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まずはギルド本部へ

 ギルドマスターの権限により、アリスはAランクに上がった。Sランクへの昇格はさすがに時間がカカり、すぐにはムリである。今回の戦いには間に合わない。


「お前さんのスキルについては本部に報告しておくが。ほかに隠しているスキルはないだろうな」


「別に隠してないし。聞かれたらちゃんと答えるから。えーと、【透過(トーカ)】ってのがあるけど。なんか壁とか矢がスリ抜ける感じ? 超便利」


「……聞いたことないぞ、そんなスキル」


 アリスがデビアンに対して使おうと思っていた遠距離攻撃。それが【気配探査(ケハイタンサ)】【必中(ヒッチュー)】、そしてこの【透過(トーカ)】の合わせ技だ。これなら10キロ先からあらゆる障害物を廃して攻撃可能だろうと考えたのだ。


「倒せるんじゃないのか、デビアンを」

 ジルの声に期待がコモる。


「ウチ、ヒトリでもヤろうと思ったんだけどさ。やっぱ絶対倒したいじゃん。だから、ウチも一緒にヤラせてもらうから」


 アリスは絶対にデビアンを倒さなくてはならない。そうでなくては【迷宮】に潜り続けるマサヒコを連れ戻せないのだ。


 寮の部屋に戻ったアリスはパタリとベッドに横になった。ヒトリで【迷宮】から戻って以来、ずっとマサヒコのベッドで寝ている。

 疲れた。

 少し休みたい。肉体的な疲労というよりも精神的な疲労が大きい。夕食を食べたら、グッタリと疲れが出たのだ。


 シャワーを浴びにいく気力もない。

 瞼(まぶた)を開けていられず、ゆっくりと閉じる。

 すると意識がスっと遠ざかっていった。


 夢を見た。

 マサヒコの夢だ。

 楽しそうに歩いているマサヒコ。

 隣に向ける視線は愛おしげで、とても優しい。アリスの好きな眼差し。

 だが、アリスはソレを歩く彼らの後ろから見ている。


 マサヒコの隣を歩いている女性はアリスではない。うしろ姿だから決めつけられないが、たぶんマリアだ。

 アリスはただただ、楽しそうに話すフタリの後ろをツイていく。


 急に場面が変わる。ソレはあのお城のようなホテル。マサヒコとマリアが巨大な天蓋(てんがい)付きのベッドで愛し合っている。マサヒコはヒドく情熱的で、激しかった。

 アリスはただただそれをナガめている。ただただ。


 また場面が変わった。

 今度は『双極堂』だ。祠(ホコラ)の裏でマサヒコとマリアが、左手の人差し指の指輪を重ねて大きなピンク色のハートを生み出している。


 ヤメてよ、それウチじゃんか。ウチとの想い出じゃんか。ほかの女で塗り替えないでよ。


 叫んだ。思いっきり、泣き叫んだ。

 ソコで目が覚めた。


 泣いていた。暗闇の中、目を押さえる。

 夢は嫌になるほど生々しく、その余韻(よいん)は覚めてなお、アリスの心を切り裂いた。

 だが、そうだ。

 もし、デビアンを倒して無事にマリアを救出できて。そしてマサヒコが彼女を選んだのならば。

 夢は現実に変わるだろう。


 自分が元カレたちの想い出を、マサヒコとの想い出で塗り替えたように。マサヒコもアリスとの想い出を、マリアとの想い出に塗り替えていくだろう。


 アリスはそのまま泣き続けた。

 涙はいつまでも流れ続ける。明日は目元が最悪なほど腫れぼったくなるだろう。


◇


 翌朝9時。

 冒険者ギルドベルドーン支部からデビアン討伐に向かう者たちが旅立った。その数、22人。結局、今回の招集に参加せず、【ギルドカード】を返納した者たちも10人近くいた。

 デビアンの強さを目にして、とても勝ち目がないと判断したのだろう。


 実際、あの最強の『ブレイブ』をして、手も足もでなかった『女喰い』に勝ち目などあるのだろうか?

 出発する冒険者の中にも、そう疑問を抱く者も少なくなかった。


 移動手段は飛行馬車である。


 ていうか、馬車って言葉いらねえじゃん。飛行機でイイじゃん、とアリスは思った。

 なにしろ、ドラゴンの背に取り付けられた乗用の箱以外、特に馬車を思わせるものはなかったのだ。

 さすがにバス馬車や駅馬車のように大人数乗ることはできず、最大で4人乗り。


 アリスはアックス、リン、ガッシュと相乗りした。


 アリスは元の世界でも飛行機に乗ったことがなかった。初めての空の旅。大興奮だった。

 対してアックスたちは慣れたもの。Bランク冒険者となれば、その活動範囲は広い。ミナス王国全土、時には他国にまで遠征するコトもある。


 高ランクの冒険者はどこも人手不足なのだ。


 ドラゴンはもちろん変身人間である。

 それにしても、なぜドラゴンに人間の子孫がいるのか、アリスにはよくわからなかった。


「まあ、魔族の連中は魔物と合体して力を取り込んだ連中が多かったみたいだ。魔族の子孫には、その因子が残ってるらしい」とアックスが教えてくれた。


「誰でも1つや2つ、魔族の因子は持ってるって聞くよ。アンタも調べてもらったらイイ。神殿で、簡単に調べてもらえる。金はいるけどね。それで、もっと金を払えば、【因子覚醒】をしてもらえる。そうすれば晴れて、変身人間さ」

