」
モニターの地図。
ロキの西隣ミナス王国。北隣ティータ王国。北西隣ミッドン王国。そしてロキ王国南方。それぞれの赤丸印の【ゲート】に剣マークが重なり、矢印が伸びて、アレキルへ向かう。
「攻撃部隊はそれぞれ5人から10人程度の小集団に別れて移動。それぞれ別のルートを使います」
アレキルへ向かう4つの矢印の周辺に小さないくつもの矢印が現れ、別のルートをとりながらもアレキルへつながる。
「アレキル周辺に集結後。同都市を包囲」
アレキルの星印を包囲する形で4つの剣のマークが現れる。
そこでモニターの映像が変わった。今度はアレキルの都市を大きく映した地図。
「攻撃部隊の一部には同都市へ潜入。諜報活動を行ってもらいます。十分な情報が集まり次第、デビアン抹殺作戦へ移行します」
そこでアッシュは言葉を切り、会場を見渡した。
「デビアン・ドーベルは危険です。あの最強と思われた『ブレイブ』が手も足も出なかった。単体での戦闘能力で彼に匹敵する者はいないでしょう」
そして、とアッシュは続ける。
「あの男は凶悪です。人を人と思わぬ男。あの男が存在するだけで大陸中の者がオビえるコトになる。必ず倒さねばなりません」
淡々とした口調ながら、アッシュの言葉には強い想いがニジんでいる。
「まずデビアン・ドーベルの異質な強さの秘密をここで解き明かしましょう」
モニターのアレキル周辺地図が消え、代わりにデビアンの写真が現れる。ギルドに登録されていたモノのようで、彼のプロフィールが乗っている。
「デビアン・ドーベル。出身はロキ王国王都フライヴェ。魔交歴666年、商家の3男として生まれる。初等学校時代に同級生へのワイセツ行為を繰り返し、退学。その後、冒険者となる。実家の財力により、冒険者を雇い、自身を守らせながらも力を付けていく。Cランク昇格後、ユニークスキル【共有】を発現。彼の以後の躍進ぶりを考えるに、力の源はこのユニークスキルによるものと考えて良いでしょう」
映像が切り替わった。
デビアンが光の法衣を身にまとっている写真。例の対『ブレイブ』戦の映像から切り出されたものだろう。
「『ブレイブ』との戦闘を分析したところいくつかの事実が判明しました。まず、その防御性能。魔法防御、物理防御、あらゆる攻撃において無傷。これはソウルパワーを直接放射し、鎧としているタメと思われます。そして、このソウルパワーですが、デビアン単体のモノではありません。元来、ソウルパワーの直接放射などを行えば数分で絶命します。このコトから推測されるのはユニークスキル『共有』の性能。それは自分の支配下、あるいは隷属化にある人間のソウルパワーを自身の力として使用できるというモノ。彼が引きつれていた女性たち。デビアンは彼女たちからソウルパワーを集め、自分の力と変えていると考えらます。もちろん、ソウルパワーを徴収された者たちはタダでは済まないでしょう。ソウルを激しく消耗。要するに寿命が大きく縮むことでしょう」
会場全体が息を飲むような音が聞こえた。誰もが想いは同じだった。デビアン・ドーベル。なんと邪悪な存在か。
「このコトから、デビアンはより多くの奴隷を支配下に置こうと考えているコトでしょう。恐らく、彼はこの冒険者ギルド統括本部強襲後、ミッドン王国を支配下におき、各国へ戦争をシカケるのではないかと推測されます。先ほども申しましたが、あの男は必ず倒さなくてはなりません。アナタの恋人が、家族が、ヤツの奴隷となり、命を吸われるのはそう遠い未来ではないのです」
映像が次々と切り替わる。デビアンが引きつれていた首輪をされて四つん這いで歩く裸の女たち。生ける玉座となっている女たち。
「デビアンのユニークスキル【共有】。光の魔装【ソウルメイル】を纏った状態の彼と戦ってもダメージを与えることはムリでしょう。同じくソウルパワーを放出しても、個人のソウルパワーではたかがしれています。だが、あのシステムは完璧ではありません。2つの弱点があります。1つに経戦能力。隷属化にある女性たちからソウルパワーを徴収し続けても、限りはある。女性たちは次々と息絶え、やがてはソウルメイルも消滅することでしょう。持久戦に持ち込めば勝率は高い。そして、2つ目。ソウルメイルを纏ったデビアン本人は無敵でも隷属化にある女性たちはそうではない。対『ブレイブ』戦では、【ジャスティスレーザー】により何人かの女性が死亡しています。つまり、デビアンにダメージを与えるには隷属化にある女性たちを1人残らず倒せばよいのです」
