芸術神について
次にフタリが寄ったのは動画を扱っている店だ。音楽同様、【MB】という板を購入するか、シュマホーなどにファイルを入れることになる。
「部屋で映画とか見る?」
アリスが言った。
「シュマホーの画面じゃあ、小さいんじゃない?」
「じゃあ、大きいの買ってさ。ベッドでゴロゴロしながら、見んの」
マサヒコはアリスとイチャイチャしながら映画を見ることを想像し、ヤル気になった。そういうイチャイチャもイイ。
「じゃあ、デッカいモニタか、タブレットっぽいの買おうか」
「ウン」
一度、購入したファイルは別の媒体に移せる。ただし、移動元の媒体のファイルは消えてしまう。
そういったワケでアリスが映画を選んでいった。恋愛映画ばかりだ。しかも、『芸術神』脚本とか原作のモノが多かった。
『芸術神』と感性があうのカモしれない。
「キョーカ? フツーに仲良かったけど。アイツの話、超オモシロいしさ」
「えっ、そうなの? ぜんぜん知らなかった。ホラ、藤見さんて、ちょっと陰キャっぽいというか。ボッチという印象が。密かに同胞扱いしてたんだけど」
アリスがワズカに眉を上げた。
「マサヒコさ、すぐボッチとか陰キャとか言うけど。そういうの気にしすぎじゃね? 別にイイじゃん、ヒトリでいる方が気楽なヤツもいるしさ。静かにしてた方が好きなヤツもいんだから」
「まー、そーだけど」
「まっ、教室ではゼンゼン話さなかったね、アイツ。苦手なヤツでもいたんじゃね。教室で話しかけても、超テキトーに返事するし」
「教室じゃないなら、どこで話してたの? アリスは」
「ウチさ。家、好きじゃなかったから、あんまいたくなかったんだよね。だいたい、友達と遊びいったりしてたんだけど。合わないときトカあるじゃん。そういう時、アイツの部活に顔出してた」
「えっ、藤見さん部活入ってたの? 初めて知った」
「部っていうか、同好会? アレ、研究会か? えーと、総合文化研究会だったかな。キョーカが自分のために作った部活。部員、アイツだけ」
「よく許可が下りたな。部室もあったの?」
「将棋同好会だったかな。部員ゼロだけど、廃部にはなってなくてさ。なんか、顧問と取り引きして、将棋同好会に入る代わりに、総合文化研究会を認めさせたらしいよ」
「将棋? そんな同好会あったんだ。それにしても、藤見さん、イロイロ、意外だな」
「アト、アイツ、将棋、超強いみたいだよ。顧問、寺山先生なんだけど、コマ? スゴい減らして勝ってたし。ナンカ中学まで、ナントカ会ってのに入ってて、毎日放課後、将棋ヤってたんだって」
「マジで? ゼンゼン想像がつかない」
クラスメートの意外すぎる一面である。
「でさ。もう、子供の頃から将棋ばっかヤラされてきて、もうヤってられっか、ってキレたみたい。で、いろんな文化にフれようってコトで、部室でさ、マンガ読んだり、映画見たり、好き勝手やってた。あっ、寺山先生とか教頭先生と将棋ヤリながらね」
『芸術神』キョーカ、恐るべし。
「おっ、ヨースケ」
アリスが舞台俳優として名を成したクラスメート、水島洋輔のポスターを見て言った。
その一角はヨースケ・ミズシマのコーナー。女性たちが目を輝かせて群がっている。
マサヒコは以前、彼の出演作品を見た。
もう、スゴいキラキラしてた。宝塚とアイドルのライブを足したような。
マサヒコはとても最後まで見ていられず、途中で断念した。
「キョーカとヨースケがセットでコッチに来たんだよね」
「たぶん、そういうコトみたい。男女2人セットが基本なのかな」
恐らく『勇者』と『聖女』を2人を転移させたことが起因しているのだろう。
「水島君とも仲良かったんだよね。アリスは」
「ウーン。ソコソコ仲良かったハズだけど、ヨースケって、壁作るからさ」
「まー、孤高って感じはしたけど」
しかし、藤見鏡花と水島洋輔の組み合わせは、あるいみ自分たちよりも異色だ。
「ウワサじゃあ、不老不死って話だよ。水島君。ヒョットしたら、まだ生きてるかも」
何年も姿を見せなかったのに、『芸術神』キョーカの葬式に現れたそうだ。昔の若い頃の姿のまま。
「不老不死。年もトらないで、死にもしないってことだよね。ソレ、超しんどくね?」
「えっ、そう? 普通、憧れたりしない?」
マサヒコは驚いた。若い女性なら不老というものに憧れそうなものだが。
「だって、ヒトリだけ歳をトらなくて、ヒトリだけ死ねないとか、ツライじゃん。大好きな人がどんどん、歳をトってって、先に死なれて。サビしいじゃん。自分の子供がお爺さんになるトコとか、見たくないじゃん」
「そう言われれば、そーか」
「ウチはフツーにオバサンになって、お婆さんになって。最後はお墓に入りたいカナ。大好きな人と一緒に」
言ってアリスがマサヒコの肩に頬をツケた。
