ギルド本部へ到着
湖の島で待っていると空から飛行馬車が降りてきた。今度はこの飛行馬車でミッドン王国王都ミッドバレーへ向かうことになる。
やはり、アリスはアックスたちと相乗り。今度は3時間ほど空を飛び続けた。
昼食は【ゲート】で全員がそろうのを待つ間に済ませている。
おかげでアリスは眠くなり、気が付いたら眠ってしまっていた。昨夜、あの夢のあと眠れなかったせいで寝不足なのだ。
リンに優しく起こされた時には飛行馬車は下降に入っていた。
窓を見ると、巨大な都市が見る見る近づいている。
大きい。
それに建物の造りが、ベルドーンと違う。ビルのようなモノがいくつも建っている。さすがに現代日本の都心のような超高層ビルというワケではないものの、20メーター級のビルが林立している。
さらに、ビルとビルの間には空中回廊で橋渡しされているところもある。
「アレ、ナニ? ナンカいっぱい飛んでんだけど」
王都の空を大きな銀色の固まりが飛び回っている。プロペラのようなものが上部についていてヘリのように見える。
「ああ、アレは【飛行球】だ。運送ギルドが最近広めてる魔装なんだが、最低2人で顕現せんといかんらしい。あのクルクル回ってるヤツが、結構、優れものらしくてな。近距離を飛び回るには最適らしいんだ」
「へえ……、アレ、魔装なんだ」
「なにしろ、このミッドバレーは大陸の中心だからな。人も物資もヨソとはヒカクにならんほど行き来してる。俺も、初めてここに来た時はビビったモンだぜ」
アリスたちの飛行馬車が着陸したのはミッドバレーの中心地。巨大な城のようなものが建っているソバの、大きく高いビルだった。
その屋上に着陸。屋上にはほかの飛行馬車もたくさん止まっている。人も大勢いた。
「ここが冒険者ギルド本部だな。俺も1回しか来たことねえんだが」
「私は初めて来たよ」
アックスとリンがそんなやりとりをする。
そこへジルがほかのベルドーン支部の冒険者を引きつれてヤってきた。
「俺はちょっと挨拶してくるから、お前たちはレミネスについて行ってくれ。部屋が用意されてるから、一度、入って確かめておけよ。アトは自由にしてて良し。明日の朝9時から全体会議が開かれるから、それまでは自由行動だ」
そういうワケでアリスたちは三十路受付嬢レミネスについて、屋上から移動。廊下に入ってすぐに両開きのドアがあった。
エレベーターかな、とアリスは期待した。
さすがにこの高さを階段で降りるのは面倒くさい。
違った。レミネスが扉を開くと、そこは四角い穴。スー、とレミネスがソコに落ちる。
わっ、とアリスは驚いたが、周囲の人々が次々と穴に落ちていく。
「ナニコレ、落ちんじゃん」
アリスは深い穴を覗き込む。本当にただの穴。
「ああ、【浮穴】だ。魔法がカカっていて、ゆっくり下降していく。目当ての階まで一気に落ちてけばイイぞ」
アックスが言った。
言われてみれば穴に落ちている人々は普通より遅く落下しているように見える。ただ、ものスゴくゆっくり落ちているかというとそうでもない。
「怖いなら手をツナいでやろうか?」
軽薄な三十路の色男アローが髪をカキ上げて言う。
「別に怖くねえし」
言ってアリスは、穴に飛び込んだ。
スー、と落ちていく。飛んでいるという感じはしない。よく見ると壁には足場のようなヘリがところどころにある。
先行して落ちたレミネスほかベルドーンの冒険者たちが同じヘリに立っている。
アソコに着地すればいいらしい。
ていうか、どうやって動けばイイの? コレ。
緩やかにとはいえ落ちている状態。地に足がついていなのに方向転換などやりようがない。
アリスが戸惑っているとリンがチョンチョンと肩を指で叩いた。
「アッチへ進みたいと軽く念じればいい」
アリスはみんなが立っているヘリを見て、アッチへ行きたい、と思いっきり念じた。
すると体が、スッ、とソチラへ移動していく。
どんどんヘリに近付く。
同じ要領で落下速度をゆっくりにしたい、と念じる。落下速度がさらに緩やかになった。
フンワリとヘリに着地。
「ちょっと楽しいカモ」
