いいたいこと
午後は美術館へ行った。
ちょうど『ジャンク街』の方向にあったので、ついでに立ち寄ろうと、デートの計画に入れておいたのだ。
彫刻中心の美術館には、銅像や石像、等身大から、小型のものまで様々な彫刻が並んでいた。
フタリとも芸術に造詣が深くない。
手をつないで歩きながら、へー、スゴいね、おー、などと軽いリアクションをしながら進む。
「わっ、ヨースケじゃん」
裸体の美少年像を見てアリスが目を見開く。
クラスメートの水島陽介が真っ裸でポーズを決めていた。もちろん、チンチンも丸出しだ。
「ちょっ、アリス、観ちゃダメだろ」
マサヒコがアワてて、アリスの目をフサぐ。
「ナンデ? 美術館じゃん」
「ナンカ、俺が複雑だから」
彫刻とはいえ、クラスメートの裸体は妙に生々しい。
そうかと思うと、今度は『双極の大魔導』の一翼、都築凱の『機働闘士ギャンベル』のモデルスマート(ロボットのことをそう呼ぶ)があった。
それも美術館の目玉らしく一番目立つところに。
またしても、都築凱は素晴らしいギャンベル愛を披露していた。
今度は初代ギャンベルのライバルキャラ、ジョー・アンデルスの搭乗機、通称『ジョージャク』だ(ジャクというのが帝国側の主要モデルスマート)。
モノアイにトゲトゲのショルダープレート。金属製で色もジョーのパーソナルカーラーである山吹色だ。
「イイ仕事だ。都築君」
ついつい、マサヒコはそんな声が出ていた。
そして、イカに『ジョージャク』がカッコイイかというコトをアリスに熱く語った。
アリスはまったく関心がないらしく、フーン、スゴイネ、と軽く流した。
そして、というべきか、ここでも『芸術神』キョーカの作品があった。
「…………」
「…………」
フタリして言葉が出てこない。
「コレ、見たことある」
アリスが言った。
「ミロのビーナスだね」
ご丁寧に両手がない。チナミにモデルは本人のようだ。制作者はあくまで別だが、監修をしたのが『芸術神』というコトらしい。
「アイツ、イロイロすげえーな」
アリスが言った。
だが、フタリは『芸術神』の本当のスゴさを理解していなかった。『芸術神』キョーカは、ミロのビーナスだけでなく、モナリザもどきも自分をモデルにして描かせていたのだ。
フタリがそのことを知るのは、まだまさ先の話である。
美術館を一通り見終わったアト、近くのカフェで休憩。やけに格調高い雰囲気の店で、マサヒコもアリスもヤヤ浮いていた。
マサヒコは紅茶を、アリスはコーヒーを飲んで、ノンビリ。
ウルルンはアリスのヒザで眠っている。
「次はなんだっけ?」
アリスが眠そうな顔で言った。
「プラネタリウム」
コチラの世界にもちゃんとあった。
興味本位もあるが、星座によってこの世界がどういう場所にあるのか、手がかりがつかめるかもしれない。
「へー、ウチ、行ったことないよ。星を見るんでしょ?」
「そう。もし、同じような星座があるなら、地球とは別の星にワープしたってコトになるからさ」
「そっか。そーいうコトも考えられるんだ」
この世界に来た当初、マサヒコは夜空を見上げ、星座を探してみたが、もともとあまり星座などに興味がなかったので、よく分からなかった。
ただ、少なくとも月は日本から見たものとあまり変わりはなく(さすがに月のウサギはなかったが)、まるで違和感がなかった。
「ヤバっ、暗いトコだと寝ちゃうカモ。ねっ、ウチが寝てたら、起こしてね」
「イヤ、俺も寝ちゃうカモ」
「フタリして寝てたら、ウケるんだけどぉ」
だが、実際にプラネタリウムに行ってみると、フタリとも寝たりはしなかった。
暗闇、椅子に寝て星の輝きをナガめる。
ときどき、起きてるよ、というようにツナいだ手を強く握り合う。
星座はなにひとつ見覚え名がなかった。
とくにアナウンスもなく、ひたすら星を見るだけ。
だが、フタリとも退屈には思わなかった。
ロマンチックな時間にヒタり、自身の心にあふれる恋人への想いをじっくりと味わった。
「アリス」
マサヒコは小声で言った。
「ナニ?」
「呼んでみただけだよ」
「ナニソレ」
