↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/108

階段の間で

 3階フロアのボスはCランク魔物である。フタリにとっては馴染みのある魔物ばかりだ。

 マサヒコもアリスもまったく緊張しなかった。

 飽きるほど倒したのだ、Cランク魔物など。


 やがて青い金属扉を開けてフタリは中へ入った。恒例の【フロアボスの間】。

 青いモヤモヤから現れたのはフタリが池で戦った大グモ魔物、ヘルスパイダーが2体。


 マサヒコはさっそく【エアブロック】を試した。空中にエアブロックを出現させ、【瞬足(シュンソク)】でその上に瞬時に移動。

 そこから跳んで着地場所に【エアブロック】を出し、さらに跳ぶ。

 ヘルスパイダーの頭上から、その頭部の【切断線(セツダセン)】へ向かって降下。空中で短剣を一閃。

 ヘルスパイダーの頭部が落ちた。


 アリスの方も、もう1体のヘルスパイダーを【ファイアリング】で攻撃していた。胴体に【ファイアリング】を発生させ、混乱している間に、次々と【ファイアリング】を足にハメていく。すべての足に炎の輪がはまった頃には、ヘルスパイダーは動かなくなっていた。


「ウン、使える。超楽しい」

 マサヒコは【エアブロック】の使い勝手に満足。またひとつニンジャレベルが上がった、という感じだ。


 そのまま【階段の間】へ。

 そろそろ夕食時である。


「今日はここまでにしようか。無理してもしょうがないしね」

 マサヒコは言った。


【階段の間】は、【フロアボスの間】同様だだっ広い。バスケットボールのコートが2つは入りそうなほどである。オマケに中央に階段があるだけでアトは何もない。


 マサヒコたちは【階段の間】の端の方に『簡易テント』を出した。手の平サイズの小さなテント。それを床に起き、「設置」と唱えると輝きとともに大きくなった。いちおう、4人は寝られるというモノ。

 壁も床も空気が入っており柔らかい。防音性にも優れ、オマケに温度調整もバッチリ。耐久性も高く、ゴブリン程度の攻撃では壊せないとのコト。


 テントの前に【簡易ソファ】や【簡易シャワー】、【簡易トイレ】を設置していく。【簡易シャワー】も【簡易トイレ】もどちらも背の高い直方体。

 見た目は工事現場などに設置される仮設トイレにソックリだった。


【簡易トイレ】は道中、頻繁に出している。

 アリスはもとよりマサヒコもしっかり利用した。屋外ならともかく、さすがにこんな屋内では立ちションもハバカラれる。


【簡易シャワー】は箱の中にシャアーヘッドがあるだけだが、魔法で排水が2百リットルまでタメられる。

 同様に天井には湯気を吸い取る魔法がある。中々の優れモノである。


 さらに【簡易テーブルセット】。コレは現代日本でもあった折り畳み式のテーブルに椅子。コチラは魔法道具ではないので安かった。一式で2万エーン程度である。


 シュマホーで音楽(例の芸術神トリビュートアルバム)を流しながら、持ってきたパンやオニギリ、カラアゲやスープを食べる。

【ギルドカード】の収納機能は本当に便利だ。

 マサヒコは万一にソナえ、カナリの量の食料を入れてある。


「ナンカ、変な感じ」

 アリスがテントや設置されたシャワー、トイレを見て言った。


「キャンプとはちょっと違う感じかな」


「マサヒコはキャンプしたコトあんの?」


「あるよ。うちの母親がさ、結構、アウトドア好きで。よく小学校の頃はゴールデンウィークとか夏休みに行ったよ」


「へー。あんまアウトドアって感じしないけど」


「まー、親がイロイロやってくれたから、俺と弟は遊んでただけだから。高学年になったらゲームとか持ってって。大自然の中、ピコピコと」


「ナニソレ。超モッタないじゃん」


「だよね。今はそー思うよ。せっかくのキャンプなんだから、もっと楽しめばよかった」


「家族仲イイんだ。うらやまぁ」


「まー、イロイロ不満はあったけど。今から思えば、そういうのホント、コッチのワガママだったんだって思うよ」


「会いたい?」


「ウン。会いたい」


「そっか。イイなぁ。そういう風に思える家族ってさ。ウチ、マジ、会いたくねえし。このまま一生会わなくてイイって気がする」


 それにマサヒコはナニも答えられなかった。ただ、そうか、と相槌らしいものを打っただけ。


「ウチ、親ガチャって言葉、あんま好きじゃなくてさ。そんな軽い感じじゃないんだよね、親って。なんだろ、ズシーンて、のしかかってくる感じ? そんで、目をフサがれるみたいな。耳のとこで、悪口言われ続ける感じ? もう、ホント、ヤダけど、逃げらんないしさ。だから、コッチ来たの、ウチは悪くなかったよ」


