本気だ
【階段の間】で昼食と休憩とついでに愛を確かめ合ったフタリは、心機一転、地下5階フロアへ進んだ。
ここからは出現魔物がBランク。フタリにとっては未知の領域である。
「もう、魔法にコダワるのはヤメよう。とにかく、全力で倒していこう」
「アーイ」
アリスは今度は最初から弓を顕現した。
彼女が弓を持てば百人力である。
4階と同じくエンカウント率が高い。
10メートルも進むと、敵発生、といった具合。
魔物もBランク。ボス戦で戦った、オーガー、ヘルハウンド、レッサーヒドラ。それにバジリスク、ゴブリンジェネラル、オークソルジャー。
だが、魔法縛りを解除したフタリの敵ではなかった。アリスの矢が敵出現とほとんど同時に飛んでいき、射殺してしまう。
近距離に出現した敵はマサヒコの短剣のエジキだ。
次々と現れる敵を、瞬殺。
マサヒコもアリスも【レベル】がドンドン上がっていく。やはり、今までよりも【経験値】が段違いに高いのだ。
2時間ほど5階フロアをさまよったところで、宝箱から2つ目の【魔導書】が手に入った。
「えーと、今度は、あっ、闇属性だって」
「闇? 暗くすんの?」
「確か、精神系の魔法が主なんじゃなかったかな。ほら、【スリープ】【チャーム】【ダズル】、この3つみたい。【スリープ】は相手を眠らせる。あっ、自分も眠れるみたい。【チャーム】は魅了。相手を虜にするって感じ。あっ、自分にも使えるみたい。どうなるんだ? なんかヤバそう。【ダズル】は幻を見せる。あっ、コレも自分に使える。麻薬かよ」
「ウチ、イイや。マサヒコ、覚えたら?」
「ウーン、どれも使えるっていえば、使えるんだけど」
マサヒコはアゴに手を当て、持っているブ厚い本をナガめた。大賢者チアキ・ホンダ自筆の書。
今回は、どれもパッとしない。覚えたところで大した戦力アップにはならなそうだ。
イヤ……。
マサヒコはフト思いついた。魔物相手にはいまいちかもしれないが、人間相手にはどうだ?
『女喰い』のような危険な冒険者がいるかもしれない。冒険者でなくとも犯罪者だって多いだろう。
「やっぱりアリスが覚えてよ。万一のことがあるし。人間相手なら殺さないで無力化できる闇魔法は使えると思う」
実はマサヒコも最近知ったのだが、魔法は魔装顕現しなくとも使えるらしい。コントロールはかなり難しいのだが、使えることは使えるようなのだ。
人間相手に火魔法を使うのは躊躇するかもしれないが、闇魔法なら使いやすいだろう。
マサヒコは自分の考えを説明した。魔装顕現しない状態でも魔法が使えることも。
「へー、魔装じゃなくても魔法使えるんだ? じゃ、ライターいらずじゃん、ウチ」
「万一のコトがあるし、練習しといた方がイイかも。魔装顕現する時間がない時もあるかもしれないし」
「アーイ。じゃっ、それウチが貰うとして。どれにすっかぁ。【チャーム】とか、ヤバくね? 惚れ薬的な?」
闇魔法はなんというか違法性の香りがプンプンする。
確かに闇だ。というか、そういう闇かよ。
「でも、まっ、マサヒコ、ウチに夢中だし。ヤッパ、【スリープ】? 寝付けない時とか、イイかもだし」
結局、アリスは【スリープ】を覚えた。確かに、3つの中ではソレが使い勝手が良さそうだ。
ほかにもフタリは新たなスキルを得ていた。
マサヒコは拳銃スキル【早撃】。意識した瞬間に引き金を引く状態にまでショートカット。狙いもツイているので、アトは引き金を引くだけである。
アリスも似たようなスキル【速射】。コレも意識した瞬間に矢をツガえた状態に持っていける。しかも矢の本数や他スキルなども思った通りになる。
さらに3時間。
フタリは【フロアボスの間】の青い扉の前に立った。
いよいよ、コレを攻略すればミッションコンプリートである。
「じゃあ、行こうか。コレ、終わったら、今日は休もう」
「ウン」
コクっ、とアリスが顔を赤くしてうなずいた。エッチを期待しまくっている。
マサヒコもソレは同じだ。目の前の敵のコトよりも、その後のエッチのコトばかり考えてしまう。
銀色ナースの魔装エロすぎなのだ。
フタリは青い扉を開いた。
いつもの通りの体育館のような広間。
現れたのは5体。マサヒコは、うわっ、と思わずウメいた。シルエットに見覚えがあったのだ。
青いシルエットが色づく。
身長3メートルほどの人型。全身を銀色の甲冑に包んでいる。手にしているのは、戦斧、長槍、弓、大剣、メイス。
ゴブリンキングだ。Aランク魔物の中でも最上位といわれる強敵。
