アリスの呪詛
【魔物レーダー】を頼りに幼虫部屋へ。
すぐ近くにはナニか黄色っぽい塊が鉱石のように壁にくっついている部屋があった。蜜だ。アリスがソレを【ギルドカード】に収納している間に、マサヒコは幼虫の始末をした。
幼虫とはいえ、デカい。そしてブキミだった。
なんとかすべての幼虫を退治しアリスの元へ戻る。
アリスはウルルンをナデていた。
「終わったよ」
「オツカレー。ウチもトれるだけトっといたから」
「じゃあ、戻ろうか。あっ、でもその前に、イイ加減、昼食食べよう」
そういうワケで蜜の部屋で昼食をトった。ベルドーンを出る前に買っておいた総菜パンにオニギリ。
「ヤッパ、オニギリも誰かが広めたってコト?」
「タブンね。確か、『双極の大魔導』こと、小山さんがいろんな料理を作ったって話だけど」
「感謝だよね、マジで。ウチ、ゴハンないとダメなんだよね」
「分かる。俺もそーなんだ。パンだけだとなんだかモノ足りなくてさ」
「ヤッパ、ゴハンとおミソ汁だよね。アト納豆とか。サケの塩焼きも好き」
「意外。アリス、もっとジャンクなモノが好きかと思った。ハンバーガーとか」
「外じゃ、そーいうのも食べるけど。ヤッパ、ゴハンが好き。日本人だし」
「でも、ギャルじゃん。ギャルって外人さんに憧れてるんじゃないの? 髪の色とか。肌も焼いたり」
「ハっ? ウチ、ヤマトナデシコダマシー、スゲエし。超日本人だし。ギャルはギャルだし」
「そーなの? 特にそのスタイルに哲学的なモノはないんだ」
「意味わかんないから」
「ギャルメイクしなくても、めちゃくちゃカワイイのになー。いつから、ギャルしてるの?」
カワイイという言葉にアリスの顔が赤らむ。無言でオニギリを食べる。
「中二。陸上ヤってたしさ。肌マジ焼けまくったから、もう、いっそ日サロで焼いちゃえって」
「へー」
「ウチのママさ。オニイのことスゴいカワイがってんのね。もう、ベタベタ。で、ウチのコトなんてマジ、ほったらかしでさ。ギャルになったら、もう、生ゴミ見る感じ。ウチのゴハン作ってくんなくなってさ。だったら自分で作ってやるって、料理覚えた」
「そっか」
マサヒコは相槌くらいしか打てなかった。
「で、パパはさ。もう、ウチなんて目に入ってない感じ。超どーでも良さそう。金やるから、どっか行ってろって感じ。マジで、そーいうコト言われたし。スゲー、ヘコんだ。あそこまでさ相手にされないと、なんか、反抗する気もなくなるってか。アキラめる? もーイイやって。ウチはウチでヤルし。で、その頃アキラに告られて。ゼンゼン、タイプじゃなかったけどさ。まー、イイかなって。一緒にいてくれるんなら、イイかなって。そっからはもう、流れ? みたいな」
話しているうちにアリスの顔も声も暗く沈んでいた。おもむろにマサヒコを見る。ニラむように。
「てか、マサヒコ。なんでもっと早く来てくんないのよ。そしたらウチの初めて全部アゲられたのにさ。今さら、なんにも残ってないじゃん」
「そう言われても」
「ウチのバージン、超どーでもイイ感じで失くしたから。マジ、フザケんなよ、アキラ。ほとんどレイプじゃんか、アレ。ファーストキスだって、ナンカいつのまにか終わってたし。返せ、馬鹿アキラ」
「アリス、どうどう」
「さんざんヤっといて。ウワキしてさ。別にお前タイプじゃなかったし。すぐヤレると思ったからツキアっただけ、とか。ハア? 死ね。ホント、死ね」
アリスの興奮は止まらない。なにやらスイッチが入ってしまったらしい。
「えーと、アキラの次はウッチーだっけ」
話題を反らそうと言ってみる。
「さすがにさ。ウチだって、ショックでさ。ムリじゃん、そんなこと言われたら。彼氏とか、絶対作る気しねえじゃん。受験もあったし。イイ学校行って、親、見返そうって、ガンバったし。でも、私立に行かせてくんなくて。イイけどさ。別に。でも、オニイにはスポーツカー買ってヤったじゃん。ウチの学歴より、オニイの車の方が価値があるってコトかよ。マジでムカつく。でさ、ウッチーはウチが行きたかった学校の2年でさ。友達と遊んでたらナンパされて。ナンカ、自信タップリでさ。俺がお前を守るし、とか言うワケ。お前の親、俺がブっ飛ばしてヤっから、とかさ。ヤッパぜんぜんタイプじゃなかったけどさ。その服ナンダヨ? って、いっつも思ってたし。でも、そーいうコト言ってくれたのウレしくて。まー、そこまで言ってくれるんならって」
