オークといったら
ヘルスパイダーの次はオークである。3つの依頼をコナした割には、時間はまだ10時半。順調すぎる。
「オークはちょっと手強いみたいだよ。頭がイイんだって」
「フーン。どんなの?」
マサヒコはアリスに魔物図鑑の写真を見せた。うわっ、とアリスが嫌そうな顔になる。
豚頭の大男の醜悪さに引いたらしい。
それから気づいたように説明文の一行を指さす。
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人間の女との生殖を好む。
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「コレ、エッチするってこと?」
「えっ、あー、そう。ゴブリンと同じ」
「子供が生まれんの?」
「ウン、そーみたい。人間の女性から生まれたヤツは、亜種、ジェネラルとかキングとかの上位種になりやすいんだって」
「へー。そーなんだ」
「で、今回の依頼は、はぐれオーク退治。この村から1時間くらい東に行ったところに、オークの村があるらしいんだけど。ソコを追放されたヤツらしいんだ」
「村? オークの村なんてあんの? ヤバくね?」
「オークは知能が高いらしいからね」
「なんで退治しねーの?」
「できないんじゃない? ほら、オークはCランク魔物だろ。それが村を作ったら、依頼ランクはB以上。ヒョットしたらAかも。そうなると、退治できる冒険者もナカナカいないんじゃないかなあ」
マサヒコの言う通りであった。
村の規模は大きく、オークの数は百体以上。しかも、ジェネラルやキングまでいる。討伐依頼のランクはAどころかSランク。
対応できる冒険者がいないのが現状だ。
依頼は村の食糧倉庫に突如住み着いたはぐれオークの退治。
今回もフタリは大いに実力を疑われた。
しかしフタリとも気にせずに、大丈夫だと押し切り、大きな蔵のような食糧庫へと案内させた。
「今回は俺がヤった方がイイかな。セマい中で戦うことになるだろうし」
「じゃあ、ウチはコレかな」
言ってアリスが顕現した魔装は、ナース魔装。銀色のナース姿である。
太陽の日ザシを浴びてギンギラギンと光っている。
「じゃあ、行ってくるよ」
言うマサヒコはナカナカ使う機会のなかった重武装。分厚く大きな甲冑と大盾。さらにトゲトゲメイス。
入り口の扉を塞ぐ閂を外す。
Aランクのオークジェネラルすら楽勝で倒せたマサヒコである。ただのオークなど明らかな格下。
だが、敵がヒソんでいる中へ入っていく緊張感は半端ない。
心臓が破裂しそうなほど暴れる。
大丈夫、俺は強い。たぶん、強い。
言い聞かせて扉を開いた。
中は薄暗闇。【魔物レーダー】の光点はひとつ。
だが、マサヒコは違和感を感じた。複数の気配を感じたのだ。
ゆっくり中に入る。
薄闇の中、赤茶色の大男が立っていた。体毛がなく頭部は豚。手にしている棍棒をマサヒコに向かって振り下ろしてきた。
だが、遅い。
マサヒコが戦闘態勢に入った直後、オークの動きが遅くなる。振り下ろす棍棒など、まるで迫力がない。
マサヒコは大きくメイスを振りかぶると、オークの頭に振り下ろした。
ブシャリっ、と豚頭が破裂。
オークはそのまま後ろに倒れた。
マサヒコは油断しなかった。まだ気配がある。かすかな呼吸音がする。
積まれた樽。木箱。その影から、スースーと聞こえる呼吸音。
近づいたマサヒコは、ソコにナニか肌色のモノが横たわっているのが見えた。
シュマホーのライトで照らす。
マサヒコは思わず手にしていたメイスを落とした。吐き気が込み上げてきた。
ソレは裸の女だった。四肢はあらぬ方に曲がり、体中アザだらけ。腹は破裂しそうなほどに膨れていた。
