デビアンの挑戦状
フタリがホテルを後にしたのは10時すぎだ。正午までにチェックアウトを済ませれば良いのでノンビリとしていた。結局、プールには入らなかったが、アリスは満足していた。
バス馬車乗り場までノンビリと歩く。
ウルルンは昨日の夜ホっとかれてヤサグレていた。フタリから離れて前をトコトコと歩いている。
だが、ときどき、ついてきているか振り返ったりする。
マサヒコとアリスは腕を組んで歩いた。
もはやソレが自然で、手をツナぐか、腕を組むかしていないと、物足りなくて仕方がない。
バス馬車を乗り継いで冒険者ギルドへ。
ちょうど昼時だったので2階のラウンジで昼食をトった。やはりといおうか、冒険者ギルド内は妙に浮足立っていた。
そういえば、結局、ウワサのコト聞いてないな、とマサヒコは思った。
いったいナニがあったのか? 今さらながら気になる。
食後、そのままラウンジでマッタリとしていると、ギルドの案内役シェリーがやってきた。
「マサヒコさん、アリスさん、急いで会議室へ来てください」
心モチ、シェリーの顔色が悪い。
「ナニかあったんですか?」
「ハイ、例のウワサの……えーと、クワしくは会議室でギルド長がお話ししますので」
言うと、シェリーはパタパタとラウンジを出ていった。
「なんだ、アレ?」
アリスが、イブカシむような目をシェリーの消えた方向に向けたまま言った。
「とりえず、会議室に行ってみようか」
例のウワサの件。アックスがギルド本部から招集がカカるかもしれないと言っていたが、そのコトかもしれない。
会議室は3階フロアにある。
今まで、フタリとも3階フロアには立ち入ったことがない。高ランクの冒険者になると、ギルドから指名されて依頼を回されることがある。そういう場合に3階フロアの個室が使われるらしい。
会議室はすぐに分かった。なにしろ、階段を上ってすぐの場所にあるのだ。ドアが開かれおり、奥の大きなモニターに向かうように椅子が並んでいる。すでに何人かの冒険者が来ていた。
その中に、アックス、リン、ガッシュの3人がいた。
マサヒコたちはアックスのソバの椅子に座った。
「よう、来たか」
アックスが言った。
「Bランク以上は、こーいうメンドーごとがあるんだよ」
「例のウワサの件ですよね」
「だろうな」
「俺、まだウワサ聞いてないんですけど」
「そうなのか? そういや、このあいだ言いかけて行っちまったな。まあ、ウワサより、ちゃんと正式な発表を聞いた方がイイさ」
それからアックスは声を落とした。
「悪いことは言わねえ。さっさとここの【ギルドカード】を返納しちまえ。【ギルドカード】が必要なら、なにも冒険者ギルドじゃなくてもイイんだからよ」
「えーと、それは……」
マサヒコはとしてはBランク冒険者ののVIP待遇があればイイと思っていた。
だが、アックスが親切心から忠告してくれているコトも分かる。
「そんなにヤバいコトになるんですか?」
「冒険者の女は特にヤバいんだよ」
アックスがアリスをチラリと見る。
そのアリスはリンと楽しそうに話している。
「リンにも言ったんだが聞きゃーしねえしよ」
「いったい、どういう……」
ソコでドアが音をタテて閉まった。
後ろに流した灰色の髪とカイゼルヒゲが渋い、ギルドマスターのジル・バールが部屋のハシを通ってモニターの前やってきた。
椅子に座るマサヒコたちを見る。
アックスと話している間に椅子はほとんど埋まっていた。30人前後か。見知った顔がいくつかあった。
「全員集まったな。もうウワサを聞いて知ってると思うが『女喰い』の件だ。『女喰い』のヤツ、『ブレイブ』を倒した時の映像を、ご丁寧に本部に送りつけやがった。これから……」
そこでたまらずにマサヒコは声をアゲた。
「ちょっと待ってください。『ブレイブ』が負けた? 最強の冒険者たちが?」
マサヒコには初耳である。
ジルがうなずいた。その顔に怒りのような、あるいは焦燥のようなモノが見えた。
「そーだ。『勇者』レニオス・バックル。『雷鳴』ジョージ・ラキストラス。『静寂の嵐』ジンは死亡。『審判者』レイス・メルク。『聖賢』ミューリー・フェムタの2名はヤツに囚われた」
後半、ジルの声はヒドく陰鬱だった。
「そんな『ブレイブ』は最強だって……。それじゃあ、マリアは……」