「愛してる。これ、超×∞愛してるの略だから」
「ウン」
マサヒコはここで言おうと思った。
アッチの世界に帰ったら一緒に暮らそうと。
「アリス、あのさ……」
だが、そこで上映時間が終了。館内が一気に明るくなった。
マサヒコはまたしても言うタイミングを逃してしまった。
まあ、チャンスはまだまだあるさ、と思った。
◇
プラネタリウムから出ると、ちょうど日が落ちるところだった。
真っ赤に染まる街並み。そこはフタリの生まれ育った世界ではなかったが、それでもなにか尊さを感じた。
なんとなくフタリとも黙ったまま、夕暮れの街を歩く。手を握って歩くフタリの影が夕日に照らされ、足元に長く伸びている。
マサヒコの肩に座るトラジマ胴長猫のウルルンが沈黙を破るように何度か鳴いた。
「コッチの世界も悪くないよな」
ポツリとマサヒコが言った。
「ウン、ウチは好き」
「アッチに帰ったらさ……」
一緒に暮らそう。
そう続けようとした時に、アリスが走り出した。
「マサヒコ、バス来てる」
「えっ、わっ、ホントだ」
フタリは夕日を背にして走った。
ちょうど発進しようというところのバス馬車(ケンタウロスのオネーサンが牽引)に駆け込むように乗る。
「間に合ったぁ」
「ギリギリだったね」
と、そこでアリスに声をカケる者がいた。
アリスと同年代の少女の3人組。どうやらアリスの友人らしく、アリスも親し気に3人に挨拶を返し、それからキャッキャと雑談に移行。
マサヒコはジャッカン居心地悪くて4人から距離をトった。女子の集団というのは、どうも苦手だ。というか、怖い。
ときどき、女子たちがマサヒコをチラっと見ている視線もスゴい気になる。
ええー、アリスの彼氏? ダサくない?
とか思われてないとイイが。
やがて停留所でアリスの友人たちは降りていった。
「ゴメン、ゴメン」
アリスがマサヒコの隣に戻る。
「イイよ。あの子たちも冒険者?」
「ウウン。『マーサ横丁』で仲良くなった子たち」
「アリスはホント、コミュ力高いよなあ。俺、スゴい助けられたもん」
「なんも考えずに話してるからじゃね。でも、そっか。ウチのそーいうトコ役に立ってたんだ」
「すごい役に立ってたよ。ていうか、俺だけだったら、絶対、序盤で詰んでたから。ホント、アリスのコミュ力に感謝」
アリスが、エヘヘヘ、と子供のように照れた。
◇
夕食は焼肉。といっても、現代日本の焼肉とはちょっと違っていた。分厚い肉を鉄板で焼く。そう、外国のバーベキューのような感じだった。
店に入って、モクモクと煙タダよう中、空いている席についたフタリ。
ソコで、アリスが、わっ、と声をアゲた。
「ねっ、アレ、アレ、スゴくね。マンガじゃん」
アリスが指さした席では鉄板が取り払われ、コンロから巨大な火がアガっていた。そこで焼かれている肉の塊。そう、アレはマンガ肉だ。
「ヤベっ、スゲっ、マジか。マジか」
マサヒコも大興奮である。
なんの肉かはわからないが、とにかくデッカイ。そして骨がついてる。
「アレ、頼んじゃう? ねえ、頼んじゃう?」
「イヤ、絶対食えないって。でも、食べたい。一度でイイから食べてみたい」
「じゃあさ、今度、友達とかと来ようよ。そんで、アレ、頼もーよ」
「それだっ」
さすがに、この日はマンガ肉はアキラめた。あんなモノ、絶対食べきれない。
このアトは、ホテルでのスウィートな時間が待っているのだ。
フタリは肉をたらふく食べた。聞いたことのない動物の肉やら、魔物の肉やらイロイロあったが、どれも美味しかった。
その中で発見したのはウナギのような食感の肉。
「コレ、ナンカ、ウナギっぽくない?」
「マジっ」
アリスが目を輝かせて白っぽい肉を食べる。
「柔らか。ウマっ。ウナギっぽいかも」
「これを使えば、ウナ重みたいなの作れるかも」
なんの肉か店員に聞いてみると、レッサーヒドラの肉の一部だった。ウナ重ならぬ、ヒドラ重が誕生するかもしれない。
夕食後。
フタリが外へ出るとチラチラと雪が舞っていた。コチラの世界で見る、初めての雪だ。
「雪って、なんかテンション上がんね?」
「ウン、ナンカ積もるとウレしいよね」
