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パスタは予想以上に美味しかった。
マサヒコもアリスも大満足で店を出た。
「午後は『マーサ横丁』だったね」
「そっ。シール、そろそろ無くなるし」
「シール?」
問い返したアト、マサヒコはすぐに思い当たった。【避妊シール】。男性に貼れば、精液が緑色に代わり、卵子に受精できなくなる。
使い捨てなので、どんどん無くなっていくのだ。フタリがそれだけツナがっているともいえる。
「アト、もっとエロい下着とか。セクシーなネグリジェとか。そーいうの着てみせてほしくね?」
「超着てほしーです」
「素直でよしっ。マサヒコもさ、ガウンとか、買っちゃう?」
「イヤっ、ガウンって。絶対似合わない気するんだけど」
「似合うって。ウチが見たいし」
そんなこんなでフタリはベルドーン市のホットスポット『マーサ横丁』へ向かった。
さすがに平日の昼間だけあって、人は少ない方だ。
目的は『マーサルマン塔』だったハズだが、アリスはチョコチョコ寄り道。
自分の服をというより、マサヒコにアレやコレや選んでは試着をウナがす。
「絶対似合うから。マジで」
「じゃあ、買うか」
マサヒコとしては自分のファッションセンスに自信がない。アリスが似合うというなら似合うのだろう。というか、アリスが良いと言ってくれるな、もうソレでいい。
十分、寄り道しつつも、たどり着いた『マーサルマン塔』。1階の噴水広場でひと休み。
クレープとジュースを買って食べる。
こんな風にクレープを食べたのは、最初にここに来た時以来だ。
ウルルンが、チョイチョイと手で宙をカイてマサヒコのクレープを狙っている。
マサヒコが少しチギって手の平にノせる。それをモシャモシャと食べるトラジマ胴長猫。乗用魔物はどんなものでも食べるのだ。
アリスはそんなマサヒコを横目で見ながら、少しオカシミを感じた。
この世界にきて間もない頃、初めてこの場所に来てクレープを食べたとき。まさか、こんな風に、マサヒコのコトを想う日が来るとは想像もつかなかった。
こんな風に満たされた気持ちになれるとは思えなかった。
この人がいれば、ほかにナニもいらない、そんな相手がすぐ隣にいるなんて思わなかった。
「どうしたの?」
マサヒコがアリスの笑みを見て言った。
「なんでもない」
フーン、とマサヒコ。ウルルンにピシっと猫パンチをくらい、注意をクレープに戻す。
それからしばらくして、今度はマサヒコがアリスとまったく同じことを思った。
まさかアリスにこんな気持ちを抱くなんて、想像だにデキなかった。
そもそも、あの頃はアリスのコトがゼンゼンわかってなかった。
ただのギャルだと思っていた。
きっとこんな風に、いろんな人間を勝手にカテゴライズしてたんだろうな、とマサヒコは思った。
「ねっ、ねっ、アトでさ。噴水の前で写真撮ろ? 飛ばしてさ」
「イイよ」
「ハートもさ、出そうぜ。ウチらの愛を見せつけてヤロー」
「ソレ、恥ずかしいなー」
とイイつつも、マサヒコはしっかりアリスの要望にコタえた。
噴水前の若者に人気のポイントでシュマホーを飛ばし(【シュマホーブースター】を知ってる人は少ないらしく大注目)、なおかつ、左手の人差し指をフタリで合わせてハートを出した。今度はたくさんの握りコブシ大のハートがポヨポヨと空へ上っていった。
「ナニアレ、魔法」
「カワイイ」
「スゴいいっぱいハート出てるじゃん」
どうやら【ハートリング】の知名度も高くはないようだ。
やるな『ワンダーホール』、とマサヒコは思った。
その後、フタリは上の階へ。
下着売り場でアリスのエロエロな下着を選んだり(マサヒコ、超照れる。下を向いて、あれ、イイんじゃないかな、と指さしたりする)。
主張はするぞ、マサヒコ。
さらにセクシーなスケスケ、ネグリジェ(ナニソレ、どこで着るの? どんなタイミグで着るの? とマサヒコは思いながらも、チンチンが立ちそうでタマらなかった)。
さらにメンズの下着エリアでガウンを買った。グレーのガウン(コレ、似合うのか、本当に、と首をカシげるマサヒコ)。
「絶対、イイから。買って。絶対イイから」とアリスがあまりにも主張するので、マサヒコは疑問を抱きながらも買った。
「ヤバっ、もう早くマサヒコが着るトコ見たい。超見たい」
「でも、コレ、どこで着るの。ヤダよ、シャワー室から着てくの」
「じゃ、どっか宿に泊まっちゃう? タマには」
アリスが上目づかいで言った。
