スライム退治
しばらく歩くと、それらしい一帯に出た。
黄緑色の丸いシャボン玉のようなモノがいくつも地面から伸びている。
「アレが、ベトベト草。あの丸い花をトればイイらしいよ」
「んっ、オッケ」
マサヒコは【ギルドカード】から4つバケツを出した。1人2個ずつ。ベトベト草を入れるモノとスライムを入れるモノ。
「さっきも言ったけどスライムは【ヒール】ね」
「アーイ」
【ヒール】の魔法はマサヒコもアリスも使える。恐らく、全ての魔装に標準でついているのだろう。そういうところも本田千秋の気持ちがコモっているように思えた。
マサヒコが【魔物レーダー】で確認すると平面が光っている。あまりの密度に、そう見えるようだ。
「待った、アリス。そこら中、スライムが……」
言った時には遅かった。
近くのベトベト草をトろうと踏み出したアリスが、足をトられて、ドテっと盛大に前に倒れた。
「アリス」
マサヒコは左手をアリスに向けた。
「ヒール」
アリスとその周囲が白く輝く。
スライムは【ヒール】の魔法に弱い。最弱のグリーンスライムならば【ヒール】1発で即死だ。死ぬとただのゼリーとなり、粘着力は無くなる。
「ヒール、ヒール、ヒール」
マサヒコは【ヒール】を連発。アリスの周辺のスライムを駆逐する。
数秒ですぐに光はオサまった。
アタタタっ、とアリスが体を起こす。その前面にベットリと緑色のゼリーのようなものがくっついていた。
泣きそうな顏。
「大丈夫?」
言いながら【ギルドカード】から出したタオルをアリスに渡す。
アリスが顔をヌグった。
「マジ、サイアクー」
「ゴメン。もっと早く【魔物レーダー】を見とけば良かった」
アリスとのやりとりに気を取られ、スッカリ遅れてしまったのだ。
「別にマサヒコのせいじゃないし」
アリスが体をヌグう間、マサヒコはグリーンスライムの死骸をバケツに入れていった。見た目は変わらないが確かに粘着力はなくなっている。本当にただのゼリーだ。
「ナンカ美味しそうじゃね?」
アリスがバケツにプルンとタマったグリーンスライムを見て言った。
「ソレ、思った。食べれないらしいけどね」
「まっ、魔物だしー」
バケツはすぐにいっぱいになった。中身だけ、【ギルドカード】に収納して空にする。
グリーンスライムの死骸は大量にあり、バケツ10杯など10分ほどで終わってしまった。
その後、ベトベト草つみをする。緑色のシャボン玉のような花をつんでいく。ベトベト草とはいうが、特にベトベトしておらず、花は簡単につめる。
むしろ、大量にいるグリーンスライムが面倒だった。それも、マサヒコとアリスが【ヒール】を乱発したおかげで、全滅。
ベトベト草採集も30分ほどで完了した。
「よし、終わり。思ったより簡単だったね」
「ラクショーじゃん。ネズミ退治の方が大変だったし」
ただ、グリーンスライムの【経験値】は微々たるモノ。依頼報酬も安い。それに比べて大ネズミ退治は街中だったし、報酬も破格。確かに美味しい仕事だ。
せっかくなので倒したグリーンスライムの死骸はすべて回収。素材として売れるのだ。
「なんか体ベタベタ。あと、カユイし」
アリスが言った。
「濡れタオルで、キチンとフいた方がイイかもね。特に体に害はないハズだけど」
「フく。ちょっと、魔装解除すっから」
言って、アリスが魔装を解いた。
マサヒコはその間に野外食用に買っておいた鍋を出し、ソコに水をタメた。タオルをヒタす。
「じゃあ、俺、戻ってるから」
「ハっ?」
「イヤ、だって、脱ぐんでしょ?」
「脱ぐよ」
「マズいじゃん」
「てか、魔物に襲われたらどうすんの?」
「グリーンスライム以外はいないみたいだけど」
「スライムいんじゃん。裸で襲われたら、ウチ、ヤバいじゃん」
「まー、そーだけど」
マサヒコにしてみれば、どうしろと? という気分である。
「ソコで後ろ向いててよ」
「えっ、ウン、こう?」
マサヒコはアリスに背中を向けた。
なぜかアリスが近づいてきた。
衣擦れの音。
「手」
「手? こう?」
マサヒコはワケが分からないまま後ろに両手を伸ばす。ソコにカケられた脱ぎたてのコート。
「魔装ってさ、こーいうトコ不便じゃね。解除すると、着てた服に戻るトコ」
「そ、そうだね」
答えるマサヒコだが、さらなる衣擦れの音に胸の鼓動が止まらない。
また後ろに伸ばした手に服が引っかけられた。シャツのようだ。
さらに、チューブトップと続く。もちろん脱ぎたてホカホカ。魔装越しなので体温を感じるコトはできないが、それでも脱いだばかりの衣類という事実は、マサヒコを動揺させた。
「ソレ、持ってて」
「ウ、ウン」
チャポンチャポンと水の音。タオルをしぼっているらしい。
今、アリスが下着姿でかがんでいる。下着姿で。
マサヒコは頭に浮かぶ、アリスの小麦色の肌を必死で頭から追い出そうとする。
だが、ナニカ音がするたびに、すぐに次のイメージがワいてくる。
イヤ、アリスでエロいコト考えの、禁止だから。マジで。
だが、股グラのそれは元気よくなりつつあり、甲冑では息苦しい、セマ苦しい、と訴える。
えーい、落ち着け。落ち着け。
マサヒコは心の中で叱咤した。
アリスはタブーだ。タブー。
一方、マサヒコの中でそんな葛藤が起こっていることなどツユ知らないアリス。だが、こちらもまったく平静ではない。
ストラップレスのピンク色のブラはコチラのものではなく日本製。コッチに転移した日に着ていたものだ。
マサヒコの背中(黒い甲冑姿だが)を見ながら、このカッコウ。
もう、ヤバいくらい心臓が激しく暴れている。
小麦色の肌がホンノリ赤身を帯びており、おまけに発汗までしているものだから、やたらとツヤっぽい。マサヒコが振り返ったら、彼の理性が吹き飛ぶことは間違いないだろう。
アリスは濡れタオルで体をフいた。
ちょっとやりすぎた? ウチ、アホっぽい?
ベタベタしたのは本当だし、かすかなカユミも感じたが我慢できないほどではなかった。それでも、ここで体をフいたのは、マサヒコにエロスをアピールするタメである。
もし、マサヒコが振り向いたら……。
そう考えると、もう、タマらなくなる。
妙に体が敏感でタオルで体をフいているだけなのに気持ち良かった。意識したワケではないが、吐息が、甘く変わる。
ハアハアハアっ、とマサヒコの背中を見ながらゆっくりと、体をフいた。
やがてマサヒコの葛藤とアリスの興奮のヒト幕は閉じた。
マサヒコの精神力が勝利をオサめたのだ。
アリスが再び服を着て魔装に戻った時には彼はグッタリしていた。
おかげで帰り道は口数が少なかった。
アリスも自分の大胆な行動とその時に感じた快楽に対する後ろめたさから、ほとんどしゃべらなかった。
それでもマサヒコは、そっ、とアリスに手を差し出し、アリスはその手にツカまった。