「ウチの親、超不機嫌になるけど。電車が止まるカモってさ」
「ウチの親も、嫌がってたよ。勘弁してよ、とか言ってさ」
「クリスマス……じゃなくて、ミドリマスもさ。雪降ったらイイよね」
「ホワイトミドリマス。もう、なんだかわかんないな。白なんだか緑なんだか」
マサヒコが予約した宿へはタクシー馬車を使った。夜間はバス馬車の本数も激減するのだ。
「わっ、スゴっ」
タクシー馬車を降りたアリスが目の前の建物を見て、目を丸くした。
ナニか小さな城を思わせるような外観だった。敷地も広くダンスホールやプールもあるらしい。
「城じゃん。もう城じゃん」
アリス大ハシャギである。
「ここが一番大きかったんだよ」
その分、値段もカナリ高かった。
門のところに槍を立てた甲冑姿の男が立っていた。
「あの、予約してあるんですけど。アオキです」
甲冑の門番がシュマホーを操作。確認の通話をする。すぐに確認がトれ、門が開く。
「どーぞ、お入りください」
なんだか仰々しい。城壁をクグり、木々の植えられている小さな庭を通って、建物の中へ入る。
真っ赤なカーペットの敷かれた通路。両脇に扉がある。
マサヒコはシュマホーを開いてホテルに予約したメールを確認。部屋番号は505号室。
途中館内の見取り図を見る。
「プールとか、イイじゃん。ナイトプールって感じ?」
アリスが目をキラキラさせていった。
「スゴいパリピっぽい言葉でた」
「ねっ、入れるカナ?」
「チェックインしたら聞いてみようか」
「ああ、水着魔装、残しとけば良かったぁ」
505号室は5階。最上階だ。フタリで手に手を取って階段を上っていく。
「あっ、ラウンジもあるんだ。ホント、ラブホっていうより、リゾートホテルっぽいね。どっちも行ったコトないけどさ」
マサヒコにしてみればどちらも大人の世界という感じだ。
「リゾートホテルとか、新婚旅行で行くようなトコじゃね?」
「そうだね。いつか、行こうか」
何気なく言った言葉。マサヒコとしては、もう向こうに戻ったらフタリで暮らすコトは決めているので、どうというコトのない言葉だった。
アリスが足を止めたので、手を握るマサヒコの足も止まる。
振り返るとアリスが真っ赤な顔をして、目をウルませている。
「……今の、ドッチ? ドッチのコト?」
「えっ、ナニが?」
アリスはうつむいた。顔が火が付きそうなほど熱くなってしまった。心臓がドキドキ、バクバク。
新婚旅行に行くってコト? ウチと? えっ、そういうコト?
そこへ、上から、走って階段を駆け下りる男たちがやってきた。
「急げ、パーティが始まるぜ」
「今日はマジで期待してるからな」
「こないだみたいなデブばっかは、ホント勘弁してくれよ」
そんな会話が聞こえてきた。
なんだ、乱交パーティでもヤルのか?
マサヒコは下階へ消えていく男たちの背中を不審気にナガめた。
初対面の男女数人で、くんずほぐれつ、みたいなエロい会合が開かれようとしているのかもしれない。
「ナンカ、パリピっぽい連中だったけど。アレかな、エッチなパーティかな?」
だが、アリスはうつむいたままである。
「アリス? どうしたの?」
それでアリスがようやく顔を上げた。まだ顔が赤い。
「えっ、ナニ? どーした?」
「ホラ、今の連中、なんかイカにもエロいパーティに向かうところ、みたいな感じだったからさ」
「あっ、あー、ウン、カモね」
先ほどの新婚旅行うんぬんの話をもう少し突っ込みたいアリスだったが、どうもそういう雰囲気ではなくなってしまった。
「あーいうパーティってさ。カップルでいったりする人たちもいるみたいだよ」
「絶対ヤダ。マサヒコ以外とするのも、マサヒコがほかの女とするのも、絶対ヤダ」
「ウン、俺も。ほかの奴がアリスにフれたら、発狂するかも」
「ウチはマサヒコがイイ。マサヒコだけでイイよ」
言って腕をカラめる。
「俺もアリスだけがイイ」
マサヒコはそんなアリスを愛おし気に見下ろす。
そっとアリスが自分の左手の人差し指をマサヒコの左手の人差し指に当てる。
ピンク色のキラキラしたハートが連なって現れた。




