うさぎちゃん
まず最初の依頼はゴブリン退治。
以前、『暁の微笑み』と合同で受けたような依頼で、集落の近くの森に住み着いたゴブリンを退治しろというモノ。
以前の依頼と違うのは、住み着いているのが小さな林で、主にその林のソバの廃屋が巣になっているというコト。
集落の数も5戸。住人たちはいつゴブリンが襲いくるか、と気が気ではなく、緊急性を要する依頼であった。
駅馬車で1駅。そこから15分ほど歩いた場所が依頼をしてきた集落。
「大丈夫かね。アンタたちだけで。ゴブリン、カナリ多いよ」
集落の住民たちがマサヒコたちに疑わしい目を向ける。
「大丈夫です。こう見えて、Cランクなんで」
マサヒコは自信タップリに言った。
実際には、それほど自信タップリというワケではないが、とにかくそう振る舞った。
「アンタみたいなチャラチャラした子が?」
オバさんがアリスを見て顔をしかめる。
彼女の派手なカッコウが気に入らないらしい。
「まっ、チャッチャと片付けちゃうからさ」
アリスは気にせずに言った。
フタリして住人たちの前で魔装顕現する。なにしろ本当にゴブリンの巣くっているのは目と鼻の先。いつ、襲われてもオカシクないという状況である。
アリスが3つ目の魔装を披露した。
マサヒコは、思わず、おわっ、と声が出た。その場にいた住人の男たちが、おおっ、とドヨめく。女たちが不快な顔をする。
アリスはバニーガールになっていた。
どうやらレザーアーマーをカスタムしてバニースーツにしたらしい。黒革のバニースーツ、網タイツはチェーンメイルのカスタムだろう。ちゃんと手首にはカフスもつけ、頭にはウサギ耳。見事なバニーである。
「な、なんで、バニーガール?」
マサヒコの口からついそんな言葉が出てしまう。
ナースはまだわかる。多分、守り主体の魔装なのだろう。
大してバニーは意味が分からない。
「どう、良くね?」
アリスが腰に手をやり、ポーズをつくる。
「イヤ、ウン、スゴくイイんだけど」
ハッキリ言って、メチャクチャ似合ってる。アリスのスタイルの良さがしっかり生かされているコスプレ、いや魔装だ。
「これでハートの矢だったら、超イイ感じだと思って」
基本、弓を主体にするのは変わらないようだ。
実はアリスにも思惑はある。
ナースにしろ、バニーにしろ、その本意は、マサヒコの誘惑。マサヒコをメロメロにしてしまおう作戦の一環なのである。
元彼のショウマがコスプレエッチを好んでいたので、そこからナースとバニーの選択になったのである。
チナミにマサヒコは機動甲冑である。黒いタイトな甲冑で頭からつま先まで覆い、背には赤いマントがひるがえる。
フタリは、ますます疑わしい顔をする住人たちに背を向け、林に向かった。
マサヒコの手にはいつもよりも大きな黒い立方体がある。【魔物レーダー】だが、いつもレンタルしているものよりも広範囲を確認できるタイプのモノだ。その分、レンタル代も倍近くした。
林のあたりに光点が密集している。
林のカタワらにあるクちかけた廃屋に一番集まっているようだ。
「顕現、弓」
アリスの手に弓が、背中に矢筒が現れる。
マサヒコも長剣を顕現し、アリスの前に立った。
「近づいてきたのは俺がヤルから、安心して」
「オッケー」
アリスは弓を構えた。矢筒からハートの矢を3本取る。それをツガえる。
アリスはマサヒコに言われ通り【敏捷性】にカナリの【ステータスポイント】を振り分けた。【敏捷性】は視力にも関係しているようだ。
アリスの目には林の中でコチラをウカガう、ゴブリンが何体も見える。
矢をツガえると、視界に3つの照準が現れた。矢の位置と弓の向きをズラすと、照準が動く。
サっ、と照準に3体のゴブリンをトラえた。
引いた弦を放す。
