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4階フロアにて

 帰り道は順調だった。

 午後2時前に地下4階フロアへ到達。ボス戦は階段側からの扉を開いても発生しないため、【フロアボスの間】は素通り。

 地下4階フロアもスルスルと進んでいく。

 やはり行きのマップのない状態に比べると格段に楽だ。


 地下4階フロアを半ばほどまで進んだところだった。

 悲鳴が聞こえた。


「アリス、コッチからだ」

 マサヒコは腕を抱いていたアリスを引き離すと言った。走り出す。


 アリスもそんな彼のアトについて走った。

 悲鳴は途切れることなく続き、大きくなっていく。

 途中、魔物が出現し、道を遮られるが、瞬殺して、また走る。


 角を2つ曲がったところで何体ものオークに出くわした。

 悲鳴はソコから聞こえていた。オークの

赤茶色の肌に交じって、白い肌が見え隠れしている。


 マサヒコは一瞬でナニが起こっているのか理解した。マンガとかゲームとかでよくある、アレである。オークといえば、アレである。


 マサヒコは拳銃の【早撃(ハヤウチ)】でオークの1体を射殺。注意を引き付ける。

 アリスも一瞬遅れて、【速射】。5体のオークが頭部に矢を受けて死んだ。

 だが、オークはまだまだいる。通路にヒシメキ合っている。


 女性が囚(とら)われていなければ、アリスの【フレイム】で一掃したいところだ。


 マサヒコは拳銃で次々とオークを撃ち、アリスが矢でシトメる。オークたちが仲間の屍を乗り越えてズンズンと寄ってくる。


 マサヒコが動いた。

 短剣を抜き、【瞬足(シュンソク)】で瞬時に間合いを詰めると、首をハネる。宙に【エアブロック】を出して、ソレを足場に跳んで、別のオークの首を落とす。ときに天井に立ち、壁に立ち、まさに縦横無尽の動きを見せるマサヒコ。

 さながらニンジャだ。


 マサヒコとアリスの猛攻により、やがて豚頭の大男はすべて床に倒れた。

 多かった。50体近くいただろう。さすがにここまでの群れと【迷宮】内で遭遇したコトがない。


「エラっ」

 アリスの悲痛な声。


 アリスがオークたちに嬲(なぶ)られていた女性に駆け寄った。

 それでマサヒコも、女性がアリスの友人だと気が付いた。

 魔装は解除され、服をハギ取られたのか、それともダメージで魔装が壊れたのか、エラは裸体だった。

 その体は血と体液で汚れている。


 焦点を失っていたエラの目が、アリスを認め、絶叫した。

「ああああっ、わああああっ」


 アリスが暴れるエラを抱きしめる。エラの体が白く輝いた。【ヒール】をカケているのだろう。

 魔装が戻らないところを見ると、やはり魔装が解除され、服をハギ取られたらしい。


 マサヒコは無言で【ギルドカード】から『簡易シャワー』と『簡易ソファ』を出した。やはり無言でフタリのソバを通りすぎる。男の自分がソバにいない方が良いだろうと思ってのことだ。


 床に転がる死体があった。オークではない。無残な死体だ。首がネジ切られ、四肢が引き裂かれている。若い男のようだ。

 そこから少し先に別の死体。コチラは体に槍が3本突き刺さり、顔がグチャグチャにツブされていた。四肢はあらぬ方に折れ曲がっている。コレも男。

 どちらも魔装解除(意識を失ったり、死亡すると魔装は解除される)されていた。


 マサヒコはエラの仲間の死体を【ギルドカード】に収納した。同胞の亡骸の回収は冒険者の義務だ。なにより無残な仲間の死体をエラに見せたくなかった。


 マサヒコは妙に心が平静だった。

 あんな酷い死体を見ればショックを受けて、青ざめて震えそうだが、そんなコトもなく。淡々としていた。

 自分でもソレが不思議だった。


 アリスたちの元へと戻るとフタリはいなかった。シャワーを浴びているようだ。セマいシャワー室にフタリで入ったのだろう。


 万一、魔物が出現してもイイように、マサヒコはその場で待機。

 アリスがショックを受けていなければイイけど、と思った。


 ほどなくしてアリスが出てきた。魔装のまま。銀色ナース服に水がシタタっている。


「俺にデキるコトある?」


 アリスが無言で首を横に振った。


「じゃあ、ちょっとオークを回収してる」


「んっ、お願い」


 マサヒコはオークの死骸を解体(オークは睾丸が高く売れる)していった。短剣スキル【切断線(セツダンセン)】のおかげでサクサクと解体できる。

 だが永延とテニスボール大の金玉を取り続けるのは憂鬱な作業だった。


 俺が死んだら、アリスもあんな風になるのか?


