ミッドバレーを観光
魔法道具ビルの次はミッドバレー1の観光スポット。『ミッドビル』に行った。
駅馬車で20分ほどの距離。向かう途中にアリスは窓から異様なものを目撃した。
そそり立つ2つの巨人像。1つはマントをハオり剣を天に掲げる青年。もう1つは本を胸に抱いた女性。
「ナニ、アレ?」
「あー、アレは『勇者』と『聖女』の像だな」
リンが言った。
「確か全長20メートルほどあるらしいぞ」
「デカっ」
バス馬車の車内。両側に設けられた対面式の座席に3人並んで座っている。3つの巨人像が見えたのは対面の窓だ。
ちなみにリベルテは斜め向かいに座るイケメン青年をナメるように見ていて、それどころではない。
「一説によると、最初はもう少し小さかったんだが、自分の像の方が小さいと怒った『聖女』が作り直させて。それに怒った『勇者』が、自分のも作り直させて。結局、あのサイズに落ち着いたらしい」
「うわっ」
「『勇者』と『聖女』にはいろんな説があるんだ。フタリとも聖人のように素晴らしい人物だったという説もあれば、ものスゴく自分勝手でワガママだったという説もある。私は自分勝手でワガママという方がしっくりくるね」
「ウン、ウチもそう思う」
『勇者』の森本良に『聖女』の榊原緑。
クラスメートのフタリの性格はアリスも良く知っている。
フタリとも猫をカブっているが、ヒカえめに言ってもクズ。超自己中。超ワガママ。超エゴイスト。
「だけど。フタリの功績は間違いない。彼らのおかげで今のこの世界があるんだ。感謝しないとね」
「まー、そーなんだけど」
やがてバス馬車は『ミッドビル』の前に到着した。スゴい人込みだ。天に向かってソソり立つ巨大ビルの周囲は広場。人でごった返している。
せっかくだから、と3人は展望台へと上った。やはり上昇は【浮穴】を使う。浮穴は上昇用と下降用に別れており、上昇用の浮穴の四角い吹き抜けでは、たくさんの人が上に上に浮かんでいく。
リンに言われた通り、上へ移動、と念じると体が浮き上がった。スピードも調整できる。
「あんまりスピードを上げるとブツかるから気を付けるようにね」
リンが忠告してくれた。
「アト、あまり上を見ないように。それがマナーだから」
確かに下からスカートの中が丸見えである。遅ればせながらそのことに気づいたアリスはキュっと前と尻を押さえた。
「気になるなら、ああいうボードを使うとイイぞ」
リベルテが前の2人組を指さす。カップルのようで、フレアスカートの女性の方は円形の板のようなモノに座っている。
「へえ、あんなのあるんだ」
展望台。
輪を描くような通路になっていて、外側の壁は前面ガラス張り。ちょうど日が沈むところで夕暮れに染まる大都市の街並みが見えた。
「わっ、キレイ」
アリスはオレンジ色のビル群に見惚れた。
「都会には都会の絶景がある」
リンが言った。
リベルテは無言で美青年を探している。
マサヒコと一緒に見たかったな。
アリスは思った。もし隣にマサヒコがいたら、きっとムードたっぷり。超ロマンチックだったコトだろう。
展望台にはお土産がたくさん売っていた。一周して、アリスはいくつか友人のタメのキーホルダーや焼き菓子などを購入。もちろん、マサヒコのタメにも買った。
カップル用のペアキーホルダー。黄金のハートが2つに割れていて。それをツナげてハートに戻すと、あらかじめ録音しておいた音声を再生する。
展望台のアトはリンが行ってみたかったというテューカ料理屋へ行った。この『ミッドビル』内に入っており、大陸でも有名なテューカ料理屋である。
「そんな有名なトコ入れるの?」
「大丈夫。値段も馬鹿みたいに高いから」
「ああ、ナルホド」