そこでアリスが、ハアっ、とタメ息をついた。
「アイツ、マジでない。ホントない。女の顔、グーで殴るとか、マジでないから。コッチ、歯が1本折れたんだからなっ」
「えっ、そーなの?」
「そーだよっ。この歯。途中で折れたから」
言って口を開け上の歯の1本を指さす。治療跡は特に目立ってはおらず言われてもわからない。
「ざっけんな。顔パンパンに腫れたんだからな。ケーサツザタにしようと思ったから、マジで」
「なんで警察行かなかったの?」
ヤッパリちょっとは好きだったのかなあ、とマサヒコは思った。
「だって。ウッチーのお母さん、超イイ人だし。ウッチーの学校、家から歩いて行けるからさ、ウチ、いつも学校行く時、起こしに行ってたんだけどさ」
ナンダ思ってたより仲良かったじゃん、とマサヒコは嫉妬心が起こった。
「てか、アイツがさ。男はアサダチするから、彼女ならヌイてけって言うから。ウチだって、朝っぱらからヤラレんのヤダから、口でシテたんだけど」
いきなりの生々しい話にマサヒコは面食らった。
アサダチ、ヌク、口、と陰語が。
「で、ウッチーんち行くと、アイツのお母さんがウチの分まで朝食作ってくれて。超イイ人でさ。ほとんど、お母さんに会いたくて通ってた。息子クズだけど、お母さん、マジいい人だったから。悲しませんのヤじゃん」
アリスのレジェンド元彼ウッチーは母親に救われたらしい。
それにしても、毎朝、毎朝。
マサヒコはアリスの唇を見て、すごくムラムラした。その唇は今、オニギリを食べている。
「でも、トヨは、そんな悪くなかったんでしょ」
3番目の彼氏トヨはアリスの元彼ではマサヒコの一推しである。
歴史オタクでデートも城跡とか博物館とか渋いチョイス。エッチの最中は戦国武将とかになりきった言葉づかい。
推せる。
「夏休み。合コンでさ、相手大学生で。ウッチーのコトで、ナンカもー、どーでも良くなってて。ジボージキってヤツ? で、ナンカ、ちょっと頭良さそうなトヨと連絡先交換して。夏休み中、超ヒマだったし。家にいんのヤダしさ。2回目のデートでキスして。3回目のデートで部屋行ってヤっちゃった。もう、とにかく家にいたくなかったから。でもさ、もー、ずっと歴史の話すんの。ずっとしゃべり続けんの。頭オカシクなりそうだったから別れた。姫とか呼ばれるの、ちょっと良かったけどさ」
ハハハっ、とマサヒコは変な笑いが出た。
トヨ、無残。
「で、カズなんだけど。なんていうか。バーで働いててさ。ちょっと勘違いしてる感じ? 自分が超イケメンでモテモテみたいに。ユー〇〇ーバーで、有名みたいなコト言ってたけど。チャンネル登録15人て多いのか? ナンカ自分大好きって感じ。ウチのイン〇タに絡んできて、ナンカやりとりするうちに会うことになってさ。顔は、まあ、イケメンだったけど。正直、タイプじゃなかった。で、もう超口説いてくるワケ。それも、なんかホストっとぽい感じに。君と会えたのは運命だ、とか、アリスはもう悲しむ必要なんてないんだ、俺がいるから、とか。ナンカ、そーいう、モロ甘な言葉、今までなかったからさ。新鮮だった。ホストとかにハマる娘の気持ち、分かったカモ。クッサい言葉でもさ、言われると、ヤッパ、女の子はさ。ウレしいんだよ。オトメなとこ、グラグラ揺れるから。クセー、とか思うけど、ちょっと、ウレしいんだよ。プライド、超くすぐられるんだからさ」
そう言うアリスはヒザを抱えてうつむいていた。
「さんざん、イロイロヤリまくってさ。変なトコにピアス、空けようとすっし。なんか、いつもスマホ見てっし。ぜってー他に女いるだろって思ってた。俺の夢のタメに、体ハってくれよ、とか言ってパパ活ヤラせようとすっから、別れた」
そういえば、アリス、ヘソにピアスしてたな、とマサヒコは思い出した。イヤ、アレは変なところじゃないのか?