 ふと、そんなことを思った。オークたちに輪姦されるアリスの姿が思い浮かぶ。

 それは不快感以上に恐怖を呼び起こした。

 知らずに手を握りしめていた。


「あんな目に合わせてタマるかっ」

 ヒトリ、吐き捨てる。


 オークの睾丸集めが終わり(途中で魔物と遭遇。瞬殺)、戻ると、アリスとエラがソファに座っていた。エラはモフモフの黒いニットワンピを着ている。アリスの服だ。


 エラが嗚咽(おえつ)しながら経緯を話している。

 アリスがそんなエラの背中をナデている。


「マサヒコ……」

 アリスがマサヒコを見つめる。一瞬、エラの仲間たちの亡骸があった方を見た。


 マサヒコは無言で首を横に振った。

 アリスがコクリとうなずく。


 マサヒコはテーブルセットを出した。飲み物を用意する。実はテントなどと一緒に『簡易コンロ』も買ってある。ワンタッチで火が付くタイプ。ソレに水を入れたヤカンをカケる。

 その間にティーセットの準備をする。

 マサヒコもアリスもコーヒーより紅茶派だ。とはいっても、フタリとも別にクワシイわけではないが。


 そんなコトをしながらもエラの話が耳に入ってくる。何度も何度も同じ話をしているようだ。


 仲間のゼット(エラの彼氏)とライアスと【迷宮】に来たこと。


 3人はDランク。最近はランクアップを考えていた。どうやらマサヒコたちの活躍に触発されたらしい。

 自分たちはもう3年もヤっているのに、アッサリ追い抜かれてしまった。コレは不甲斐ない、というワケである。


 すでに昇格試験の受験条件のCランク依頼50件は達成している。

 だが、どうしてもCランク試験が突破できなかった。


 ここは少し荒療治だが【迷宮】でレベルアップするしかない。そう考えて今までは地下3階までしか降りていなかったところを、地下4階フロアまで降りてきた。


 マサヒコも昨日気づいたのだが地下4階からは人が格段に減る。地下3階までは、何パーティかとはスレ違ったのだが、4階では誰とも行き会わなかった。

 その理由も分かる。難易度が一気に跳ね上がるのだ。


 魔物の強さだけならともかくエンカウント率が一気に上がる。同時に一度に出現する魔物の数も多くなる。

 Cランク魔物なんてラクショー、というくらいの【レベル】でなくては厳しいだろう。


 それでもエラたちのパーティは途中まで順調だった。苦戦もあったがCランク依頼をコナしてきた実績がある。魔物の弱点なども把握していた。


 油断があったワケではない。

 3人ともいつも以上に気をハっていた。

 疲労や魔力の管理はキチンとして、いつでも引き返せるように安全マージンはしっかりとトっていた。


 最初にオークたちが現れた時、エラたちは少し数が多いがナントカなる、と考えていた。数は20体前後。一度に相手取るには少し大めだが、ヤってヤレなくはない。

 だが、オークと交戦中、背後に別のオークの群れが現れた。コレが多い。30体はいただろ。

 

 マズイ、と思った時には手遅れだった。

 数の暴力でゼットとライアスがモミクチャにされ、殺される。アリスもツカまり、魔装が削られ、一瞬意識を失ったところで魔装が解除された。

 アトは嬲(なぶ)られ続けた。ただただ悲鳴をアゲ続けた。


 マサヒコとアリスが駆けつけたのはそんなところだった。


 話を聞きながら、他人事じゃないな、とマサヒコは思った。

 【迷宮】は通路だ。

 森などに比べ、退路が少ない。前後を強敵にハサまれた時、全滅するしかなくなる。もしものソナエとして緊急脱出装置を買ったのは良い判断だったようだ。


 【迷宮】はリスクが高い。普通に依頼をコナした方がイイかもしれない。


 そんなことを思った。

 以前、Cランク昇格の条件を聞いたときに、受付嬢が言っていたことを思い出す。

 【迷宮】地下3階フロア攻略すれば、ノルマの50件が20件ですむ。だが、お勧めしない、と。


 マサヒコが今後の方針について考えていると、アリスが寄ってきて耳打ちした。


「エラの仲間の死体、どーしたの?」


「【ギルドカード】に入れてある。ヒドい状態でさ。見せない方がイイかと思って」


「ちゃんと見たいって。じゃなきゃあ、信じられないみたい」


「分かった」


 マサヒコは少し離れた場所にゼットとライアスの死体を出した。あらためて見ると、本当にヒドい状態だ。今度は嘔吐感が込み上げてきて口を押さえた。


 ハっ、と息を飲む音。

 振り返ると、エラが青い顔で口を押さえて、ヒザまづいていた。


 マサヒコはどうしてイイか分からずに、ソバのアリスの顔を見た。アリスも顔が青い。

 マサヒコと目が合うと、どうしよう? という目で見てくる。


 とにかく、エラを連れてベルドーンへ戻るしかない。幸いと言おうか、コチラも帰途である。


 ただ、エラが落ち着くまでは出発もできない。

 マサヒコはつい先ほどイれたお茶をエラに勧めたが、彼女はソレを無視した。


「マサヒコ、今日、ここで泊まっちゃダメ?」


「せめて【階段の間】にしたいけど。ここだといつ魔物が現れるか分からない」


 各階の【階段の間】に関しては一切魔物が発生しない。完全な安全地帯である。


「でもさ。エラが……」

 アリスが、ソファで顔を手で覆(おお)って泣いているエラを振り返った。

「ムリそうじゃん」


 確かにムリやり引っ張っていくワケにもいかない。


「分かった。ここで泊まろう。テントを出すよ」


「アリガト。マサヒコ」

 アリスがマサヒコの手を両手で握った。


「イヤ、アリスの方が大変だから」


「ウン、でも友達だしさ」

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