またしてもロックバード書店
翌日、アリスは不調だった。二日酔いだ。
「気持ち悪い」
ベッドの中で青い顔でウメく。
「だから、ハイペースで飲みすぎたんだよ」
マサヒコは水の入ったコップを差し出す。
「美味しいからって、3杯も飲むから」
「あんくらいならイケると思ったんだもん。うー、ナンカお腹も気持ち悪いしぃ」
「今日は部屋でマッタリ過ごそうか」
「デートしたいよぉ」
毛布を頭にカブったまま、ポロポロと涙を流す。
「また、明日にしよう。体調悪いところを無理しても楽しくないし。ねっ」
マサヒコはアリスの頭をナデた。
「ウウっ、ゴメンねぇ」
「大丈夫。時間はタップリあるんだから。1日先延ばしになっただけだよ」
そんなワケでアリスがダウンしていたため、マサヒコはノンビリとシュマホー読書にいそしんだ。
大量に買い込んだ本も、だいぶ読んだ。そろそろまた本屋に行きたいところである。
アリスの体調は昼食時にはだいぶ回復した。食堂で一緒に昼食をトる。ナニカ、ほかの冒険者たちがソワソワしている気がした。
「なんだろう。ナンカあったのかな?」
「聞いてこよっか?」
アリスが言った。
「イヤ、まー、イイよ。そのうち分かるだろうし」
実は、これは『ブレイブ』が『女喰い』に破れたというウワサがタっているタメだった。
まだギルド本部からの正式な発表はないが、シュマホーで通話やメールがデキるこの世界では、情報の足が速い。
「てかさ。コレからデート行けんじゃね? 行く? 行く? 行くか」
アリスが目をキラキラさせて言った。
「イイけど。今からだと、『ジャンク街』は厳しいんじゃないかな」
『ジャンク街』というのは古い魔法道具や、壊れた魔法道具などを安売りする店が並んだ一角。ベルドーン市内でもカナリ端の方にあるため、移動だけでも時間がかかる。
マサヒコのタっての希望で、今日は『ジャンク街』へ行く予定だったのだ。
「ドコでもイイからぁ。マサヒコと一緒にお出かけしたいの」
正面に座るマサヒコの手を両手で握り、ブンブン振る。
「じゃあ、『ロックバード書店』に行こうか。そろそろ、またシュマホー書籍が欲しいんだ」
「ウン。そこでイイ」
というワケで、フタリは大型本屋『ロックバード書店』へと向かった。
この4階建ての本屋へはコチラの世界にきたばかりの頃に一度来ている。
1階は紙の本専門。雑誌などもあり、前回、アリスはここで立ち読みをしていたのだ。
「アリスも好きなの見てたら?」
マサヒコは腕をカラめたままのアリスに言った。
「それじゃあ、デート感ないじゃん。マサヒコがどんな本見るのか、興味あるし?」
そんなワケでフタリは一緒に店内を回った。とにかく、マサヒコはシュマホー書籍が欲しかったので、1階は無視して2階へ。
今回は小説などを買おうと思っている。
そういったモノから、コチラの世界の常識を学んでいくのもイイと思ったのだ。
まあ、たんに物語を読みたいというのもあるのだが。
「コレ、オモシロそーじゃん。恋愛小説?」
表紙の絵に惹かれてアリスが本を手に取った。
「それ、藤見さんが書いた小説だよ。超ベストセラー」
「えっ、マジ。アイツ、ホント、イロイロやってんなあ」
「それはもー、『芸術神』だからね」
「まあイイや。コレ買う」
マサヒコはアリスにシュマホー書籍の買い方をレクチャーした。
アリスはホクホク顔で、さっそくシュマホーで買った本を読み始めた。
コートのポケットでウルルンが、そんなアリスを、ナニシテンダ、といような様子で見ている。
「じゃあ、俺、アッチ見てるから」とマサヒコが行こうとすると、ソデをキュッとツカまれた。
「ウチも行くから」
そのまま片手でソデをツカみ、片手でシュマホーを読みながらアリスがついてくる。
すぐにマサヒコの歩みが止まる。
『チアキとシンヤ』という本を見つけたのだ。
絵はローブ姿の少女と戦士風の少年。そのイラストが、明らかにクラスメートの本田千秋と斎藤真也に似ていたのだ。
「アリス、コレっ」
マサヒコが手に取る。
「あっ、これチアキとシンヤじゃん」
「ヤッパそうだよね。本田さんは『大賢者』だから、コッチに来てたコトは知ってたけど。斎藤君もコッチに来たのか」
不良少年の斎藤信也。クラスでも彼は異彩を放っていた。毎日、遅刻。サボり。しょっちゅうケンカもしていたらしく、よく顔を腫らしていた。
教室では誰ともカラまず、ツマラなそうに窓を見ているか、寝ていた。マサヒコと同じボッチだが、彼に対してはまったく仲間意識がワかなかった。
マサヒコはヤンキーの類が嫌いだ。陽キャ以上に仲良くなれない人種だと思っている。
「アリス、斎藤君と仲良かったっけ」