アリスは会場にいる冒険者たちが動揺するのが空気で分かった。それはそうだ。デビアンに囚われている女たちを皆殺しにすると言ったのだから。
あの子もヤバいじゃんか。
アリスの脳裏に青い髪の少女の姿が思い浮かぶ。マリア・ミルティア。彼女のタメにマサヒコはオカシクなっているのだ。
「だが、可能ならば隷属化にある女性たちは助けたいと私は考えています。よって、作戦は3段回。いや、3層と言った方が的確でしょうか。第1層。これは隷属化にある女性たちを殺さず救出可能な作戦。少数精鋭によってヤツの居城アレキル城を攻撃。その後、撤退。デビアンを街の外へおびき出し、街を大規模な結界で覆う。ソウルパワーを遮断する結界です。デビアンのソウルパワーの供給源を断ち、攻撃、抹殺します」
モニターの映像がアレキルと周辺地図に変わった。アレキルの中央にある城に、街の外の剣のマークから伸びた矢印が入り込む。それが折り返して再び街の外へ。城のデビアン星印から矢印が伸びて、それを追いかける。デビアン矢印が外へ出たところで街を囲うような点線が現れる。矢印の先に移動したデビアン星印に、街の外の剣マークが攻撃。デビアンの星印消滅。
「続いて第2層。第1層の遂行が困難であると判断した場合に、コチラに作戦を切り替えます。女性たちの救出をアキラめ、彼女たちを倒して、ソウルパワーの供給源を断つ作戦です。デビアンを街の外へおびき出したが、デビアンを倒すことがかなわなかった場合。結界によりソウルパワーを遮断できなかった場合や、デビアンがソウルパワーを貯蓄している可能性もあります。その際、街に潜入している別動隊が女性たちを殲滅します。その後、持久戦へと持ち込み、デビアンの【ソウルメイル】が解除されたところで彼を倒します」
モニターのアレキルの街中でいくつかの剣のマークが縦横無尽に移動する。やがて街の外の星マークが小さくなる。そこに剣マークが攻撃。消滅する。
「最後に第3層。コレはデビアンをおびき出せなかった場合。ないし、第2層において、ソウルパワー供給源の女性たちを殲滅できなかった場合の作戦です。街を囲う結界をそのまま大規模範囲攻撃魔法へ移行します。使用する魔法は【スーパーノヴァ】。結界内は完全消滅することでしょう。恐らくデビアンは無傷でしょうが、ソウルパワーの供給源の女性たちは消滅するコトでしょう」
アリスは目を閉じた。
マリア・ミルティアが溶けて消える様子が思い浮かぶ。
唇を噛んだ。自分の心にワズカにソレを歓迎する部分を感じ取ったタメだ。
ウチ、最低。
「以上が今回の作戦の全容です。ナニカご質問はありますか?」
すると中年の男がスっと立ち上がった。神経質そうな男だ。
「その、ソウルパワーを遮断する結界ですが、その力の供給元はどうするんですか? それほどの結界。そう簡単にはハれないと思うのですが」
「100人。元冒険者の方々と連絡を取り、協力をしていただけるコトになりました。全員、老齢の方々です」
「そんな方たちがいったいどんな役に立つんです?」
アッシュが1枚のカードを上着のポケットから出した。キラキラと黄金色に輝くカード。
「ギルカードはソウルとツナがっています。本来、【ギルドカード】には安全装置がほどこされ、ソウルに必要以上の負荷をカケないようになっています。このリミッターを外したカード。コレを使用すれば、一時的にカードの持ち主のソウルパワーを限界まで吸い上げることが可能です」
「それじゃあ、協力者は……」
「協力者にはすべて事情を説明してあります。一切強制はしておりません」
アッシュの眼差しに、質問者は黙り、そのまま着席した。
「ほかに質問は?」
