今年のミドリマスは
『ブレイブ』破れるの報は、その日のうちに大陸中を駆け巡った。
この世界にテレビやラジオのような不特定多数に発進するメディアはない。
代わりにシュマホーの通話やメール機能がある。情報伝達速度は消して遅くはない。
「まさか? 冗談だろ。あの『ブレイブ』だぜ」
「そうそう。いくら『女喰い』が強いっていったってよ。『ブレイブ』には最強の『勇者』がいるんだからな」
そんな風にウワサを信じぬ者も多かった。
だが3日後。
冒険者ギルドから正式に『女喰い』退治の依頼がかけれた。依頼ランクは前代未聞のSSランク。
冒険者ギルドは『女喰い』から送りつけられた記録メディアの映像を見て、彼の危険度を認識したのだ。
なにせ、あの『ブレイブ』が手も足もでずに全滅したのだから。
一方、マサヒコは【迷宮】から戻って数日経っても『ブレイブ』の敗北を知らなかった。
【迷宮】から帰還し、マリアのことを知ったあの日の翌日、フタリは一日中、部屋で過ごした。
ナニをするでもなく、フタリ、ただ寄りそい、ときどき話、ときどき体をツナげた。
「アリス。明日、Bランク昇格試験を受けようか」
マサヒコはベッドの中で言った。アリスを背中から抱きしめ、その胸を両手で覆いながら。
「ウン、分かった」
「そうしたら、しばらく休もう。ナニカ、したいコトある?」
アリスが体の向きを変えてマサヒコに向き直り、そのまま首に手を回す。
「そりゃ、デートでしょ。いっぱいフタリで出かけようよ」
「ショッピングとか?」
「映画とかもよくね?」
コチラの世界にも映画館がある。テレビはなくとも、映像を保存し、映し出す技術はあるのだ。
「イイね。他には」
マサヒコはアリスのお尻をナデナデ。
アリスがお返しとばかりにマサヒコの首や鎖骨に、チュッチュとツイばむようなキスをする。
「コンサートとかぁ?」
チュッとしたアトに言った。
「ああ、ナンカ有名なアーティストが来てるんだよ。ロックミュージシャンかな」
「ロビン・エリエスカル。メッチャ、有名なんだって。ちょっと興味あるカモ」
「じゃあ、チケット取れたら行こうか」
そうこうしているうちにマサヒコのチンチンが元気になってきた。
体がくっついているのでアリスもソレを察する。
「なんか、自堕落な1日だよなあ」
昼間からこうしてベッドに入って、ムツミあっている。自堕落と言わずしてなんと言おう。
「こんなモンじゃね? ウチの元彼たちってさ、基本、ヤリたいばっかだったから。一度、ヤったアトって、デートとかあんましなくて。だいたいおうちデートみたいな? 出かけようぜっ、ていっても、金ないからトカ。あっ、トヨとはケッコー、デートしたか。ワケわかんなすぎて、超つまんなかったけど」
元彼の話を聞き、マサヒコの胸にムラっと嫉妬心がわく。
マサヒコの行為でアリスが彼の腕の中で身をよじらせた。
「あっ、んっ」
フタリはそうやって1日を過ごした。
◇
翌日、Bランク昇格試験を受けたマサヒコとアリスは、前回と同じく最短記録を更新しての合格。
ついにフタリはBランクへと昇格した。
さらにAランク昇格試験への受験条件を教えられる。Aランク依頼100件達成。または【迷宮】地下5階フロアの攻略とAランク依頼30件達成。
マサヒコたちはすでに地下5階を攻略済み。アトはAランク依頼を30件達成すれば昇格試験を受けられる。
だがAランク依頼ともなれば世界各国を飛び回らなくてはならず、ノルマ達成にはどうしても時間がカカる。
まあ、俺たちには関係ないけどさ。
マサヒコはギルド職員の説明を受けながらもそんなことを思っていた。
マサヒコたちは、これで冒険者をヤメるつもりである。
ただ冒険者の身分は便利だ。特にBランクともなればVIP扱いされる。融通が利く。
1年間の間に同ランクの依頼を10件受ければ冒険者資格は維持できるので、当面は最低限の依頼だけ受けていくつもりだった。
Bランク昇格を祝うため、例によって寿司屋へ。
「なんかさ。コッチに祭りとか? ないかな。日本の祭りみたいな。花火ドーンっ。出店ズラーみたいな」
アリスが言った。
その目は店内を忙しく動き回る女性店員をナガめている。アリスはこの店の浴衣のような制服がお気にいりなのだ。
「ウーン、秋の収穫祭はあったみたいだけど。アト、春祭りかな。時期的になー。アト、俺たちが知ってる祭りとはカナリ違うと思うよ」
「あっ、てかさ、もうすぐクリスマスじゃん」
「あー、そーいえばそーだね。ソレ、コッチの世界にもあるんだよね」
「あるある。ナンカしんないけど、あんのよ、コレがさあ。なんか魚っぽい名前だったけど」
「ミドリマスね。『聖女』の榊原さんが記念日として定めたみたい。彼女の誕生日なんだって、12月21日が」
「アイツの誕生日を大陸中で祝うとか、マジないんだけど。ホント、ロクなコトしねーな、アイツは」
「でも、おかげで、クリスマス、じゃなかった、ミドリマスデートできるじゃん。ケーキ食べたり、プレゼント交換したり、赤い服の爺さんが子供たちに夜中にプレゼントを置いていくとか、そういうのもパク……イヤ、取り入れてるみたいだよ」
「まっ、イイや。じゃあ、その日はさ、ちょっと着飾って。高い店でディナー。で、プレゼント交換して。イイ宿に泊まっちゃう?」
「オっ、ナンカ大人な感じのクリスマスデート」
「ウチさ。クリスマスプレゼント貰ったことなくてさ」
「えっ。でも、彼氏いたじゃん」
「カズ以外はみんな、クリスマス前に別れてたし。カズ、ナンカ、よくわかんないこと言って、クリスマス、ガン無視だったし。たぶん、ウワキしてたんだろうけどさぁ」
「サンタさんは?」
「オニイの部屋には来たみたいだけど。ウチは良い子じゃないから、来なかったってさ」
マサヒコはアリスがフビンになった。なんでそういうコトすんだよ、って彼女の両親を怒鳴りつけたい。
「子供の頃は、さ。クリスマス近くになると、毎日早起きして家事とか超手伝って。勉強もガンバって。イイ子にしてたんだ。今年コソ、ウチにもプレゼント、チョーダイって。ケナゲじゃね?」
明るく話すアリスだったが、ソレがどれほど心に深い痛みを与えているか、マサヒコにも分かった。
「まあ、今年のクリスマス……じゃなくてミドリマスは期待しててイイよ。ちゃんとサンタがいるからさ。ここに」
アリスが顔をポッと赤らめる。照れ隠しに言う。
「ナンカ、そんな歌がなかった? 昔の歌で」
「あー、あったね。なんだったかな」
マサヒコもクリスマスシーズンに聞いた記憶がある。彼らが生れる何十年も前の曲だ。
「じゃあ、ウチもプレゼント選ばなきゃっ。ヤバっ、超アガってきた」
それから話題は明日からの予定に変わった。デート三昧の日々を送るつもりである。
彼氏と彼女はセックスしたアトも、めっちゃくちゃデートするものだと、アリスにしっかり思い知らせるために、マサヒコはいろんなプランをタテていた。