「ホント、アイツ口だけだったわ。顏だって、メイクしてっからイケメンに見えただけだし。シンガーソングライターになる、とか言って、ゼンゼン曲とか作らねえし。しょっちゅう、金、貸してくれ、オゴってくれ、だし」
「で、最後はショウマ?」
「そっ。ゴールデンウィークにナンパされた。友達ノリ気でさ。一緒に遊んで。社会人だったし。オゴってくれるし。ナンカ、カズと逆って感じ。タバコクサイから、キスとか超ヤだった。ウチがセキしてても、タバコ吸うし。超ジコチューって感じ。まー、ウチの元カレの中じゃあ、マシな方だったんじゃね? もう、ウチに、コスプレさせまくりだったけど。ソレ、別にヤじゃなっかったし。エロ写真とかエロ動画撮りたがるの、ウザかったけど」
「コッチに来て自然消滅?」
「そっ。もーイイやって。ナンカせいせいした。ギャルやめろってウルセーし。ウチの服とか、メイクに口だすなよって感じ。ツインテールとかやんねえから。ウチの服気にするなら体調気にしろよな。生理だって言ってんのに、お風呂でヤろうとすっし」
アリスは相変わらず下を向いたまま。恨み言のように言葉を吐き出している。なんだか黒いオーラが見えるようだ。
「ナンカ男運悪いな。ヒドい男ばっかじゃん」
しばらくの沈黙。
「……そんなコトないじゃん」
ポツリと言った。
「マサヒコ、超イイ男じゃんか」
うわっ、とマサヒコは胸を押さえた。
まさしく言葉が突き刺さったのだ。ロクでもない彼氏ばかりとツキアってきた女の子に、こんなコトを言われると、光栄であるとともに心苦しい。
アリスが顔を上げた。ホッペタにゴハンつぶがついていた。
「さっきの、超ウレしかったから。ウチ、本当は不安でさ。ウチとツキアうメリットって、好きなだけエッチできるコトなんじゃないかって。ナンカ、思っちゃって。マサヒコとツキアう時だって。セフレ気分なのかなって、疑ったし。だから、超ウレしかった。カズのクッサイ言葉なんか、目じゃないくらい、ゲキアマだったから」
「アリス、超イイ女じゃんか。俺、今まで、一緒にいて。こんなに楽しかった相手、いないから。明るくて、素直で、優しくて。元彼とか、アリスの親とか。そーいうトコ、なんで分かんなかったのか不思議だけど」
「そういうのが、ゲキアマだっての。ウチをトロけさせる気かよっ」
言いながらもアリスの顔はもう緩みまくり。目だけは泣いたせいで、ウルんでいる。女は本当に好きな相手ができると涙モロクなるのだ。
マサヒコはアリスの口元のゴハンつぶをとった。それを切っカケにフタリはキスをした。
情熱的なキスだ。ムサボルようなキス。
ウルルンも遠慮して、見えないフリをするくらい、激しい、感情ムキ出しのキス。
マサヒコは元より、アリスもキスしながら心の中で思った。
ヤバっ、超ヤリたいですけどぉ。