リンはBランク、リベルテはAランクの冒険者。フタリとも相当稼いでいる。
「世界一の味がどういうものか知っておきたいんだ」
そのテューカ料理屋は富裕層相手の商売らしく、入店するタメにはある程度の社会的ステータスが必要のようだった。
だが、3人ともBランク以上の冒険者。コレはこの世界では名士扱いされる。
現代日本で言えばBランクで有名企業の管理職。Aランクで大国の議員クラス。Sランクともなれば各国の首脳クラスの格といえるだろう。
夕食はさすがといえるレベルだった。
ただ、アリスの知っている本格的な中華とは明らかに系統が違う。ハッキリと日本人向けに味を変えた中華がベースとなっており、それをより洗練させた感じだった。
アリスとしてはもう少し、辛みを始めとした刺激が欲しいところだった。
夕食後、リベルテに引きずられるようにして、アリスとリンはミッドバレーの歓楽街の1つ『エリオット横丁』へと行った。
どうやら『エリオット横丁』は女性用歓楽街らしく、イケメンの青年たちがいたるところに立って客引きをしている。
歩いてるのは女性ばかりで誰もがキャッキャと楽し気だ。
「レミネスの言うにはさ。『ミズシマレジェンズ』って店がお勧めだって。気に入った子がいたら、そのまま連れ出しちゃってイイんだってさ」
リベルテのテンションが異様に高い。
客引きのイケメンをスゴい品定めしている。
「ミズシマレジェンズ……」
アリスは微妙な気分になった。
クラスメートの水島洋輔の名をトっているのが、なんとも複雑だ。
「リベルテ姉さん、酒はホドホドにして欲しい。アナタはすぐ暴れるから」
「分かってるってば。今日はイケメンいっぱいハベラセて楽しむんだから」
言って、ゲヘヘヘと下卑た笑い声をアゲる。
そういったワケで3人は『ミズシマレジェンズ』へと入った。
さすがにアリスもホストクラブなど入ったコトはない。どんなだろう、と少なからずワクワクする気持ちもあった。
店内は薄暗く各所に置かれたランプがほのほのフロアを照らしていた。
ソファがコの字に並んだボックス席がいくつかあり、美形男子が女性たちをうやうやしく接待している。
3人は店員に空いて席へと誘われた。
さっそく3人の青年がヤってきてそれぞれ隣についた。
「私たちはイイから、このお姉さんをタップリ楽しませてあげて」
リンが言って一番ハシに移った。
「そーそー。ウチも彼氏いるし」
アリスも便乗し、リンの隣に移動した。
実はイケメンホストが隣についた瞬間、あっ、ダメだこりゃ、と思ったのだ。
なんというか、マサヒコと一緒にいるときのトキメキがない。フツーになんかウザい。距離近い。
そんなワケでアリスはリンとグラスを傾けた。
リベルテはというと、スゴい満面の笑み。もう、この世の春がキタ、みたいな。3人とも線の細い感じの美形(最初に好みを伝えたため)。清潔感があり、見るからに草食系。
「アハハハ、楽しいなー。楽しいなー。おい、君たちも飲みなさいよ」
美形男子たちにガンガン酒を進める。
しかも、ちょっとセクハラしながら。
アリスとリンはそんなリベルテを横目に、杯を重ねる。
「リンさん、正直、こういうトコ、どう?」
「ウーン、私はイマイチだね。強い男が好きなんだ。アリスは?」
「マサヒコとツキアウ前なら、ちょっとイイかも、とか思ったかもしれないけどさ。やっぱダメ。マサヒコとフタリっきりでいた方がゼンゼンいいもん」
「お熱いね」
「……ウン」
アリスの顔にサビしさを見て取ったリンが、大丈夫だよ、と元気づける。
「君たちは本当にお似合いだよ。パズルのピースがピッタリ合うみたいにね。だから、大丈夫」
「アリガトウ」
こうして夜は更けていった。




