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オサソイ

 森の中のバス停(金属柱が目印)でバス馬車を待っている間、フタリは『ベルドーン迷宮』の階段に並んで座っていた。

 マサヒコは余った時間で、迷宮内を見てみるつもりであったが、奥に階段があるだけで中は簡素な造りだった。


 フタリとも先ほどのコトがあったので、どうも会話が上滑りになり、結局、それぞれシュマホーをイジった。


 あっ、とアリスが声をアゲた。

「ロミナが次のバスで来るみたい」


「ロミナさんが? ヤッパリ【迷宮】でレベリングかな?」


「なに? レベリング?」


「あー、ゲームなんかで【レベル】を上げるために、同じところを何度も攻略したりするコトだよ。要するに【レベル】上げのコト」


 ふーん、とアリス。

「ウチ、ゲームとか全然、ヤラなかったから」


「へー。うちはさ。もう、弟とゲームやりまくったよ。それで、しょっちゅうケンカになってさ」


「なんで、ゲームでケンカになんの?」


「それはもう。ホラ、2人で強力するようなヤツだとイイんだけど。対戦するタイプのものはね。勝ち負けがハッキリ出るじゃん。当然、負けた方は気分悪いからさ。イロイロ憎まれ口を叩くワケ。で、いつのまにやらリアルで格闘になると」


「たかが、ゲームでぇ? マジで? あっ、でも、カズとかコントローラー? テレビに投げつけてたわ」


「それだけ熱中しちゃうんだよ、ゲームは」

 そこまで言って、マサヒコは、ハっ、とした。

「そうだ。この世界はゲームがない」


 あるにはあるのだが単純なパズルゲームやボードゲーム程度である。


「ゲームを作ったら売れるんじゃない?」

 マサヒコは自分の思いつきに興奮した。


 シュマホーのアプリなどを鑑(かんが)みるに、魔法によるプログラムのようなものは存在する。プログラムがあればゲームが作れないハズがない。


「カモね。ウチにはわかんないけど」

 アリスの熱量は低い。


 それから、マサヒコは以前本屋でシュマホーアプリの本を買ったコトを思い出した。

 さっそく、ソレを読み出す。


 アリス、シュマホーをモモの上に乗せ、両ヒザに両ヒジをついて、マサヒコの横顔を見ていた。

 マサヒコは目を輝かせて楽しそうにシュマホー書籍を読んでいる。

 ……もうっ、カワイイじゃん。


 アリスはマサヒコの頭を抱きしめたくて仕方がなかった。


 ほどなくしてバス馬車がやってきた。なにしろ人力。当たり前だがエンジンの排気音などしない。タイヤもキチンとゴム製の上、空気を詰めてあり、振動対策もバッチリ。つまり静かなのだ。