遊園地のアトラクションみたいだ。
ベルドーンの者たちが全員ヘリに集まったのを見て取ったレミネスが、ではコチラへ、とドアを開き、【浮穴】から出ていく。
アリスもそのアトを追った。
迷路のような廊下。やがて各自、割り当てられた個室へ入っていく。
アリスも割り当てられた部屋へ入った。
10畳ほどのリビングダイニングキッチンと6畳ほどの寝室。シャワールームとトイレも備え付けられている。
リビングにあるのはカウンターキッチンの対面につけられた長テーブル。それにゆったりとした毛足の長い3人掛けのソファ。その前にローテーブル。あと、ソファからナガめられる位置に大きなモニターがある。動画などが見れるようだ。
アリスは、ハア、と息をつくとソファに体を沈めた。いつものアリスならば、せっかく知らない街に来たんだから、イロイロ見て回りたいじゃん、と外に飛びだしたことだろう。
だが、どうも観光意欲がまるっきりワかない。
マサヒコがいたらなー、とボンヤリと窓越しの景色をナガめる。ソコから見えるのは現代日本の都会のようなビル群だ。
ピンポーンとチャイムのような音が響いた。アリスは、ハーイ、と返事をしてドアを開ける。
リンが立っていた。
「ヒマなら一緒に見て回らない?」
「ウン、行く行く」
意欲がワかないとはいっても部屋でヒトリ、ぼーっとしてるのも退屈だ。リンとなら気楽だ。
「リベルテ姉さんも誘っていい?」
「オッケー」
紫色の髪のベテラン女冒険者リベルテの部屋へ。彼女もすぐに出てきた。
そのまま3人で【浮穴】で1階へ降りる。
1階は広々としたロビーだった。高い天井。ピカピアの黒い床。忙しそうに歩いている人々。
アリスたちと同様に招集をカケられた冒険者らしき者たちも多く見られる。魔装ではないが雰囲気で分かる。
さてどこか行きたいところは? とリンが言うと、すかさずリベルテが答えた。
「せっかくミッドバレーに来たんだ。男を買いたい」
それにアリスは驚いてリベルテの顔を見る。紫色の髪の背の高い美女。なにか口元にイヤラシイ笑みが浮かんでいる。
「別にそんなのはベルドーンでもよくない?」
リンがアキれた顔で言う。
「ベルドーンの男娼は、もう飽きたんだよ。だいたい、あそこの男娼は数少ないし。ちょっとマッチョすぎる。もっとナヨっとした美形がイイんだよ」
「リベルテ姉さんなら、サカリ場行けば入れ食いじゃない?」
リベルテは黒い革のロングコートに山高帽というヨソオい。だが、その下の体が非常にグラマーなコトはアリスも知っている。
「だから美形がイイんだってば。ヨースケ・ミズシマみたいな」
「リベルテ姉さん、面食いだものね」
「男は顏でしょ」
フタリのそんな会話を聞きながらアリスはマサヒコのことを思った。
イケメンというほどじゃないがブスではない。だが、マサヒコの笑顔はホッとする。
癒される。
「とにかくさ。それはアトにしようよ。私は行きたい店があるし」
リンが言った。
「必ずだからな。ちゃんと付き合えよ、リン、アリス」
リベルテの目がギラギラしている。もう、ナヨっとしたイケメンが欲しくてしょうがない。
「で、でも、ウチ、彼氏以外とは、そーいうのしないコトにしてるし」
アリスがアワてて言った。
「マサヒコ以外の男とか、ちょっとカンベンって感じ」
「私も知らない男とってのはちょっとな。アト、リベルテ姉さんのタイプは私のタイプではない」
「んだよぉ。付き合い悪いなー。じゃあ、買うんじゃなくて、お酌させるくらいならイイだろ。美形に囲まれて、チヤホヤされたいんだよっ」
「ああ、ホストクラブみたいなヤツ」
アリスのツブやきは、幸い2人には聞こえなかった。
もし耳に入っていたらイブカしがられていただろう。
「私は、それくらいなら付き合ってもイイ。アリスは?」
リンがアリスを見る。
「まー、ウチもそれくらいならイイけどさ」
さすがにウワキではないハズだ。
「よし。じゃあ、イイ店、調べないとな。レミネスなら知ってるかな? あいつも好きだからな。美形の男」