嫉妬心がワく。アリスが嫌いな相手と仲が良いのが気に入らない。というか、自分は名前も覚えてもらっていなかったのに、あのヤンキーは覚えられていて、ちょっと不快。
「シンヤ? まあまあ、じゃん。ホラ、ウチ、結構、遅刻してたじゃん。だいたい、ショウマのトコ、泊ってたんだけどさ。ときどき、学校行くとき、一緒になったんだよね」
なんだよ、仲良く登校とか。あのクサレヤンキーめ。
などとマサヒコの嫉妬の炎がメラメラ。
「アイツ、別に怖くなかったよ。悪いヤツじゃないかな」
「だけど、中学の時、ヒドいイジメやって、相手、自殺に追い込んだって聞いたぜ」
超悪者じゃん、とマサヒコは思った。
「あー、それ、ウチ、本人に聞いたんだけどさ……」
アリスが簡単にウワサの真相を話す。マサヒコは難しい顔をした。一度、染み込んだ悪印象はなかなかヌグえないモノだ。
「本人が言ったことだしさ。そんなの自分の都合の良いように話してるかもしれないじゃん」
「……まー、そーかもだけどさ」
アリスはソレ以上、斎藤真也についてなにも言わなかった。
その代わり、タブレットをイジり、シュマホー書籍を購入する。
「ウチ、読んでみる。チアキとシンヤがウチらみたいに一緒にコッチに来たんなら、どうなったか気になるし」
「本田さんは『大賢者』になったけどさ。斎藤君は名前、ゼンゼン聞かない。ヤンキーなんてそんなモンだよ」
マサヒコ、まだスネている。アリスが斎藤信也の肩を持ったのが気に入らないのだ。つまり嫉妬である。
「ウン、まー、読んでみるよ」
少しサビしそうな顔。
マサヒコの胸がズキリと痛んだ。
突然、ウルルンがアリスのコートのポケットから飛びだして、マサヒコのレザーコートをシャカシャカと上る。
「なんだよ。いきなり」
声がトガるマサヒコ。
ウルルンが、顔にスリ寄ってきて、ペロペロと頬をナデる。
「わっ、ザラザラする」
「ちょっ、ウルルン、それアウトだから」
言ってアリスがウルルンを、サっ、とマサヒコの肩からどかした。
そういえば、ウルルンは雌だったな、とマサヒコは思った。だからどうというものではないが。
気を取り直して、また本屋巡りを再開。
マサヒコは面白そうな本をいくつか購入。ジャンル的にはミステリーやSFのようなものはなく、代わりに冒険者小説というジャンルがあった。
ヒト通り、シュマホー書籍を購入し、満足したマサヒコは、アリスをともない上階へと向かった。とはいっても、3階は丸々ワンフロアが『腐界の聖典』ことBLのフロアである。
「アリスはBLとか興味ないの?」
「BLって、男同士がってヤツでしょ? ないなあ」
「ヤッパ女性が全員、BL好きなんてことないよな」
「ったり前じゃん。ウチ、普通に男と女がイイし」
というワケで、3階フロアはスルー。4階フロアへ移動した。
4階は音楽や動画などが売られている。
「うわっ、キョーカだ」
『芸術神』のポスター(芸術神トリビュートアルバム)にアリスがドン引きしている。
「今度は、『芸術神』と無関係な音楽買おーかな。アリスは、アッチで、どんなの聞いてたの?」
「フツーのヤツ。Jポップ? でも、ウチ、あんま音楽聞かなかったな。フツーに友達と話してる方が楽しいし。しょっちゅう電話してたし」
「アリス、友達多かったもんな。女友達も男友達も」
まだちょっと引きづっているマサヒコであった。
「まーね。でも、深い友達はそんないなかったカモ。ウッチーに殴られた話したら、みんな超ウケてたし」
「ウケるんだ。俺、ドン引きだったケド」
「もちろん、怒ってくれた子もいるけどさ。サヤカとか」
「平山さん? 怒ったりするイメージないんだけどな」
「自分のコトじゃ、怒らないからね、アイツ。まー、あんときも、怒ったってより、泣いたんだけど」
アリスが遠い目をしている。平山紗耶香のことを思い出したのだろう。
『勇者』こと森本良と『聖女』榊原緑を中心に異世界転移が行われたなら、自分たち同様、彼らの周囲の席の者もコチラに飛ばされたハズである。
そして平山紗耶香もまた、その可能性のある1人だ。
マサヒコは平山紗耶香の困ったような笑い顔を思い浮かべた。超ビッチだというウワサの平山さん。頼めばヤラせてくれるとか。
マサヒコも彼女をそんなエロ目で見たことが、1度や2度ではない。
とにかく、彼女の体はエロかった。顔もなんかエロかった。
音楽ショップではフタリでいろんな曲を視聴した。アリスは本当に普段音楽を聞く習慣がなかったらしく、ヘー、とか、ホー、とか感心してばかりいた。
マサヒコは、とりあえず耳に心地よかった女性シンガーのアルバムを購入。アト、ゴリゴリのロック。それにボケーと聞きたいジャズピアノ。
アリスもチョコチョコと買っていた。