 牽引者はケンタウロスだった。変身人間だ。変身しているうえに、白い甲冑を人間の上半身にも馬の下半身にも纏(まと)っている。


 マサヒコが本で読んだところ、変身人間は、はるか先祖に魔族いる場合、その因子を魔法で呼び起こす技らしい。魔装に比べて【MP】の消費が格段に少ないとのコト。

 コチラの世界の多くの人間は、どこかしらで、魔族の血が入っている者が多いため、神殿で調べ、ソレ用の魔法を使えば、変身できるようになるとのコト。


 ただ、異世界転移してきたマサヒコたちにはまったく関係のない話であった。


 バス馬車が止まり、冒険者たちが降りてくる。マサヒコたちが乗ってきたモノはガラガラだったが、今度は10人以上乗っていた。

 その中に水色の髪で巨乳のセンパイ冒険者ロミナがいた。


 アリスがロミナと立ち話している間、マサヒコは彼女の仲間たちと話した。

 浅黒い肌のジャック。

 東方っぽいクリーム色の肌のヘイン。どちらも20代前半。

 ロミナと違い、2人は宿を借りており寮内で会うコトはない。


 コミュ障のマサヒコだったが、ジャックもヘインもやたらとグイグイ来るタイプ。

 いつのまにやら気軽に雑談ができるくらいになっていた。


「ところでよぉ、マサ。アリスとは、シテんのか、コレ」

 ヘインが指でヒワイな動きを見せる。


「イ、イヤ、してないって。俺たち、そんな仲じゃないから」


「じゃあ、ブッチャケ、タマってんだろ?」

 ジャックが言った。


「ま、まー。男なんで」


「今夜、一緒に行くか? お前も」

 ジャックがマサヒコの肩に腕を回す。


「えっ、行くって? ドコに?」


「馬鹿、トボケんなよ。この流れで、行くっつったら、なー」

 ヘインがまた指でヒワイなジェスチャーをする。


「俺たちがヒイキにしてる店がよ。今日は、特別割引なんだよ。2割引き。行くっきゃねーだろ」

 ジャックが言った。

「俺たち、ソレを楽しみにしてガンバってんだからよ」

 シミジミとした顏。


「あの、さ。ロミナさん、怒ったりしないの?」


「イヤ、そりゃー、俺たちだって、アイツの前で、こんな話ししねえよ。それはナンツーカ、デリカシーってモンだからな。だけど、まー、ほら、アイツいい女だろ。一緒にいると、そりゃあ、もうムラムラすんだろ。だけど、仲間にさ、そういうの良くないだろ」

 ヘインが言った。


「あっ、それスゴいわかる。ホント、そう」

 あまりにも共感しすぎてマサヒコはつい大きな声を出してしまった。


「馬鹿、声でけえよ」

 ジャックが立ち話をするアリスとジャックをチラッと見る。フタリとも話に夢中で、こちらのコトなど気にもトメていない様子。


 マサヒコはこういうノリがちょっと懐かしかった。中学時代クラスメートの男子たちと、エッチな動画をシェアしあった時のようなワクワク感。


「で、どうすんだ。行くのか。行かないのか?」

 ジャックが言う。


 マサヒコの心はヒドく揺れ動いていた。

 そう、ヘインの言う通りなのだ。男である以上、性欲はイカントモしがたく。なおかつ、そばに魅力的な異性がいたら、ついエロ目線で見てしまうもの。

 だが、それは良くない。だから、ちゃんと性欲は解消しておきましょう。それが健全。それが正義。


 ましてやマサヒコはアリスを二度とエロ目線で見ないと誓った身。

 そういったトコロで、ちゃんとキチンと自身の中にトドコオっている熱いパトスをなんとかしておいた方が良いのでは。良いのでは。


 もう、グラグラ揺れた。

 それでも踏ん切りがつかない。即答できない。なぜなら、マサヒコは童貞なのだから。


「あ、あのさ。俺、女の子とそーいうのシタことなくて」


「オイ、ビビんな。誰にだって初めてはある。なー、ヘイン」


「そーだぜ。男はみんなチェリーから始まるんだ。気にするコトはねー」


「そ、そう? 別に変じゃない?」


「オウ。俺たちも初めてはセンパイ冒険者に連れてってもらってよ。あっ、お前も知ってるだろ。アックスさんな」

 ジャックが言った。


 意外なところでアックスの名前が出た。

 

