アリスがアツイ
蜜部屋から出たフタリは地上へと向かった。
【魔物レーダー】でしっかりとキラーアントが全滅したことを確認。トリコボしはない。
だが、巣穴は降りてくる時は良かったが、出ようとすると難儀した。迷ったのだ。
なにしろ複雑に入り組んでいて地図もない。目印でも付けておけば良かったのだが、そこまで頭が回らなかった。
しょせんアリの巣だろう、とナメていた。
「ヤベっ、迷った」
マサヒコが頭をカク。
「マジっ? ウチら出られないカモ?」
マサヒコの腰に手を回してしがみつきながら歩くアリス。
「サイアク、魔装顕現して、上に向かって掘りまくろう。そのうち、地上に出られるハズだ」
「ウワっ。マジか」
「まー、落ち込んでもしょうがないし。音楽でも聞きながら行こうか」
言ってマサヒコは例の『芸術神』キョーカ、トリビュートアルバムをシュマホーで再生した。
フタリで鼻歌を歌いながら歩く。
やがて見覚えのある通路へ出た。戻ってきたのだ。
最初に降りた縦穴をよじ登り、ようやく地上へ脱出。
村長に終わったことを告げると、ねぎらってくれた。お茶をしていけ、と言われ、ケーキやら紅茶やらをゴチソウになる。
「イヤ、若いのに大したもんだな。先々、有名になるかもしれん。今のうちにサインでも貰っておくかな」
などと、上機嫌に村長は言った。
疲れたのか、アリスはボーとしていた。
マッドフィッシュのところで泳いだうえ、キラーアントの巣の中で歩き回ったのだ。
疲労困憊でもオカシクない。
駅馬車を待つ間アリスは長椅子の背もたれにモタレかかって、目が半開きだった。
馬車の中では完全に寝た。マサヒコはヒザマクラをしてやり、アリスの頭をフトモモに乗せた。
ヤケに頭が熱い気がした。
顔も赤い。
大丈夫か、と心配になった。ヒョットしたら風邪をヒいたのかも。
そのまま魔装顕現して【ヒール】をカケてみる。あまり効果はないようだった。
やはり【ヒール】は風邪や病気には効果がない。
ときおり、目を覚まし、寝ぼけた様子でマサヒコの顔を見上げ、頬をナデたり、手をツナいだり。
そのたびに、好き、とか言う。
コッチの医者は信用できるのか?
こうファンタジーの世界だと科学的な発展は遅れていると考えられる。
だが、代わりに魔法が発展している。医者も魔法を活用している可能性がある。
イヤ、そもそも、医者がいるかどうかもよくわからない。
クソっ、とマサヒコは手の平に拳を打ち付けた。
ナニやってんだよ、俺は。なんのタメの知識だよ。
こんなコトは常識すぎて本になど書かれていなかった。だが、そういう本に書かれていない常識的なコトこそが生きていく上で重要だったりするのだ。
マサヒコはシュマホーを出した。
分からないなら聞けばいい。自分のタメに人に聞くなら躊躇するが、アリスのタメなら、ゼンゼン聞ける。
アックスにメールを送った。
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すみません
アオキです
アリスが風邪を引いたみたいなんですが近くで治療してくれるところありますか?
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多少、不審な気もするが、そんなコトにこだわっている場合ではない。
すぐに返信がきた。
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おつかれ。
そりゃあ、大変だな。
とりあえず、神殿に行けば治療してくれるぜ。安いし、お勧めだ。
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さすがアックスセンパイ。返しが的確すぎる。
マサヒコは素早くベルドーン市の地図を開き、神殿の場所を調べた。
コチラの世界では神といえば、神。創造神にて唯一神。宗教が一つしかないから、宗教名もない。神殿はただの神殿なのだ。
神殿はベルドーン市の中央にあった。カナリでかいようだ。現代日本でいう大型病院のようなものか。
マサヒコはアックスに礼のメールを送った。本当にシュマホーは便利だ。誰かといつでも情報交換できる。
「マサヒコ、ウチとヤリたくないの」
いきなりアリスが言ったので、マサヒコはビクンと硬直。すぐに寝言だと気づいた。
「ヤリたいに決まってんじゃん。超ヤリたいよ」
ツブヤいた。
◇
ベルドーンに戻った頃には日が暮れていた。そこから、タクシー馬車を捕まえて(ホロのついた2人乗り。ほぼ人力車)、神殿へ急いだ。
アリスの呼吸がアラい。うなされている。頭がスゴく熱い。
本当にただの風邪か。なんか病気じゃないのか?
