ミズシマ博物館
マサヒコが起きると、すでにアリスはバッチリ準備を整えていた。【迷宮】から帰って以来、彼女の方が早起きだ。マサヒコが起きた時には、すでにメイクも終わっているコトが多い。
アリスとしては全部をサラケ出した今だからコソ、やっぱり、カワイイ姿をできるだけ長く見せたいのだ。
それに、マサヒコの寝顔がカワイくて、起こすのが楽しい。起こす前にちょっとイタズラもしちゃう。
この日もマサヒコの胸元をナデたり、髪をナデたり、たっぷりイタズラしたアトに、声をかけて起こしたのだ。
「オハヨウ」
直後に、ふぁあ、と大アクビをするマサヒコ。目がショボショボしている。それからアリスの肩の上に乗ったウルルンに手を伸ばす。
ウルルンがマサヒコの体に飛びついた。
「ヨシヨシ、お前も朝から元気だなあ」
ウルルンの顔を指でコショコショ、ナデる。
「ホラ、早く起きて支度。アト1時間で出るから」
「えっ、今、何時?」
「5時半」
「早っ。アリス、何時に起きたんだよ」
「そんな変わんないし」
イヤ、そんなコトないだろう、とマサヒコは思った。女性のメイクやシタクに男性とは段違いな時間がカカるコトを、アリスとの同棲生活で痛感させられてきたのだ。
「ゴメン、すぐにシタクする」
マサヒコはベッドから抜け出すと、すぐに着替えた。
この日のアリスはVネックの赤いニットに白のマイクロミニ。セーターのエリぐいがカナリ深く、なんだかエッチだ。
マサヒコは黒いズボンに白いダウンボタンシャツ。女性に比べて男のシタクは簡単だ。
「お待たせ。じゃあ行こーか」
「その前に……」
アリスが言ってアゴを上げて目を閉じる。
マサヒコそんなアリスにキスをした。
軽いキスのつもりだったが、そのまま濃厚なキスに移行。
マサヒコはチンチンが立ち上がったところで、このままではイカンと唇を離した。
アリスはトロンとした目でマサヒコを見つめている。
カワイイ、マジで、カワイイ。
もう、このままベッドに直行したくなる。
だが、マサヒコはしばらくデート三昧と決めていた。意志の力でアリスのオネダリ顔から目を離す。
「行こうか」
「……ウン」
アリスがマサヒコの腕に腕をカラめる。
寮を出たフタリはギルド前からバス馬車に乗った。向かったのはハイソな雰囲気とウワサの『ミズシマ博物館』周辺。
ここのカフェテラスで朝食を食べるのがデートで人気なのだ。
オシャレでハイソな雰囲気の街並み。『ミズシマ博物館』はレンガ造りの瀟洒な造り。
その『ミズシマ博物館』の建物をナガめられる位置にある、カフェテラス。
ホットサンドとサラダ、それからコーヒー。
「ナンカ、オシャレなデートって感じ? てか、『ミズシマ博物館』てナニ? ヨースケの博物館ってこと?」
アリスがサラダをフォークでツツきながら言った。
白いコートに白いニットキャップ。
目は『ミズシマ博物館』をナガめている。特に塀などで囲われているワケではないので建物が良く見える。
「そう、水島君の博物館。彼にマツワルいろんな物が飾られてるんだって。女性に人気みたいだよ」
こちらはレザーのロングコート。レザー魔装でナれているせいか、だいぶ着られているという感じ薄くなった。
「なんだかなぁー」
「寄ってく?」
「ヤメとく。なんか、ビミョーな気持ちになりそうだし。せっかくのデートじゃん。アゲげてきたいじゃん」
まだ朝早いとあって人通りは少ない。
カフェ自体も開店したばかりで空いている。
おかげでウルルンを遊ばせておける。
手の平サイズの胴長猫は敷石にカリカリと爪をタテている。
「ヨースケ、死んだんだよね。コッチの世界で」
「それがさ。生死不明なんだ。なんでも、ヨースケ・ミズシマは不老だったとか、なんとか。実際、彼どうなったのかは誰も知らない、らしい」
「ナニソレ。ナンカ、ヨースケらしいっちゃ、らしいけど」
「えっ、水島君って、そんな不思議キャラだったっけ?」
アリスがニヤっと笑った。
「ヤツはなかなかのモンだったね」
それからアリスはいくつか水島洋輔のエピソードを披露。圧倒的イケメンの正体を暴露していった。
「ハハっ、知らなかった。仲良くしとけば良かったなあ」
「ソレ言うなら、ウチ、マサヒコのコト、もっと興味持てば良かった。マジで」
言って、ちょっとモジモジ。
「そしたら、もっと早くツキアってたかもしれないし?」
「イヤ、どうかなあ」
「えっ、ナニ? 向こうの世界にいたときのウチ、ヤバかった? 眼中なかった? それか……」
好きな人、他にいた? その言葉をアリスは声に出せなかった。
「じゃなくてさ。俺、陰キャだし、ボッチだったし。アッチの世界じゃ、ゼンゼン、吊り合わなかったじゃん。カースト的にもさ」
「ナニソレ、カーストとか超くだらないじゃん。そんなん気にしてるヤツ、一部だけだって」
「ウーン、たぶん、それはアリスがカースト最上位だからだと思うよ」
アリスはまだナットクがイっていないようだった。
だが、マサヒコはそんなアリスの素直さが魅力的だと思う。
「ウチ、タブン、いろんな人に興味を持ってもらいたいんだと思う。見てほしいんだと思う。ウチはここにいるよって。こういうのなんて言うんだっけ」
「自己顕示欲?」
「ウン、ソレ。だから、いろんな人に話しかけんの。別にウザがられてもイイし、嫌われてもイイから、ウチを無視すんなって感じ?」
だからこその派手なスタイルのギャルにヒかれたのだろう。
そして、だからこそのコミュ力なのだろう。そんなアリスにとってSNSのある現代日本は最適の居場所だったのではないか?
むしろ、この世界でよく今まで不満をタメ込まなかったな、と思った。
それを言うと、アリスが今にも笑い出しそうな、あるいは喜びを隠しきれないような顔でマサヒコを見た。
「マサヒコがいるからじゃん。ウチのコト、ちゃんと見てくれて? ちゃんと大事にしてくれて? ちゃんと守ってくれる? だからじゃん」
マサヒコはアワてて上を向いた。雲ヒトツない青空が広がっている。
それがニジんだ。涙がコボれそうだった。
「いろんな人にさ、見てもらう必要なんて、ゼンゼンなくってさ。本当は大切な人にちゃんと見てもらえれば、それでイイって。だからウチ、マサヒコがいれば、それでイイかな」
言ったアリスが、ちょっと不満げに頬を膨らませる。
「てか、ウチ、結構、イイこと言ったつもりなんですけどぉ。なんで、上向いてんの?」
「イヤ、マジで、勘弁。泣くから、マジで」
マサヒコが上を向いたまま目元をヌグうのを見てアリスもやっと察した。
両手を口元に当て、込み上げてくるモノをオサえる。おかげで顔が真っ赤に染まった。
ヤバっ、ヤバい、ヤバい、ヤバい。
ナニソレ? 超愛されてんじゃん、ウチ。
マサヒコがホストだったら、ウチ、絶対、シャンパンとか入れまくってたわ。