 言ったアト、アリスは、あっ、と声をアゲた。


「別に、帰るからさ。ゼンゼン、帰るから。残りたいとか、そんなんないから。高校卒業したら、親とバイバイすっし」

 それから最後に、小声でつけたす。

「マサヒコいるし」


「結婚すればさ。親とか、あんまり関係なくなるカモね」

 マサヒコは深く考えずにそんなコトを言った。


 だが何気なく言ったその言葉は、アリスにものスゴい衝撃を与えた。

「け、結婚? えっ、結婚?」

 声が裏返る。


「あっ、イヤ、別にそーいうコトじゃなくて。そりゃー、その、先々、その、結婚できたらイイなーと。イヤ、なに言ってんだ、俺は。そーじゃなくて。イヤ、ウン、まだまだ、先の話だよな、結婚とか」


 アリスは鼻と口を両手で押さえて、真っ赤な顔でマバタキ。目がどんどんウルんでくる。

 結婚出来たらイイなって、言った?

 先の話って言った?

 えっ、マジで、言ってんの? コレ、ほぼプロポーズじゃんか。


 ほぼプロポーズは言いすぎである。

 それでも結婚を視野に入れているというだけで、アリスには衝撃的すぎた。


「わっ、ど、どうしたの? ちょっと、えっ」

 マサヒコは大アワテだ。なにしろアリスがポロポロと涙を流したのだから。


「えっ、えーと」

 どうやら、結婚を考えている、みたいなコトが、アリス的にクリティカルヒットだったようだ。


 確かに、まだツキアったばかり。エッチだってしていない。結婚とか言いだすのは重すぎる。何年先の話なんだというコトだ。


 でもアリスと結婚出来たらイイよな。マジで。


 キザかもしれないが、アリスとならどんな困難も乗り越えていけそうな気がする。楽しく暮らせそうな気がする。

 そう思うと結婚という言葉がそれほど変ではない気がした。


「俺は、本気で思ってるけど。その、いつか結婚できたらイイなあって。アリスと。もちろん、まだ高校生だし。ゼンゼン、生活力ないから、アレだけど。いつか、結婚できたらなって。アリスと生きていきたいなって」

 さすがに言いながら恥ずかしくて下を向いた。コレ、ヒョットして黒歴史になるヤツじゃね? と心の片隅で思った。


「ホ」


「えっ、ナニ?」


「ホストかよっ」

 アリスの絶叫。顔は涙でビショビショである。

「ナニ? ウチをハメて風俗とかに売んの? 借金とかさせんの? 俺をナンバーワンにしてくれ、とか言うの?」


「ええ……。イヤ、そんなワケないじゃん。ナニ言ってんの?」

 面食らうマサヒコ。


「だって甘すぎじゃん。ゲキアマじゃんか。そんな言葉フツー出ないじゃん。エッチだってしてないのにー。結婚とか……」

 アリスの顔がクシャクシャになる。泣き笑い。

「結婚とか言うワケないじゃん」


「でも、イヤ、俺、本気で。アリスとならイイなって。思った、マジで」


 ズズズっ、とアリスが鼻をススる。

 

「マジぃ? 本気にするからぁ。ウチ、絶対、忘れないからぁ」

 涙声。


「イイよ。忘れなくて。なんなら結婚を前提にツキアってますって言ってもイイから。友達とかに」

 

 言ってマサヒコは身を乗り出した。小さなテーブルがガタンと傾く。

 それを気にせずアリスの顔に手をやった。

 アリスがマサヒコを見上げる。


 マサヒコはアリスの唇に唇をつけた。

 ビクっと大きくアリスが震えた。

 そのまましばらく、唇をつけたまま。アリスの手がマサヒコの頬をハサむ。

 ソっ、とアリスの唇が開いて、舌がチロリとマサヒコの唇をナメる。


 マサヒコはそれにコタえて彼女の舌に舌をカラめた。

 テーブルが倒れ、乗っていた皿やら紙袋やらが床にコボれる。

 だがフタリとも気にしなかった。


 そのまま舌で愛撫しあう。

 アリスの体が一度、激しく震え、そのアト、力が抜けたようにクッタリとなった。

 マサヒコはソレに驚き、唇を離す。


 アリスがマサヒコの胸に額をつけた。


「ウチにも初めて、残ってたじゃん」

 少し疲れたような切ないような声。


 マサヒコはなんのコトかまったくピンとこなかった。ピンとこない男、マサヒコ。


 フタリはそのまま長い時間抱き合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。