◇
夕食は『ロックバード書店』の近くの料理屋で食べた。鍋料理がウマいと、アリスの友人情報である。
マサヒコもアリスも、ソレを聞いてワクワクだった。懐かしさが込み上げてくる。
土鍋のような大きな鍋に肉盛りだくさん。それをコンロでグツグツと煮る。蒸気に乗って漂ってくるニオイからして、もう頭をトロけさせる。
味はちゃんこ鍋に似ていた。
フタリでハフハフしながら食べる。マサヒコもアリスも舌鼓を打ってばかりだった。
「ウチ、鍋って、あんまイイ思い出なくてさ」
アリスが言った。
「ナンカ、野菜ばっかウチのトコきて。お肉はオニイのトコ行くの。ウチも肉が食べたいって言うとさ。女の子なんだから野菜を食べなさいって、怒られるし」
「男女関係なくない?」
軽く言いながらもマサヒコの気持ちは重くなった。アリスがフビンすぎる。
「でしょ。超ムカつく。マジ、なんなのって感じ」
「なんで、そんなに差別したんだろう。アリス、素直でカワイイのに」
マサヒコの正直な思いである。
「……コッチに来てから、イロイロ考えたんだけど。たぶん、パパ、ウワキしてたんじゃないかな。そんな気がする」
「えっ、でも、それアリスに関係ないじゃん」
「好きな人がさ、自分に関心無くなってくのツライじゃん。それで、ママ、オニイに愛情がスゴくイったのかも。依存みたいな?」
「でも、アリスだって自分の子供じゃんか」
「ウチに、ウワキ相手、重ねたんじゃね? ウチをイジメることで、復讐する、みたいな?」
「理不尽だろ。それっ。アリスの気持ち考えろよ」
マサヒコは無性に腹がたった。母親のヤツアタリのせいで、アリスがどれだけ傷ついたことか。たぶん、その傷は、まだ痛み続けているのだ。
「ウン。でも、さ。それだけ、パパのコト好きだったのかも。どっかにヤリ場を作らないと、ダメだったのかも。ウチも本当に大好きな人がデキてさ。ちょっとだけ、ママの気持ちが分かった感じ」
言ってマサヒコに愛情のタップリ宿った瞳を向ける。
「マサヒコがいるから、ウチ、大丈夫」
マサヒコは自身の瞳がウルむのを感じた。
絶対に、この子を幸せにしよう。
◇
鍋料理はフタリとも大満足。久しぶりに肉を一杯食べた。
「ナンカ、肉食うと元気になるよね」
帰り道、マサヒコが言った。
鍋を食べて体が熱くなっているので、夜風の冷たさが心地よい。
「じゃあ、今夜は、スゴいコトになっちゃう?」
アリスが言った。
マサヒコつないだ手に、キュッと力をコメる。
「カモね」
なにしろ、昨日はアリスが眠っておアズけだったのだ。正直に言って、スッゴクやりたい。
寮に戻り、シャワーを浴びる。
先に出たマサヒコはランドリールームで先に洗濯を始めていた。
すると、そこへセンパイ冒険者アックスがやってきた。
「よう。聞いたぜ、Bランク昇格。スゲーじゃねえか」
アックスが言って、マサヒコの肩を叩く。
「ありがとうございます。でも、俺たち、これで冒険者はヤメようと思って」
驚くアックスに、マサヒコは自分たちの計画を話した。貯めた資金でナニカ商売をしようと思っていること。
「そーか。お前らみたいな有望なヤツには、ぜひ、冒険者を続けてもらいたかったんだが。まー、命を張るような仕事だからな。大切な相手がいるなら、ヤメといた方がイイのは確かだ」
そこまで言ってからアックスは難しい顔をした。
「だが、ヒョットしたら、ギルド本部から招集がかかるカモしれんぞ。Bランク以上は、コイツにコタえないとならんからなあ」
「ナニカあったんですか?」
そういえば、と昼の食堂で違和感を感じたコトを思い出した。
「コレはまだウワサにすぎないんだが、どうも……」
そのタイミングでアックスのポケットから音楽が鳴った。シュマホーの呼び出し音だ。
アックスがマサヒコに手で謝りつつ、シュマホー通話を始める。
そのままランドリールームを出ていった。
なんだったんだ、とマサヒコは不審に思った。本部からの招集というとカナリ大事件というコトになる。イヤな胸騒ぎがした。
アックスはなかなか戻ってこなかった。
洗濯は終わったが、しばらく待ってもアックスは戻ってこない。
マサヒコはアキラめて部屋へ戻った。
テーブルで今日の戦利品のシュマホー書籍を読んでいると、アリスが戻ってきた。
「あー、サッパリした。あっ、さっそく読んでんの?」
「ウン。せっかく買ったからね」
アリスはそのままマサヒコの後ろに立つと、首に腕を回して抱き着いた。
シャンプーの香りが、フンワリとマサヒコの顔を包む。
「ねっ、エッチしようぜっ」
言って、チュッとマサヒコの頬に口づけした。
マサヒコはスクっと立ち上がると、ガーっとアリスに襲い掛かった。
「ヤっ、ビックリするじゃん。あっ、んっ」
フタリの夜は始まったばかりだ。




