デラックスな夜
2時間後。店を出たマサヒコはハレバレとした顔をしていた。もう、超スッキリ爽快という顔。実にサワヤカな顏である。
「なっ、なんてコトなかったろ?」
ジャックがそんなマサヒコの肩を組む。
「ああ、でも、最高の体験だったよ」
マサヒコはムダにキリっとした顔で言った。
「俺は、今夜のことを一生忘れないだろう」
「どうする。どっかで、ナンカ食ってくか?」
ヘインが言った。
「イヤ、俺はイイ。今の気持ちのまま、ヒトリでイロイロ考えたいんだ」
ヒュー、とヘインが口笛を吹いた。
「カッコイイぜ、マサヒコ。今夜のお前は、輝いてやがる」
フっ、とマサヒコは笑った。
「俺はもう、大人だからね」
「よし、じゃあ、俺たちはこれから酒場にでもシケこむからよ。また、一緒に行こうぜ」
ジャックが組んでいた腕を外した。
「またな、キョーダイ」
言ってヘインが手を出す。
マサヒコはその手をパンと叩いた。
「おうとも。また誘ってくれよ」
マサヒコは歩き方も堂々としたモノに変わっていた。うつむきガチだったモノが、まっすぐに前を見て、肩で風を切って歩く。
もう、夢にまで見た女性との大接触が、柔肌の感触が、彼に自信を与えてくれたのだ。
マサヒコはタクシー馬車に乗ると寮へ戻った。タクシー馬車は、まさに人力車と言った感じの1人乗りから、箱型の4人乗りのものまでが主流。
マサヒコが捕まえたのは1人乗りの人力車タイプ。ホロがついた座席に帝王のように偉そうに座った。
ただ、実際、タクシー馬車が発車すると、その速度に顔が引きつった。Gがスゴい。
すぐに冒険者ギルド前に到着。ギルドの脇の路地から寮へと向かう。
もう頭の中は今夜のプレイのコトでいっぱいだった。すぐにまた行きたくて仕方がない。女とはカクモ男を狂わせるモノか。
路地を抜け、寮の前に立った時だ。
悲鳴が聞こえた。短く小さなモノだったが確かに悲鳴だった。
冒険者ギルドの建物の方だ。
マサヒコは走った。裏口に人影が見えた。
人影は2つ。男が女に後ろから抱き着き、その口をフサいでいる。
「オイっ、ナニしている」
マサヒコは怒鳴った。
大きな舌打ち。
月明りで見えたその顔は、以前アリスを口説いていたヤンキー冒険者のヒトリ。
今までのマサヒコだったら躊躇していただろう。というか足がスクんで動けなかっただろう。だが、この時のマサヒコは違った。
アフれる自信が彼に大胆な行動トらせる。
マサヒコはフタリに向かって一気に踏み込んだ。
ヤンキー冒険者がトラえていた女性を盾にするように押す。
マサヒコはソレをカワしてヤンキー冒険者を殴った。
不思議だった。魔装顕現していないので運動能力は強化されていないハズなのに、体がスムーズに動く。
ケンカなど弟相手の取っ組み合いくらいしかしたコトがなかったのだが、百戦錬磨の強者のようにパンチは見事ヒット。
怯んだ相手に、さらなる猛打を加え、ついには回し蹴りまで見舞って、瞬く間に沈めてしまった。
俺、強いな。
「大丈夫?」
マサヒコは地面に尻モチをついている女性に声をカケた。乱れた髪が顔にハりついている。よく見ると、マサヒコたちが最初に冒険者ギルドを訪ねた際に受付をしてくれた女性だ。
名前は確かシャーリー・シン。
女性は強張った顔でコクコクとうなずいた。
それからようやくカスレた声をシボり出す。
「ア、アリガトウございます」
「イキナリ襲われたのかい?」
「ハイ。今日はタマっていた仕事を片付けようと、さっきまで残っていて。ようやく終わって帰ろうとしていたところを、急に抱き着かれて。こ、怖かったです」
どう考えても暴行目的だろう。マサヒコが偶然居合わせて本当に幸運だった。それも、今夜のデラックスなマサヒコが。
