すごいぜ、ワンダーホール
カフェでの朝食のアト、フタリはノンビリと街を歩いた。オシャレな雰囲気の街並みは歩いているだけで楽しい。
マサヒコとアリスは寄り添って歩き、その周りを、トラジマの手の平サイズの猫が、ウロチョロしている。
「実はこの辺にさ。行ってみたい店があったんだよ」
「ナニソレ? どんなん?」
「魔法道具屋なんだけど。ワリとマニアックな魔法道具があるらしくてさ。前にガッシュさんが言ってたんだよ」
「ガッシュさんて、アックスさんの仲間の?」
「そう。ちょっと値段は張るみたいだけど。ノゾいてみるのも楽しいかなって」
「へー、ナンカ楽しそうじゃん。行こうぜ」
アリスも乗り気になった。
シュマホーで地図を見ながら目的の店『魔法道具屋ワンダーホール』へ移動。ちょうど店主が店を開けているところだった。
「こんにちは、店、見せてもらってイイですか」
アリスが声をカケる。
「あー、いらっしゃい。ちょうど今開けたところなんだ。どうぞ、中へ入って」
白いヒゲに白い髪の店主が言ってフタリを店内へ導いた。
2階建ての店内。板張りの床にレンガ壁。木製のテーブルや棚に製品が置いてある。奥に2階へ上る階段があった。
店主は奥の小さなカウンターに座ると、なにやらパソコンのような魔法道具をイジり始めた。
雰囲気としてはジャンク屋とアンティークショップを足したような感じだ。
商品にはひとつひとつ、説明書きのポップが貼ってあり、マサヒコとアリスはそれをひとつひとつ読みながら見て回った。
ウルルンはアリスのコートのポケットに入っており、ソコから顔を出している。
「コレ、良くね? 【シュマホーブースター】だって」
アリスが手に取ったのはシュマホーにカブせるケースのようなモノ。片面はガラスのようで透けている。
「シュマホーを飛ばして遠隔撮影できるワケか。へー、便利かも」
「でしょ。コレあったら、ツーショ、簡単に撮れんじゃん。買っちゃお」
アリスがホクホク顔でそれをカウンターに持っていった。
ちなみに値段は3万エーン。魔力が無くても飛ばせるように、コチラの世界の電池ともいうべき魔力源が別途必要である。
その間、マサヒコは別の物に注意を惹かれた。
【小型ゴーレムキット】である。金属製のゴーレムを組み立て、ソレを動かせるというもの。コレも遠隔操縦ができる。しかも、モニター機能でゴーレムの視界とリンクすることが可能とのこと。実に男心をくすぐってやまないホビーである。
イイなー。買っちゃおうかな。でも組み立てるの大変そうだな。そんな時間あるかあ?
そんなことを考えているウチにアリスが戻ってきた。
「欲しいなら買えばイイじゃん」
「……イヤ、やっぱヤメとく。ナンカ作らないで放置しそうだし」
とりあえず買ったはイイが作るのがメンドークサくて結局放置、というアレである。
そうこう言っているうちに、またアリスが目を輝かせて商品を見る。
「ヤバっ。これヤバくね。マジで」
それは顕微鏡の覗き口が二つツナがってHの字の形になったような道具だった。双眼鏡をもっと細く、小さくしたようにも見える。
「瞳の色を一定時間変えられる……カラコンみたいなモンか。イイじゃん」
「でしょ、でしょ、でしょ。マジ、サイコーじゃん」
アリスは毎日カラコンを魔法の【洗浄箱】で洗っている。最初に『マーサ横丁』に行った時、マサヒコが見つけてくれたものだ。
だが、元が使い捨てコンタクトである。耐久性に問題がある。
そろそろヤバいんじゃないか、と思っていたところだった。
「買う。すぐ買うから」
言ってアリスはまたカウンターに【瞳カラーリング】を持っていった。
ちなみに、コレは色を維持するために魔力が必要なため、【ギルドカード】保持者でなくては使えない。
そして、マサヒコもまた興味を惹かれる物を見つけた。
【飛行マント】。空を飛ぶことができる。
コレ、スゴくないか。飛べるじゃん。空飛べちゃうじゃん。
ハオれば魔力を使って飛行可能らしい。これはスゴい。これはイイ。自在に空を飛べれば、どれほど戦闘の役に立つことか。