目は虚ろで、宙をボンヤリと見ている。
村の住人がさらわれたというような話は聞いていない。それに、腹を見たところ(どう考えても通常の妊娠ではありえないほどの腹部の膨らみ)、それなりに時間が経っているのだろう。
オークの村から連れてこられたか。
マサヒコは混乱しながらも【ギルドカード】から毛布を出した。ソレを女性にカケる。
さらにヒールの魔法で治癒する。
「マサヒコ、どう?」
アリスが倉庫の入り口から顔をノゾかせた。
「オークにさらわれた女性がいる。とりあえず、ヒールをカケてるけど。どうすればイイんだ?」
ハッキリ言って、困惑、である。
「妊娠してるんだ。たぶん、オークの……」
「待って。ちょっと聞いてみるから」
言ってアリスが倉庫から出ていった。
すぐに戻ってくる。
「神殿に保護してもらうとイイって」
「分かった。アリガトウ」
「それより、ウチが代わるよ」
「お願い」
村人たちはオークにさらわれた女性を発見したと聞くと、トタンに態度を一変ささせて協力的になった。特に女性たちはカイガイしく、さらわれた女性の世話をした。
「他人事じゃないんだよ。魔物にさらわれるってのはさ」
「アンタたち、頼むから、冒険者ギルドに言ってくれよ。早く、オークの村をツブしてくれって。ウチの娘がさらわれないか、気が気じゃないんだよ」
村人の女性が、さらわれた女性の介添えとしてついてきてくれた。
さらわれた女性は相変わらず虚ろな目をしており、なんの反応もなかった。心が死んでいるかのようだった。
「私の育った村でもねえ、ゴブリンにさらわれた人がいたんだけど。助け出され時は、ヒドい有様でねえ。結局、自分で命を断っちまったんだけど。魔物ってヤツらは本当に邪悪だよ」
マサヒコはそんな女性の話を聞きながらもアリスを気づかっていた。同性の彼女には刺激が強すぎたのではないだろうか。
事実、アリスの表情は終始、硬く、ほとんどしゃべなかった。
一度、ベルドーン市に戻り、神殿にオークの被害にあった女性を送り届けた。こういったことはよくあるらしく、神殿の対応はずいぶんと事務的であった。
ちょうど昼時である。
重苦しい雰囲気を変えようとマサヒコはアリスをオシャレな料理屋へ誘った。
料理はミートパイやビーフシチュー、パスタなど。店の奥にはピアノがあって、ソコでジャズのような曲が演奏されていた。
マサヒコもアリスもオークのことは一切話さなかった。話すのはもっぱら料理のことばかり。
アリスだけではなくマサヒコも自分で自覚している以上にショックを受けていた。
それでも空虚ながら楽しい会話と美味しい料理はフタリを元気にした。
店を出た頃にはマサヒコにもアリスにも笑顔が戻っていた。
「ちょっと時間をロスしちゃったけど。最後の依頼に行こうか。遠いけど」
最後のキラービー退治の依頼は駅馬車で1時間カカる。往復2時間。今までの依頼のように、チャッチャと片付ければ余裕で日暮れまでに戻ってこれそうだ。
「ウン。最後の1つ、ガンバローぜ」
アリスが元気に言って、マサヒコの腕を取った。
「ホラ、行こっ」
駅馬車に揺られて1時間。
ついたのはリンドという小さな町。キラービーの巣の駆除は町役場からの依頼だった。場所は街の中心にある時計台。そこに最近、殺人バチのキラービーが巣を作っているらしい。
フタリは役場の職員に時計台に案内された。
5メートルほどの高さで大時計が時を刻んでいる。
時間になると時計盤の上に吊り下がった大鐘が鳴って時刻をシラセる仕様。
「あの鐘の上です」と男性職員が高い位置にある鐘を指さす。鐘が吊り下がっているチェーンのところにナニカ茶色っぽい大きな塊がある。