「一緒に、お風呂入ったり?」
「……イイかもね」
「マジっ。じゃあさ、アレも買ってこうよ。いいニオイがする石鹸」
「イイけど。こっちに、ラブホテルとかないんじゃない?」
マサヒコも名前くらいしか聞いたことがない、魅惑のホテル。
「ソレに近いのはあるって。エッチ目的じゃなくて、カップルで泊まる用のトコ」
「友達情報?」
「そう。エラ情報」
言ったアト、アリスが、あっ、と彼女の身に起こったことを思い出し、気マズイ顔になる。
「じゃあ、ソコ行ってみよーか。なんか、ドキドキするな。俺、そういうトコ行ったコトないからさ」
「ウチもそんなにないんだよね。2、3回?」
「えっ、彼氏5人いたのに?」
「みんな金無かったし。基本、自宅とか。ウチに使う金が惜しかったんじゃね」
話を聞けば聞くほどアリスの元彼たちのダメさ加減が浮き彫りになっていく。
マサヒコはそのタビに思うのだ、絶対俺が幸せにする、と。
『マーサルマン塔』の最上階は映画館になっている。タップリ買い物を楽しんだ2人は、そのまま映画館に入った。
さすがに何本も同時上映ということはなく、やっているのは1本だけ。スクリーンも1つだけだ。
「小麦畑でツカまえて」というタイトルの恋愛映画っぽい写真の映画が上映中だった。
「ナンカ、タイトルどっかで聞いたことね?」
アリスが、ウン? と首をカシげる。
「本当はライ麦畑ね。超有名文学。アト、恋愛映画でもない」
見るとヤッパリ芸術神の原作だった。
「マサヒコは読んだの? オリジナル」
「読んだよ。なんかムズムズした」
「ナニソレ?」
「なんだろうね。共感したような、してないような」
「ブンガクとか面白いの? ウチ、ゼンゼン読んだことないけど」
「国語の教科書にノってんじゃん。要するにあんなのだよ」
「ウワっ、ツマんなそー」
「ウーン、読み始めはさ、脳ミソがウマく処理できなくて、ちょっと疲れるんだけど。読んでると慣れるし。ドストエフスキーとかもさ、ナンカ、スゴい重い、とか深い、とかそういう雰囲気があるけど。ソレ以前に、なんていうか、エンターテイメント性をしっかり満たしてるというか。面白いんだよ。純粋に」
「ナンカ難しそうなの出た。マサヒコ、超頭良くね?」
「イヤ、なんかカッコつけて、文学にハマった時期があったんだよ。中学のときさ。最近はラノベくらいしか読まなかったし」
「ラノベって?」
「ライトノベルの略。ホラ、さっき文学が重いっていったじゃん。その逆に軽いのがライトノベルかな。今の俺たちの境遇みたいなのが、ライトノベルで流行ってたんだよ」
「ウチらみたい? イーセカイに来ちゃうみたいな?」
「そー。ソレで、コッチに来る前に神様に会ってさ。特別な力を貰うみたいな」
「へー。そのアトどうすんの?」
「そっから先はイロイロ。強敵を楽勝で倒して、スゴいスゴい言われたり。女の子にモテまくってハーレムしたり」
「ハーレム? それさ、よく聞くけど。なに?」
「たくさんの女の子にモテまくる、みたいな感じかな」
「みんなとエッチすんの?」
「それはまあ、作品によってかな。でも、主人公が鈍感で、好意に気づかないみたいなコトが多いよ。片思いされまくり、みたいな」
「ナニソレ、読んでてイライラしないの?」
「それはもー、主人公の視点だから。主人公は自分の分身だから。モテてウレしい。ニヤニヤ」
するとアリスがムッとした顔になった。
「マサヒコも、そのハーレムとか、ヤリたいワケ?」
「そんなワケないじゃん。アリスを泣かせるようなことしないよ。絶対。というか、マジでアリスだけで十分すぎるから」
「ホストかよっ」
顔を赤らめ、アリスが言った。
館内は暗く座席が並んでいた。ゆったりとしたソファで、2人掛けのモノもある。
空いていたのでマサヒコたちは2人掛けのソファに座り、上映を待った。
ウルルンには【ギルドカード】の中に入っててもらう。
「映画とか、久しぶりなんだけど」
アリスがソワソワして言った。隣に座るマサヒコの腕を抱き、その手の平を、モミモミしたりする。
「元彼と見に行かなかったの?」
「ショウマとツキアウ前に見に行ったのが最後じゃね。ナンカ、ゾンビがいっぱい出てくるヤツだった」
自分で振っといてなんだがマサヒコはちょっと嫉妬した。闇に乗じてアリスの唇を奪う。軽いキスのつもりだったが、アリスは、ハアっ、とエッチな声を出した。
「イキナリすぎだからぁ」
しっとりした声で抗議する。マサヒコの指に指をカラめる。