マサヒコのツブやきに隣の席に座るアリスがピクリと震えた。
「とにかく映像を見てくれ。『女喰い』のヤローが、本部に送りつけたもんだ。本部はこいつを複製して各支部に配布した」
ジルがモニターに手をカザす。
部屋が暗転。代わりにモニターが明るく発光した。
動画が再生。
それは先日の『女喰い』デビアン・ドーベルと『ブレイブ』の戦闘。
映像は四つん這いの裸の女たちの行進から始まった。
部屋にいる何人もの人間がゴクリと固唾を飲む。恍惚とした表情で四つん這いになって進む裸の女たちの光景は。それほど衝撃的な光景だった。
そこから柱のように直立するヒワイな魔装の女たちに映像が映り、さらには裸の女が作った玉座に座る肥満の男へと切り替わる。
デビアン・ドーベルだ。
そこに現れる『ブレイブ』の5人。まさに悪党に立ち向かうヒーローといった様子。
戦闘開始。
『ブレイブ』の者たちが繰り出す、凄まじい攻撃。魔法。だが、それらがまるで効かない。
そしてついに1人目の死者が出る。
『勇者』レニオスの肉体が空中で四散したのだ。
「アレを、受けて、なぜ」
リンが前の席でウメいた。
『聖賢』ミューリーが、巨大な光の柱【ジャスティスレーザー】を放ったところだ。
虹色の法衣を纏ったデビアンは、無傷。
『審判者』レイスが倒れ、『雷鳴』ジョージが死んだ。
デビアンには消耗もダメージも見られない。
さらに戦場を離脱した『静寂の嵐』ジンの死体が空から落ちてくる。
ヒトリ残ったミューリーがデビアンのメイスから伸びた触手にカラめトラれ……。
そこで映像は終わった。
「このアトは想像通りだ。ミューリーとレイスは凌辱される。そのさらにアトに、映像がある。デビアンからのメッセージだ」
再び、モニターが輝いた。
裸体の太っちょデビアンが玉座に座っている。その足元には『聖賢』ミューリーと『審判者』レイスが死んだように横たわっている。
「というわけで『ブレイブ』全滅だ。どうだ? 楽しかったかい? サービスたっぷりだったろ」
デビアンが言ってレイスの乳房を踏んだ。
デビアンが目を細め、ニヤリと笑う。
「でだ。俺に『ブレイブ』をケシカケやがった冒険者ギルドにゃあ、ケジメとらせることにしたんだ。コイツらの調教が終わったら本部に乗り込むからよぉ。首を洗って待ってやがれ」
デビアンがかがみこんでミューリーの汚れた金髪をつかむ。ミューリーの顔をカメラに近づけた。
殴られたタメだろう繊細な美貌がパンパンに腫れあがっている。
「じゃあな。冒険者ギルドの諸君」
映像はソレで終わった。
部屋が明るくなった。
アリスは震えが止まらなかった。いつのまにかその手は隣の恋人の手をツカんでいた。
なんなの、アイツ。意味わかんないから。
裸で四つん這いに歩く女たち。ヒワイなカッコウで直立する女たち。玉座やベッドとなって身動きしない女たち。
ウッチーなど比べ物にならないほどのクズ。女の敵。
胃のあたりがムカムカとする。吐きそうだった。
「と、まあ、こーいうワケだ。本部は冒険者ギルドの総力をあげてデビアンを倒すことを決めた。そのうちに招集がカカるだろう。Bランク以上の冒険者は強制的に参加させられる。もし、それを厭うなら、すぐにでも【ギルドカード】を返納し、冒険者をヤメるコトだ。俺からの話は以上だ」
そこでジルは頭をカイた。
「イヤ、もう1つ。本部は、デビアンに賞金をカケた。依頼はSSランク。本件に関しては冒険者ランクを問わず挑むことができる。勧めはせんがな」
今度こそ話は終わり、ジルは会議室を出ていった。座っていた冒険者たちも次々に立ち上がり、部屋を出ていく。
「マサヒコ、ウチらも行こう」
アリスは隣でヒザに両ヒジをついて顔を押さえているマサヒコに言った。
だが、マサヒコは動かなかった。
「マサヒコ、ねっ、行こうよ」
「先に……行っててくれ」
それはあまりにも低い声だったので、アリスは一瞬、別人の声かと思った。
「ゴメン、アリス」
アリスはマサヒコの背中をナデた。ここで待ってる、そう言いたかったが、マサヒコの背中はソレを拒絶していた。
「ラウンジにいるから」
アリスは言って会議室を出ていった。
ドアが閉まった。部屋にはマサヒコだけが残った。やがて部屋の照明が落ちる。暗闇。
「アイツは、俺が、倒す」
マサヒコの低い声が闇の中、聞こえた。




