デラックスな朝
翌日。マサヒコは先に目を覚ますとシャワーを浴びた。
一夜明け、さすがに昨夜のデラックスっぷりは弱まった。弱まったのである。無くなったワケではない。
なぜなら少年は昨夜、確かにヒトツの通過儀礼を越えたのだから。
シャワーを浴びながら、昨夜、マサヒコを大人にしてくれた女性の体を思い出す。
朝から元気になってしまった。
イヤ、アレこそ、真のエロス。イヤ、アリスもエロいんだけど、もー、なんていうの。次元が違う、というか。フェロモン的なヤツというか。
頭の中で大人の女について語り始める。
昨夜は暴漢騒ぎの後、部屋に戻ったら、なぜかアリスがマサヒコのベッドで寝ていた。
たぶん、疲れれてて、ちょっと寝転がったら、そのまま寝てしまったとか。まあ、そんなところだろう。
代わりにアリスのベッドを借りたが、もうニオイがヤバかった。アリスの使っているシャンプーのニオイ。ボディーソープのニオイ。
まるでアリスを抱いているような気分になってしまった。
もし、マサヒコが体験前のボーイであったらならば、ドキドキして興奮して、もうチンチンもヤル気を出して、とても寝れなかっただろう。
だが、マサヒコは体験後のミスター。
すぐに自身を落ち着かせ娼館での出来事に想いをハせ、エロスを別のエロスで打ち消した。
そうしているうちに、いつの間にやら寝てしまったようだ。そういえば、遠くで、なにかカワイーくしゃみが聞こえた気がする。
シャワーを浴び終わり、髪をフきながら更衣室へ。端に大鏡がある。フト、その前にハサミが置いてあるのを目にした。
誰かが忘れていったのだろう。
マサヒコはフト思いついて、そのハサミを手にした。テキトーに前髪を切る。
今まで、なんとはなしに伸ばしていたが、コレもイイ機会だ。
マサヒコはかつてないほど前向きになっていた。
その後、部屋へと戻る。
アリスはまだ寝ていた。頭だけが毛布から出ている。
椅子に座り、シュマホーで読書していると、やがてアリスがモゾモゾと動いた。
見ると首を伸ばして顔を上げている。
ボー、とマサヒコを見ている。
「オハヨウ」
マサヒコはサワヤカに微笑んだ。余裕のある態度。
今朝のマサヒコはもうボーイではないのだ。
「オハヨ」
アリスがモゴモゴ言って、それから毛布の中に顔を引っ込めた。
アリスはメイクをしたままである。
「あっ、ゴメンね。俺、部屋を出てるから」
言ってマサヒコはシュマホー片手に部屋を出た。
もともとイロイロ気がつきすぎるくらいのところがあり、それが自信の無さとあいまって、コミュ障っぽくしていた。だが、昨夜、初めて体験した女体との触れ合いで、マサヒコには余裕があった。
マサヒコが部屋を出ていくと同時に、アリスの方は、ボー、とする頭を振りながらベッドから抜け出した。
なんだか、さっきのマサヒコはいつもよりずっとカッコ良かった気がする。そのせいか顏が熱い。
それから自分が下着姿だと気が付いて、ハア、とタメ息をヒトツ。気合入りまくりのランジェリー作戦は失敗に終わった。
シャワーを浴び、メイクもバッチリしなおした。
マサヒコは戻ってきていた。
「昨日は寝落ちしちゃった?」
「ウン、ゴロゴロしてたら寝ちゃった。ゴメン、ベッド使っちゃって」
「イイよ。俺もアリスのベッド借りたから」
「アレ、前髪切った?」
ようやくアリスは気が付いた。マサヒコの長い前髪が短くなっている。前は目元を覆うほどだったが、今は眉のあたりだ。
どーりでさっきから、バッチバッチと目が合うはずだ。
「あー、さっきシャワー室で切った。変かな?」