「ちょっとショウマに嫉妬した」
「ハア? ナンデ? 聞いたのマサヒコじゃん」
「そうだけど。嫉妬した」
フフっ、とアリスがフクミ笑い。
「マサヒコも嫉妬すんだ」
「そりゃー、するでしょ。普通に嫉妬しまくるよ」
マサヒコの手を弄んでいたアリスが、彼の手の平を右胸に導いた。
ウっ、とマサヒコは突然の柔らかい感触に驚く。
「ずっと触っててもイイよ」
「映画に集中できないから」
◇
『小麦畑でツカまえて』は大型客船に乗っていた身分違いのフタリが恋に落ち、その大型客船が沈没。流れ着いたフタリが、サバイバル生活を始めるも、原住民との衝突があり、広大な小麦畑での命がけの鬼ごっこが展開され。追い詰められたフタリが真実の愛を見せつけて、祝福される、みたいな内容だった。
マサヒコは何度かフキ出しかけた(特に、いきなりサバイバル生活に入るところ)。
最後の真実の愛のくだりでは、原作者の投げヤリっぷりが感じられた。
それでも隣のアリスを慮り、笑うような真似はしなかった。ときどき、横顔をノゾと、カナリ真剣に見ていた。
抱いているマサヒコの手をギュっと強く握ったり。愛おしそうにナデたり。最後のキスシーンでは、明らかに泣いていた(えっ、マジで、どこで泣けたの? とマサヒコは驚いた)。
映画館を出た時はアリスはピタッとマサヒコに寄り添い、もう、このまま宿に行った方がいいんじゃないか、というほど恋愛脳になっていた。
ちょうど夕食時。そのまま『マーササルマン塔』で夕食をトった。映画館の下の階はたくさんの料理店が集まっているのだ。
そのうち雰囲気の良さそうな店に入る。
「超良かったよね。キョーカすごくね」と先ほど見た映画を絶賛するアリス。
マサヒコはそれに微笑みながら相槌を打った。あの、いろんな要素を詰め込みすぎた映画を純粋に楽しんだアリスが、ただただ、愛おしい。
映画ファンが見たら原作者をブン殴りたくなる作品だったが、一周回ってマサヒコは面白かった。
ともかく、アリスは興奮しており、夕食時は映画のコトばかり話していた。
それだけで、あの映画には価値があったというものである。
料理は、まあ、可もなく不可もなくというところだったが、とにかく雰囲気が良かった。窓に映る夜景。ゆったりとしたジャズっぽい音色。
「ねっ、お酒、頼んでイイ?」
アリスが言った。
「イイよ」
コチラの世界では15歳で成人というコトになっている。それに照らし合わせると、スッカリ大人なワケである。結婚もできる。
「マサヒコは?」
「ダメ、ちょっとでも飲むと気持ち悪くなる」
昔、正月におそとを飲んで気持ち悪くなった。オチョコ1杯だったというのに。
「アリスは飲んだコトあるの?」
「ウン。まーね」
ちょっと口ごもる。それからアワてて言った。
「別に、そんな飲んでないから。マジだから。ウチ、そんな不良じゃないかんね」
「思ってないよ。元彼の部屋トカで?」
「……やっぱ、マサヒコから振ってくんじゃん。ときどき、ちょっと貰うくらいだったし」
「酔うとどうなるの?」
「超楽しくなる。アト、たぶん、エロくなる」
それはぜひ酔ってもらいたい、とマサヒコは思った。
だがそれから1時間後。
「飲みすぎだろうぉ」
マサヒコは少し前の自分を、心の中で罵った。アリスはアレからワインを3杯飲んだ。
目がトロンとしてきて、やたらと笑うようになった。アト、下ネタをガンガン言うようになった。
そして唐突にカクンと頭を垂れて眠ってしまった。
そういったワケで、マサヒコはアリスを背負って『マーサルマン塔』を降りた。
かなり注目されたが気にしている場合でもない。スヤスヤと心地良さそうな寝息を耳元で聞きながら、マサヒコは階段を降りた(こちらの世界にはエレベーターもエスカレーターもない)。
レベルアップのおかげか、8階までの階段を降りても疲れはしなかった。
降りた先でタクシー馬車を借り、寮へ戻る。さすがにこの状態では今日はエッチなコトはアキラめた方がイイ。
部屋に戻り、自分のベッドにアリスを横たえる。良く寝ている。ゼンゼン起きるそぶり無し。
マサヒコはちょっと欲求不満であったが、アリスの寝顔を見ていると、別にイイか、という気持ちになった。
シャワーを浴び、洗濯をし、しばらくシュマホー読書をしたアトに、アリスの隣にもぐりこんだ。
眠るアリスの髪をナデる。そっと彼女の体を背中からナデる。そんなことをしているうちに眠くなってきた。
「オヤスミ、アリス。愛してる」
チュッと後頭部に口づけした。