3本の矢が飛んでいった。それらは途中で3方向に別れ、それぞれにゴブリンの頭を射抜いた。
レベルアップのファンファーレが鳴り響く。
アリスは気にせず、次の3矢をツガえ、放つ。また3本の矢が飛んでいき、ゴブリンを射殺した。
林までの距離は30メートル前後。
ここでゴブリンたちが動いた。鳴き声をあげて林から一気に出てくる。
アリスが高速で動いた。なにしろ【敏捷性】が高い。彼女にしてみれば、ゴブリンたちがコマ送りのようにゆっくりと動いて見える。
3本の矢を次々とツガえ、放つ。
ゴブリンが次々と死んでいく。
迎え討とうと剣を構えるマサヒコまで、とても近づけない。
「ホイ。こんなモンでどーよ?」
アリスが言った。
もはや生きているゴブリンの姿はない。
全員、矢を頭に受けて倒れている。
「スゴい。全滅だ」
マサヒコが【魔物レーダー】を見て言った。
「1体も残ってないよ」
コレに遠目にフタリを見ていた住人たちが喝采をあげた。バニーガールの煽情的な衣装に身を包んだ少女が、矢を次々と放ち、ゴブリンを殺しつくしたのだ。
まさに圧倒的な光景だった。
「アンタたち、スゴいな」
「ちょっとアンタ。うちの息子の嫁になんない?」
「さすが冒険者だなー」
口々にホメそやされ、お茶でも飲んでけ、と誘われたが、なにしろ次がある。
誘いを丁寧に断ると歩いて駅に戻った。
次の依頼もゴブリン退治。今度は2駅先のロインダ村。
幸い、ちょうどフタリが街道沿いの駅についたところで馬車が着た。大型バスのような大箱を、前で牽引、後ろで押している。2人体制。
「疲れてない?」
車内。マサヒコが隣に座ったアリスに聞く。
「ゼンゼン。てか、楽しくなってきた」
「それならイイけど。疲れたなら言ってね」
「んっ」
目を閉じてアリスがマサヒコの肩に頭をアズケる。
手はマサヒコの腕にカラめたままである。
マサヒコはアリスの香水のニオイを鼻いっぱいに吸い込んだ。
俺の彼女はイイニオイがするなー。
ほどなくしてロインダ村へ到着。
依頼人は村長だったが、やはりといおうかフタリを信用してくれなかった。
「まー、アンタらがおっち死んじまっても、うちの村には関係ないからなあ。お嬢ちゃん、ゴブリンに捕まると、どうなるか知ってるかい? 死ぬまで玩具にされて、子供を産まさせ続けるんだよ」
中年の村長は下卑た顔でアリスに言った。
「だから? ウチらには関係なくね?」
アリスは言って村長を鼻白ませた。
ゴブリンが巣くっているのは村から20分ほど離れた森の中。いつの間にか巣くっていたらしい。先ほどの集落に比べて緊急性は薄い。
向かう途中で魔装顕現。
やはりマサヒコは機動甲冑、アリスはバニー魔装。
バニー姿のアリスが腕を組んでくるので、マサヒコはもうスゴくエロい気分になってしまう。甲冑を着ているために今ひとつ柔肌の感触が味わえないのがサビしいところ。
さすがは高い金を払ってレンタルした【魔物レーダー】。森に近づく前にゴブリンの居場所を探知できた。
途中、アリスが足を止めた。
「アレ、ナンカ、こっから当たるカモ」
まだ森へとは200メートル近く距離がある。
さすがにこの距離ではアリスの目でも敵が見えない。
だが、アリスには確信めいたものがあった。
「ヒョットして、スキルを覚えたのかも。ステータス見てみたら?」
言いながらもマサヒコはシュマホーでスキル辞典を開いた。
スキルは武器や魔装を使っているとマレに覚える技のことである。
アリスは言われた通り、ステータスをチェックしてみた。
魔法の下にスキルという欄ができていた。
――――――――――――
【スキル】
・遠矢(弓)
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「なんか、遠矢てってスキルがある」