不安が胸の中でムクムクと広がっていく。
もし、このままアリスが死んじゃったら。
そう考えると、体の中身がスポンと抜けて、落ちていくような心地になった。
怖い。アリスが死ぬのが、本当に怖い。
マサヒコは不安に泣きそうになりながら、アリスを抱きしめた。
ヤメてくれよ、本当に。死ぬとか。勘弁してくれよ。もう、一生エッチしなくてもイイから。頼むよ。
ベルドーン神殿は白い石を組んで作られた古めかしくもイカめしい建物だった。これぞまさに神殿という様子で、10メートルはあろう幅広の階段が21段。踊り場のような広場をハサみ、さらに21。
マサヒコは嫌がらせのような階段をアリスを背負って上った。
アリスの体が熱い。使い捨てカイロのように熱い。
コチラの世界で魔物退治していたおかげか、それとも鍛冶場のクソ力か、マサヒコはアリスを重くも、階段を苦しくも感じなかった。
階段を上り切ると、そこに凸型の馬鹿デカい白い建物があった。林立する円柱の柱の間に大きな扉があった。
ソレを体で開くように自身をねじこむ。
入ると広々としたロビー。
すぐカタワらにカウンターがあった。本当に病院のようだ。
ロビーの中央にまた幅広の階段があり、その上にナニカ巨大な像が立っている。アレが神像なのだろう。
階段のところで立ったまま両手の指を結んで祈る人々が見える。
アトは長椅子がところどころにあり、ソコに座っている人々がいる。
マサヒコはカウンターでアリスの体調が悪いコト、発熱しているコトを訴えた。
「では、コチラの番号でお待ちください」と番号の書かれたカードを渡される。
マサヒコは空いている長椅子に座った。アリスの体を支えるように抱く。
まだか、まだか、とジれながら待つ。
アリス、こんなに弱ってんだから。早くしてくれよ。
やがてマサヒコのカードの番号が呼ばれた。
ハイっ、とマサヒコは大きな声で返事をして、階段の脇を通り、奥の診察室の1つへと入った。
事務机に椅子が2脚。壁際にベッド。
日本の医者の診察室と似ている。
マサヒコはアリスを座らせた。意識が朦朧としていて、後ろから支えていないと崩れてしまう。
白いダボっとした服を着た老婆がアリスにスっと手を向けた。アリスの体が薄紫色に輝いた。すぐにその光がオサまる。
「ただの風邪だね。寝てりゃあ治るよ。お大事に」
「ちょっと、ソレだけ? 薬とかないんですか?」
「その程度で、高いポーションを使うほどじゃないだろ。もったいない」
「その程度って。スゴい熱出てんじゃん。死んだらどうするんだよ」
マサヒコはつい怒鳴ってしまった。
「じゃあ、3日熱が下がらなかったら、また来な。そんときはポーション出してやるよ」
「今、出せよ。金なら払うから」
「ダメだね。金の問題じゃない」
「さっきと言ってること違うじゃんか」
「イイよ、マサヒコ。大丈夫だから」
アリスが弱々しい声で言った。今にも老婆にツカみかかりそうなマサヒコのソデを引く。
「こんくらい、平気。いつもヒトリで治してたし」
「とにかく、水分取って寝てな。アンタ、旦那ならちゃん奥さんの世話してやるんだよ」
「だ、旦那って。俺たち、そんなじゃないから」
「オヤ、そんなに必死になってるから、てっきり若夫婦かと思ったよ」
「恋人です。彼女です。超大事です」
「そーかい。じゃあ、ちゃんと大切にしてやるんだよ。必死になれる相手なんて、人生にそう何人もいやしないんだからさ」
マサヒコは不服だったが、ねばっても薬を出してくれそうもないので、退散することにした。とにかく部屋に戻って寝かせてやりたい。
診察代金を払い、タクシー馬車で冒険者ギルドまで戻る。
寮までは背負った。
不審な目を向けられたがマサヒコはそれどころではなかった。
アリスの体はさっきよりもさらに熱くなっているようだ。