マサヒコが前髪をイジりながら言った。
「ううん。超イイ感じ」
「良かった。アリスがそう言ってくれるなら安心だよ」
マサヒコは白いダウンボタンシャツに黒いズボン。なんてことのないカッコウだが、前髪を切ったせいか、スゴくサワヤカに見える。
アリスはそんなマサヒコに密かにトキメいた。
アリスの方は久しぶりの制服姿である。買った服もヒト通り着たし、久しぶりに着てやっか、という感じ。
「楽しかった?」
「ああ、楽しかったよ。俺は全然飲まなかったけどね」
「そっか」
ソレで帰ってきた時に酒のニオイがしなかったのだ。むしろ、いいニオイがしたくらいである。
「今日も昨日と同じように、ガンガン依頼をコナしていこうと思うんだけど、どーかな?」
「イイんじゃね? とりあえず、ランク上げんでしょ?」
「そう。魔装もこのままでヤってみようか」
「オッケ。ウチ、今の気に入ってるから、ゼンゼンいいし」
そういったワケで、フタリは朝食後、昨日と同様、朝から冒険者ギルドに直行。Eランク依頼の掲示板の前に立った。
マサヒコが依頼をギンミしていると、突然、声をカケられた。
「あの、マサヒコさん」
振り返ると、昨日、暴漢に襲われた受付嬢のシャーリーが顔を赤くして立っていた。
彼女は基本案内係をしているので、カウンターではなく、ギルドの入り口付近に立っていることが多い。
他の職員同様、エリにリボンを結んだ白いシャツに、青いベスト、青いプリーツスカート。だが、彼女だけは白い手袋と頭にツバのない帽子を乗せている。
「昨日は、本当にアリガトウございました。マサヒコさんがいなかったら、私、どうなっていたか。それで、コレ、朝、焼いてきてたんですが。良かったら、どうぞ」
言ってラッピングされた小さな包みを差しだす。
「アリガトウ。シャーリーさんこそ、大変だったね。ケガとかしてない?」
「ハイ。少しアザになったところがあったんですけど、治していただきました。アザ程度で済んで良かったですけど。もし、マサヒコさんが通りかからなければ、私……」
「シャーリーさんはキレイだから。夜のヒトリ歩きは気を付けてね」
「そんな、キレイだなんて……」
シャーリーが赤く染まった頬を押さえた。
コホ、コホ、コホン、とアリスがセキをする。
「ナニ? どーいうコト?」
グイグイッとマサヒコとシャーリーの間に割って入る。
その目つきがカナリ鋭い。
「あー、実は、昨日の夜、帰ってきたときに……」
マサヒコは昨夜の暴漢さわぎを手短に説明した。
「まったく、ロクでもないヤツだったよ」
マサヒコは吐き捨てた。
ソコへ慣れない様子で老人がギルドへ入ってきた。
「後日、キチンとお礼をさせてくださいね」
言ってシャーリーはその老人の元へと行ってしまった。
「……ムカつく」
アリスがツブヤいた。
「えっ? ナニが?」
「別に。良かったじゃん、女子からのプレゼントとか、何気に初じゃね?」
「イヤ、そんなコトは……」
義理チョコならかろうじて貰った記憶がある。
だが、ソレをプレゼントというのは、さすがに口ハバったい。
「なんだろー。クッキーかな」
ゴマカすように貰った小さな包みを見る。
「てか、昨日の今日で、そんなん焼くトカ。女子力高すぎじゃね?」
言う、アリスの口調にはヤッカミがタップリ詰まっていた
心の中の嫉妬心と戦っていると、マサヒコが見ていた。胸の内を見抜かれたようでドキリとする。
「ナニ?」
「アリスも気をつけてね。できるだけ、ヒトリで行動するのはヤメた方がイイ」
真剣な顔で言った。
それに、カァーと顔が赤くなるアリスであった。