だが、すぐに注意書きに目がいった。
――――――――――――
※本製品は魔装とは併用できません。
――――――――――――
ガッカリである。広がった夢が一気にしぼんだ。
欲しいケド。欲しいケド。ウーン。
悩んでいるところにアリスが戻ってきた。
「ナニソレ。空飛べんの? イイじゃん」
「でも、魔装とは一緒に使えないんだって」
「じゃっ、移動用?」
「街中なら馬車で十分だし。遠距離なら、飛行馬車もあるしなあ」
飛行馬車は飛行機のようなものである。
変身人間、あるいは飛行魔法を駆使したもので乗用と輸送用のモノがある。
マサヒコたちは一度も使ったことはないが、これから使う機会があるかもしれない。
「でもイイじゃん。買おうよ。空のデートとか超アガんじゃん」
「えーと、じゃあ、買おうか」
マサヒコも迷っていただけあり、アリスの押しで買うことに決めた。もちろん、アリスの分と二つ分。
【飛行マント】2着で20万エーン。
その他にも『魔法道具屋ワンダーホール』には様々な心をくすぐる魔法道具がいっぱいだった。
商品を見ているだけで楽しい。
それも恋人連れならいっそう楽しかった。
「あっ、マサヒコ、コレ、コレ見て」
アリスがガラスケースに鎮座したアクセサリーの1つを見て言った。ものスゴく、興奮している。
「ペアリング?」
「そっ。触れ合うとハートが出るんだって。小さいのがたくさん出たり、大きいのが1個出たり。超イイじゃん。ねっ」
マサヒコが説明書きを読むと、どうも、互いへの想いが強いほど派手なエフェクトが起こるらしい。
「でも、手、握ってるときにずっと出てるの、ナンカ恥ずかしくない?」
「同じ手にすればイイじゃん。左手、左手、にすれば。握る時、向き合ってないとじゃん」
「ああ、ナルホド」
ハートのエフェクトが出るだけの魔法道具。見た目はシンプルなシルバーのリングだ。【ハートリング】値段は2つで3万エーン。
「じゃあ、買おうか」
金銭感覚麻痺してるよなあ、と思いながらも購入を決める。
ペアルックを強制されるよりはよっぽどマシだ。
「でも、サイズあるかな」とマサヒコが言った時には、すでにアリスは店主を呼びに行っていた。
サイズの問題はアッサリ解決。最初に指にはめるときに自動調整されるらしい。魔法道具超便利。
「ウチがハメるから、マサヒコはウチにはめて」
さっそく指輪をハメようとしたらアリスに怒られた。
「そーいうモンじゃん」
「そーなの? こういうコトしたことないからなー」
「ウチだって、ペアリングなんて初めてだし」
言うアリスの顏がウットリとしている。
女の子はアクセサリー好きだよな、とジャッカンずれた感想を抱くマサヒコ。ピンとこない男である。
「手、貸して」
アリスが言ってマサヒコの左手を取った。
「どの指がイイ?」
「じゃあ、人差し指にしようかな」
なにせ指輪などハメたことがないので、どこにすればイイか分からない。リングは幅もセマいし、邪魔にはならなそうだ。
アリスがマサヒコの左手を胸の前に持ってきて、人差し指に指輪をハメた。根元まで進んだ指輪がキュッと締まった。
「おー、便利」
マサヒコは照れ隠しに言った。
次はアリスの番である。マサヒコはアリスの左手を取ると同じように指を聞いた。
「そりゃ、マサヒコとオソロでしょ」
言うアリスの声が少しカタい。緊張しているのだ。
マサヒコはアリスのピンと伸ばした人差し指に、そろそろと指輪を挿入。なんとはなしに照れクサイ。
アリスが息を飲む。
ピンクの長い爪。小麦色に日に焼けた手。そこに銀色のリングがハマった。
無言で自身の左手をナガめるアリス。
「次は婚約指輪かな」
照れ隠しにマサヒコが言う。
それにアリスが真っ赤になった。
「だから、ホストかよっ」
言う声が上ずっていた。
店内でエフェクトを確認するのは恥ずかしかったので(ほかに客も入ってきた)、リングを合わせるのは次のスポットに移動してからにした。