「立てるかい?」
「ハ、ハイ」
足を震わせながらも、シャーリーが立ち上がる。
生まれたての小鹿のように内マタで、ヒザ、ガクガク。
「じゃあ、俺がコイツを見てるから、寮に行って人を呼んできてくれ」
「ハイ。お願いします」
言うとシャーリーは転びそうになりながら寮へと駆けていった。
さて、とマサヒコは振り返る。ヤンキー冒険者はまだ気絶している。最後に見舞った回し蹴りがキレイに頭にヒットしたのだ。
とりあえず上着のポケットを探る。すると【ギルドカード】があったので取り上げる。
これで万一取り逃がしても証拠になる。
名前はレック・ロンドね。
すぐに寮から何人も人が来た。
寮母のフランソワもいる。
「お手柄だったね。マサヒコ」
フランソワが言った。
「ちょうど俺が帰ってきたところに鉢合わせたんだ。良かったよ」
「おや、ナンカ、お前さん、石鹸のニオイがしないか?」
クンクンとフランソワが鼻をヒクつかせる。
フっ、とマサヒコは髪をカキあげた。
ああ、とフランソワがワケ知り顔にうなずいた。
その間に、暴漢レック・ロンドは男たちによりロープでガンジガラメにされていた。
「まったく、冒険者ギルドで乱暴狼藉を働こうとは、なんてロクデナシだい」
フランソワが言った。
「あっ、コイツ、前からレックちゃんに言い寄ってたんだ」
寮から来た男のヒトリが言った。
「おーかた、振られたハライセに襲おうってハラじゃねえの」
ソコにアックスが寮からやってきた。
「どうした? なんの騒ぎだ?」
「コイツが受付嬢のレックちゃんを襲ったんだと。ソレで偶然居合わせたんゴブリンキングの新人が助けってワケだ」
俺、なんかヒーローじゃね?
マサヒコ、鼻タカダカ。ますます調子に乗ってしまう。
「おー、アオキ。お手柄だったみたいじゃねえか」
アックスが声をカケてくる。
「あー、ちょーど帰ってきたところだったんだ。良かったよ」
「ウン? お前、ナンカずいぶん石鹸ニオイ……あっ、さては、お前」
アックスも気が付いた。
だが、マサヒコは動じない。今夜のマサヒコはデラックスだからだ。
「分かっちゃったかい?」
イタズラっぽく笑う。
アックスは無言でポンポンと肩を叩いた。
そこへ、あの……、と襲われた受付嬢シャーリーが声をカケてきた。
「本当にアリガトウございました」
「イヤ、当然のコトをしただけだから。シャーリーさんこそ、ケガはない?」
「ハ、ハイ」
「良かった。まったく、こんなヤツがいるなんて。同じ冒険者として恥ずかしいよ」
デラックスなマサヒコはこんなセリフもさらっと言えてしまう。スゴいぞ。
「あの、今度、ぜひお礼をさせてください」
「気にしなくてイイよ。ギルドの皆さんにはいつもお世話になってるんだから。なー、みんな」
と、その場にいる寮住まいの者たちに言う。
「オオっ、その通りだ。分かってんじゃねえか」
「あたぼーよ。受付嬢ちゃんたちは俺たちの癒しなんだからよ」
「ねっ?」
マサヒコはシャーリーに笑いカケた。
受付嬢シャーリーの白い頬にポッと赤みがサした。
◇
マサヒコが受付嬢シャーリーの好感度を爆上げしていた頃、アリスはベッドの中でモンモンとしていた。
マサヒコから友達と飲みに行ってくるというメールをもらい、密かに、コレ、チャンスじゃね、と思った。
酒を飲むと男はよりエロくなる。これは元彼たちで体験済み。アト、普段はプライドが邪魔して言えないような隠れた性癖を暴露してくる。コレも元彼たちで体験済みだ。
つまり、酔っぱらっている男は、欲求に正直。酔っぱらたマサヒコなら、アリスがちょっと大胆なことをしたら強引に迫ってくるのではないか?