リベルテが言って、さっそくシュマホーをポチポチとイジる。レミネスにメールしているのだ。
リベルテがナットクしたところで3人はさっそくミッドバレーを観光した。
まずはリンが行きたがっていた魔法道具屋。
ビル1つすべてが魔道具屋で冒険者専用道具や運送用魔道具などいくつもの専門店が中に入っていた。
リンが行きたがっていたのは調理器具専門店。魔法道具のフライパン(自動洗浄機能つき)や包丁(切断補助モードあり)、電子レンジのような魔法道具まである。
アリスも興味津々と店内を見て回った。
現代日本にいた頃は料理はケッコーしていた。食べたいモノのレシピをスマホで調べては作ったりしていた。元彼フクめ誰にも食べさせたコトはないが。
コチラの世界も調理道具はカナリ充実している。
ああ、コレなら圧力鍋みたいに使えるじゃん。
とか。
コレ、ほぼ電子ジャーじゃん。
とか。
アレをああやって使って、コレをこう配置して、などと思いながら見て回った。
見て回るだけではなく、結局、電子ジャーならぬ魔法ジャーと圧力鍋もどき、さらに電子レンジもどき、ほかにもフライパンや調理器具をヒト通り購入し、【ギルドカード】に放り込んだ。
「結局、アリスの方がたくさん買ったな」
そういうリンも業物の包丁をいくつかと大鍋を購入していた。
「なんだよ、お前たちばっか楽しんで。私はゼンゼン面白くなかったぞ」
リベルテが不平を鳴らす。
料理のりの字もできないのだ。
「夕食も私の行きたい店でイイだろうか? テューカ系なんだが?」
「テューカ?」
アリスはギョッとした。なんか、聞き覚えがあるようなないような。
「ああ、ギョーザやマーバーボードーフなんかはテューカ料理っいうんだ。『料理神』の別名を持つ『双極の大魔導』の一翼、ヒルダ・オヤマが作ったんだよ。ほかにもパスタやピザはエイテリアン料理。ポトフなんかはフレンティー料理。スシとかドンブリものなんかはワショックという系統なんだ。どーいうカテゴライズなのか、私にはよく分からないが」
アリスは妙なオカシサが込み上げてきて笑いそうになった。同時に、クラスメートのヒルダが意外に料理ができることに感心もした。
幅広い料理知識があったようだ。
「料理道具や調味料もヒルダ・オヤマが作ったモノが多いんだ。『腐界の魔女』の別名が親しまれているけど。料理人にとってヒルダ・オヤマは『料理神』という名の方がしっくりくるね」
「そーなんだ」
フタリが大通りでそんな話をしていると、リベルテの姿がいつのまにか無くなっていた。
見ると、車道をハサんだ反対側の歩道で、なにやら若い男2人と話している。
「ナニしてんの?」
「たぶん、あれはナンパだね。あっ、断られそうになって、金で釣ろうとしている。良くないな。素人相手のああいう行為は、この街では禁止されているんだ。止めてこよう」
馬車が来ないのを見計らいアリスとリンは車道を横断。興奮し、鼻息荒く、男2人に詰め寄るリベルテの腕をツカんで引っ張る。
「5、5万エーンでどう? 2人セットでなんと12万エーン。イイでしょ。ねっ、ねっ。優しくするから」
「リベルテ姉さん。それアウトだってさ」
アリスは言った。
「私とアリスが怒られるから、ヤメて」
リンも言った。
「君たち、早く行きなさい。この人は押さえておくから」
2人の青年が逃げるように行ってしまった。よほど怖かったのだろう。
「なんだよっ、もう。せっかく2人ともタイプだったのにさー」
「リベルテ姉さん、ああいうのがタイプなんだ」
アリスはもうすでに小さくなった2人の青年の背中をナガめながら言った。
中性的な感じで、優し気で、あまり男、男していない。草食系イケメン。
「男クサくない男がイイんだよ。脱毛とかしてる男が好きなんだよ。スネもワキもツルツルがイイんだよ。でもアソコだけは、モジャモジャで凶悪なくらいブットイのがイイけどなあ」
「ちょっ、そんな大声で言わなくてイイから」
おかげで通行人の注目を浴びてしまった。
「アリスと2人ででかけた方が良かったな」
リンがツブやいた。