さらにしばらく見ていると、大きな鳥のような生き物がやってきて、茶色っぽい塊に取りついている。アレがキラービーだろう。
ハチにしてはデカすぎる。白鳥くらいありそうだ。
「アレが女王バチかな。アレを倒して巣を焼けば依頼完了。コレは簡単そうだね」
マサヒコはCランク依頼にしてはずいぶん難易度が低いように思えた。
「じゃあ、ウチが狙うわ」
言ってバニーアリスが矢をツガえる。
マサヒコも今回は念のため、軽武装で銃を構えている。
キラービーがまた巣に戻ってきた。
アリスはしっかりと照準をキラービーの握りコブシほどもありそうな頭部に合わせる。
矢を放った。
キラービーが飛んだ。矢は外れて時計台の壁に跳ね返った。
キラービーが高速で近づいてくる。
【敏捷性】の高いアリスをもってしても、その速度は速い。
ここでマサヒコの拳銃が火をフいた。轟音が鳴り響く。
だが、マサヒコは見ていた。彼の目には、まだキラービーの動きが多少は遅く見える。
だから見えた。キラービーが銃弾を寸前でカワしてのけるのを。
「マジかよっ」
マサヒコやアリスの目をもってしても速い飛行速度。ソバにいた役場職員の目には、それこそ消えたようにしか見えない。
キラービーがまっすぐにマサヒコに向かってくる。銃の特殊効果。魔物の注意を引いたのだ。
途中で尻を下にする。ソコから矢のようなものが飛びだした。
針だ。針を飛ばしてきた。
マサヒコはなんとかソレを回避。
コレも【レベル】40のマサヒコならばこそ。アリスならばカワしきれなかっただろう。
マサヒコの銃が再び轟く。
キラービーの第2射と、マサヒコの撃った弾丸が交差した。
キラービーの針はマサヒコの肩に突き刺さり、マサヒコの弾丸はキラービーの胴をツラヌいていた。
だが、まだ魔物は生きている。キラービーは空へ逃れようとする。
そこにアリスの矢が飛んだ。キラービーの羽を射抜く。キラービーがクルクルと回転しながら落下していく。そこにさらなるアリスの矢。
キラービーの頭部を破壊した。
「マサヒコ、大丈夫?」
アリスはマサヒコを振り返った。
「ああ、大丈夫。魔装をツラヌくほどじゃなかった」
さすがは【レベル】40である。マサヒコの魔装のレザージャケットは傷ヒトツついていない。
「ヤバかった。てか速すぎでしょ、アレ」
「油断した。さすがはCランクだよ」
スピード特化の魔物だったというコトだろう。確かにCランクだけのコトはあった。
アトはアリスが魔法でキラービーの巣を焼き、その間にマサヒコが死骸を回収した。これで依頼達成。
駅馬車が来るまでの時間、ノンビリとリンド町を見て回った。
「てか。今日、マジ頑張ったじゃん、ウチアら」
帰りの駅馬車でアリスが言った。隣に座るマサヒコの手をキュっと握っている。
「ウン、頑張った。というか、今日だけで、300万くらい稼いでる」
「マジっ? そんな稼いでんの?」
アリスが目を丸くした。
稼いでるのだ。なにしろ、Cランク依頼ともなれば、本来は大人数で当たるような依頼ばかり。報酬もそれなりに高額なのだ。
これを5つもコナしたら、カナリの金額になるに決まってる。
「冒険者って、なんだかスゴい儲かるよな」
ただ、命の危険があるのは確かだ。
「ウチら、結構、金持ちじゃん」
「まあ、先々のコトを考えたら、タメといた方がイイね」
まだ帰還方法の見当はつかないが、金はあるにコしたことはないだろう。
疲労のタメだろうか、しばらくしたらアリスがクタリとマサヒコに身をアズけてきた。小さな寝息が聞こえる。
マサヒコはアリスの寝顔を、チラっ、チラっ、と見て、そのたびに小さな発見をした。
自身の手の中のアリスの手が、とても愛しかった。