アリスが寝ているのはベッドの下の段。つまりマサヒコのベッドである。
しかも。下着姿。
いつもパジャマ代わりに着ているダボっとしたTシャツもスウェットのパンツも着ていない。黒いレースのエロエロな下着。
部屋の電気は消してある。
ただ、全部消すと怖いので常夜灯の青い光だけにしてある。
酔って帰ったマサヒコは、きっとアリスに遠慮して灯りをつけはしないだろう。そのまま確かめもせず、ベッドに入る。
すると、どうだ。予想に反する柔らかい感触。ヌクモリ。
「わっ、アリス」
「ナニ、どーしたの?」
寝ぼけ眼をこするアリス。そうしながら、毛布を払う。
エロエロ下着姿のアリスがバーン。
「ワワっ、アリス、そのカッコウ」
「えっ、ナニ? あっ、あれ、ウチ、なんでこんなんなの? マジ、どーいうコト?」
アリス、アワてて、ベッドから抜け出そうとする。その時に、ブラがちょっとズレて、オッパイがポロリ。
キャっと手で胸を押さえる。
マサヒコ、もうガン見。ギラギラの眼差し。
「アリス、俺、もう我慢できない」
とかナントカ言っちゃって。
「待って。ウチ、これでもテーソーしっかりしてっから。彼氏でもないヤツとエッチできないから」
などと押しトドメ。
「じゃあ、ツキアウ。アリスは今日から俺の彼女。それならイイだろ」
「そんなコト言ってさ。朝んなったら忘れてんでしょ。酔った勢いだし」
サビしそうに言っちゃったりして。
ここでマサヒコが真剣な顔になる。
「違う。俺は、ずっとアリスのコトが好きだった。この世界に来てから、ずっと」
「えっ、マジ?」
「ああ。信じてくれ、アリス。勇気が無くてゴメン」
「マサヒコ……」
見つめ合うフタリ。近づく顔。やがて重なる唇。
キャー。
アリスは毛布を抱きしめるとゴロゴロのたうった。
ヤバい、マジ、もう、エロすぎじゃん。
「そろそろ、帰ってくんのカナ」
アリスは枕もとに置いたシュマホーを手にした。
9時15分。日本にいた頃は、まだまだ眠るような時間ではなかった。
コチラの世界に来てから妙に朝型になっているとはいえ、寝るような時間ではない。
マサヒコが何時まで飲んでいるか分からないが、もうそろそろ帰ってきそうな気がする。
クシュン、とアリスはクシャミをした。
なにしろ、そろそろ冬の始まり。夜ともなれば屋内とはいえ気温も下がる。
下着姿で毛布に包まっていれば体も冷える。
「ヤバっ、ナンカ、寒くなってきたカモ」
まだカヨー、とアリスは思った。
ガチャリとカギを開ける音。
キター、キター。
アリスの心臓がドクンドクンと勢いを増す。
ドアが開いた。
「アレ、もう寝てるのか」
マサヒコの声。
んっ、なんかイイニオイ。
アリスはマサヒコとともに部屋に入り込んだニオイに気を取られた。石鹸のニオイのようだが、マサヒコがいつも使っている石鹸よりもニオイが強く、甘い。
マサヒコがベッドのカタワらに立った。
アリスは毛布をカブっているので、たぶんそのまま……ベッドイン……。
「あれ、アリス、俺のトコで寝てるのか?」
予想に反してマサヒコはアッサリと毛布の下のアリスを見破った。
「なんで? 怖かったのカナ」
「まあ、イイか」とひとりナットクし、ハシゴを上っていく。
てっ、ウチのベッドで寝んの?
マジで? ウチのニオイ、スゲエついてんだけど。
ソレはソレで興奮してしまうアリスであった。