魔法道具屋に寄った分、予定がカナリ遅れたが、フタリとも気にしなかった。
それほど『魔法道具屋ワンダーホール』は楽しかったのだ。
◇
双極堂とギャンベル
フタリが次にやってきたのはベルドーン市の観光スポットの1つ『双極堂』。名前の通り、『双極の大魔導』ゆかりの物がオサめられている祠で、400年近く前に建てられたものだそうだ。
祠の周囲には出店がたくさん出ており、ちょっとした祭りのようであった。
平日でもそれなりに人がいる。
ちょっとした丘の上にある祠まで長い階段をテクテク上る。もちろん、マサヒコとアリスは手を握っていた。ウルルンはアリスのコートのポケットで眠ってしまっている。
「てか、妃瑠陀たちのナニがあんの?」
「あー、ここにあるのは都築君関連らしいよ。彼が作った像なんだって」
「像? そんな趣味あったの?」
「イヤ、俺が思うにさ……」
クラスメートの都築凱の小太りで長髪の姿を思い浮かべる。ロボットアニメの金字塔『機働闘士ギャンベル』のコアなオタクだった彼ならば、ソレ関係の像を作っただろうことは想像に難くない。
祠は石造りのしっかりとしたモノで、建物自体も思ったよりも大きかった。祠というより小さな神殿といった様相。最後は幅広の階段が続いており、そこでシュマホー撮影する人々が何組も見られた。
「マサヒコ、ウチらもウチらも」
アリスが言って、さっそく、先ほど買った【シュマホーブースター】をシュマホーに装着。
シュマホーが飛んだ。
アリスが、サっサとリモコンを操作している。
「てか、ムズっ」
遠くへ行きすぎたり、角度がオカシかったりと安定しない。
リモコンにはシュマホーの画面が映っているのだが小さすぎて良く見えない。
ワリと微妙な製品であった。
「貸して」
マサヒコはアリスからリモコンをもらうと、指でハジくように2つのスティックを操作。小さなリモコンの中の小さなモニタでシュマホーのカメラアングルを確認する。
「ウワっ。超ウマいじゃん」
「自動で調整してくれるから、そんなに動かさなくても大丈夫だよ。押しっぱなしにしないのがコツかな」
「じゃっ、撮ろ」
アリスが言ってギュっとマサヒコに横から抱き着く。頬に頬をくっつける。
撮影完了。
シュマホーで写真を確認したアリスはちょっと不満そう。
「てか、マサヒコ顏引きつってね? 嫌だった?」
「違う。ソレ、クシャミこらえてるんだよ。アリスの髪が鼻のとこでコショコショしてさ」
「なんだ。それならオッケー。てか、カワイイかも」
どうやら、嫌がってるかどうかを気にしていただけらしい。
写真にはキチンと祠の全景も入っており、なかなかのSNS映えしそうな出来である。もっとも、そのSNSが存在しないのだが。
『双極堂』へと入る。造りはいたってシンプル。1部屋しかなく、奥の高い位置に設けられた台座に、その彫像が飾られていた。
ちょうどその位置に天窓があり、背後にはガラスがハメ込まれている。見事な採光により、その彫像は圧倒的な迫力を見せつけていた。
「なんか、アレ見たことあるんだけど」
アリスが言った。
「えーと、『機働闘士ゼットギャンベル』の『ギャンベルツー』、ギャンベリオン装着スタイルかな」
マサヒコは片手に長い砲身、片手に大きな盾を装備し、ブースターを背負った機働闘士のクオリティに感心した。
金属製。なおかつ、パーツの色分けがスゴい。確実にエアブラシは使用したっぽい。
大きさは全長2メートルほどと大きく、近くで見ると迫力がある。都築凱のモデラーとしての魂が感じれる逸品である。
さらに台座のところにゼットギャンベルツーの詳細な設定が刻まれており、絶対にこの世界の人間には理解できないだろう、独りヨガリ感があった。
マサヒコがいろんな意味で感動していると、アリスがまた【シュマホーブースター】を飛ばした。
今度はフタリ並んでパシャリ。マサヒコがアリスの肩に手を回し、アリスが横ピース。
その背後に『ギャンベルツー』。
『双極堂』の背後は展望台になっており、そこから街が一望できた。