「それ、射程が1キロまで伸びるってスキルだ。目を閉じると的が見えるって。1キロって……」
アリスは目を閉じてみた。するとマブタの裏に森の中の光景が浮かんだ。木々の間を歩き回るゴブリンたち。
アリスは弓に5つの矢をツガえた。なんとなく今度は5本イケるような気がしたのだ。
すると照準が5つ現れる。さっと、5つの狙いをつける。
目を閉じたまま矢を放つ。
マサヒコはアリスが5つの矢を放つのを見ていた。5本のハートの矢が空へ向かって飛んでいく。それは途中で下降を開始。
森の中へと落ちていった。
すると【魔物レーダー】に映っていた光点が5つ消えた。
「よく5本も同時に射れるね」
「んっ? 別に、難しくないけど」
スキルに無かったということは、スキルまで昇華されていないただの技術だということだろう。今度試してみよう、とマサヒコは思った。
なにしろ一度に5体である。
しかも、ゴブリンたちにはコチラの存在を感知されない遠間。まったく苦戦せずに、アリスはゴブリン30体を全滅させてしまった。
「スゴい」
さすがのマサヒコも舌を巻く。
「別に大したことないし」
と言いながらも、テレテレのアリスであった。
「もう倒した? 冗談言うな」と信じない村長に回収したゴブリンの死体を見せて、ナットクさせる。
さっさとロインダ村から移動。
次はロインダ村の次の駅。
ベル池周辺集落からの依頼。ヘルスパイダー退治だ。
「ヘルスパイダーって、クモの魔物?」
駅馬車内でアリスが言った。
「そう。3メートルくらいあるデッカいクモ。鉄みたいに硬くて、毒もあるって」
「マジっ。矢、刺さんねーんじゃね?」
「そーだね。今度は俺が戦った方がイイかな」
そんな会話をしたものの、いざ、現場に到着し、大グモを目にすると、やはりアリスが攻撃してみることになった。
なにしろ、大グモがいるのは池の真上。そこに湖面と平行にクモの巣をハり巡らせているのだ。
とても接近できる状況ではない。
「ともかく、アリスが矢で攻撃して、おびき出してみようか」
矢が聞かなくても、巣から出て地上に降りてくれれば、マサヒコの長剣で倒せるだろう。
「じゃあ、イってみっか」
アリスが言ってハートの矢を放つ。
銀色に光る糸の中心にいる黒光りする毛むくじゃらの大グモ。その赤く光る目にアリスの放った矢が突き刺さった。
間髪置かずにアリスが次の矢を放つ。コレも命中。
ヘルスパイダーが巣を高速で移動。ヒラリ、とその巨体からは想像できぬほどの軽やかさで地上へと降りてきた。
マサヒコはアリスをカバうように前に出た。その脇を矢が次々と飛んでいく。
太い足の関節。ソコに矢が突き刺さる。ヘルスパイダーの動きが目に見えて鈍くなった。
アリスの速射。速い。1秒に1矢。光のように飛んでいく矢が、ことごとくヘルスパイダーの関節に刺さっていく。
ついに動きが止まった。
だがアリスの攻撃は止まらない。
バニーガールはハートの矢を片時も休まずに連射し、巨大なクモを針山のようにする。
やがてヘルスパイダーの赤い目が輝きを失った。
「ヤリー。ウチ、スゴくね?」
アリスがポーズを決めて横ピース。
「マサヒコ、写真撮ってくんね?」
「オッケー」
マサヒコは素早くシュマホーを出すと、矢が何十本も突き刺さった大グモの前で横ピースするアリスを撮影。
非常に映える写真だ。
「アーア、なんでイン〇タねーの。超映えんじゃん。この写真」
日本ならバズること間違いなしの写真だ。
せっかくだから、とマサヒコもアリスと腕を組んで撮影。その直後、アリスがマサヒコの頬にチュッとキス。
バニーガールにキスされる写真が出来上がった。
コレはイイものだ。
マサヒコ、ひそかにその写真をお宝認定した。