「ゴブリンキングだ。カナリ強いよ」
マサヒコが言い終わる前にアリスがナースの銀手袋に包まれた手の平を前に向け、魔法を放っていた。
「フレイム」
大火が5体の銀甲冑を包む。
炎の中の5つのシルエット。そこから、アリスに向かって光線のような矢が飛んできた。
マサヒコが割って入り、ソレを短剣で切り払う。レベルアップを繰り返してステータスが上がっていたため、なんとか間に合った。
「スリープ」
アリスがマサヒコの背中の影から現れて、闇魔法を撃つ。
すでに道中の魔物との戦いでその効果は実証済み。今までの相手はすべて昏睡状態に陥っている。
闇魔法の白っぽいモヤが炎の中に広がる。だが、5つのシルエットが倒れる様子はない。
魔法が効きにくい相手のようだ。
炎の中のゴブリンキングたち。そろいの銀甲冑に身を全身を包み、それぞれ『大剣』『戦斧』『長槍』『弓』『メイス』を手にしている。
マサヒコが動いた。炎の中に【瞬足】で突入し、すでに弓をツガえたゴブリンキングに斬りかかる。だが、【切断線】がいつものようにハッキリ見えない。
薄く、ともすれば歪んだ点線。
マサヒコは首の【切断線】をナゾるように斬った。
首から血が吹き出す。浅い。
だが、今度はハッキリと【切断線】が見える。
ソレをナゾろうとした刹那。
真上から大剣が落ちてきた。
【瞬足】でカワす。
着地と同時に銀色リボルバーを【早撃】。左手で構えたリボルバーの狙った先は『大剣キング』の頭部。
銃声が響いた。
一撃で倒れることはなかったが『大剣キング』の兜は砕け、血だらけの頭部が露出。ゴブリンというより人間に近い顔だった。
マサヒコは間髪入れずもう1発を撃った。
それで『大剣キング』が倒れた。
残り4体。
次の標的は首元の傷を白い輝きで消していた(おそらく【ヒール】)『弓キング』。マサヒコは片手に拳銃を持ったまま、一瞬で間合いをつめ、首の【切断線】をナゾり切る。
『弓キング』の首が滑り落ちる。
残り3体。
その間、アリスも弓で他のゴブリンキングをけん制していた。【流星群】で『メイスキング』『長槍キング』『戦斧キング』3体に礫の雨を食らわせ、そこから3本の矢をタテ続けに放ち続ける。
防御力の高いゴブリンキングとはいえ、アリスもずいぶんレベルアップしている。【攻撃力】も高い。3体のゴブリンキングの甲冑がどんどんボロボロに崩れていく。
そこに『弓キング』を片付けたマサヒコが加わる。
アリスの矢の洗礼を受けたためだろう。
【切断線】がハッキリ見えた。
マサヒコは『戦斧キング』の右腕を肩から切り離し、『長槍キング』のヒザから下を切り取り、『メイスキング』の首をハネた。
残り2体。
そこにアリスの矢が飛んできて、大ダメージを負っている『戦斧キング』と床に倒れた『長槍キング』に追い打ちをかける。
最後はマサヒコがその2体にトドメをさした。
頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
「さすがに、ちょっと手こずったね」とマサヒコ。魔装のレザーアーマーが少し崩れている。ダメージを負った証拠だ。
炎の中に飛び込んだせいだろう。
「大丈夫? 魔装、ちょっと壊れてるけど」
アリスが心配そうに言った。
「ああ、ゼンゼン平気」
言ってマサヒコは久しぶりに【ヒール】を使った。白い輝きで魔装が新品同様に戻る。
それにしてもゴブリンキング5体とはかなりハードだった。コレを攻略するのはAランクでもムリなのでは、と思ってしまう。
さすがに5階層攻略が困難だと言われるだけはある。
「とにかく、今回はこれで帰ろう。帰ったらBランク昇格試験を受けようか」
と、その前に、とマサヒコは思った。
奥の青い扉をチラッと見る。
なにしろ、地下5階フロアでは、誰とも会わなかった。滅多に人が来ないのだろう。
ということは、この奥の【階段の間】にも、人が来ることはそうそうないということ。
それはつまり……。
思いっきり、エッチができるっ。
「今日は泊まってくんでしょ?」
アリスが言った。
その声音が小さいのは彼女も同じコトを意識したタメだろう。期待感がハンパないため、それを表に出さないように声が小さくなったのだ。
「ウン。この奥の【階段の間】で泊まろうか。帰りは行きより時間かからないと思うけど、それでも丸一日はかかるだろうしね」
シュマホーでマッピングしているので、各階スムーズに上っていける。それでも、敵との戦いを考えれば丸一日は見ておきたい。