ちょうど人がいなくなったところでフタリは指輪を合わせてみた。
向かい合って手を握り合うフタリの間にピンク色のヒト抱えほどもある大きなハートが現れた。
「やった。超デッカイじゃん。ウチら、マジ、愛し合ってんじゃん」
はしゃぐアリス。ツナいだ手をブンブン振る。
「ナンカ、スゴいね。コレ」
マサヒコは漫画のようなハートに感心した。思ったよりイイ感じのハートだ。
「コレ撮りたい。超撮りたい」
だがさすがに片手だけではシュマホー操作がオボつかない。そこへ、ほかの観光客が来た。
「すみませーん。写真お願いしてもイイですかあ」
アリスが声をカケた。
マサヒコは気恥ずかしさで逃げたくなった。
◇
『双極堂』を降りたところで昼近くになった。
近場でナニか良さそうな店はないかと、フタリでシュマホーを操作。
ベルドーン市の情報誌を見るマサヒコ。
メールで友人たちに聞きまくるアリス。
早かったのはアリスだ。
「ナンカ、パスタが美味しい店があるってさ」
アリスの友人は地図まで貼ってくれたので、すぐに場所が分かった。
珍しい木造の家屋だった。古めかしく、どこか懐かしい感じ。フタリは2階席の窓際に案内された。
あまり有名ではないのか、昼時だが席に余裕はある。
「ナンカ落ち着いた感じじゃん」
「ホント。味も期待できそーだね」
言いながらも、なんとなくファーストフードのハンバーガーが思い浮かんだ。
ときどき、ジャンクフードが無性に恋しくなるのだ。
「てか、マサヒコ、好きな料理って、ナニ?」
「ラーメンかな。アッサリ醤油」
実はコッチの世界にもラーメンがある。
だが、マサヒコの好きな醤油ラーメンは、微妙にコレじゃない味なのだ。アト少し、だけど、違う、みたいな。
代わりにコッテリ系のラーメンは中々のモノである。
「ウチはミソが好き。あっ、ナンカ超食べたくなってきた」
ミソラーメンは存在そのものがない。きっと、今まで、コチラに来たクラスメイトたちにミソラーメン好きがいなかったのだ。
ちなみに、ミソそのものはある。双極の大魔導の片割れ、小山妃瑠陀が生み出したとされている。
「アリスは好きな食べ物は?」
「ウナ重」
「そーいえば、それもコッチに無さそうだね。ウナギがいないのかな」
「マジ、切ねえし。牛丼屋とかファミレスでさ、夏になると、ナンカでてくるじゃん、ウナギ。それ食べるのが楽しみだったのにさぁ」
「近い味の魚がいればイイんだけどな。なんか商売が当たったらさ、飲食店を経営するのもイイかも。まだまだ、コッチの世界にない料理いっぱいあるじゃん」
「それイイっ。ウチ、マジ食べたいモノいっぱいあるから」
「でも、まー、その前に帰れるかもね。元の世界にさ」
「だね……」
アリスの顔がワズカにカゲった。ソレは本当にワズカだったので、マサヒコでなくては見逃していたコトだろう。
「……日本に戻るの、あんまり気が進まない?」
アリスは家族と折り合いが悪い。だから、あまり気が進まないのかもしれない。
それでも、マサヒコが帰りたいから一緒に帰ろうと言ってくれているのだ。
「あのさ。さっきのは冗談というか、なんというかで。たぶん、俺たちが帰るのカナリ先になると思うんだ。アッチの世界で時間がどんな風に流れているのかわからないけど、俺たちは確実に歳をトってく。また、高校生なんてワケにはイカないんじゃないかな」
本当に帰る方法があるのかすらわからないのだ。ここから、まず資金を貯めつつ、『トーダ商会』とコンタクトをトる。ウマく取り入って、その情報網とコネを利用し、なんとか帰る手立てを探す。
コレがマサヒコの大まかなプランだ。どう考えても、2、3年でどうにかなるとは思えない。下手をすれば10年。あるいは20年。
「それで、もし、無事に帰れたら……」
ちょうどソコでウェイターがパスタを持ってきた。
一緒に暮らそうよ。
マサヒコはその言葉を言うタイミングを失った。
まあイイや、とこの時は思った。
これから先、時間はいくらでもあるんだから。