「そうそう。あんときはマジでフタリとも緊張してよ。目なんか充血して。だけど、ドキドキして」

 ヘインが遠い目をする。

「懐かしいな。あの時行った店、ツブれちまったんだよなあ」


「ちょっと考えてもイイ? すぐ決められなくて。こうフンギリがつかないっていうか」


「おー、イイぜ。じゃあ、シュマホーの連絡先、交換しとこーぜ」


 ジャックが言って、マサヒコの肩を抱いていた腕を外し、ジャンバーのポケットからシュマホーを出した。

 ヘインも同様にシュマホーを出す。


 マサヒコはフタリと連絡先を交換し合った。


「じゃあ、その気になったら、メール入れといてくれよ」


「ウン、わかった」

 マサヒコの気分的には、もう8割がた行く方向に傾いている。


「こーいうのは勢いだぜ、キョーダイ」

 言って、ヘインがマサヒコの背中をバシンと叩いた。


 ちょうどアリスとロミナも話が終わったらしく、フタリして男たちの方へ来た。

 ロミナが不審そうに首をカシげる。


「なに? ニヤニヤして」


「イヤ、なんでもねーよ。ほら、行くぞ」

 ジャックが言って歩き出す。


「そうそう。今日の俺たちは燃えてるんだからよ」

 ヘインも続いた。


「なんだかなー。じゃあ、アリス、またね。ガンバレよ」


「ウン、アリガト」

 アリスが少し照れながら手を振った。


 マサヒコとアリスはバス馬車に乗り込んだ。フタリきりである。

 真ん中の座席に並んで座る。


「ナンカ楽しそうだったじゃん」

 アリスが言った。


「えっ、まー、ね」

 マサヒコはアリスに絶対に悟られないようにしよう思った。

 アリスならヒョットしたら、えっ、別にイイんじゃね、とか言ってくれそうだが、マサヒコ的に気マズイ。

「気が合うんだ。フタリと。アリスも盛り上がってたじゃん」


「ウン、ロミナとはマジ、仲イイから」


 バス馬車が発車した。

 マサヒコは後ろめたさと興奮から、やたらと饒舌(じょうぜつ)になった。アリスに本で読んだコチラの世界の知識を披露しまくった。


 アリスは話の内容よりも話すマサヒコの顔を楽しんだ。


 だが、しばらくするとマサヒコも話疲れ、言葉が途切れがちになる。

 それになにより近距離からアリスの顔を見ていたおかげで、彼女のカワイさに次々と気が付いてしまう。

 カワイイ。アリス。ホント。カワイすぎる。


 だから、ワザとアクビをした。

 すると、今まで忘れていたが、夜の12時から起き続けだったというコトに気づいた。

 アクビが次から次へと出る。急激に眠気が押し寄せてきた。


「ゴ、ゴメン、ナンカ眠くなってきた。ちょっと寝るかも」


 言ってマサヒコは椅子に背中を思いっきりアズけて目を閉じた。目を閉じるとアリスのニオイが、ワズカに当たっている肩の感触が際立つ。

 マサヒコはゆっくりとマドロんでいく中で、それを感じ続けていた。


 夢を見た。

 すごくエッチな夢だった。

 アリスが出てきて彼女とイロイロしてしまう夢だった。


 ナンテコッタ。俺、アリスにそーいうことをシテしまった。

 と、後悔したところで、ハっ、と目が覚めた。


 そして自分がアリスの肩に頭を乗せていることに気が付いた。彼女のアッシュブロンドの巻き髪が顔にカカっている。


「ゴ、ゴメン、俺……」

 アワてて頭を離す。


「んっ、イイよ、全然」

 アリスは顔を向けずに下を向いたまま言った。ウットリとした顔を見られたくないのだ。


「重くなかった?」


「別に」


「そう? ゴメンね」


「寝言。ウチの名前呼んだんだけどぉ」

 アリスが言った。


 ソレにマサヒコは大いに動揺した。

 ヤ、ヤバい、それはヤバいだろ。


「な、名前以外は?」


「名前だけ。てか、なんの夢見てたんだよ」


「イヤ、お、覚えてないけど。アリスが出てきたよーな、出てきてないよーな」


「エッチな夢?」


「そんなワケないだろ。俺、アリスのコト、絶対そういう目で見ないから」

 人間、図星をさされるとムキになるものである。

「そーいうの、ホントに安心してイイから」


 アリスにしてみれば、ソレはソレで気に入らないし、困る。

「別にぃ。ウチ、そーいうの気にしないし。イイぜ。エロ目でドンドン見てくれても」

 冗談ぽさをヨソオって言ったが、マジである。

 ホレ、ホレ、とチューブトップの胸元を引っ張ってみせる。

 エリ元からノゾく小麦入りのプリンとした双丘。


 マサヒコは、サっ、と全力で目をソラした。

「イヤ、ホント、俺、マジで言ってるから。アリスは、その、イイ子でさ。スゴく。友達として、本当に、大切にしたいから」


 その言葉にアリスは固まった。ちょっと胸にクるものがあった。友達認定されたことも気にならなかった。むしろ、大切にしたいと言われてウレしかった。


 言った当人の方は急激に照れクサくなり、パタパタと手の平で顔をアオぐ。


 アリスもそのままナニも言えなかった。

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