 リンが言った。


「ドラゴンの変身人間は多いよなあ」


「カッコイイからね。ドラゴン」


「フタリとも調べてもらったの? 魔族の因子?」


「俺はワームと大グモだった。微妙すぎるだろ」

 仏頂面でアックス。

「だから【因子覚醒】はしてねーな」


「私は変身人間よ。デーモンに変身できる。翼だけだけどね」


「わっ、じゃあ、飛べるんだ? 超イイじゃん」


「あまり使う機会はないけどね。飛行馬車を使った方が楽だし、速い」


「あっ、そういえば、ウチ、空飛ぶマントみたいな魔法道具買ったんだ。使ってないけど」

 アリスはマサヒコと行った『魔法道具屋ワンダーホール』で買った、【飛行マント】を思い出した。


「ああ、そんなのもあったが。アレはなあ……」


 アックスが渋い顔になる。リンも微妙な表情をする。


「ナンカ問題あんの?」


「魔力を喰いすぎる。それに【魔法力】と【敏捷性】にスピードが左右される。ハッキリいって遅いし、疲れるシロモンだ」


「マジでぇ。テンション下がるんだけどぉ」


「まー、ちょっと散歩するくらいにはイイかもしれんが」


「実用性はないね」


「まあ、イイや。ヒトリで飛んでもツマンないし?」


 買った時はマサヒコと一緒に飛ぶつもりだった。フタリで手をツナいで空を飛んだら、とても楽しそうに思えた。


「まっ、どうしてもってなら飛行魔法を覚える手もあるけどな」

 アックスが慰めるように言った。


 飛行馬車での時間は楽しかった。

 アックスやリン、ガッシュとはなんだかんだで気がおけない。【ゲート】についてや、冒険者ギルド本部があるミッドン王国について、イロイロと教えてくれた。


 2時間ほど飛んだだろうか。

 ドラゴンが下降を始めた。

 グングン近づいてくる地上の景色。見えたのは冬枯れした山だった。その山頂付近に神殿のようなモノがある。


「あれが【ゲート】だ」

 アックスが言った。


 転移装置である【ゲート】を大陸の各地に作ったのも、『大賢者』チアキ・ホンダである。【ゲート】の制作を始めた時には、すでに老人だったという。

【迷宮】、それに【ゲート】。アリスはクラスメートがこの世界に及ぼした多大な功績を素直に素晴らしいと思う。

 その恩恵(おんけい)で、こうして冒険者たちが世界各国を飛び回れるのだ。


 チアキ、アンタ、スゴいね。

 口うるさかったクラスメートの姿が思い浮かんだ。彼女ともう少しいろんなコトを話しておけば良かった。


【ゲート】が設(もう)けられた神殿へ降りる。飛行機と違い、着陸に広い場所は必要なかった。神殿の前のちょっとした広場に着陸。

 先発していたレミネスとジル、それに2人の冒険者が待っていた。


【ゲート】は一度使用すると半日近く使えない。全員待って一気に転移してしまった方が時間のロスをしなくてすむ。


 やがて次々と飛行馬車が着陸しては、乗客を降ろし、引き返していく。

 アリスたちが乗ったのはドラゴンだったが、他にも巨大な猛禽(もうきん)だったり、獅子に翼が生えたようなグリフォンだったりと、いろんな変身人間を見ることができた。


【ゲート】へ集(つど)ったのはベルドーン市からだけではない。ほかのいくつかの都市の支部からも冒険者が集まってきており、その数は百人近くになった。


 全員集まってから神殿の中へ入った。

 石造りの古びた神殿。中はそう広くはなく、奥に青い扉があるだけだった。


「アレ、【迷宮】の【フロアボスの間】のドアじゃん」


「ああ、原理は似たようなモノらしいからな」とアックス。


 へーえ、とよくわからないながらもアリスはうなずいた。


 代表でジルが【ゲート】の脇のスイッチのようなものを押す。青い扉が勝手に開いた。その奥にはコチラ側と似たような景色が広がっていた。神殿の中といった様子。


 列になって青い扉を通っていく。

 そのまま神殿を歩き、外に出る。

 景色が一変していた。

 

 湖。その真ん中の島のようなところに神殿は建っていた。


「マジ、ワープしてんじゃん。スゴっ。ぜんぜん、フツーだったじゃん」

 今回が初【ゲート】だったアリスは、いつ、ワープしたのかと不思議に思ったほどだ。それほど、なんの違和感もなかった。


「ここ、ミナスとは別の国なんだよね?」


「私も、最初に【ゲート】を使った時はそう思ったよ」

 リンが微笑んで言った。

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