別の男が立ち上がった。
「ロキ王国を始め、各国の動きはどうなってる? 協力してもらえるのか?」
アッシュはうなずいた。
「デビアンの脅威は各国無視できぬものですから。中でも、ロキ王国はデビアンを最大級の脅威だと考えているようです。協力は惜しまないとのこと」
別の者が立った。今度は若い女性だ。
「ていうかさ。具体的に報酬は幾らなワケ?」
「果たす役割、割り振られた部隊によりまちまち。ただ、最低額で1千万エーンは保証します」
「それって、例えば防衛部隊で【ゲート】を見張ってるだけでも貰えるワケ?」
「ハイ」
「部隊への割り振りは皆様の能力を考慮したうえでコチラで割り振りをします。ただ、どの部隊でも問題がないだろう方に関しては、本人の意志を尊重したいと思います」
ほかにも次々と質問が出て、アッシュはそれらに的確に答えていった。
やがて会議が終わる。
今日中に部隊を編成し、明日から逐次、移動を開始するとのこと。
その後、アリスを始めとするベルドーン支部はギルドマスターのジルの部屋へと集合した。そこでようやくリベルテが合流。ものスゴく上機嫌だった。
「イヤー、もう5歳は若返ったね。イケメン最高」
ヒトリだけテンションが馬鹿高かった。
「リベルテ姉さん、ハメ外しすぎだぜ」
色男のアローが苦笑い。
「あん? お前も昨日は楽しんだんだろ。人のコト言えねーだろうよ」
「まあ、ソレはソレ、コレはコレ。俺はちゃんと会議にも間に合ったからな」
そこからジルがベルドーン支部の者たちに紙を配っていった。
「それぞれの配属先だ。選択可能な者は、どれか1つを選ぶように」
アリスは受け取った用紙を見た。自分の名前が書かれており、その下に部隊と詳細が書かれていた。
「討伐軍。アレキル陽動支援部隊」
アリスは紙を読み上げた。陽動ということはアレキルに潜入し、デビアンをおびき出す部隊だろう。
下に詳細があり、ソレにはデビアンと直接接触する陽動部隊が逃走する際に支援する役割と書かれている。
報酬も書かれている。
基本報酬3億エーン。成果によりボーナスあり。
3億エーン。破格の額である。アリスはナニカの間違いではないかと思ったほどだ。
「イヤ、任務の危険性を考えれば打倒だろう。陽動部隊の次に危険な役割だからな」
いぶかしむアリスにジルが言った。
「フン、私は陽動部隊だってさ。デビアンのクズに一泡フカせてやろうじゃないか」
リベルテが言う。
ほかにも、レミネスはアレキルに事前に潜入し情報を集める諜報部隊。
ジルはデビアンを街の外へ誘い出した後に攻撃をしかける総攻撃部隊。
リンはリベルテと同じく陽動部隊。アックス、アロー、ガッシュは防衛軍か、討伐軍の選択(防衛軍は【ゲート】の防衛。討伐軍はアレキル攻撃)。
討伐軍を選択した場合、総攻撃部隊となる。
「まっ、討伐軍にしとくか。リスクは変わんねーだろうし」
アローは言った。
「私も討伐軍総攻撃部隊にします」
ガッシュが言った。
「俺もソッチにするか。防衛軍の枠は、若いヤツらに残してやりたいしな」
アックスが言った。
ジルは全員が任務を承諾、選択したことを見ハカらい、部屋を出ていった。各支部のギルドマスターと本部幹部間での最終的な部隊が編成あるのだ。
「今日は本部ビル外には出ないようにお願いします。夕方には正式に各自のスケジュールがまとまると思いますので、それまで待機していてください。ビル内ならば、行動は自由です」
レミネスが言って解散となる。
「アリスはどうする?」
リンが言った。
「部屋で寝てる、かな。ヤルことないし。リンさんは?」
「私も似たようなところだね。昨日買った本でも読んでいるよ」
「私も寝るよ。昨日の夜、ガンバりすぎちゃったからね」
言って、リベルテが大アクビをする。
「眠い眠い」
「オイオイ、つまねえこと言うなよ。部屋でできることもあるぜ。楽しくて気持ちイイこと」
色男アローがアリスに迫る。
「お前にもカワイイ時期があったんだがなあ」
リベルテがしみじみとタメ息をついた。とっても残念そうだ。
「だ、だから、昔の話はナシだってば」




